第9話:錬金・特訓・推し活のループ。限界OL、異世界で健康になる
「ミオお姉ちゃん、おはようございます!」
「おはよう、ライネちゃん。今日も良い天気だね」
朝日が差し込むアトリエ。
限界OL時代、毎朝「このまま世界が滅亡しないかな」と絶望しながら布団から這い出ていた私が、今では目覚まし時計(魔法具)が鳴る前にスッキリと目を覚ましている。
目の下にあった真っ黒なクマは完全に消え去り、肌ツヤも絶好調だ。
私たちの朝は早い。まずはレイカ師匠が起きてくる前に、二人で手分けしてアトリエの掃除と朝食の準備。
それが終わると、いよいよ本業の錬金術だ。
「よし、今日のノルマは『癒やしのポーション』30本と、『解毒薬』20本。ライネちゃん、魔力抽出お願いね」
「はいっ! 任せてください!」
ポーション作りは、すっかり二人の連携作業として板についていた。
ライネが規格外の魔力で素材から純度の高い成分をサクッと抽出し、私がそれを寸分の狂いもなく調合し、無属性魔法で成分を『定着』させる。
錬金術のシステム画面なんてない現実の作業だけど、分量をきっちり量って効率化していく過程は、なんだかパズルゲームみたいで楽しい。
「……ふぁぁ。あんたたち、朝から元気ねぇ」
お昼前、寝癖をつけたレイカ師匠があくびをしながら起きてくる。
私たちが作ったポーションの品質を師匠が最終チェックして、午前中の作業は終了だ。
午後からは、出来上がった薬をカゴに詰め、王城へと向かう。
「おっ、待ってたぜ! 今日もいい出来だな!」
騎士団の詰め所でポーションを納品し、ホクホク顔のザックから報酬の金貨を受け取る。
これだけでも十分すぎるほどの稼ぎになるのだが、私たちの午後はここからが本番だ。
「さぁて、それじゃあ今日も可愛くしごいてやるかな!」
「ザックさん、お手柔らかに……って、痛い痛い!」
訓練場に移動し、私はザック相手に『盾』の特訓だ。
木製の盾に土属性の魔力を這わせて硬化させ、ザックの重い一撃をひたすら受け流す。体格差も筋力差もあるため、まともに受ければ吹き飛ばされる。だから、最小限の動きで威力を殺す立ち回りを体に叩き込んでいく。
「えーいっ! それっ!」
一方のライネは、少し離れた場所で魔法部隊の魔術師たちを相手に、次々と多重詠唱の魔法を放っていた。あちらは完全に『大砲』の訓練だ。
「ミオ殿。今の防御、踏み込みが半歩浅い。もっと重心を低く、敵の力を利用して流すように」
「は、はいっ! レオン団長!」
そして時折、非番のレオン団長が訓練の様子を見に来て、的確なアドバイスをくれる。
推しに直接指導されるたびに、私の心拍数は跳ね上がり、謎のパワーが湧いてくる。
推し活と実益(自衛力)を兼ねた、最高に贅沢な時間だった。
夕方、クタクタになった体でアトリエに帰り、三人で温かい夕食を囲む。
「ミオ、今日のシチュー、少し塩気が足りないわよ」
「あ、すみません師匠! 次から気をつけますね」
「ライネ、パンのおかわりある?」
「はいっ! ミオお姉ちゃんが焼いたパン、すっごく美味しいです!」
文句を言いつつも私の作ったご飯を完食する師匠と、リスみたいに頬張るライネ。
賑やかな食卓の片付けを終えると、温かいお湯で体を流し、ふかふかのベッドに倒れ込む。
心地よい疲労感に包まれながら、私はゆっくりと目を閉じた。
(……なんか、すっごく人間らしい生活してるなぁ)
朝起きて、仕事をして、体を動かして、美味しいご飯を食べて、夜はぐっすり眠る。
ブラック企業で心身をすり減らしていた頃には考えられなかった、健康で充実したルーティン。
やりこみ要素満載のこの世界での生活は、思っていたよりもずっとずっと、私に合っているみたいだった。




