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帝国激動 ~Tales of the Crumbling Empire City~  作者: 十条クイナ
第1章 黎明
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第1章の22 疑念

長らくお待たせいたしました。

 これから数日を掛けて、書き溜めていったものを投稿していきたいと思います。

「本日は、わざわざおいただきありがとうございます、安藤あんどう中尉殿ちゅういどの。」


「そうかしこまることは無い。

 己の命をあずける武器を、自らの目で確認することも兵士の大切な任務だ。

 整備不良だったから待ってくれ、などという言い訳は、戦場では通用しないからな。」


「ハハ・・・、ごもっともでありますな。」


 雑談ざつだんまじえながら無人の校内を進む。

 この日は、ここの全生徒に加えて、彼等を引率いんそつする教官や教師陣もほぼ全員が校外へと出払ではらっていた。

 厳密には、全くの無人という訳では無いが、それでも校内に残っているのは自分達を含めても片手で足りる程度の者達だけだ。


「それに早速と言うべきか、その成果もあった。

 とは言え、余り喜ばしい事では無かったのだが・・・。」


「まあ、それは仕方ありませんよ。

 所属部隊外の装備の在庫まで完璧に管理することなど無理ですし、気付けただけでも良しとしましょう。」


 確かにその通りではある。

 だがどうにもおさまりが悪いのもまた確かだった。

 数が合わない。

 この学校に収められている訓練用の空気銃の数が1つ、不足していたのだ。

 来週に控えた三歩聯隊(ほさんれんたい)と士官学校の合同訓練にのぞむにあたって、使用する装備を確認する為に私は今日この士官学校へと足を運んだ。

 そしてその折にこの事実に気付いた。

 そこで、この空気銃の不足について校内に残っていた教員に尋ねてみたところ、


『あれ、おかしいな?

 僕の記憶では、きっかり200ちょうはずだったんだけどなあ・・・?』


 と言った答えが返って来た。

 だが記録簿には、確かに201丁との記録が残されており、この記録簿を突き付けて更にただしてみても、


『本当だ、確かに201と書かれている。

 おかしいな、どこで記憶が拗れたんだろう?

 いや、でも確かに200だと思ったんだけどなあ・・・。』


 結局そんな曖昧あいまいな返答があるだけだった。


「何ともお恥ずかしい限りです。

 中尉殿に指摘されるまで、僕自身もまるで気が付きませんでした。」


「いや、或いは皆の記憶が正しく、単なる数の書き間違えなのかもしれぬさ。」


 たった1個の数え間違え。あるいは記憶違いと言ってしまえば、それまでなのかもしれない。

 だがそれでも、何処かに落ちない思いがわだかまっているのも確かだった。

 と、そこでふと窓の外に目を向けると、校庭で人だかりが出来ていた。


「あれは一体何の集まりだ?」


 今日この時間に、この学校には生徒はいないはずなのだが。

 それとも、どこかの聯隊れんたいが来ているのだろうか。


「ああ、あれは皇学院こうがくいんの生徒ですね。」


 そんな自分の予想は、あっさりと外れる。。


「皇学院と言うと確か、神職養成しんしょくようせいの為の専門機関せんもんきかんだったと記憶しているが。」


 まあ・・・、それはあくまで表向きには、と言う但し書きが付く。

 その事実も北先生と出会う前までは、私にはよしもないことだったが


「ええ、そうです。

 そして、今日みたいな校内の不在時に、よく彼らは入れ替わりでここを使うんです。

 飯田橋にある校舎の校庭では手狭ということらしく、かと言ってそこらの運動場を使うとなると、今度は一般いっぱん衆目しゅうもくさらすこととなり、都合がよろしく無いとかで。」


「成る程な。」


 そういうことらしい。

 実状じつじょうかくとして、魔法や魔術と言った怪し気なもののたぐいは、世間に秘匿ひとくすべきもの。或いは、そもそも存在していないものとしてあつかうのが建前とされている。

 だからこそ、こうして一般の人間の立ち入りが制限されている士官学校の敷地を借りている、という訳か。


「もっと近くで見てみますか?」


「良いのか?」


「はい。余りに露骨ろこつに過ぎれば、流石に良い顔はされないでしょうが、あちらもここを借りている立場。

校庭の端からながめている分には、何も言いませんよ。」


問題が無いのであれば、特に断る理由も無い、と。

彼のすすめに従って校舎を、近くにあった桜の木の木陰で足を止めた。

 そうして改めて彼らの様子を観戦した。

 のだが、


「これは何とも・・・、凄まじいな。」


 ポツリと・・・、驚嘆きょうたんが無意識のうちに声となって出た。

 向こうで行われていたのは、二対二の二手に別れての実践形式の模擬戦だ。

 やっていることはごく普通の作法の則って行われる、ごく普通の試合。

 だが問題だったのは、それを行う生徒達だった。


「いやはや、僕はもう彼らの模擬戦は見慣れているつもりだったんですがね。」


 隣で見ている彼にとっても、窓の外で行われている戦いは慮外りょがいのものだったようだ。

 私自身が魔術というものに明るくないため、詳しくは分からない。

 だが彼らの動き、体の裁きを含めた基礎身体能力が、一学生のソレ。

 いやそれどころではなく、人間のソレとは明らかに一線いっせんかくしていた。


「いつもあんなものが繰り広げられているのか?」


「いやいや、流石さすがに毎年あんなのが行われている訳ではありませんよ。

 4月に行われる模擬戦は、皇学院の新入生が行うものです。当然、入学して間もない生徒らが行うので、その規模も遊戯ゆうぎじみた、と言うのは失礼でしょうが、それこそ模擬戦という言葉の響きが相応しい程度の試合にしかなりません。ですが・・・、」


 そう言って彼は目線を向こうへ戻す。

 見慣みなれている筈の彼の目から見ても、いや・・・、毎年見慣れているからこそ、今年の模擬戦が明らかに異常であることが理解できたらしい。

 

「あの者達の闘いを見ていた方が、余程勉強になりそうではあるな。」


「どうでしょうかね。

 あそこまで行くと、逆に参考にならなさそうな気もしますが。」


「寧ろあのぐらいの方が都合が良い。

 自らの世界を広げる為の、或いは私自身を含めて聯隊れんたい内の伸びきった鼻をへし折る格好の刺激となるだろうさ。」


 と、その刹那。

 ゾワリ、と背筋を冷たいモノが這い上る感覚が走った。


「いかが致しました、中尉殿?」


「ああ・・・いや、何でもない。」


 向こう側で、より一層激しく繰り広げられている闘い。

 その中の1人の少年が銃を取り出した瞬間、その嫌な感覚が流れた。


「あの少年をどうみる?」


「理想的な後衛だと思いますよ。

 射撃の腕が立つのは勿論もちろんですが、何より視野が広い。

 敵方の後衛を相手にしつつも、的確な間合いで味方の援護にも回っている。」


「そうだな、僕も全くの同感だよ。」


 その点に関しては、彼の言う通りだ。

 互いの前衛同士の白兵戦の影に隠れて目立たないが、4人の中において、あの少年の立ち回り方が最も群を抜いていた。

 だが、私が彼に掛けた問いの本質はそこでは無かった。

 あの少年が手にしている銃。

 それがこの学校の訓練用の空気銃と全く同じ型のモノだった。

 そして私ですら即座に気が付いたこの重要な事実に、隣にいる彼が。

 この学校の関係者である彼が、気付かない筈が無いのだが。


「なあ・・・、あの少年が使っている銃に見覚えは無いか?」


 それにも拘らず、その気配も無い。


「勿論ありますとも。

 ダイアナ03十六連式短銃。

 陸軍御用達の常盤號(ときわごう)銃砲店じゅうほうてんの定番品で、私達もよく利用しておりますから。」


 加えて、うそいている様子も、誤魔化ごまかそうとしている雰囲気も全く感じられなかった。

 であれば本当に、彼は気が付いていないのだ。

 そこまで銃の詳細を把握していながら、たった一点の違和感には全く触れる気配も無い。まるで彼の記憶からその箇所だけが切り取られ、欠落してしまったかのようだった。

 果たしてそんな事が有り得るのだろうか。

 様々な疑念ぎねんは浮かぶが、答えとなるものは何一つ浮かびはしない。

 そうして様々、思案しあんけ、とらわれてしまっていた。

 だからだろう。


「こんにちは、兵隊さん。」


 言葉を掛けられるその瞬間まで、他者たしゃの接近にまるで気が付く事が出来なかったのは。

 子供の声だった。

 不意ふいのその声により、深く沈み込んでいた意識が浮上する。

 だが周囲を見回しても、声の主は見つからない。


「こっちよ、兵隊さん。」


 その呼び掛けは頭上からだった。

 我々がいる桜の木の上。

 その枝に、ちょこんと座っていたのは一人の少女だった。

 10代前半ぐらいといったところか。

 洋物の衣服を纏った少女の姿は、いつぞや見た百貨店の陳列窓ショーウインドウに飾れていた仏蘭西フランス人形にんぎょうを思わせる、ある種の浮世離うきよばなれした可愛らしさをかもす。

 だが真っ先に目を引いたのはその髪だった。

 根元から毛先まで、透き通るような白色はくしょくに染まった髪。微風そよかぜけてつややかになびくその髪は、時折差し込む木漏こもを受けて銀色に輝く。

 私も、そして隣の彼も、そのあまりに現実感の無い光景に言葉を失う。

 絵になる、とでも言うべきか。

 一枚の絵画かいがから切り取った一部分を、目の前の現実に貼り付けたかのような。

 そんな突拍子とっぴょうしも無い光景。

 花弁はなびらが舞い散る中で、その少女はあいらしい笑顔を浮かべて、ヒラヒラとこちらに手を振って見せる。


「お嬢さん、そこにいては危ないですよ。」


 そうではないだろう。先ず言うべき言葉は、他にいくらでもある筈だ。

 一体何時からそこにいたのか。

 何故ここにいるのか。

 そもそも何者なのか。

 それにも拘らず、どうして真っ先に出て来た言葉がコレだったのか。私自身にも、まるで理解出来なかった。


「お心遣いありがとうございます。ですが御心配は要りませんよ。」


 ふわりと、少女は枝から飛び降りた。


「初めまして、お優しい兵隊さん。

 わたくしは、鬼柳きりゅう千春ちはると申します。」


 そして音も無く地面に着地した彼女は、自らを千春と名乗った。



「そのようなことがありまして、後日に再び確認を取ったところ、あんの定《》じょうと言いますか、キッチリとそろっておりました。」


 当然の如く、保管庫には201丁の空気銃くうきじゅう整然せいぜんと並べてあった。

 そしてあの時隣にいた彼だけで無く、あの時校内にいた者も、くちそろえて201丁と言っていた。

 まるで最初からそうであったかのように。

 私だけが、何かの悪い夢でも見ていたかのように。


「十中八九魔術の類だろうな。」


 そうだろうとも。

 単なる私の記憶違いでした、とするには余りに不自然過ぎるからだ。


「おいおい、そんな目を向けるな。

 君がその魔術の正体を知りたくて俺のもとへ来たのは理解しているが、生憎あいにく私だって何でも知っている訳では無い。

 現状で君の話から分かるのは、精神に干渉かんしょうする類の魔術だと言うぐらいだ。」


 そう言ってきた先生は苦笑くしょうし、かたすくめる。


「基本的なものや簡単なものは、訓練さえすれば誰にでも使えるように体系化されている。だがそんなのは全体のほんの一部でしかない。」


「それはつまり、先生や先生以外の魔術師にとっても、未知の魔術があるということでしょうか。」


「まあ・・・、極端な話をすれば、魔術師の数だけ魔術が存在していると言っても良い。」


 その言葉に愕然とする。

 何の取っ掛かりも無いのであれば、調べようがない。

 いきなり手詰まりとなってしまったのだろうか。


「結論をくなよ。」


 そんな私の心中を見透かしたかのように北先生は続けた。


「どんな魔術を使ったかは知らずとも、誰が使ったは調べることが出来る。」


「と言いますと?」


呪紋じゅもんと言ってな、人間が持つ魔力ってのは、個人でそれぞれ特徴が微妙に違う。

 それで魔術を使う際に生じるその魔力の残滓ざんしを調べれば、その魔術を使ったのが誰かを特定することが出来る。」


 要は指紋や筆跡みたいなものだろうか。


「その認識でおおむね正解だ。」


確かに個々で特徴が違えば、その人間を手繰たぐり寄せる事も出来るという理屈も、納得の行く話だ。

と言うか、


「北先生。今、しれっと僕の思考を読みましたよね?」


「さて、何の事かな?」


 何とも白々しい言葉だ。

 その証拠に先生の口角が微妙にヒクついている。


「それに、ある程度の候補は既に絞られているだろう?」


 最も怪しいのが、空気銃を使っていた少年。

 次点が、模擬戦に出ていた他の3人。

 その次が、それを観戦していた生徒と教師。


「それ以外、東京市の中のたった1人だったら・・・。

 気の毒だが虱潰しらみつぶしだな。」


「不吉な事を言わないで下さい。」


 もし、その言葉通りだとしたら100万を超える人間がいる帝都ていとの中から、たった一人の人間を見つけなければならない。

 しかもそれで得られるのは、己の自己満足だけ。

 何故ならば、この件を知っているのは私と北先生しかいないからだ。


「加えて、仮に当たりを引いたところで目撃も物証も一切皆無。

 故に相手が否定すれば、今度こそ八方はっぽうふさがり、と。

 ハッ・・・、まるで割に合わぬな。」


 それで捕まえようなど、狂気きょうき沙汰さた以外の何物でも無い。

 とは言えそんな事態におちいってしまった場合には、当然私も見なかった事にして即座にこの件から手を引くのだろうが。


あんずるなよ、実際のところはその4人のどれかでまず間違い無い。」


 先生もあくまで最悪の場合を想定しただけであって、本気で帝都中を探すつもりは無い筈だ。


「それに・・・、」


 そう思っていた。

 しかし北一輝と言う人間は、そんな甘いものではなかった。


「万に一つ、外れだろうが、たかが100万。

 6日もあれば十分だからな。」


 ゾクリ、と。

 身体からだしんから怖気おぞけが走る。


「冗談、ですよね?」


「だとしたら、随分ずいぶんひねりにけるな。」


 虚栄きょえいでも虚言きょげんでもない。彼は本気でたかがと思っている。

 それが只々(ただただ)、恐ろしい。

 片手間かたてま程度ていどの感覚で、ソレが出来ると。

 そしてそんな余りに荒唐無稽こうとうむけいな話を、何の根拠をしめすこと無く、可能だと確信させてしまう北一輝きたいっきという人間が、只々恐ろしかった。

 数日前に見たあの才気溢れる若人わこうど達の決闘も、この男の前では取るに足らない児戯じぎに等しかった。


「取り敢えずは呪紋を調べなければ、話にならん。

 その時に校内にいた者を連れてくるなり、髪の一本を毟るなり、服を貰ってくるなりしてこい。」


「・・・承知致しました。」


 その人間を特定した後、一体どうするのか、などとは聞けなかった。

 只今ただいま粛々(しゅくしゅく)と、その要請ようせいこたえるほかい。


「それでは、行ってきます。」


 そうしてここ場から立ち去ろうと、立ち上がった。

 しかしそこで、


「ああ、そうだ。

 君の耳にも入れておくべき話があったな。」


 北先生に呼び止められる。


近頃ちかごろ、一部の海軍の青年将校せいねんしょうこうに不穏な動きがあるそうだ。

 西田にしだ君の言うところによれば、大川おおかわ君も一枚()んでいるらしい。」


 それは初耳だ。

 大川というと、大川おおかわ周明しゅうめい殿のことだろうか。


「どうやらまだ何も知らなかったらしいな。

 とすると、彼らの聯隊への接触は今のところ無いということか。」


「はい、特にそれらしい噂や動きはぞんじておりません。」


「ならば俺から言えることは、せいぜいってけ、ぐらいか。

 まなかったな、引き止めてしまって。」


「いえ、お気になさらずに。それでは改めて、行って来ます。」


「ああ、よろしく頼んだぞ。」


 そうして、今度こそ立ち去った。


「軍人にしておくには学が有り過ぎて、学者にしておくには血の気が有り過ぎる、か。

 全く、何とも厄介やっかいな男だ。

 まあ・・・、それが大川君の面白いところでも有るのだが。」


 閉じたふすまの向こう側から、そんな北先生のつぶやきが聞こえた。


    ※


「ふー・・・、やれやれ。」


 帰りがけの電車の中で、いきれる。

 ハッとして周囲に目を配るが、その溜め息を特に気に掛ける者はおらず、皆一様に正面を見据え続けている。


相変あいかわらず、かたるお方だ。」


 行けばいつも的確な助言じょげんくださるし、案外あんがい優しい方ではある。

 ではあるのだが、先生が常に発しているあの威圧感プレッシャーにだけは、どうしても慣れることが出来ない。

 流れて行く窓の外の景色をボーっと眺めながら、先の会合かいごうの事を。

 そして先日の事を思い出す。


『散歩の途中でつい、ふらりと。

 こちらの方から何やら面白そうな気配がしましたので。』


 千春と名乗った少女はそう言っていた。

 周囲を高い塀でかこわれた士官学校の中への侵入しんにゅうは、ふらりと、などと言った安易あんいな感覚で行えるものでは無い。

 だがあの少女にとっては、本当にその程度の感覚だったのだろう。


『君も向こうで行われている試合に興味があるのかい?』


『ええ、まあ。私も多少はああいったモノの心得は多少ありますので。』


 あの日、彼女と出会ったことについては、先の場では北先生に報告しなかった。

 何かハッキリとした考えがあった訳では無い。

 だが単なる気紛れと言う訳でも無い。

 まだ告げるべきではない、という己の強い直観。

 そして敢えてそれを言葉にするならば、同じ臭いを感じたから、とでも言うべきだろう。


『とは言え、少し期待外れだっただったかもしれませんね。』


『そうなのか。

 私のような素人の目からでも、双方の実力は達人の域に達していると見えるのだが。』


『ふふ・・・、あは、アハハ。』


 無邪気と言えなくもない笑い。


『アレが?あの程度の方達が、ですか?』


 あの時、あの少女が見せた嘲笑ちょうしょうは、幼い子供の純粋じゅんすい無垢むく残酷ざんこくさをはらんでいた。

 

『全然ですよ。

 あの程度でしたら、纏めて叩き潰すことも造作もありません。』


 その瞬間の少女の顔は、ついほんの一時間ほど前に見たばかりのあの顔だった。

 冗談や見栄の類だと、そう思っていた。そうだと思いたかった、その表情。

 だが今日ソレが、何の冗談でも見栄でもなかったことを心底思い知らされた。

 千春という少女と北先生が纏う空気。その言葉に込められた威圧感は、同種のモノだった。

 二体の怪物。

 魔術に精通していなくとも、この2人が人間を遙かに超越した存在であることは嫌でも理解できる。そんな両者を引き合わせる切欠を作る勇気など、少なくとも今の私には無い。


『でも確かに、面白い発見はありましたわ。』


 そう言った彼女の語気は、微かに弾んでいた。

 あの壮絶そうぜつな決闘を、取るに足らないものと一笑いっしょうしたにもかかわらず、だ。


『面白い発見?』


『ええ。』


 それが何なのか。

 或いは、一体誰を指しているのかは終ぞ分からなかった。

 しかし今は、その者には同情を抱かずにはいられない。


『それに何となくですが、兵隊さんにも多少関係があるようですので。』

 

 その言葉の意図も、あの時は理解することは出来なかった。

 だが今は違う。先刻せんこくの会合を経て、私にも関係しているのだと、ようやく気付くことが出来た。


『これにて私はおいとまさせてさせてきますわ。

 わざわざ送って下さり、ありがとうございました。』


『ああ、気を付けてな。

 それと、これからは勝手に侵入してはいけないよ。』


『ええ、気を付けますわ。

 それでは御機嫌ごきげんよう、優しい兵隊さん。また御縁ごえんががありましたら、何処どこかでお会いしましょう。』


 このやり取りだけを思えば、至って普通の子供だ。

 小さくて可愛らしく、だが少し背伸びをして大人っぽい話し方をしようとする一人の少女。

 しかしそれでも、時折ときおり垣間かいまえた尋常じんじょうならざる気配に、おそれを覚えずにはいられない。

 出来れば、二度と遭遇したくないとせつねがう。

 だが同時に、あの幼い少女が、何故なぜああなったのか、と。

 考えずにはいられないのだ。


「・・・まずは先生の依頼いらいからだな。」


とは言え、今あれこれと思い悩んだところでどうすることも出来ない。

 ならばまずは目先めさき厄介事やっかいごとから順に片付けていくしかないのだろう。

それにあの少女も言っていた。

何時いつか再びえにしがあったら、おうと。

そしてその時は、そう遠くないはないのだろうと予感する。

何の根拠も無い、単なる予感。

だが恐らく、きっとそうなるだろうという自身はある。

 そんな確信かくしんめいた予感だった。

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