第十一話 手紙に入らない明日
帰ってきた家の窓には、まだ西日が当たっていた。
馬車から荷物を下ろしてもらうと、マリーが先に玄関を開けた。籠の蓋を持ち上げるより早く、トロの鼻が隙間から出てくる。
「今、開けますよ」
トロは床へ下り、廊下を少し進んでから振り返った。
「あい。ただいま」
まめこは靴を揃え、鞄を持ち直した。
屋敷では何度も人に会った。廊下を曲がると使用人がいて、部屋の扉を開けてもらうこともあった。ここでは、自分の靴の横にメグの靴が並び、台所へ向かったマリーの足音がすぐ聞こえる。
「本、入れてくるで」
「わたくしも参りますわ」
メグは服の包みを廊下の椅子へ置き、まめこと部屋へ入った。
小さな棚の上には、出掛ける前に置いた帳面がある。まめこは鞄からもらった本を取り出し、背を立てて、その隣へ押し込もうとした。
上の板に当たった。
「……入らへん」
少し斜めにしてみても、今度は棚の奥へ進まない。
「無理に押したら、表紙が傷みますわ」
メグの手が本の下へ添えられた。二人で引き出し、机へ戻す。
まめこは棚の前に屈んだ。
「馬車で言うたやつ、やってみよ」
帳面を端へ寄せ、本を寝かせて入れた。
今度は、奥まで収まった。
「入った!」
「こちらの置き方なら、大丈夫ですわね」
まめこは本の上へ手を置き、また引き出してみた。帳面にぶつからずに取れる。
「ちゃんと読めるで」
「棚に入れたきりにしなくて済みますわ」
まめこは窓辺へ本を運んだ。
ドーナと見たところを開く。屋敷の部屋で見たときより、紙が少し橙色に見えた。窓から入る光のせいだった。
メグは荷物を片づけに戻っていった。
トロが机の脚へ頬を擦りつける。まめこはページを押さえたまま、空いた手を下へ伸ばした。
「あんたも棚に入る?」
トロは指を嗅いだあと、開いた鞄の中へ前足を入れた。
「そっちなんや」
中を一度確かめ、くるりと向きを変えて座り込む。
鞄の口から、耳だけが出ていた。
「それ、片づけたいんやけど」
「ん」
まめこはしばらく待った。それでも出てこないので、鞄をそのままにして、本の続きを見ることにした。
*
夕食のあと、居間の机へ紙が並んだ。
マリーが皿を片づけ、メグが灯りの位置を直す。まめこは本を棚へ戻してから、自分の筆記具を取りに行った。
鞄は、もう空になっていた。
「トロ、どこ行ったん?」
居間へ戻ると、答えが分かった。
机に置いた紙の上で、黒い猫が腹をつけていた。
「そこ、今から使うとこやで」
トロは片耳を動かした。
まめこが紙の端を引くと、前足が伸びてくる。紙を押さえられて、動かせなくなった。
「トロもお手紙書くん?」
「書く前に、寝てしまいそうですわね」
メグが背中を撫でた。トロは目を細めたが、紙からは動かなかった。
マリーが窓辺の椅子へ、畳んだ布を置いた。
「こちらが空いていますよ」
トロはそれを見て、ようやく立ち上がった。机から椅子へ下り、布の上で前足を何度か踏み替える。
まめこは戻ってきた紙を確かめた。
「足跡、付いてへんな」
「戻ってから、外へは出ていませんから」
「お屋敷で掘ろうとしてたで」
「でしたら、お手紙に書いておきます?」
まめこは笑って、椅子へ座った。
メグは向かい側に自分の紙を広げている。何から書けばいいのか考えているまめこの前で、筆先がもう動き始めた。
「最初、何て書くん?」
「お父様とお母様へ、と書きましたわ」
「わたしは、イオルド様とドーナ様?」
「ええ。お二人にお送りするのですから」
まめこは紙の上の方へ名前を書いた。
イオルド、の最後が少し大きくなった。次の名前をその下へ書くと、今度は右へ寄りすぎた。
両方とも読めるので、そのままにした。
「それから?」
「伝えたいことは、何でした?」
「本、棚に入ったで」
「では、そのことを」
まめこは書き始めた。
ほんは、たなにはいりました。
そこまで書いて、手を止める。
「最初は入らへんかったな」
「寝かせたら入りましたわね」
「ほな、それも書く」
次の行へ、寝かせたら、と書き足した。読んでみると、本を寝床へ連れていったようにも思えた。
「横にしたら、の方がいいかしら」
「あい」
まめこは書いた言葉を直し、最後まで続けた。
本は棚に入った。帰ってから、続きを見た。
ドーナが包んでくれたお菓子のことも書こうとして、まだ包みを開けていないのを思い出した。
「お菓子、おいしかったって書かれへんな」
「明日、いただいてから書いても構いませんわよ」
「今、食べたら?」
メグの筆が止まった。
台所から、マリーが戻ってくる。
「今夜は、お食事を十分召し上がりましたね」
「手紙に書くためやで」
「お菓子をくださったお礼なら、今でも書けますよ」
まめこは包みの置かれた棚を見た。それから、紙へ向き直った。
「……お菓子、ありがとうって書く」
「ええ。きっと喜んでくださいますよ」
マリーは水のカップを机の端へ置いてくれた。
メグの紙には、もう何行も文字が並んでいた。
まめこは身を乗り出す。
「メグ、何書いたん?」
「無事に帰ったことと、泊めていただいたお礼ですわ。あとは、六分儀のお話を少し」
「もう使えるって?」
「まだ、そんなことは書けませんわね」
メグが小さく笑った。
「見える位置を合わせるのも、練習が要りますの。測ったあとの計算もございますし」
「お母様には、うまくいかないこともお伝えになります?」
マリーが尋ねた。
「書いておきますわ。次に伺ったとき、すぐ船を出せると思われては困りますもの」
まめこは、自分の紙を見下ろした。
「わたし、本が入らへんかったことも書いたで」
「ええ。どうしたら入ったかも、ちゃんと書けていますわ」
まめこは書いたところをもう一度読んだ。
最後に名前を添える。帳面へ何度も書いた名前だった。急がずに書くと、最後の字まで同じくらいの大きさになった。
「できたで」
メグが顔を上げた。
「一緒に読んでみましょうか」
まめこは紙を持ち上げ、自分の書いた言葉を声にした。
途中で、ほん、と、たな、の間が詰まっているところを指でなぞる。
読めた。
お菓子のところまで読むと、マリーが微笑んだ。
「明日、皆でいただきましょうね」
まめこは頷いた。
「あと、絵も入れてええ?」
*
新しい紙を、横向きに置いた。
まめこは絵を描く鉛筆を選び、先を確かめた。
まず、花壇を描いた。庭の端から端まであるような、長い囲いになった。その中へ、小さな葉を幾つも足していく。
丸い石は、少し大きめにした。
「そこが、まめこの植えたところですね」
マリーが後ろから覗いた。
「うん。まだ花はないで」
石の前に、葉と蕾を描いた。
隣には、屈んだ自分を描くつもりだった。
頭と胴を描いてから足を曲げようとすると、膝が花壇の中へ入ってしまう。上から線を引き直したら、どこまでが服なのか分からなくなった。
まめこは、そこへ布を描いた。
「それは、敷いていただいた布ですか?」
「そう。足は、この下」
メグは笑いかけたが、まめこが真剣に線を引いているので、少し待った。
隣に立つメグには、三つ編みを二本付けた。先へ行くほど、片方が太くなった。
「わたくしだけ、ずいぶん髪が多いですわね」
「こっちから見たら、いっぱいあったん」
まめこは腕を描いた。苗のそばへ伸びる手と、脇へ垂れた手。
それから、花壇の向こう側にじょうろを足した。
取っ手を付けたところで、メグが紙へ顔を寄せた。
「……こちらも、腕ですの?」
「じょうろ」
「わたくしの肩から、生えているように見えますわ」
まめこは紙を少し離した。
たしかに、取っ手が肩へつながっていた。
「メグ、どいて」
「絵のわたくしは、動けませんわよ」
マリーが横を向いた。
まめこは取っ手の線を直そうとしたが、全部消すと三つ編みまで薄くなりそうだった。じょうろの口を長くし、水の出るところへ小さな穴を描いた。
「これで分かるやろ」
「ええ。じょうろらしくなりましたわ」
ドーナとイオルドも描き足した。
イオルドの髭を描くと、顔の半分が隠れた。目を上へ付け直したら、額がなくなった。
それでも、髭があるのでイオルドだと分かった。
庭師には帽子を載せる。手に持つ道具は、小さく描けなかったので、足の横へ置いた。
マリーを入れようとすると、紙の右側がほとんど残っていなかった。
「マリー、ちっちゃくなってまう」
「少し離れたところにいたことにしましょうか」
「ほな、向こうで待ってるとこやな」
小さなマリーを、花壇の奥へ描いた。
トロを描く場所は、すぐ決まった。
自分の横へ、黒い猫を入れる。
背中を丸くして、耳を二つ付ける。尻尾を伸ばすと、苗の上へかぶさった。
「トロ、そこはあかん」
窓辺で、本物のトロが目を開けた。
まめこはそちらを見た。
「こっちのトロやで」
トロは椅子から下り、まめこの足元へ来た。紙には届かないので、膝の横へ前足を掛ける。
まめこが紙を見せると、鼻先が触れそうになった。
「まだ擦ったらあかんで」
メグがトロを抱き上げ、膝へ載せた。
黒い頭が二人の間から出て、紙を見ている。
「こちらのトロも、まめこのそばにおりますわね」
「うん。そこにおったから」
まめこは苗に重なった尻尾の先を短く直した。
最後に、絵の下へ、きょうのおにわ、と書く。
紙を回して眺めると、花壇は斜めで、みんなの足は同じ地面に立っていなかった。ドーナの方がイオルドより背が高い。
まめこは二人を指した。
「こっち、ちょっと大きすぎたな」
「誰を描いたかは、分かりますわ」
「ドーナ様、分かる?」
「ええ。こちらを見て、笑っていらっしゃるところでしょう?」
まめこは頷いた。
「これ、一緒に送る」
メグは絵を受け取り、まだ書いている自分の手紙から離れたところへ置いた。
「では、折らずに、ここに置いておきましょう」
まめこは指先を見た。描いている間に、横が黒くなっていた。
マリーに言われ、手を洗いに行く。
戻ってくると、メグの筆が、また動いていた。
「まだ書いてるん?」
「あと少しですわ」
「いっぱい書くことあるなあ」
「帰ってきてからでも、いろいろございましたもの」
メグは絵へ目を向けた。
「わたくしの腕が、一本増えましたし」
「じょうろやって」
まめこが言うと、マリーも今度は声を出して笑った。
*
翌朝、まめこは掛け布から出した足を、すぐ引っ込めた。
窓は閉まっている。明るくなった部屋の床には、昨夜置いた靴下が見えた。
トロは足元で丸くなっていた。掛け布を動かしたので、顔だけがこちらへ向く。
「ちょっと寒いな」
まめこがもう一度足を出すと、トロも立ち上がった。
伸びをして、寝床から下りていく。
「あんた、靴下いらんもんな」
まめこは靴下を履き、着替えて居間へ向かった。
メグは、もう庭へ出ていた。
朝食までに茄子を見ておこうと、まめこも戸口から外へ出る。
袖のないまま出てきた腕へ、風が当たった。
「上着を忘れていますよ」
マリーが後ろから持ってきてくれた。
「昨日は、昼間あったかかったのに」
「朝は涼しくなってきましたね」
袖を通すと、首の後ろにも布が来た。
庭の土は、まだ湿っていた。草の先に小さな水の玉が付いている。まめこの靴が触れると、一つだけ落ちた。
メグは菜園の端で屈んでいた。
手にした茄子は、へたの下が濃い紫色だった。
「それ、今日取るん?」
「ええ。こちらは、もうよさそうですわ」
まめこは隣の葉を持ち上げた。
「こっちにもあるで」
「その小さいものは、もう少し置いておきましょう」
葉の陰には、花も残っていた。
まめこが触ろうとすると、メグは茄子を籠へ置いて、その手元を見た。
「花は、そのままにしておいてくださいまし」
「見てるだけやで」
まめこは手を下ろし、隣の畝へ移った。
トロがあとをついてくる。草が濡れているところへ足を入れた途端、前足を振った。
「そっち濡れてるんや」
トロは土の道へ戻った。
まめこも道を通り、籠を見た。
収穫した茄子が幾つか並んでいる。大きさの揃ったものの横に、一つだけ、途中から曲がったものがあった。
「これ、ぐにゃってなってる」
「育っている途中で、向きが変わったのでしょうね」
「食べられる?」
「ええ。傷んでいなければ」
まめこは曲がった茄子を持ち上げた。
片手では端が下がるので、両手で持つ。
「今日はこれ食べよかな」
「先に、マリーへ聞いてみましょう」
メグは立ち上がり、籠を持った。
まめこは茄子だけ持って、一緒に台所へ戻った。
「また、よく採れましたね」
マリーは籠を受け取り、台の上へ置いた。
まめこの持っているものを見ると、少し笑う。
「それは、お昼にいただきましょうか」
「うん。これ、わたしのな」
「全部、一人で召し上がるの?」
「……半分くらい」
まめこは茄子を渡し、手を洗いに行った。
居間へ戻ると、メグが窓から菜園を見ていた。
「どうしたん?」
「まだ、採れそうなものがありましたでしょう」
「うん。葉っぱの後ろにもあったで」
「一度に大きくなりますと、うちで食べるだけでは余りますわね」
まめこは、前に茄子を街へ持っていったことを思い出した。
「また売りに行こか」
「ええ。少し、考えてみましょう」
メグは机の手紙を見た。
昨夜のうちに書き終えた紙が、重ねて置かれている。絵は、その隣にあった。
手紙を開きかけた指が止まり、代わりに、自分の帳面を取った。
「それもお手紙に書くん?」
「まだ、何も決まっておりませんから」
メグは空いているところへ、菜園、と書いた。
「こちらへ先に、書いておきますわ」
*
その週、学院の授業がない朝に、メグはムーンヴェイル家の農園へ、帳簿を見せてもらいに行くことにした。
まめこも一緒に出掛けた。
家で採れた茄子を少し、籠へ入れて持っていく。手紙と絵は別の包みにして、メグの鞄へ収めた。屋敷へ向かう便に、農園から預けてもらうためだった。
畑へ近づくと、荷車の軋む音が聞こえた。
作業小屋の前に木箱が並んでいる。箱を運ぶ人と、荷車のそばで数を確かめる人がいた。
まめこはメグの横を歩き、箱の中を少しだけ覗いた。
茄子の色が、布の隙間から見える。
「うちのと一緒や」
「同じものも育てておりますからね」
呼ばれたハラルドが、小屋の方から出てきた。
「おはようございます、お嬢様。まめこさんも」
「おはよう。これ持ってきたで」
まめこが籠を見せると、ハラルドは腰を屈めた。
「お宅で採れたものですか」
「うん。今日のは、まっすぐなん」
「よく育っていますね」
メグは籠へ手を添えた。
「こちらは、お昼に皆さんで召し上がってくださいませ。それとは別に、少し伺いたいことがありますの」
ハラルドは籠を受け取り、小屋の中へ案内してくれた。
まめこは帳簿の置かれた机から離れた腰掛けへ座った。トロが足元へ来て、靴の先を嗅ぐ。
窓の向こうでは、また木箱が運ばれていった。
「この前見せていただいた、野菜を売った記録を、もう一度見てもよろしいかしら」
「はい。こちらです」
メグは立ったままページを見ていたが、途中から椅子を引いた。
「同じ茄子でも、こちらと、こちらでは値段が違いますのね」
「売った日と、持っていった先が違います。大きさの揃い方も、少し」
まめこは自分の籠を見た。
よく育ったものから採ったので、大きさはばらばらだった。
「小さいやつ、安くなるん?」
「そうなることもありますが、小さい方が都合のよいお客さんもいますよ。一度にたくさん使わないお家などは」
「うちも、三人やもんな」
トロが顔を上げた。
「あんたは、お魚やで」
まめこは黒い頭をひと撫でしてから、机の方を見た。
メグが自分の帳面を開いていた。
「うちの菜園で余った分も、続けて買っていただけるところがあればと思っていますの。まずは、少しずつ」
「どちらへ持っていくおつもりですか」
「街のお店に、伺ってみようかと」
「でしたら、先に、欲しい量や曜日を聞いておくとよろしいかもしれません。こちらの収穫だけに合わせると、すでに仕入れを済ませている日もありますから」
メグは書きかけの筆を止めた。
「採れた日に持っていけば、よいものを渡せると思っていましたわ」
「新しいものを喜んでくださる方は多いですよ。ただ、使う予定のない分までは、買えませんので」
まめこは、籠いっぱいの茄子を食卓へ置くところを考えた。
「マリーも、全部お昼に出すんは困るな」
メグは頷き、帳面へ書き足した。
何を、どれくらい、いつ。
まめこにも、その三つは読めた。
「まず、お店へ聞いてみますわ。それから、うちでどれだけ採れるかを見ます」
「はい。こちらの帳簿も、必要でしたらまたご覧ください」
ハラルドは別のページも開いてくれた。
そこには売れたお金だけでなく、運ぶために払ったお金が書かれていた。
メグは二つのページを行き来し、時々、自分の帳面へ数字を写す。
まめこは腰掛けで足を揃えた。
窓の外の荷車は、もう箱を積み終えていた。手綱を持つ人が声を掛け、車輪がゆっくり動き出す。
箱の数を確かめていた人が、道の端へ寄った。
まめこはその荷車が見えなくなるまで眺めていた。
*
帳簿を閉じたメグが、鞄から包みを出した。
「こちらは、お父様とお母様へ。屋敷へ向かう方に、預けていただけます?」
「午後に届け物がございますから、一緒にお持ちします」
まめこは包みに手を伸ばしかけ、もう封をしてあるのを思い出した。
「わたしの絵も入ってるで」
「お手紙と一緒に?」
「うん。お庭の絵」
ハラルドは包みを平らなところへ置いた。
「折れないように、お預かりしますね」
「あい。じょうろ、腕に見えるかもしれへんけど」
ハラルドがメグを見る。
「届けば、分かりますわ」
メグはそう言って、小さく笑った。
外へ出ると、朝よりも日が高くなっていた。
まめこは上着の前を少し開ける。畑から来る風に、土と葉の匂いが混じっていた。
「メグ、お店へ今日行くん?」
「今日は、家へ戻りますわ。マリーにも相談して、持っていける日を考えてから」
「いっぱい売れたら、何買うん?」
メグは歩きながら、少し考えた。
「次に育てるためのお金を残して、それでも余ったら……貯めておきたいですわね」
「何のために?」
「船ですわ」
まめこは隣を見上げた。
「船って、いっぱいお金いるんやろ」
「ええ。茄子をひと籠売ったくらいでは、買えませんわ」
「ほな、何籠?」
「それは、どんな船にするかにもよりますし……まだ、数えられません」
メグは自分で笑った。
「買うまでに、航海の勉強も進めなくてはなりませんもの。船だけ手に入れても、行きたいところへ着けなければ困りますわ」
まめこは、六分儀の小さな鏡を思い出した。
あの道具を覗くことと、今朝、帳簿を見ていたことは、別々の用事だと思っていた。
「野菜のお金で、船乗るんやな」
「そうできたら、素敵でしょう?」
「うん。わたしも乗るで」
「もちろん。マリーも、トロも」
少し先を歩いていたトロが、立ち止まった。
「ニャ」
「呼んだだけやで。まだ船ないからな」
まめこが追いつくと、トロはまた歩き出した。
畑の向こうに、朝の荷車が通った道があった。
「お手紙に、それ書いたん?」
「船を買いたいこと?」
「うん。茄子売って」
「まだですわ。どちらのお店へ伺うかも、これから考えるところですもの」
「ほな、次のお手紙やな」
「お返事が届く頃には、何かお伝えできるとよいですわね」
まめこは後ろを振り返った。
作業小屋の扉は開いていた。手紙の包みは、その奥の机にある。
棚に入った本のことも、お菓子のお礼も、庭の絵も、ちゃんと入れた。
そのあとで、また書きたいことができた。
まめこはメグの横へ戻り、歩きながら考えた。
次は、船の絵も描いてみよう。
まだ見たことのない船なので、まずは窓を幾つ付けるか、メグに聞くことにした。
めぐ「こぴぺ送信っと。。。」




