行方
国王様は、すぐに王太子殿下の捜索を命じたようで、城門は閉ざされ街中を衛兵が走り回っていた。王都の人たちも、王宮で何か重大な事が起きたのだと異変を察したようで、家に閉じこもって窓から様子を伺っている。
魔導具店に戻ると、おじさんは私たちを店に入れてからすぐに扉に施錠する。
「いったい何があったんだ? ずいぶん、外が騒がしいが……」
「それがね、王宮で王太子殿下が攫われたんだよ」
私はマントについた雪を払い落としてフードを脱ぐ。
「なんだって!? いったい、どこのどいつが……」
「分からないけど……犯人は母様のせいにしたいみたい」
「アナスタシアが現れたのか?」
険しい表情で訊くおじさんに、私は首を振った。
その時、店の扉が強く叩かれ、ビクッとする私とカインを、おじさんは店の奥の作業場に押し込む。
扉を開ける音と人声が聞こえた。
「この声……マティスさんだ」
私は扉に耳を押しつけて声を潜める。
「僕たちを捕まえにきたのかな……」
「それはないと思うよ」
私が店を覗こうとするので、カインが「キャロル!」と袖を引っ張った。
すぐに作業部屋の扉が開いて、おじさんとマティスさんが入ってくる。マティスさんは私とカインを見ると、「お前ら……やっぱりここにいたのか!」と胸をなで下ろしたように深く息を吐いていた。
そんなマティスさんに、カインは冷たい目を向けている。
「何しにきたの?」
「そんなの決まってるだろ。お前らが無事かどうか確かめに来てやったんだ。いったい、どうやって王宮に忍び込んだんだ!?」
マティスさんは立ち上がると、カインの頭をぎゅっと押さえる。カインはひどく嫌そうな顔をして後退りしていた。
「マティスさん、気付いてたの?」
「当たり前だろ! いきなり大広間に飛び込んできて、魔法をぶっ放すは、魔者を氷漬けにするは……いったい、お前ら何者なんだ!?」
「お前たち……王宮でそんな事をしでかしてきたのか。俺は聞いてないぞ?」
ダーシーおじさんも腰に手を当てて怖い顔をしている。
「そ、それは後で説明しようと思ったんだよ……それに緊急事態だったからね」
私がおずおずと答えると、ダーシーおじさんもマティスさんも深く溜息を吐く。これは、どうやら説明しないといけないみたいだ。
「とりあえず……お茶をいれようか?」
私はぎこちなく笑みを作ってそう提案した。
「僕も手伝う」
カインがそう言ってくれたので、私たちはとりあえず店ではなく、ダーシーおじさんの家の厨房に移動する事にした。
◇◇◇
王宮であった事を一通り説明すると、その場にいなかったダーシーおじさんは頭を抱えていた。
「魔物が出現して王太子殿下が攫われたあげく、アナスタシアらしき女まで現れただって? そこに、お前ら二人が飛び込んで魔物を片付けたと…そもそも、俺は王宮に忍び込む計画なんて聞いてねーぞ」
「で、なんでお前らがあの場にいたんだよ?」
マティスさんに訊かれて、カインが「教える必要はない」とそっぽを向く。
「なんだと!?」
「あの防犯ブザーをちゃんと渡してもらえるかどうか気になって、確かめに行ったんだよ。私たちも、まさか魔物が現れるなんて思ってなかったの!」
本当は、ちょっと予想したんだけどね。私が慌てて言うと、マティスさんは「本当かぁ~~?」と疑いの眼差しを向けてくる。
「その、アナスタシアらしき女って何なんだ?」
状況を見ていないダーシーおじさんが、訝しそうな顔をする。
「あれはお師……魔女様じゃない」
カインがすぐさま否定した。私も「うん、違う」と、頷く。
「なんで、そんな事が分かるんだ? 誰がどう見たってあの魔女だった」
「マティスさん、気付かなかった? あれは魔物だよ。あんなに瘴気をまとった人がいるわけがないでしょ」
「相手は魔女だろ? 黒魔術に手を染めていたっておかしくはねぇ。半分、魔物になってるかもしれねーじゃねーか! あんな事をしでかすヤツは他にいねーだろうしな」
「あんな〝もの〟が魔女様なわけないだろ……」
カインが冷ややかな目を向けると、マティスさんがムッとする。
「魔女には前科がある。第一王子に呪いをかけて連れ去ったんだぞ!」
「連れ去られたんじゃない。自分でついていったんだ」
カインはあっさり答えて、紅茶を啜る。
「はぁ!? いったいどこの馬鹿が自分から、あの呪いの魔女についていくんだ。第一王子はそんなに間抜けなのかよ?」
マティスさんが鼻で笑うように言うと、カインがまとう空気がひんやりしてくる。カップの持ち手が凍りかけていた。
私は慌ててテーブルに手をついて、腰を浮かせる。
このままじゃ、カインとマティスさんがまたケンカをし始めそうだ。
「それはきっと色々と事情があるんだよ! 第一王子にも……」
「王子は生まれる前から魔女に呪いをかけられていたんだろう? 魔女に連れ去られないように、離宮で隔離されていたって話じゃねーか。なのに、連れ去られた。魔女はそれだけでは飽き足らず、王太子殿下も連れ去ったんだろうよ」
「でも、第一王子を連れ去ったのに、なんで王太子殿下まで?」
私はカインがますます機嫌の悪いイライラした顔になるのをチラッと見て、声を落とす。ああ、これは部屋中凍らせる三秒前だよ…………。
「だーかーらー! 決まっているじゃねーか。第一王子を食っちまったんだ!」
間違いないとばかりに、マティスさんが得意満面で答える。その瞬間、テーブル全体が氷ついてしまっていた。「おわっ!」と、マティスさんがカップと腕を退ける。
「お前なぁ、危ねーだろ! だいたい、なんでそんなに魔力垂れ流しなんだ!?」
「うるさい……黙れ………っ!」
カインがキッと、マティスさんを睨み付ける。
「おい……待てよ。アナスタシアが攫った第一王子の名前って……」
ダーシーおじさんがようやく気付いたのように、声を震わせる。
「ああ、カイン王子だ」
マティスさんが答えると、ダーシーおじさんは澄ましているカインを見る。それから、両手で頭をかきむしっていた。
「そういう事か……道理でおかしいと思ったんだ。あいつが弟子なんて!」
「弟子だけど?」
カインが不快そうに答える。事情が飲み込めていないのは、マティスさんだけだ。
「えっ……どういう事?」
「知らない……自分で考えれば?」
カインの態度は相変わらず冷淡だ。
「おま……まさか……第一…………王子?」
ようやく気付いたのか、マティスさんが椅子を引いて立ち上がる。
驚愕の表情になっていた。
「マティスさん。この事は、秘密にしておいてほしいの! カインがここにいるってバレたら、離宮に連れ戻されちゃうから!!」
私も立ち上がり、あたふたして言った。
「どうして、王子がこんなところをフラフラ出歩いてやがるんだよ! しかも……アナスタシア=オーウェンの弟子!? マジか!? いや、違うよな……なんで、魔女にさらわれた王子が、魔女の弟子を名乗ってんだ!?」
一人でブツブツと呟いていたマティスさんが、ハッとして私を見る。
「じゃあ、つまり……キャロル。お前も……魔女に攫われた子なのか!?」
なんてヤツだと、マティスさんが憤るように拳を握る。
「違うよ! 私はええっと……なんて言うか……」
私が母様の娘だと名乗っていいものか思案していると、「キャロル、教えなくていいよ」とカインが横から口を挟む。そういうわけにはいかないよ。だって、マティスさんは誤解しているし。母様が次々と子供を攫っている鬼畜な魔女だと思われたくない。まあ、カインの事は攫ってきちゃったんだけど――。
「私は、キャロル=オーウェンって言うの……これで分かる、よね?」
「オーウェン…………?」
マティスさんはまさに目が点になっていた。私がぎこちなく笑みを作って頷くと、三秒ほど固まっていた。それから、椅子に腰を戻してテーブルに突っ伏す。
「…………嘘だろ。誰か嘘だと言ってくれ……魔女に娘? そんなのどこの情報にもなかったぞ!」
「キャロル……こいつが余計な事を報告しないように、グリュプス様の餌にした方がいいと思う」
カインが軽蔑の眼差しを向けながら、物騒な事を言う。
「おい、待て。そのグリュプス様って何だ!? まさか闇沼の森の守護者の事じゃないだろうな!?」
うん、間違いなくそのグリュプス様だよ。私は苦笑いだけ浮かべておいた。世の中の人にとっては、森に潜むグリュプス様はドラゴンと同じくらい恐怖の対象でもある。
「あー……俺、店を畳んで王都から出ていきたくなってきた……」
ダーシーおじさんは、現実逃避するように遠い目になっていた。「ハハ……」と空笑いまでしている。
「とりあえず……食事にしようか? お腹空いてきちゃったしね」
私は疲れてどんよりしている大人二人を見て、立ち上がる。頭を働かせるには、お腹を満たさないと!
◇◇◇
外には出られないから、厨房にあるもので簡単な食事の準備をする。余っていた野菜をソテーして、チーズと一緒にパンに挟んだ。チーズが野菜の熱で溶けてトロっとしてくる。それに、ミルクティも用意した。私がサンドイッチを紙で包むのを見て、「キャロル、それは?」とカインが訊いてきた。
「何があるか分からないし……弟殿下がお腹を空かせているかもしれないでしょう?」
誘拐犯が弟殿下を丁重におもてなししているとは思えない。何も食させてもらえていなかったらかわいそうだ。カインは「…………そうだね」と、少し表情を引き締めて頷く。
今のところ、弟殿下からの連絡はない。防犯ブザーの使い方はマティスさんが渡す時に説明してくれていたはずだけど、使い方を忘れてしまっているかもしれない。それに縛られていたり、持ち物を取り上げられていて、使えない状況に陥っている可能性もある。まだ……殺されてはいないと思うけど。
相手の意図が分からないけど、殺すために連れ去ったという可能性もないわけではないのだ。私はギュッと唇を引き結んだ。
テーブルにサンドイッチとミルクティのカップを並べると、みんなで簡単にお祈りをする。今日のパンは、柔らかいパンではなく硬いバケットを使った。大きな口でかぶりついたマティスさんが、目をキランと輝かせる。
「うまっ!!! すげーうまっ!!! キャロル、やっぱ天才じゃね?」
「ああ、確かにな。チーズが蕩けていて野菜と合うぜ」
ダーシーおじさんも、満足そうに頬張っている。無言で咀嚼しているカインも、気に入ったのは一目瞭然だ。たっぷりのチーズが大好きだからね。私もパクッと食べる。かみ応えがあるパンで、端から熱々のチーズがこぼれそうになっている。
「とにかく……お前らがアナスタシア=オーウェンが犯人じゃねーって言い張る理由は分かった。だけど、確かにあの場に現れたのは、アナスタシアに似せた何かだった。つまり、魔女に罪をなすりつけたいヤツがいるって事だ」
マティスさんは、サンドイッチをすっかり平らげてからお腹をさすって言う。私が母様の娘だと分かったからか、魔女と言う言い方にはあまり嫌悪感が籠もっていない。
「魔物だと思う。人の姿を真似る魔物がいるって本に書いてあったもの」
「それは、南方の山にすむ赤嘴烏だろうな。あいつは知能が高くて見た人間の姿をそっくり真似るんだ。けど……随分昔に乱獲で絶滅したはずだ。悪用するヤツが後を絶たないから取引禁止にもなってる。まあ……闇オークションじゃ、密かに売買されていてもおかしくはねーけどな」
さすがに、王立魔法院の魔法使いだけあって、マティスさんは魔物に詳しい。
「手懐ける事ができる魔物なの?」
「ああ……魔物だが、気性はそう荒くはねーんだ。むしろ臆病で、人を怖れて潜んでいるくらいだ」
「魔物って、人を襲う怖い魔物ばかりじゃないんだね」
森に棲む魔物は気性が荒くて人も獣も襲うから、そうだとばかり思っていた。
「伝令鳥なんかは、魔物だが人が飼い慣らしているだろう。人が利用しているものも多いってことだ」
おじさんが、そう教えてくれた。伝令鳥は知能が高く、大きな嘴の中に餌を蓄える性質がある。それを利用して、嘴の中に手紙を入れて飛ばすのだと聞いた事がある。そういえば、あれも魔物に分類されていたね。人を襲わないし、よく見かけるから魔物だという事をすっかり忘れていた。
「それにしても、いったいどうやって王太子殿下を連れ出したんだろうな?」
マティスさんが腕を組んで呟く。そうだ。王太子殿下は魔物の襲撃でみんなが混乱している最中に急に姿を消した。でも、王太子殿下は王妃様が抱きかかえていたし、周りは護衛の騎士たちが囲んでいた。奪い取って連れ去るなんて簡単にできない。そんな事をする人がいたら、すぐにその場で取り押さえられていただろう。それに、まだ昼間で広間の中は明るかった。見失うなんて考えられない。
「転移魔法だと思う」
みんなの視線が答えたカインに向く。
「転移魔法の魔法陣がしかけられていたら、すぐに気付くだろうよ」
あり得ないとマティスさんが首を振った。
「お師匠様がハンカチに魔法陣を刺繍していた……原理はあれと同じだと思う」
「あっ、そうか……それなら、連れ去る事はできるかも」
「おい、どういう事だ? 転移魔法はそう簡単に使えるものじゃないんだぞ」
マティスさんが驚くのも無理はない。普通、転移魔法の魔法陣は床や地面、天井に魔法陣を描く。かなり大きな魔法陣になるから、描かれていればすぐに気付く。あらかじめ事前準備がないと使えない術だ。でも、母様はハンカチにその図案を刺繍していて使っていた。
「服やハンカチに、転移魔法の魔法陣を刺繍しておくんだよ」
私はマティスさんとおじさんに説明する。服の裏地やハンカチに魔法陣が刺繍してあれば、ほんの少し触れるだけで転移魔法が発動する。それに、見えない場所なら気付かないだろう。
「いや、待て待て待て。ハンカチや服に刺繍!? そんな事できんのか? 俺は聞いた事ないぞ」
「えっ、でも母様はそうやって携帯用の転移魔法陣を持ち歩いているよ?」
私がキョトンとして答えると、「いや、持ち歩くようなもんじゃねーよ!」と突っ込まれた。母様が普通に使っているから、世の中の人も使っているんだと思っていた。でも、そんな事ができるのは、母様だけだったらしい。
「そもそも、そんなに図案を簡略化できんのか!? 転移魔法は相当複雑な魔法なんだぞ??」
マティスさんは混乱したように頭を抱えている。
「だから、お師匠様はすごいんだ」
なぜか、カインが胸を張る。
「いや、それができんならマジですげーけど……だとしたら、ますます魔女との関連を疑うしかなくなるぞ!」
それはそうだ。母様しか使えない携帯用転移魔法陣を知っている人が犯人という事になる。
「ニコラウス=モーガンがやっぱり怪しいって事になるな……あいつは、アナスタシアの研究を随分と手伝っていた。その頃にアナスタシアが考案していたなら、改良するか真似るかした可能性もある……」
おじさんが神妙な顔をして言う。
「その線は確かにありそうだな……と言うことは、犯人はニコラウス=モーガンか? あいつは行方をくらませて久しい。どこに潜伏しているんだか、今も分かってねーんだ」
前の王立魔法院の院長で、母様の信奉者だったニコラウス=モーガン。教会でガーゴイルを呼び出す黒魔術を使った人だ。でも、母様の信奉者だった人が、どうして母様を陥れるような事をするのかさっぱりわからない。もしかして、母様があちらの世界から持ち帰ってきた小説に書かれていた、大人の〝愛憎劇〟というやつなのかな?
子供の私には難しくて、理解できないよ…………。
しかも、王家を狙っている。というよりも、王太子を攫う事が目的なのかもしれない。教会が襲撃された時も、ガーゴイルたちは弟殿下を連れ去ろうとしていた。
「ああっ、クソ。こんな時にアナスタシアがいれば、話を聞けるんだがな」
ダーシーおじさんが頭をかきむしる。
「そうだ。魔女は今、どこにいるんだ? 塔にはいねーんだろ? 姿を消したって聞いたぞ?」
「母様は、今ちょっと姿を見せられないところにいるんだよ……」
「国外に逃げたのか? 子供のお前らを放っぽいて!?」
「違うよ! 実は……迷宮に閉じ込められて出てこられないんだよ」
私はどこにある迷宮かは話さないでおくことにした。森の奥に迷宮の入り口がある事自体、あまり多くの人に知られたくない。
「迷宮に閉じ込められた!? それはどういう事だよ?」
詳しく話せとばかりに、マティスさんが詰め寄ってくる。
それをグイッと押し退けたのはカインだ。
「教える必要ない……」
「なんだと!?」
また二人が険悪な空気になるので、私は「ええっとね!」と間に割り込んだ。
「母様は大丈夫なんだけど、入り口が埋まっていて出られなくなってるんだよ」
「おい、マティス……かっちゃいると思うが、くれぐれも人に話すんじゃねーぞ。じゃねーと、埋めるぞ?」
ダーシーおじさんが怖い顔をしてズイッと寄ると、マティスさんは顔を引きつらせて後退りしていた。
「おっさん、冗談になってねーぞ! 分かってるし言うつもりもねーけど……いったい、誰の仕業だ?」
「分からないけど、教会の司祭が関係しているのは確かだよ……」
ダンジョンの周りには、司祭の服を着た死体が転がっていた。
マティスさんは、「教会……」とあ然として呟いたきり黙り込む。教会全体が関わっているのか、それとも一部の人たちが関わっているのかは分からない。もし、教会全体が関わっているとするなら、とんでもない事だ。
「俺も……王都を抜け出したくなってきた……」
マティスさんが両手で顔を覆ってしくしくと泣き真似をする。
「ダメだよ。知った限りは協力してもらうからね。サンドイッチも食べたでしょ!」
私は腰に手をやって言った。母様の濡れ衣を晴らして真犯人を捕まえ、王太子殿下を救出するなんて、いくらなんでも子供二人に成し遂げられる事ではない。大人の協力は必要不可欠だ。
「なんて、高いサンドイッチ代なんだ……まあ、俺も王太子殿下の捜索命令を受けてるんだけどな」
「王宮は、今どうなっているの?」
「大騒ぎだ。王妃様はぶっ倒れるし、国王陛下は王国騎士団に命じて王都だけではなく、国中捜索させるつもりでいるようだしな。怪しげな犯罪組織のアジトは片っ端から摘発されている。うかつにうろつけば、牢獄送りだぜ」
マティスさんは肩をすくめる。だから、王都中の人たちは家に閉じこもって外に出ないようにしているんだ。物々しい雰囲気だったもの。ここにも、捜索の兵や騎士がやってくるかもしれない。
「……もし、ミハエルの服やハンカチに転移魔法陣が仕込んであったのなら……王宮の中にも犯人の協力者がいるって事だ。それに、あの場でミハエルの近くいた騎士の中にもいると思う。触れないと転移魔法は発動しないから」
カインが冷静な声で呟く。私はハッとした。それもそうだ。
「衣装を選んだ侍女やメイドの中にもいるって事だよね?」
「誕生日に着る衣装は特別に仕立てたものだろう? だったら、仕立屋を買収した可能性もあるんじゃねーの? まあ、そっちは俺が調べたほうが良さそうだな」
マティスさんは王宮に出入りできる。あの場で王太子殿下と王妃様の近くにいた騎士の名前も、仕立屋も、すぐに割り出せるだろう。早くしないと、逃げられるか、口封じに殺されるかも――。
問題は、王太子殿下の方だ。無事でいるといいけど。
まだ、魔導具の防犯ブザーからの反応はないままだ。




