第2話:怪しい魔女への弟子入りと、未来の主人公
「えーっと……素材を釜に入れて、魔力を練り込む……? どうやって?」
はじまりの街の小さな部屋。備え付けの初心者用錬金釜を前に、私は早くも頭を抱えていた。
知識としては知っている。でも、現実の体で『魔力』なんてものをどう動かせばいいのか、ライト層だった私にわかるはずがない。
「このままじゃチュートリアルすら越えられない……。誰かに教えを乞うしかないか」
そこで私の脳裏に一人のキャラクターが浮かんだ。
『アルケミア・クロニクル』において、作中随一の錬金術の使い手であるレイカだ。
彼女はこの街に住んでいるはずだが、今の時期、錬金術はまだ世間に広く認知されていない。得体の知れない素材をぐつぐつ煮込む彼女は、街の人々から『怪しい魔女』と気味悪がられ、避けられているという裏設定があった。
「でも、背に腹は代えられない!」
私は記憶を頼りに街のふはずれへ向かった。
鬱蒼とした森の手前、ツタに覆われた古ぼけた一軒家。間違いない、ここがレイカのアトリエだ。
思い切って扉を叩くと、ギイィィと嫌な音を立ててドアが開いた。
中から顔を出したのは、黒いローブを纏った、気怠げで色白な美女。ゲーム画面で何度も見た、あのレイカだった。
「……何? 迷子なら街の警備兵のところへ行きなさい」
「あ、あの! 私に錬金術を教えてください! 弟子にしてください!」
「……は?」
レイカは目を丸くした。無理もない。街の鼻つまみ者である『魔女』に、自ら弟子入りを志願する物好きなど普通はいないのだ。
「私、あなたの錬金術がどれだけ素晴らしいか知ってます! どうしてもあなたから学びたいんです!」
ゲームの知識とはいえ、彼女の技術が世界最高峰であることは知っている。熱意を込めて頭を下げると、レイカはしばらくポカンとした後、ふっと面白そうに笑った。
「変な子。私の鍋に何を入れられるかわからないわよ? ……まあいいわ。ちょうど雑用係が欲しかったところだし、基礎くらいは教えてあげる」
「本当ですか!? ありがとうございます、師匠!」
よし、これでなんとか生き抜くための第一歩を踏み出せ……。
『ドンッ! ドンッ! ドンッ!』
私がガッツポーズをした瞬間、再びアトリエの扉が乱暴に叩かれた。
レイカが呆れたように扉を開けると、そこにはボロボロの服を着た、金髪の小柄な女の子が立っていた。
「た、頼もーっ! 私に錬金術を教えてくださいっ!」
「……今日はいったい何の厄日かしら。あなたも誰?」
必死な顔で頭を下げるその少女を見て、私は思わず息を呑んだ。
年の頃は14歳くらい。孤児院の出身で、貧しい院を助けるために一攫千金を夢見て錬金術師を志す少女。
間違いない。彼女は『アルケミア・クロニクル』の本来の主人公、ライネだ。
「私、ライネって言います! 孤児院のみんなに美味しいご飯を食べさせるために、錬金術でたくさんお金を稼ぎたいんです!」
「はぁ……。動機はともかく、ガッツはあるみたいね。いいわ、そこの彼女と一緒に中に入りなさい」
レイカに促され、ライネがパッと顔を輝かせる。そして私の方を見て、ペコリと元気よくお辞儀をした。
「ライネです! あなたも今日から弟子入りですか? よろしくお願いします、えっと……」
「ミオよ。……うん、よろしくね、ライネちゃん」
ゲームの主人公に挨拶を返しながら、私は心の中で突っ込んだ。
(待って。これってつまり、私がゲーム主人公の『姉弟子』になっちゃったってこと!?)
ゲーム開始のイベントに思い切り巻き込まれつつ、私の異世界錬金術ライフはさらに予想外の方向へと転がり始めたのだった。




