4 戦い3
早朝の乗合馬車に乗り、村に戻る予定だ
またあの乗り心地の悪い馬車に乗るのかと思うと少し憂鬱に
憂鬱か
元の世界ではそもそも感情が分からなくなっていた
憎しみと怒りと、悲しみと
それが混ざり、ただ悪を殺すという思いだけが渦巻いていた
だが今はどうだ?
まるで母がいた頃のような感情が戻ってきている
だがそれでも、悪は憎い
それだけは変わらず胸の中を煉獄の炎のように燃やし続けていた
乗合馬車に乗ってポルの村へ
道中も特に何事もなくたどり着いたわけだが
村はもうそこにはなかった
「な、に? 何なの、これ」
タニラがフラフラと歩き、その場にへたり込む
「なんてこった。あんたら、街に戻るぞ! こりゃあ異世界人の仕業に間違いねぇ! 早っ」
馬車の御者が最後まで言葉を述べることなく、その頭がはじけ飛んだ
「ひっ」
血しぶきが上がり、血の雨が降る
オレはタニラを守るため彼女の前に立った
「女二人。あと二人で終わりか。残念だけど、楽しい時間は終わり。あと二人で、終わり」
御者を殺した何者かは既にオレたちの前に立っていた
その姿はまるで異形だったが、オレと同じだろうことがその服装と持っている得物でわかった
スナイパーライフルだろうか? スコープの付いた銃身の長い銃
それをこちらに向けていた
普通は遠くから狙撃するための武器を近距離で?
男がニタリと笑い引き金を引いた
オレは左手から鉈を出現させてその銃弾を防いだ
「ふせげ、ない!?」
とてつもない衝撃が鉈を伝わって左手に走る
バキンという音がし、左手を見ると肘があらぬ方向を向いていた
「その鉈、なんで壊れない?」
男はさらに数発の銃弾をこちらに放った
「くっ」
右手でのこぎりを出現させて防ごうとするが、案の定右手の骨は壊れ、さらにそこに銃弾が撃ち込まれてはじけ飛んだ
「サキちゃん!」
タニラの声が響く
「うるさいな」
男は今度はタニラに銃を向けて撃った
「この!」
オレは折れ曲がった左手を無理やり曲げなおしてその銃弾の軌道を何とか変えた
地面に銃弾が撃ち込まれたが、その箇所が小規模の爆発を起こした
とんでもない威力だ
のこぎりと鉈しか得物がない俺ではかなり相性が悪い相手と言える
「ほら、ほらほら」
何度も何度も銃弾が放たれる
それをオレはその身をもって防ぐ
全てがタニラを狙ったもの
彼女だけは、殺させない。あの時の悔しさを、悲しみを、もう味わいたくない
バラバラになった体が巻き戻されるかのように再生され、ミシミシと筋肉が音を立てる
「フー、フー、フー」
息を吐き、息を吸う
再び撃ち込まれ銃弾を、今度はのこぎりと鉈で防ぎきった
「あれぇ? なんか強くなってない? 殺したはずなのに生きてるし」
「お前は罪を、犯した」
「そりゃそうだ。何人も殺してるし。今も、前世も」
「誰も裁かない、なら、誰も、裁けない、なら」
のこぎりと鉈を構える
「オレが殺す」
男は楽しそうにニタァと笑い、銃を構えた
男の銃ではありえない速度で銃弾が放たれる
だがオレはマシンガンのように降り注ぐ銃弾を全て防ぎきった
「ちっ、お前、何もんだよ」
「オレが聞きたい」
男は手に持っていたスナイパーライフルを消し、さらに大型の銃を出した
対戦車ライフル
明らかに立って使えるような代物ではないが、男はそれを軽々とこちらに撃ち込んできた
その凶悪な銃弾をのこぎりで弾き、男との距離を縮めた
だが男はニタリと笑う
弾いたはずの銃弾がタニラ目掛け迫っていた
「くっ!」
すぐに戻ろうとしたが、男の銃に殴り飛ばされた
「タニラ!」
手を伸ばす
この手はまた、届かないのか?
そう思った時、俺の体はあり得ない方向を向いてゴキゴキと回転する
足は地面についたまま、ねじれ、曲がり、そして両手ののこぎりと鉈を地面に突き刺し、それを起点として驚くほどの速さで動けた
タニラの前に来ると、銃弾を鉈で切り裂いた
「な、んだ、よ・・・なんだよお前! その再生速度、その体。人間じゃねぇのかよ!」
「オレが、知りたい」
鉈を振り、再び体をねじると、男の目の前に瞬間的に移動し、のこぎりでズタズタに切り裂いた
ボトボトとバラバラになって地面に転がる男を背にし、タニラの元へ走った
「タニ、ラ」
「ひぃ!」
この顔は・・・
オレが殺してきた者と同じ、恐怖にひきつった顔
殺されるんだと諦めも混ざった顔
「ごめん、なさい」
タニラのその顔を見たとき、ここにいてはいけないと思った
だから俺は彼女に背を向け、その場から去ろうとした
だが
手を掴まれる
「ま、待ってサキちゃん!」
タニラがオレの手を握っていた
「タニ、ラ?」
タニラはオレの顔をしっかりと見つめ、震える手で、それでも強く強くオレの手を握りしめた
「ご、ごめんなさいサキちゃん。異世界人から守ってくれたのに、怖がったりして」
「・・・。謝る、のは、オレ。怖がらせて、ごめんなさい」
俺は化け物だ。誰もが恐怖し、死を感じる化け物だ
それでもオレはもう二度と失わないために、彼女を守りたい
「サキちゃん、まずはこの事を街に伝えましょう」
オレはうなづく
彼女は生まれ故郷を失ったはずなのに、それでも泣くこともせず立ち上がった
強い女性だ
彼女のことはまだ少ししか知らないが、村の者には慕われていた
両親はおらず、配偶者や子供もいない
だが村の者が家族と言った印象を受けた
馬車はもう動かせないだろう
今の戦いで馬も殺されてしまった
歩いて街まで戻るしかない
まだフラフラしているタニラを支え、二人で歩きだした




