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贈り物

 突然、ふらりと帰ってきた母様は、ショールにくるまり、暖炉の前でモシャモシャとパンケーキを頬張る。私は母様が持ち帰ってきた魔法袋の中に入っていたものを取り出して整理する。母様の魔法袋は見た目は腰に付けられるくらいに小さいけれど、中はドラゴンが一匹丸々入るくらいに大きい。私が手を突っ込んで取り出したのは、透明な袋に入った〝おもち〟だ。


「母様、〝おもち〟が入ってる! カイン、見て。これが〝おもち〟って言うんだよ」

 私は私の作業を隣で見ていたカインに〝おもち〟を披露する。カインは袋の上からちょっと触ってみて、「石みたいに硬い……」と驚いていた。これが本当に、私が話した通り、伸びるほど柔らくなるのかと不思議に思っているみたいだ。


「焼けば、チーズみたいにとろけるんだから。新年の朝には食べられるから、楽しみにしていて」

「うん……」

「それに……これ、なんだろう?」

 袋から次に取り出したのは、草を編んだ飾りだ。


「しめ飾り……それを扉に飾らなくちゃいけないの……」

 母様が振り返って教えてくれる。村の人たちが、新年に扉に飾っている厄除けの草と同じものかな?

 私はカインと顔を見合わせて首を傾げる。取りあえず、それを作業台に置いておいて、他の物も取り出した。パンケーキの粉や、油。お砂糖や塩なんかの調味料が入っているのはいつもの事だ。どれもこれも、見た事のない珍しい容器に入ってるから、カインは興味津々だ。恐る恐る手に取って、「異界文字だ……」と感動したように呟いている。


「母様、すごくたくさん野菜が入っているよ!」

「持っていけって言われたわ……お肉の方がいいのに」

 野菜があまり好きじゃない母様は、顔を顰めている。野菜はたっぷり食べる方が栄養があるって、本にも書いてある。それに、カインにもたくさん食べさせたい。カインには、お肉と同じくらい野菜も必要だ。それに、今の時季、こんなにたくさんの野菜はなかなか手に入らない。村でも、秋に収穫した野菜を保存して少しずつ食べている。新鮮な野菜が手に入るなんて、贅沢な事だ。


 袋の中を探ってみると、服や靴も入っている。私の服もあるけれど、今回は大半が男の子の服だ。それも珍しい生地で作られている。

「カインの服もあるよ。あっ、それと……これは靴だね。わぁ、暖かそうなブーツ!」

 私は履き口にフワフワの毛がついているブーツを取り出して、カインに渡す。それを、カインはびっくりしたように抱き締めていた。

「僕がもらってもいいの?」

「うん、だって男の子用のブーツだもの。これは、寝間着だね。それと下着も」

 カインは「わぁああ!」と真っ赤になって下着を受け取り、後ろに隠した。そんなに恥ずかしかったのかな? 男の子はデリケートだね。モジモジしながら、「ありがとう……ございます」と小さな声で母様にお礼を言っていた。母様は「うん……」と頷き、またモシャモシャとパンケーキを食べる。暖炉の前が暖かいから眠そうだ。


 袋の奥にも色々入っているから、私は袋の口を広げて頭を突っ込んだ。カインは私が袋の中に落っこちないように、ハラハラしながら服をつかんでいる。「よいしょ!」と、取り出したのは紙の包みで、リボンが結ばれているから贈り物だろう。

「母様、これは?」

「それ……二人にプレゼント……開けてみて」

 母様は「フフフッ」と、ちょっと楽しそうに笑った。私とカインは顔を見合わせて、紙の包みを開く。

 中に入っていたのは、半透明の素材で出来た不思議な形の道具だ。「なんだろう、これ」と、私は首を捻る。カインが開けた包みにも同じものが入っている。私のはピンク色で、カインのは空色だ。


「水鉄砲」

 母様はそばにやってくると、その道具の使い方を教えてくれる。タンクに水を入れてトリガーという部分を引くと、水が勢いよく飛び出す玩具らしい。

「これ……魔導具に改造するの……」

 母様はまた「フフフッ」と、楽しそうに含み笑いを浮かべる。その笑い方はちょっと不気味で、実に魔女っぽい。母様の魔導具作りは趣味だ。母様が言うには、この水を入れる部分に魔力を込められるようにするらしい。そしてトリガーを引くと魔法が発動するようにしたいそうだ。


「す、すごい……そんな魔導具、見たことない……」

 カインは水鉄砲を持って、興奮したように小さく震えていた。今すぐにでも試してみたいようで、目が輝いている。男の子って、こういうの好きだよね。うん、カインも立派に男の子だよ。


 他にも、カインと私への贈り物はたくさん入っていた。

「母様、これは?」

「それは殴っても手が痛くならない防具」

 箱の中には、丸いグローブが二つ入っている。カインは目を丸くして、その防具を手につけてみていた。

「母様、これは?」

「殴っても、痛くないフワフワの剣」

 確かに形は剣のようだけど、触ってみると柔らかい素材でできている。これで叩かれてもあまり痛くはならないし、怪我もしないだろう。私は「剣の練習用だね」と、カインに渡す。カインは「痛くない……剣!」と、また感動していた。すでにカインの両腕は受け取った物でいっぱいだ。


「僕……こんなにたくさん物をもらった事ない……」

「王子様なのに?」

 誕生日には、広間に入りきらないくらい贈り物が届くものだと思っていたけれど、そうではないようだ。カインは首を振り、「僕はお祝いしてもらえないから……」と呟く。なんてことだろう。魔女の娘の私でも、母様にたくさんお祝いをしてもらったのに。


「これから、私と母様がたくさん贈り物をするよ! だって、カインはもううちの子だからね」

「うん……嬉しい……すごく嬉しい。全部、大事にする」

 カインはフニャッとした笑い方をした。カイン、王子様なのに不憫すぎるよ。王宮の人たちに、あんまり大事にされていないみたいなんだもの。その分、私と母様が大事にしてあげよう。私はそう決意した。


 カインは贈り物を抱えたまま、トコトコと母様に歩み寄る。

「あ……あの……魔女……様…………」

 緊張したように呼びかけると、母様が紅茶を飲みながら振り返る。カインは、「ありがとう……ございます」とペコッとお辞儀をした。母様はカインの頭に手を伸ばしてワシャワシャと撫でる。くすぐったそうな顔をしたカインの口元には、嬉しくてたまらないような笑みが浮かんでいた。


◇◇◇


 母様が戻ってきてから三日が過ぎた。母様は相変わらず魔導具作りや、魔法の実験に夢中になっているようで、実験室にこもりきりだ。夜中の方が魔力が高まるからと、遅くまで起きている。その分、日中は起きてこない。魔物みたいに不健康な生活だ。

 夕食の後はカインに魔力操作の仕方を教えている。それに、魔法の基礎理論もちょっとずつ教えているみたいだ。そのため、カインは母様の事を、『魔女様』ではなく、『お師匠様』と呼ぶようになった。やっぱり、母様はカインを弟子にするつもりかな。カインはのみ込みが早くて勉強熱心だから、きっといい弟子になるだろう。


 私とカインは朝早く起きて、母様が魔導具に改造した水鉄砲を持ち出して外に出る。夜中に降り積もった雪はまだ少しも足跡がついていなくて、フワフワしていた。風が痛いほど冷たいけれど、母様が買ってきてくれた〝あったか下着〟と、ホカホカするカイロのおかげで体はそれほど寒くは感じなかった。


 塔から離れ、少し森の奥へと進む。雪を掘って隠れると、水鉄砲を準備した。

「カイン……魔力補充した?」

 小声で尋ねると、カインは真剣な顔をして頷く。水鉄砲には母様が施した魔法陣が刻まれていて、トリガーの部分には魔石が取り付けられている。母様曰く、今はまだ水魔法と、氷魔法しか使えないらしい。でも、そのうちに風魔法や火魔法も出せるようにしたいようだ。


 ただ、火魔法の場合、水の代わりにタンクに入れる〝媒介〟が難しいらしい。それに火魔法を使うと、水鉄砲の素材が焦げたり、溶けてしまうという欠点もある。元々、子供用の玩具だから、そんなに丈夫にできていないのだろう。母様はそのうち、「もっと丈夫な素材で作る……」と張り切っていた。きっと、魔導具職人にミスリルか何かで作ってもらうつもりなのだ。この前、水鉄砲をバラバラに分解して、構造を調べていた。


 そのうちに、雪の中に狼が姿を見せる。魔物は滅多に昼間に姿を見せない。けれど、獣は明るくなってからも現れる。私とカインは目配せし合って頷き、水鉄砲を構えて狙いを定めた。魔力を込めると、水鉄砲に刻まれている魔法陣が薄ら光を放って点滅する。狼がもう少し近付いてくるのを待って――。


 そう思っていると、カインが急に立ち上がって飛び出した。水鉄砲から放たれた魔力をたっぷりと含んだ水が、飛びかかってくる狼の額に命中する。その水は、狼の頭部を貫通していた。ドサッと倒れた死骸から、血が広がる。他の狼たちは唸りながらも後退りして、逃げて行った。


 私は立ち上がって、カインに駆け寄る。

「カイン! いきなり飛び出すなんて。危ないよ!」

「ごめんなさいっ。でも、待っていられなかったんだ……逃げられちゃうと思ったから」

 首を竦めながらも、カインは獲物を見事に仕留めた興奮でか頬が紅潮している。どうしても、嬉しさを隠し切れないようで頬が緩んでいた。これだから、男の子は。


「確かにね。額に命中させたのはすごいよ……」

 水鉄砲で遊び始めてから、一日とちょっとしか経っていない。それなのに、もうすっかり使いこなしている。普通の水では、もちろん狼の頭部を貫通するほどの威力なんてない。水に魔力を込めて威力を増しているのだ。これはもう、玩具というよりも立派な武器だ。魔物にはまだ使った事はないけれど、中型の魔物程度なら倒せるだろう。母様の改造がすごいのか、カインがすごいのか。放っておけない危ない人が二人に増えたみたいで、私にとっては困りものだ。


「キャロル……この狼、どうするの?」

「毛皮は剥いで売りにいくよ。お肉はグリュプスの餌だね」

「グリュプス?」

「うん、森にいるの。でも、滅多に姿を現さないよ。怖いから……近付いちゃダメ。でも、グリュプスは森の守り主でもあるから大事にしなさいって言われてるの」

「そうなの。見てみたい……」

 カインは臆病な性格かと思っていたけれど、塔に来てからは少し逞しくなった。好奇心旺盛で、何でも見てみたがる。王宮に閉じ込められていた時には、外の世界を少しも見られなかったからだろう。ただ、体力はまだまだついていないから危なっかしい。はしゃぎすぎて、調子を崩す事もある。


「今日はこれくらいにして、帰ろう。昼食の準備をしなくちゃ」

「お師匠様、起きていらっしゃるかな……」

「きっとまだ寝ているわ。でも、おいしそうな匂いがしたら起きてくるかもね」

 母様は食いしん坊だもの。私とカインは笑って、競走するように走り出した。


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