第10話:酒場は依頼の宝庫? 魔女の弟子、外の世界へ
「あー……。今日もポーションの瓶詰め完了! ライネちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です、ミオお姉ちゃん! でも、なんだか最近、同じ作業ばかりですね……」
アトリエの日常は充実しているけれど、確かに少しマンネリ気味。そんな時、いつものように遠慮なくドアを蹴破らんばかりの勢いでザックがやってきた。
「よお! 今日も元気に引きこもってるな、お嬢ちゃんたち!」
「ザックさん、いらっしゃい。今日は納品の日じゃないですよね?」
「おう、今日はプライベートだ。お前らさ、たまには外の空気吸って、街の連中の役にも立ってみたらどうだ?」
ザックが差し出してきたのは、一枚の古びたチラシ。そこには街の酒場『荒くれ猪亭』の紋章が描かれていた。
「酒場の掲示板だよ。あそこには騎士団を通さないような、些細な、でも切実な依頼が山ほど集まる。魔導具の修理から、特別な調味料の作成までな。腕試しにはもってこいだぜ」
「……酒場? 喧騒と安酒の匂いしかしない場所に、何で行かなきゃいけないのよ」
奥から顔を出したレイカ師匠が、心底嫌そうに鼻を鳴らした。
そう、レイカ師匠は超がつくほどの出不精。錬金術の材料もザックや行商人に持ってこさせるため、酒場の依頼システムなんてこれっぽっちも興味がなかったのだ。
「まぁまぁ、レイカ殿。あんたの弟子たちは伸び盛りなんだ。外の刺激が必要だろ? それに、酒場のマスターは珍しい素材の流通ルートも持ってる。顔を売っておいて損はないぜ」
「……ふん。勝手にしなさい。ミオ、ライネ、あんたたちが行くなら止めないわ」
師匠の(投げやりな)許可も出たところで、私とライネは期待に胸を膨らませて『荒くれ猪亭』の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい! おっ、見ない顔だね。……あんたたちが噂の『魔女の弟子』かい?」
カウンターの中から声をかけてきたのは、燃えるような赤い髪をポニーテールに結んだ、快活な女性だった。
豊満な体つきに、片手で巨大な樽を軽々と持ち上げる筋肉。
「私はカーラ。この酒場の看板娘兼、用心棒さ。ザックから聞いてるよ、腕の良い錬金術師が来るってね」
彼女が指差した壁の掲示板には、びっしりと依頼書が貼られていた。
ゲームで見たあの光景だ! 私はワクワクしながら依頼書を眺める。
『裏山の畑を荒らす巨大ネズミを退治してくれ』
『古くなった洗濯機の魔石を再充填してほしい』
『最高に美味しい隠し味のスパイスを作って!』
「ミオお姉ちゃん、見てください! これなんて、私たちの錬金術で解決できそうですよ!」
ライネが指差したのは、『特別な洗剤の作成』という依頼だった。
聞けば、街の洗濯屋の主人が、どうしても落ちない頑固な油汚れに困っているらしい。
「よし、これにしよう! ライネちゃん、素材の相性を考えて……」
「はい! 私、洗浄効果のある薬草を探してきます!」
騎士団の納品とはまた違う、街の人々の生活に密着した依頼。
新しい仲間(?)、カーラさんとも知り合えたし、私たちの錬金術師としての活動の幅が、また一つ広がった瞬間だった。
(……でも待てよ。酒場通いが始まったら、いつかレオン団長が仕事終わりに一杯飲みに来たり……なんてこともあるかも!?)
下心を隠しきれないまま、私は新しい依頼書を手に、アトリエへの道を急いだ。




