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第八話 名前を見せに

 まめこは鞄を開いて、帳面に挟んだ紙を確かめた。


 ちゃんと、あった。


 閉じてから、もう一度開く。


「まめこ。その紙は逃げませんわよ」


 向かいの席で、メグが言った。


 今日は、いつもよりきちんとした身なりをしていた。淡い色の上着に、細かな刺繍の入った襟元。髪も丁寧にまとめられ、普段の農園や学校での姿より、ずっと貴族の娘らしく見える。


「揺れたら、抜けるかもしれへん」


「でしたら、帳面を閉じておいた方がよろしいのでは?」


 まめこは挟んだ紙を少し奥へ押し込み、鞄の留め具を掛けた。


 まめこ自身も、今日はいつもよりちゃんとした服を着ていた。落ち着いた色のワンピースに、きれいに磨かれた靴。髪もマリーに整えてもらい、胸元には小さな飾りが留められている。畑へ行くときの服とは違い、少し背筋が伸びるような格好だった。


 馬車の窓の外を、木の柵が流れていった。その向こうには畑が広がり、道の曲がる先に、小さな風車が見える。街の西門を出てから、家の近くでは見ない景色が増えていた。


 ドーナへの返事を出して、何日かが過ぎた。港で大きな魚を釣った話も手紙に添えたら、イオルドから、ぜひ聞きたいという返事が来た。


 今日のために公爵邸から馬車が来て、出発前には、御者とメグがガードへ道の様子を確かめていた。林の近道は使わず、大きな街道を行く。


 マリーはまめこの隣に座り、窓から入る風で浮いた髪を指で整えた。


 彼女も今日は、いつもの動きやすい服ではなく、きちんとしたメイド服を着ていた。濃い色のワンピースに白い襟とエプロン。袖口まで整えられ、髪もきれいにまとめられている。いつもより正式な姿なのに、籠を扱う手つきは変わらず手慣れていた。


「お屋敷に着いたら、鞄はお部屋へ置けますよ」


「先に見せてもええ?」


「ええ。ご挨拶をしてからね」


 足元の籠で、トロが丸くなっていた。今日は魚を入れる予定がないので、古い布を敷いてある。車輪が大きく跳ねたときだけ、黒い耳が起きた。


「トロ、まだ着かへんで」


 トロはまめこの声に片目を開け、また閉じた。


「わたくしも、そうして眠れたら楽ですわね」


「メグ、籠入らへんやろ」


「籠へ入るお話ではありませんわ」


 マリーが小さく笑った。


 まめこは窓の方へ向き直った。見覚えのある石の門柱が、道の先に見えてきた。


     *


 門が開くと、馬車は砂利の道へ入った。


 庭の木は、前に来たときより葉が茂っていた。低く刈った生垣の向こうで、庭師が手を止め、帽子を持ち上げる。まめこも窓から手を振った。


 玄関の前には、もうドーナが立っていた。


 馬車が止まり、メグが先に降りる。


「ただいま戻りましたわ、お母様」


「おかえりなさい。よく来てくれましたわね」


 ドーナは両手を伸ばし、娘を抱き寄せた。


「まあ、今日はずいぶんきちんとしているのね。よく似合っていますわ」


「お母様、まだ荷物が」


「あとでよろしいでしょう」


 メグの片手には、小さな旅行鞄が下がっている。持つ場所に困って腕を外へ出すと、玄関にいた使用人が笑いをこらえながら受け取った。


 まめこは御者の手を借りて降りた。両足が地面へ着くと、ドーナの腕が今度はこちらへ伸びてくる。


「まめこも、おかえりなさい」


「ただいま、ドーナ様」


 柔らかな袖が頬へ触れた。まめこは自分の鞄が間に挟まらないよう、少し横へずらした。


「お顔を見せてくださいな。まあ、今日はとても可愛らしい服ね。少し背が伸びました?」


「靴、新しくなったで」


「あら。では、お洋服も確かめなくては」


 ドーナはまめこの肩へ手を置き、少し離れて眺めた。


 後ろで、マリーが籠を持って馬車から降りた。きちんとしたメイド服の裾を乱さないように動きながら、籠を両手で抱えている。


「マリー、いつもありがとう。今日は正式な格好までしてくれたのね」


「ありがとうございます、奥様。お屋敷へ伺う日ですので」


「ええ。よく似合っていますわ」


 蓋を開けると、トロが頭を出し、玄関の方を見上げる。


「トロも、長い道でしたね」


 地面へ下ろされたトロは、ドーナの裾の匂いを嗅いだ。玄関の扉が開くと、ためらわず中へ入っていく。


「あ、先に行ってもうた」


「ちゃんと覚えていますわね」


 ドーナは笑って、二人を玄関へ促した。


 廊下には、磨いた床と花の匂いがしていた。まめこの靴音が、家より少し大きく響く。階段の下にある花瓶も、壁に掛かった絵も、前に来たときと同じだった。


 奥の扉から、イオルドが出てきた。


「よく来たな」


「お父様。ただいま戻りましたわ」


 メグが少し背筋を伸ばした。きちんとした服のせいか、その姿はいつもより大人びて見える。イオルドは娘の肩へ手を置き、顔を確かめるように見てから頷いた。


「元気そうだ。今日は、ずいぶん立派な格好をしているな」


「お母様が用意してくださったのですわ」


「まめこも、マリーもよく似合っている」


 まめこが笑うと、イオルドは腰を屈めた。


「まめこも、元気にしていたか」


「うん。今日な、見せたいもん持ってきてん」


「ほう。何だろう」


 まめこが鞄の留め具へ手を掛けると、ドーナがそっと背中を押した。


「座ってから見せてちょうだい。お茶の支度もできていますわ」


 まめこは鞄を抱え直した。


 階段の脇を抜けると、トロが先に応接間へ入っていくのが見えた。


     *


 テーブルには、丸い菓子と細長い菓子が並んでいた。


 まめこはメグを見た。


 メグも、こちらを見ていた。


「数えなくてよろしいですわよ」


「まだ何も言うてへん」


「何のお話?」


 ドーナに尋ねられ、まめこは細長い菓子を指した。


「前に来たとき、メグが三つ食べたやつ」


「まあ。気に入ったのでしたら、もっと召し上がればよかったのに」


「お母様がお勧めになったのですわ」


 メグは、マリーへも聞こえるように言った。


 マリーは茶器を運んできた年配の使用人に礼を言い、裾を整えてから、まめこの隣へ座った。


 まめこは膝の上で鞄を開いた。帳面を取り出し、紙を挟んだページを広げる。


「これやで」


 ドーナが身を寄せた。


 ページには、まめこ、と書いてある。


 イオルドも向かいの席から覗いたが、よく見えるように、まめこが帳面をテーブルの真ん中へ置いた。


「前は『め』が潰れてたん。今は、ちゃんと読めるやろ?」


「ええ。まめこ、と読めますわ」


 ドーナは紙へ触れず、字の上に指を浮かせた。


「一文字ずつ、丁寧に書いたのね」


「途中で笑ったら曲がったから、もう一回書いたで」


「誰が笑わせたんだ?」


 イオルドの目が、メグへ向いた。


「……わたくしは、褒めていただけですわ」


「お辞儀してたやん」


「お礼を申し上げたのです」


 イオルドは笑い、もう一度帳面へ目を戻した。


「先生にも見せたのか」


「うん。先生と、マリーと、メグにも褒めてもろた」


「では、私たちも加えてもらおう」


「五人やな」


 まめこは片手を開いた。指が、ちょうど足りた。


 ドーナがその手を両手で包んだ。


「頑張ったところを、見せに来てくれてありがとう」


 まめこは頷いた。手を離してもらってから、挟んでいた紙を字のない端へ戻す。


「これ、持って帰ってもええ?」


「もちろんですわ。あなたの大事な帳面ですもの」


「せっかくだから、あとで私の名前も書いてくれるか」


 イオルドが言うと、まめこは顔を上げた。


「イオルド様の?」


「そうだ。難しい字は、一緒に練習しよう」


「では、わたくしの名前も」


 ドーナが続けた。


「お母様。今日は遊びに来たのですわよ」


「一行だけですわ。ねえ、まめこ?」


 まめこは二人を見比べた。


「ドーナ様の方が、短いな」


「まめこ。お父様が寂しそうなお顔になりましたわ」


「まだ何も言っていないぞ」


 メグが口元を押さえた。まめこも笑いながら、帳面を閉じた。


 菓子を取り分けてもらうと、今度はイオルドがメグへ向き直った。


「さて。港では、ずいぶん大きな魚が上がったそうだな」


 メグの手が、茶のカップの手前で止まった。


「ええ。まめこより長いくらいのお魚でしたわ」


「これより大きいんやで」


 まめこは両腕を広げかけて、隣のマリーを見た。今度は片腕を少し曲げておく。


「では、その二倍くらいかな」


 イオルドに尋ねられて、まめこはメグを見た。


「そこまではありませんわ。でも、一人では持ち上げられませんでしたの」


 メグは竿が引かれたときのことから話した。船頭に助けを頼み、筋力強化の術で支える力を補って、最後は綱で上げてもらったこと。


 イオルドは途中で口を挟まず、娘の話を聞いた。


「カエルさんも来たで。魔法、うまく使ったって」


「あの方が、そうおっしゃったのか」


「ええ」


 メグはカップを持ち上げた。


「必要なところで力を補えた、と」


「それは、よかったな」


 父の声に、メグの頬が少し緩んだ。


「それで、お魚はどうなりましたの?」


 ドーナが尋ねた。


「助けてくださった皆さんと分けましたわ。うちへは、食べられる分だけ」


「お昼と晩ごはんになったで。わたしの三匹も」


「まめこも釣ったのね」


「うん。わたしのは、籠に入ったで」


 ドーナが笑った。まめこも菓子を一つ取り、口へ運ぶ。


 メグの皿には、細長い菓子が二つ載っていた。


     *


 お茶を飲み終えるころ、ドーナは隣の部屋へまめこを連れていった。


 椅子の背には、淡い色の服が掛かっている。


「前の寸法でお願いしてしまったの。袖を見せてくださいな」


 ドーナは服をまめこの肩へ当てた。マリーが横から、袖と肩の位置を確かめる。


「少し余裕がありますね。これなら、しばらく着られそうです」


「よかった。窮屈では困りますもの」


「これ、わたしの?」


「ええ。気に入ってくれると嬉しいわ」


 まめこは裾へ触れた。細かな花の刺繍が、ぐるりと続いている。


「畑では、着ん方がええな」


「畑へ着ていくおつもりでしたの?」


 ドーナが目を丸くした。


「ちゃうで。汚したらもったいないから」


「お出掛けのときに着ましょうね」


 マリーが言うと、まめこは頷いた。


 鏡の前へ立たせてもらい、ドーナが後ろから服を当てる。まめこは顔を少し下げ、鏡の中で、自分の膝と新しい服の裾を見比べた。


 扉から、メグが覗いた。


「まあ。よく似合いますわね」


「メグにも、ご用意していますわよ」


 ドーナが隣の椅子を示した。


 メグは足を止めた。


「わたくしにも?」


「ええ。たまには、釣りに行かない日の服も必要でしょう」


「わたくしは、もうきちんとした服を着ておりますわ」


「それでも、こちらはお屋敷で過ごすためのものですもの。あなたに似合うよう仕立てましたのよ」


 椅子には、メグのための服が掛かっていた。深い色の布地に、控えめな飾り。貴族の娘らしい上品な仕立てで、普段の動きやすい服よりもずっと華やかだった。


「釣りばかりしているわけではありませんわ」


「もちろん。学校にも農園にも行っているのですものね」


 ドーナはまめこの服をマリーへ渡すと、今度はメグの肩へ手を置いた。


「あなたも、もう十五ですもの」


 メグが、母の顔を見た。


「わたくしは十六で、お父様のところへ嫁いできましたわ」


「……ええ。伺っております」


「そろそろ、お見合いのお話くらいは、いかがかしら?」


 まめこは、鏡から振り返った。


 メグの背筋が、さっきより伸びていた。


「お母様。わたくし、今はライセィムのお勉強がございますの」


「すぐに結婚しなさいというお話ではありませんわよ。お会いするだけでも」


「農園のことも、まだ覚えることがたくさんございますし」


「ハラルドがよく見てくれているのでしょう?」


「それに、六分儀を使えるようにならなくては」


 ドーナは娘を見つめた。


「六分儀?」


「航海に必要な道具ですわ。角度を測っただけでは、自分のいる場所は分かりませんの。計算も、海図も、天体の暦も必要で」


 メグは、急に早口になった。


「先日、船頭さんにもお話を伺いましたの。まずは岸で練習して、記録を取ってから、もう一度見ていただこうと」


「まあ。それは楽しそうですわね」


「ええ! ですから、今はそちらを」


「そのお話も、先方に聞かせて差し上げたら?」


 メグの口が閉じた。


 まめこは、隣のマリーを見上げた。マリーは新しい服を畳みながら、目だけでこちらへ笑い掛けた。


「メグ、海へ行く話ばっかりやな」


「まめこまで!」


 扉の向こうから、イオルドの声がした。


「ドーナ。今日は、二人とも来たばかりだ」


 メグは、すぐに父の方を向いた。


「ええ、そうですわ。まだ、お庭も見ておりませんの」


「では、夕食まで少し歩くか」


「ぜひ!」


 返事が早かった。


 ドーナは肩から手を離し、娘を見送った。


「お洋服は、お部屋へ運んでおきますわね」


「ありがとうございます、お母様!」


 メグはまめこへ手を差し出した。


「お庭へ行きましょう」


「わたしも急ぐん?」


「お日様が沈む前に、ですわ」


 まめこが手を取ると、メグは扉へ向かった。イオルドの横を通るときだけ、少し歩く速さを落とした。


     *


 庭へ出ると、メグは大きく息を吐いた。


 まめこは繋いだ手を見た。


「もう急がんでええ?」


「急いでなどおりませんわ」


「さっき、めっちゃ早かったで」


 メグは手を緩めた。まめこも肩の力を抜き、花壇の方へ顔を向ける。


 イオルドが二人に追いついた。


「お母様は、お前の話を聞きたいんだよ」


「わたくし、お話はいたしましたわ。学校のことも、釣りのことも」


「そうだな。今日はそれで十分だ」


 イオルドは娘の肩を軽く叩いた。


 花壇の端には、丸い石の腰掛けがあった。まめこはそこへ座り、靴の先を揃えた。窓辺からトロが出てきて、足元へ寄る。


「あんたは、お部屋で寝てたん?」


 トロはまめこの靴に頬を擦りつけ、花壇の土を嗅いだ。


 イオルドが隣へ腰を下ろした。メグは少し先の花を見に行き、枝に触れないよう、身を屈めて覗いている。


「学院は、楽しいか」


「うん。みんなと歌うねん。今は、帰りも一緒やで」


「そうか。道で怖い思いはしていないか」


「この前、鳥が飛び出してきた。びっくりしたけど、ルカのお父さん呼んだで」


 イオルドは頷いた。


「困ったことがあったら、メグやマリーに話しなさい。ここへ来たときには、私たちにも」


「うん」


 まめこは足元のトロを見た。草の上へ座り、尻尾を体の横へ巻いている。


「イオルド様」


「何だい」


「名前書くん、晩ごはんのあとでもええ?」


「ああ。覚えていてくれたのか」


「長いから、練習せなあかん」


「イオルドだけでいい。全部書いたら、夕食が冷めてしまう」


 まめこは笑った。


 花壇から戻ってきたメグが、二人の前に立った。


「何のお話ですの?」


「イオルド様の名前、長いって」


「全部書くのですか?」


「今、短くしてもろた」


 メグが声を立てて笑った。イオルドも、髭の下で口元を緩める。


 窓の向こうで、ドーナが手を振っていた。その隣にマリーがいる。メグは一度だけ足を止めたが、ドーナが食堂の方を指すと、安心したように頷いた。


「夕食のようですわ」


 まめこは腰掛けから下りた。


 トロが三人の先を歩き、開けてもらった扉へ入っていった。


     *


 夕食のあと、まめこは小さな机に帳面を広げた。


 横には、イオルドが書いてくれた紙がある。


 イオルド。


 その下に、ドーナ。


 まめこは紙と帳面を交互に見ながら、少しずつ字を書いた。イオルドが隣に座り、筆先が迷ったところを指で示してくれる。


「ここから、こう曲がる」


「これ、難しいなあ」


「ゆっくりでいい」


 書き終えると、まめこは筆を置いた。


 見本よりも大きな字になった。ドーナの伸ばす線だけ、少し斜めになっている。


「読める?」


「ええ。わたくしたちの名前ですわ」


 ドーナが後ろから覗き込んだ。


「今度は、わたくしたちにお手紙をくれるときにも書けますね」


「お手紙?」


「学校で楽しかったことでも、お庭で見つけたものでも。短くていいのよ」


 まめこは自分の書いた字を見た。


「まだ、書けへん字いっぱいあるで」


「分からないところは、わたくしが手伝いますわ」


 ソファから、メグが言った。


「魚の話も書くん?」


「あなたのお手紙ですもの。お好きなことを」


「ほな、茄子も売れたって書こかな」


 イオルドが顔を上げた。


「それは、まだ詳しく聞いていなかったな」


「ひと籠、全部売れたで。十本あってん。メグが値段つけたんや」


 まめこは帳面を開いたまま、街で茄子を売った話を始めた。


 ドーナが椅子を引き寄せ、イオルドも座り直した。まめこは、初めて買ってくれた女の人のことや、茄子が全部売れて籠が空になったことを話した。メグも隣で、ときどき言葉を添えた。


 マリーは少し離れた席で聞いていたが、まめこがあくびをすると、机の灯りへ手を伸ばした。


「続きは、明日にしましょうか」


「まだ、お金しまったとこやで」


「そこは明日、聞かせてもらおう」


 イオルドが、帳面の閉じる側を軽く押さえた。


 まめこは紙のしおりを抜いた。きれいに名前を書いたページから、今夜のページへ移す。


「今度は、ここにしとく」


 ドーナが頷き、帳面を閉じるのを待ってくれた。


 廊下へ出ると、昼のうちに用意してもらった部屋の扉が開いていた。寝床のそばに鞄が置かれ、椅子の背には新しい服が掛かっている。


 まめこは帳面を鞄へしまった。


 トロは先に寝床へ上がり、足元で布を踏んでいた。


「そこ、今日もトロのとこなん?」


 黒い体が丸くなる。


 まめこも寝間着に着替え、掛け布を持ち上げた。いつもと違う部屋でも、足元の重みは同じだった。

挿絵(By みてみん)


 メグが、見本の紙を持って戸口へ来た。


「こちらも、持って帰りますの?」


「うん。お手紙書くときに見るから」


 メグは紙を畳まず、帳面の間へ挟んでくれた。


「これで、なくなりませんわね」


「メグ」


「はい?」


「お見合いの話も、お手紙に書くん?」


 メグの手が、鞄の留め具で止まった。


「……それは、あなたのお手紙には書かなくて結構ですわ」


「あい」


 まめこが笑うと、メグも困ったように笑った。


「おやすみなさい。明日は、お庭で朝ごはんにしてくださるそうですよ」


「ほんま? トロも?」


「ええ。トロも」


 まめこは掛け布を肩へ引き上げた。


 メグが灯りを落とし、扉を細く開けて出ていく。廊下から、ドーナと話す声が聞こえた。


 まめこは明日、茄子のお金の続きを話そうと思った。


 そのあと、お手紙の最初を教えてもらおう。


 足元でトロが一度だけ伸びをして、また丸くなった。

めぐ「今度お見合いの話がでたらトロ、やっておしまいなさい。。」

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