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異世界マサカー  作者: 香草(かおりぐさ)


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2/12

2 戦い1

 夢の中

 これはオレの過去だ

 薄れ、消えた記憶が少しずつ蘇って行く

「・・・なさ・・・・き!」

「でも! お母さん!」

 そうだ、忘れていた。なぜ忘れていたのだろう

「お願い! その子だけは!」

 迫るのは怪しく光るサバイバルナイフ

 それがオレの背中を斬りつけ、刺し貫き、肺、脊髄、そして心臓に致命的なダメージを与えていた

「ああああ!! そんな!」

 そして意識が薄れて行く中、オレの母親はめった刺しにされて殺された

 体は一切動かないが、なんとか意識を、微かな意識を辿り繋いで倒れて目から光を失った母の元まで這う

「おかあ、さ」

 当然返事はない

「まだ生きてんのか、しぶといな」

 母を奪った男はオレの背中を再びナイフで刺す

「がっ」

 深い

 きっと助からない。でもオレもすぐお母さんの元へ行けるんだ

 男が火をつけたのか、周囲がメラメラと燃え始めていた

 熱が灰と喉を焼き、やがてオレも炎に包まれた

 熱い、熱い、熱い、熱い、早く、死なせて

 そう願ったのは覚えている


「はっ!」

 目が覚めて飛び起きる

「目が覚めたのね! 良かった、やっぱりどこか負傷しているのかも・・・。よし、街に行きましょう」

「う・・・。うぅ」

 声が出た

 オレの喉は焼けただれ、声どころか呼吸もまともにはできない

 体も、顔も、その全てがケロイド状になっている

 醜い化け物

 それがオレだ

 それなのに、そのはずだったのに

「オレ・・・、は」

 今まで忘れていた、オレの過去

 オレの母は殺された

 それを思い出し涙があふれる

「どうしたの!? どこか痛むの?」

「ちが、オレ」

 それ以上は言葉が出ない

「とにかく一度治療師様に見てもらお、私じゃ治療しきれてない傷があるかもしれないし」

 オレは落ち着きを取り戻し、自分の体を見る

 確かにあの時男に胴体を切り刻まれて、内臓が飛び出していたはずだ

 火に包まれて以来どんな怪我を負おうが痛みを感じなかった

 だがあれは、あの臓腑が飛び出すほどの傷は

 また記憶がフラッシュバックする

 血まみれの体、ナイフによって砕かれたはずの脊髄、穴だらけの肺と心臓

 そして黒焦げになった肉体

 なぜオレはあの時死ななかった?

 なぜオレはあの時も死ななかった?

「頭が痛むのね? やっぱり明日街の治療院に行きましょう」

 オレはうなづいた


 女性の名はタニラと言った

 あの殺人鬼に襲われた村で一番若い娘らしい

 年齢は19歳と思ったより若かった

 そしてオレは自分の姿をもう一度桶に溜まった水で見る

 その姿はオレがまだめった刺しにされ、火に巻かれて焦げる前の姿だった

 若く可愛らしい容姿

 そこに写る少女は紛れもなくオレだった

 あの日、死の淵から蘇ったオレは化け物になった

 人の身で人を襲う、あいつらを殺す化け物に

「タニ、ラ」

「なあに?」

「オレ、名前、サキ」

「まあ! 名前を教えてくれたのね。サキちゃん、これからよろしくね」

 タニラはオレの手を握る

 温かい

 忘れていた母のぬくもりのようだ

 オレは涙がこぼれたのをぬぐい、タニラの顔をしっかりと見た

 この世界での最初の出会いが彼女で良かった

 あの男? 知らん、もう死んだしな

 なすべきことは分かっている

 オレのここでのすべきことは、オレのようなモノをもう出さないこと

 元の世界と同じだ

 人を不幸にする人の形をした化け物を、本当の化け物であるオレが、打ち倒すんだ


 翌朝、タニラに連れられて街へ行く乗合馬車に乗った

 馬車は座り心地が良いとは言えないが、母のような優しさを持つ彼女と共にいるのは悪くない

 あの村で生き残ったのは意外と多い

 村自体はかなり破壊されていたが、避難が早かったようだ

 逃げる人々を守るため、男たちが戦って、殺された

 その男たち以外に犠牲者はいない

 もっと早くオレがこの世界に来ていれば

 そう思いはするが、悔やむことはない

 男たちは守るものを守って死んだ

 それは名誉ある死だ

 悔み、嘆き、悼むことは彼らの死を汚す

 俺の中ではそう結論づけられていた

「街までは二時間ほどだから、もし眠いなら寝ていてもいいわよ」

「だい、じょうぶ」

 まだ言葉はあまりうまく出ない

 何十年と喋っていなかったのだ。当然と言えば当然だろう

 タニラにもたれかかり、彼女の香りを堪能する

 大丈夫と言ったが、オレはすぐ眠りについてしまった

 

「やめろ! 俺が何したってんだ!」

 逃げる男を追う醜く不気味な化け物は、のこぎりと鉈を持ち、フーフーと荒い呼吸で獲物を追い詰める

「やめ!」

 振り下ろされる鉈により、男の両腕、両足は斬り落とされた

「ぎぃああああ!!」

 男の叫び声が誰もいない夜の森に響く

「たす、け、許し」

 男の命声は聞き入れられることなく振り下ろされたのこぎりにより両断された

 翌朝男の死体は山菜を取りに来ていた一団によって発見される

 強盗殺人の末逃亡していた男の凄惨な末路に、世間はこう噂した

 クリミナルキラーの仕業だと

 ある時期を境に、罪を犯した逃亡犯や、法でさばけなかった悪が惨殺される事件が起き始めた

 それは数年単位に犯行を繰り返し、数十人を殺害してピタリと止まる

 そしてまた数年後に同様の犯行が行われる

 最初の犯行から最後の犯行とみられる事件まで実に72年

 犯行は模倣犯によるものと思われたが、最初の現場に残された犯人のものと思われる血が付着したのこぎり、その血のDNAと、最後の犯行現場に残された()()

 死体と血のDNAは完全に一致したことから、同一犯による犯行と断定された

 だがおかしいのはここからである

 老人であるはずの、雷に打たれて焼けた死体は

 推定年齢15歳の少女のものだった

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