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捨てられた転生者、金色の竜と旅に出る〜時空間チートで巡る、帰る場所のある旅路〜  作者: mizu
第二章 王都クローネ

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混ぜ方が変わった日

五度目の偽物は、これまでと違っていた。


 朝の荷を、店の奥で検めていたときだった。マルタさんの言いつけで、荷解きは表でやらない。日の入らない奥の板間で、束をひとつずつ手に取る。


 ハクハ草の束。三十。


 俺は、いつも通り、荷を括る縄をほどいて、束の外側の葉の裏を指で撫でた。


 引っかからない。


 どの束も、外側の葉はハクハ草だった。


「異常なし」


 声に出して、次の袋へ手を伸ばしかけて——止まった。


 もう一度、束を手に取った。


 重さが違う。


 いや、全部じゃない。三十束のうち、二束だけが、ほんのわずかに軽い。手首にかかる重みが違った。


 軽い二束を卓に置いた。今度は束そのものの縄をほどき、中身を広げる。


 外側は、ハクハ草の葉。だが、その内側に、ハクハ草の茎は一本もなかった。代わりに詰められていたのは、その辺に生えているような枯れ草だった。


 そこで初めて、鑑定をかけた。


 ——ハクハ草の葉。


 ——枯れ草。薬効なし。


 俺の手の感覚は、間違っていなかった。


 ハクハ草は、茎に薬効がある。葉は香りづけで、効きはほとんどない。だから束ねるときは、茎を揃えて、葉を外側にする。値がつくのは、茎の方だ。


 ——あれ飲むのはさ、なんとか金を集めて、やっと買う人なんだ。


 裏階段で聞いたハンスの声が、頭の奥で鳴った。


「マルタさん」


 俺の声が、自分でも分かるくらい、平らじゃなかった。


*


 マルタさんは、束を手に取って、しばらく黙っていた。


 それから、束を卓に置いて、言った。


「手口が変わったね」


「はい。それと、数もです。今までは、三十束に四束でした。今回は、二束しかありません」


「数を減らして、そのぶん一束からごっそり抜いてる。……今までは、似た草を混ぜてた。玄人が見れば分かる、その境目を狙ってた。今度は、外側だけ本物にして、中を丸ごと捨て草にしてる」


 マルタさんの指が、束の外葉をめくった。


「これは、玄人でも見えない。開かなきゃ分からない。ただし」


「重さで分かります」


「そうだ。目じゃなく、手で分かる」


 マルタさんは、俺を見た。


「レイ。あんた、これをどうやって見つけた」


「……持ったときに、軽かったので」


「毎回、そうやって持ってるのかい?」


「はい。三十束、一つずつ」


 マルタさんは、少しの間、何も言わなかった。


 それから、深く息を吐いた。


「あたしは、束を数えてから、上の三束を検める。長いこと、それでやってきた。……あんたのやり方じゃなきゃ、これは通ってたよ」


 効かない薬が、店から出る。買った人は、飲む。効かない。もっと重い病だと思って、量を増やす。それでも効かない。


 薬の偽物は、人を殺す。


 マルタさんが最初に言ったとき、俺はまだ、その言葉の重さを半分しか分かっていなかった。今日、残りの半分が分かった。


*


 ハンスが、荷の帳面を抱えて奥に来た。


 卓の上の束を見て、それから、俺の顔を見て、事情を察したらしい。


「また入ってたのか?」


「入ってた。二束」


「……くそ」


 ハンスは、拳を握って、それから、開いた。


「見せてくれ」


 俺は、開いた束をハンスの前に置いた。ハンスは葉をめくって、中の枯れ草を引き出して、しばらくそれを見ていた。


「これ、おれには見つけられねえよ」


「重さだ」


「重さって言われてもさ。おれ、三十束、一個ずつ持ったことねえもん」


 ハンスは、正直に言った。それがこの子のいいところだ。悔しがっても、嘘は言わない。


「今日から、そうする」


「持つのか?」


「持つ。……おまえに全部やらせてたら、おまえが潰れる」


 言ってから、ハンスは慌てて付け足した。


「べつに、心配してるとかじゃねえからな。手が足りねえだけだ」


 俺は、笑わないでおいた。笑うと、こいつは意地になる。


*


 その日の午後、俺は監察庁へ行った。


 今度は、鞄を抱えて走らなかった。監察庁へ納め物をする職人の荷車に、マルタさんが束を紛れ込ませた。俺は、荷車から少し離れて、ただの使いっ走りの顔で歩いた。


 ヴェルナーさんは、束を見て、めくって、中の枯れ草を確かめて、それから短く言った。


「変えたな」


「はい」


「いつからだ」


「今日入った荷からです。前の四度は、全部、似た草を混ぜる手口でした」


 ヴェルナーさんは、机の紙に何かを書いた。前より速かった。


「意味が分かるか?」


「……相手が、うちの店で偽物が見つかっていることを、知っています」


「そうだ。もう一つ」


 ヴェルナーさんは、顔を上げた。


「どうやって見つけているかまでは、知らない」


 俺は、その意味を考えた。


「似た草の混ぜ方をやめた。ということは、見分けられていると分かった。でも、重さで見つかるとは思っていない。だから、外側だけ本物にする手を選んだ」


「その通りだ。……つまり、相手はお前の目を警戒して、手を警戒していない」


 紙を走る音が止まった。


「これは、こちらの利になる。相手は、まだお前が今度の偽物に気づいてないと思っている」


「あの」


「なんだ」


「相手は、どうやって知ったんでしょうか。うちの店で見つかっていること」


 ヴェルナーさんは、しばらく俺を見た。


 試されている、と思った。


「言ってみなさい。お前の考えを」


「……返品したからです」


 俺は、そう答えた。


「偽物が入った荷は、商会に突き返しています。四度とも。だから、商会は知っています。あの店は見抜く、と」


「では、商会が犯人か?」


「違うと思います」


 俺は、首を振った。


「突き返された商会は、たぶん商会自体が騙されています。だから、上に文句を言う。『偽物が混ざっていると、あの店に突き返された』と。……その文句が、黒幕のところに届いてます」


 ヴェルナーさんの口の端が、ほんのわずかに動いた。


 笑ったのかもしれない。断言はできない。煎じかすと同じで、俺には決めつけられない。


「さすがだな」


 ヴェルナーさんは、それだけ言った。


「その通りだ。文句は、必ず上に流れる。上に流れた文句が、手口を変えさせた。……つまり、手口を変えられる立場の人間は、商会の文句が届く場所にいる」


「薬師ギルドも、その『文句が届く場所』に入りますか?」


 言ってしまってから、まずかったかと思った。


 マルタさんは、薬師ギルドの世話役だ。


「その名前は、マルタ以外の前で出すな」


 ヴェルナーさんの声は、静かだった。


「まだ何も証明されていない。ギルドには何百人もいる。そのうちの一人か二人の話を、全体の話にしてはいけない。……それをやると、関係のない人間まで巻き込まれる」


「はい」


「だが」


 ヴェルナーさんは、束を紙に包み直した。


「候補から、外してもいない。私も、そこを見ている」


*


 帰り道、俺は考えていた。


 もし黒幕が薬師ギルドの中にいるなら、マルタさんは危ない。世話役として内側にいながら、外の役所に証拠を渡している——それが知られたら、どうなるか。


 店に戻ると、マルタさんはカウンターで客の相手をしていた。


 いつも通りの声で、いつも通りの値段を言って、いつも通りに釣りを渡していた。


 客が出ていったあと、俺は言った。


「マルタさん」


「なんだい」


「……ギルドの中に、いるかもしれません」


 マルタさんは、量りの分銅を箱に戻す手を、止めなかった。


「知ってるよ」


「え」


「あたしの見立ても、同じさ。だいぶ前からね」


 分銅が、かちりと鳴った。


「三十年、あの寄り合いに出てるんだ。誰が金に困ってて、誰が上の椅子を欲しがってるかくらいは、顔を見れば分かる」


「じゃあ、なんで」


「なんで黙ってたか?」


 マルタさんは、そこで初めて、俺を見た。


「あたしの見立ては、証拠じゃないからさ。三十年の付き合いで『あいつが怪しい』なんてのは、いちばん質の悪い噂だよ。噂だけで人を罪人にするのは、あたしがいちばん嫌ってきたやり方だ」


 ヴェルナーさんと、同じことを言っている。


「だから、貯めるんだ」


 マルタさんは、カウンターの下の箱を、指で叩いた。


「顔でも、勘でもなく、束と日付と荷札でね」


*


 夜、屋根裏で、ルーチェが俺の顔を覗き込んだ。


「レイ。きょうも、においが、こわい」


「そうか」


「でも、きのうより、すこしだけ、うすい」


「……そうか」


 俺は、天井を見た。


 怖いのは、変わっていない。むしろ、相手が動いたぶん、事は大きくなった。


 でも、今日は一人で怖がっていなかった。マルタさんが同じ危険を見ていて、ハンスは束を持つと言って、ヴェルナーさんはその先にいる相手を調べている。


 怖さは、分けると薄くなるらしい。


 窓の外で、城の灯りが光っている。


 あの灯りの下で、薬が少しずつ減らされている。


 こちらでも、少しずつだ。


 三十束を、一つずつ持つ。それしかできないし、それでいい。


 急に全部を解決する方法を、俺は知らない。七年前から、ずっとそうだった。


※2026/9/14 台詞を少し修正しました(内容の変更はありません)。

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