第15話:王都熱狂の闘技大会! ……と、あえなく散った私の初戦
王都は今、四年に一度のお祭り騒ぎに包まれていた。
全世界から名だたる猛者たちが集う『王都武闘大会』。優勝者には莫大な賞金と、王室からの栄誉が与えられる。
「いけぇぇぇっ! そこだ、踏み込め!」
「よしっ、予選突破だ!」
コロッセオから地鳴りのような歓声が響く中、私は意気揚々と控室に戻ってきた。
限界OLだった私が、まさかの武闘大会出場。
結果はなんと、予選ブロックを無傷で悠々と突破!
「ミオお姉ちゃん、すごいです! さっきの土壁で相手の攻撃を防いでからの、足払い! 完璧でした!」
ライネがタオルを差し出しながら興奮気味に褒めてくれる。
「ふふん、伊達にザックさんやレオン団長にしごかれてないからね!」
私の魔力は防御と自己強化に特化している。オルグさんに手入れしてもらった短剣で相手の攻撃をいなし、読モ仕込みの体幹で重心を崩さず、カウンターを入れる。
『不落の盾』という私の戦闘スタイルは、並の戦士が相手なら完全に通用していた。
「この調子なら、本戦も結構いいところまで行けちゃうんじゃない?」
そんなふうに調子に乗っていた数十分後のこと。
本戦一回戦。リングに上がった私の目の前に立っていたのは、見慣れた赤い髪と、ニヤニヤと笑う軽薄な顔だった。
「おっ、初戦の相手が子猫ちゃんだとはな! 予選の動き、なかなか良かったぜ!」
「ザ、ザックさん……! なんで一回戦から身内なんですかー!?」
「くじ運が悪かったと諦めな。それじゃ、特訓の成果、見せてもらおうか!」
試合開始の合図が鳴った瞬間、ザックの姿が掻き消えた。
「えっ!?」
次の瞬間、私の背後に回ったザックの木剣が、容赦なく私の盾に叩き込まれる。
ドゴォォォンッ!!
「うわあああああっ!?」
土魔法でガチガチに強化していたはずの盾ごと、私は綺麗に場外まで吹き飛ばされていた。
圧倒的。手加減をしてくれていた特訓の時とは違う、本物の騎士のスピードと重さ。
「勝者、ザック・オルランド!」
「あいたた……。やっぱり、全然敵わないや」
砂埃にまみれた私に、ザックが苦笑いしながら手を差し伸べてきた。
「ははっ、わりぃ! でも、受け身の取り方は完璧だったぜ」
こうして、私の意気揚々とした初陣は、わずか数秒で幕を閉じたのだった。
◆ ◆ ◆
そして、大会はクライマックスを迎えていた。
凄腕の傭兵や他国の武術家たちを次々と薙ぎ倒し、決勝戦のリングに立ったのは──。
「やっぱり、あの二人か」
観客席で、ポップコーン(ライネと錬金術で作った)を頬張りながら、私はリングを見下ろした。
赤い髪の副団長、ザック。
白銀の髪の騎士団長、レオン。
王国騎士団の最高峰である二人が、決勝戦で向かい合っていた。
「……レオン、あんた本気でやるんだろうな?」
「当たり前だ。手を抜けば、お前の炎に焼かれるのは私だからな」
ザックの木剣が轟音とともに真紅の炎を纏う。
対するレオン団長の木剣からは、周囲の空気を凍りつかせるような冷気が立ち上る。
ゲームの掲示板で『本気で殺し合ったらどっちが強いか』と熱論されていた、夢の対決だ。
「はあああああっ!!」
「シッ!!」
炎と氷が激突し、凄まじい衝撃波がコロッセオを揺らす。
瞬きすら許されない、超高レベルの攻防。観客たちは息を呑み、そして熱狂の渦に巻き込まれていく。
「すごい……! レオン団長の動き、全然目で追えません!」
ライネが身を乗り出して見入っている。
「ふん、脳筋たちの祭典なんて興味なかったけど……あの二人の魔力操作は、錬金術の観点から見ても美しいわね」
いつの間にか観戦に来ていたレイカ師匠が、感心したように呟く。
「アレだけ自分の魔力を完璧にコントロールできれば、素晴らしい魔法薬が作れるだろうに。宝の持ち腐れですね」
隣に座るフィルが、相変わらずの減らず口を叩く。
「まぁまぁ。彼らの剣が平和を守っているからこそ、僕たちの音楽や錬金術が咲くのさ」
デューイがリュートを優しく爪弾きながら、目を細めた。
「嬢ちゃん、お前の盾も悪くなかったぜ。次までにもう少しリーチの長い武器を特訓しておくか」
オルグさんが、私の頭をポンと叩いた。
圧倒的な才能を持つ主人公。
超絶不器用だけど世界一の師匠。
ツンデレな宮廷錬金術師に、70歳の美青年エルフ。
頼れる未来の武器屋と、そして──リングの上で輝く、大好きな推したち。
(……うん。異世界転生、悪くないかも)
激突する炎と氷の輝きを見つめながら、限界OLだった私の心には、かつてないほどのワクワク感が満ち溢れていた。
手探りだらけの錬金術師ライフは、まだまだ始まったばかりだ!
【第一部・完】




