第14話:風の歌と精霊のいたずら。若きエルフ
酒場での一件から数日後。私とライネは、買い出しのために街の広場を歩いていた。
「ミオお姉ちゃん、今日は特売の卵を絶対にゲットしましょうね!」
「うん、気合入れていこう!」
そんな平和な会話をしていると、ふと、どこからともなく美しい弦楽器の音色が風に乗って聞こえてきた。
ただの音楽じゃない。音色に合わせて、目に見えない『何か』が心地よく肌を撫でていくような感覚。
「わぁ……綺麗な曲。それに、なんだかポカポカします」
ライネがうっとりと目を細める。
音の鳴る方へ向かうと、広場の噴水の前で一人の青年がリュートを弾いていた。
透き通るような金糸の髪に、長く尖った耳。
神秘的な美貌を持つその姿は、絵本から飛び出してきたような美しい『エルフ』だった。
(うわぁ、デューイだ! 本物のエルフ! ゲームでも全体バフと回復のスペシャリストとして重宝したんだよね!)
彼こそが、最後のメインキャラクター。エルフの吟遊詩人、デューイだ。
遠く離れたエルフの里から数年前にこの王国へやってきた彼は、こうして街角で歌を歌いながら、自由気ままに旅をしている。
ポロン、と最後の和音が響き渡ると、集まっていた街の人々から割れんばかりの拍手が起こった。
「ありがとう、人間の皆。風の精霊たちも喜んでいるよ」
デューイが優雅に一礼する。
すると、彼の周りを飛び交っていた淡い光の玉――微小な精霊たちが、突然一斉にこちらへ向かって飛んできたのだ。
「えっ!? わっ、ちょっと!」
光の玉は、まずライネの頭の周りをぐるぐると猛スピードで回り始めた。
「おや。風と水の精霊たちが、これほどまでに惹きつけられるとは」
デューイが驚いたように目を丸くして近づいてくる。
「君、とんでもない魔力を持っているね。精霊たちが君の魔力プールを極上の泉だと勘違いしてはしゃいでいるよ」
「えへへ、くすぐったいです〜」
無邪気に笑うライネを見て、デューイはふっと微笑んだ。そして、今度は私の方へ視線を移す。
「……いや、それ以上に驚いたのは君の方だ」
デューイの瞳が、少しだけ真剣な色を帯びた。
精霊たちの何匹かが、今度は私の肩にぽすんと乗っかって、そのままスヤスヤと眠り始めてしまったのだ。
「精霊は気まぐれで、人間の側で安らぐことなど滅多にない。……君の魔力は、大地の底のように深く、そして限りなく透明で穏やかだ。君のような人間は初めて見たよ」
(いや、多分これ『土属性』と『無属性』しか適性がないせいだと思うんだけど……)
私の地味な魔力特性が、まさかエルフの精霊魔術の達人にこんな形で評価されるとは思わなかった。
「僕はデューイ。風の向くままに旅をする吟遊詩人さ」
「私、ライネです! こっちはミオお姉ちゃん!」
私が自己紹介しようとする前に、ライネが元気よく答える。
「ライネにミオだね。君たちみたいな面白い子に出会えるから、人間の街は楽しい。僕はエルフの中じゃまだまだ駆け出しの若者だからね。外の世界で学ぶことばかりさ」
「若者って……デューイさん、おいくつなんですか?」
私がゲームの設定を知りつつもわざとらしく聞くと、デューイはウインクをして答えた。
「今年でちょうど70歳になったところだよ。人間の感覚だと、随分おじいちゃんかな?」
「ななじゅう……!」
本当に全くそうは見えない。せいぜい20代前半の美青年にしか見えないのだ。
「君たち、錬金術師の匂いがするね。面白い魔力を持った二人と、少しお茶でもどうかな? 精霊たちも、君たちともっと遊びたいみたいだし」
こうして、圧倒的な才能を持つ主人公、ポンコツエリート宮廷錬金術師、そして最高峰の精霊魔術を操る70歳の若きエルフ(デューイ)と、私の周りにはゲームのメインキャラクターたちが続々と集結しつつあった。
限界OLの異世界ライフは、ますます賑やかでカオスな方向へと進んでいくのだった。




