第3話:主人公の才能は規格外。でも、姉弟子も実は……?
「師匠! 基礎の『癒やしのポーション』、できました!」
アトリエに、ライネの元気な声が響く。
透き通るようなエメラルドグリーンの液体が入った小瓶。不純物は一切なく、ほのかに光さえ帯びている。
「……ええ、完璧ね。抽出も魔力の練り込みも文句なしよ」
「やったー! これで孤児院のみんなに美味しいパンを買ってあげられます!」
レイカの合格をもらい、ライネはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる。
錬金術の修行を始めてから、わずか一週間。ライネはスポンジが水を吸うように、恐ろしい速度で技術を吸収していた。
「よし、私も……! ……あっ、ちょっと魔力がブレた……!」
一方の私、ミオは隣の釜で悪戦苦闘していた。
知識ゼロのライト層だったとはいえ、一応ゲームの記憶はある。だが、頭でわかっていても体がついてこないのだ。出来上がったポーションは、少し濁った緑色。
「はぁ……。抽出はできたけど、練り込みが甘かったみたい。ライネちゃん、すごいなぁ」
「ミオお姉ちゃんもすごいです! 昨天よりずっと綺麗な色になってますよ!」
「ありがとう。でも、まだまだ師匠やライネちゃんの足元にも及ばないや」
主人公の圧倒的な才能を目の当たりにして、私はため息をついた。
さすがは『アルケミア・クロニクル』の主人公。これがチートというやつか。限界OLだった私のポンコツスペックでは、彼女の背中を追いかけるだけで精一杯だ。
「……ミオ、手元が狂うのは焦りからよ。深呼吸して、もう一度基礎の魔力循環からやり直しなさい」
「はい、師匠!」
気を取り直して、私は再び錬金釜に向かった。
ブラック企業で鍛えられた『根性』だけは負けていない。何度失敗しても、私は諦めずに素材と魔力に向き合い続けた。
◆ ◆ ◆
(……まったく、とんでもないものを拾ってしまったわね)
二人の弟子が釜に向かう背中を眺めながら、レイカはハーブティーを口に運んだ。
表向きは気怠げな態度を崩していないが、内心では驚愕しっぱなしだった。
金髪の少女、ライネ。
彼女の才能は『天才』などという言葉では生ぬるい。直感だけで魔力の最適解を導き出し、教えたことをその日のうちに自分のものにしてしまう。百年に一人の逸材、いや、それ以上の化物だ。
だが、レイカの興味をより強く惹きつけているのは、もう一人の弟子──ミオの方だった。
(あの子は、自分が落ちこぼれだと思い込んでいるようだけど……)
レイカは目を細める。
錬金術において、初心者が魔力を感知し、思い通りに練り込めるようになるまでには、通常なら数ヶ月から半年はかかる。
それをミオは、たった数日で形にしつつあるのだ。
しかも彼女は、失敗した時の原因を論理的に分析し、次には確実に修正してくる。感情や直感で動くライネとは正反対の、極めて理知的で洗練されたアプローチ。
おまけに、どれだけ失敗しても心が折れない異常なまでの精神力を持っている。
(ライネという規格外の化物が隣にいるから気づいていないだけで、ミオの成長速度も十分に異常よ。普通の錬金術師が見たら、嫉妬で狂うレベルね)
天才すぎる妹弟子と、無自覚に急成長を続ける姉弟子。
忌み嫌われる『魔女』のアトリエは、今や世界をひっくり返す可能性を秘めた特異点になろうとしていた。
「……ふふっ、退屈しないわね」
誰にも聞こえないほどの小さな声で呟き、レイカは面白そうに唇の端を釣り上げた。




