第8話:騎士団特訓開始! 才能の形は人それぞれ?
「うわぁ……広い! かっこいい!」
王城の一角にある広大な訓練場。そこでは数百人の騎士たちが、掛け声とともに剣を振り、魔法を放っていた。
ライネは目をキラキラさせて跳ね回っている。一方の私は、あまりの熱気に圧倒されて、推しのレオン団長を探す余裕すらなかった。
「よう! 本当に来たな、子猫ちゃんたち」
赤い髪をなびかせ、ひょいと現れたのはザックだ。その後ろには、氷の柱のように静かに佇むレオン団長の姿もあった。
「約束通り、二人の適性を見せてもらおうか。まずは武器からだ」
ザックに促され、訓練用の武器が並ぶラックの前に立つ。
私が手に取ったのは、短剣、長剣、そして槍の三種類。
「おっ、欲張りだねぇ。まずはその短剣から試してみな」
言われるがままに構えてみる。
……不思議だ。読モ時代、15センチのヒールでランウェイを歩くために叩き込まれた「重心の制御」と「美しい姿勢」が、武器を構える動作に驚くほどフィットする。
シュッ、と空気を切り裂く。
無駄のない動き。ザックが「ほう」と眉を上げた。
「次は長剣、その次は槍だ」
長剣は少し重いが、重心の捉え方がわかるので振り回されることはない。槍に至っては、そのリーチの長さを活かした立ち回りが、驚くほどしっくりきた。
「ミオちゃん、あんた……体幹が化け物級だな。素人特有の無駄な揺れが一切ない。騎士団の新人でもここまでの筋の良さは珍しいぜ」
ザックの称賛に、レオン団長も深く頷く。
推しに「筋が良い」と言われる幸せ。これだけで、前世の残業代が全て支払われた気分だ。
「次は魔法だ。ライネ、やってみてくれ」
今度はレオン団長がライネを促す。
ライネが訓練用の標的に向かって手をかざすと……。
「火よ! 水よ! 風よ! 唸れ雷光!」
火球が炸裂したかと思えば、直後に激しい水流が標的を飲み込み、風の刃がそれを切り裂く。
ライネは楽しそうに、次々と属性を切り替えて魔法を放っていく。
(……す、すごすぎる。火、水、風、土、雷……本当にほとんどの属性を使いこなしてる)
ゲームの主人公補正、恐るべし。
どうやら彼女、闇属性と聖属性以外は全ての適性を持っているらしい。まさに歩く要塞だ。
「よし、次はミオ殿だ。楽な気持ちで放ってみてくれ」
レオン団長の期待に満ちた視線。
私は緊張で震える手をかざし、体内の魔力を練り上げる。
私の適性は「無属性」と「土属性」のみ。しかも、攻撃魔法の適性は皆無だとレイカ師匠に言われていた。
(せめて、小さな土の弾くらいは……!)
「えいっ!」
……ポスン。
「……?」
標的に当たったのは、攻撃魔法ではない。
標的の足元の地面が少しだけ盛り上がり、ガッチリと固定しただけだった。
「……ミオお姉ちゃん?」
「あ、あれ……?」
何度やっても同じだった。
魔力を込めても、炎も出なければ、鋭い刃も飛ばない。ただ、地面を固めたり、少しだけ壁を作ったり、あるいは自分の持っている武器をほんの少し強化(無属性魔法)したりすることしかできない。
「なるほど。ミオ殿、君の魔力は『干渉』と『守護』に特化しているようだな」
レオン団長が顎に手を当てて分析する。
「攻撃力はほぼ皆無。だが、その土魔法の硬度と、無属性による自己強化の効率は異常なほど高い。……ライネが『最強の矛』なら、ミオ殿は『不落の盾』といったところか」
「不落の盾……」
華やかな魔法で敵をなぎ倒すライネに比べれば地味かもしれない。
でも、攻撃はライネに任せて、私は彼女を、そしていつか推しを支える「盾」になる。
「悪くない……かも」
限界OL時代、誰にも頼られず、ただ削られるだけだった私。
この世界では、守るための力がある。
「よし! ミオちゃん、次は俺の攻撃をその『盾』で受けてみる特訓だ!」
「えっ!? ザックさん、それは急すぎませ……ひぃっ!」
お調子者騎士の容赦ない一撃が飛んでくる。
私の、地味だけど堅実な修行の日々が本格的に幕を開けた。




