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約束

 厨房の片付けをしてから、昼食を作る。厨房の作業テーブルと丸い椅子は壊れてしまっているから、おじさんの家の居間で食べる事にした。料理を運ぶのは、カインが手伝ってくれる。ダメなのは大人二人だ。


 少しも役に立たなくて、邪魔になるばかりだったんだもの! 居間のソファーに座り、簡単なお祈りを唱えて食べ始める。今日の昼食はチーズとキノコをたっぷり入れたクリームソースのニョッキだ。ニョッキ作りはカインがやってくれた。カインは塔でも料理の手伝いをしてくれていたから、厨房をウロウロするだけの大人たちよりずっと役に立ってくれる。


「う…………うま――――いっ!!」

 感動したように、マティスさんがフォークを握り締める。

 当然だよと、私は胸を張った。

「俺……マジでこの魔導具店に住もうかな……よし、決めた。俺もここんちの子になる! いいよな!?」

「いいわけないだろ! キャロルはどこにもやらんぞ!」

 おじさんも皿のニョッキを口いっぱいに頬張りながら言う。

「…………なんで、この人まで一緒に食べてるの?」

 カインは冷ややかな視線を、マティスさんに向けていた。みんなの器はあっという間に空になっている。

「おかわりいる人~~」

 ワゴンに載せた鍋の中にはまだたっぷり残っている。マティスさんが「はいはいはいっ!」と、手をあげて立ち上がった。

「おい、マティス。お前、何しに来たんだ?」

「ひでぇ……俺、買い物にも付き合ったんすよ! 今日の食材は俺の財布から出てんだから、食う権利はあるはず!」

「俺んちの厨房を無茶苦茶にしておいて、どの口が言ってんだ!?」

「それは……そこのチビっ子がいきなり魔法で攻撃してくるから……だいたい、俺は防御魔法しか使ってねえよ! 大半はそいつの魔法の被害だ」

 マティスさんは、フォークをカインの方を向ける。

「……キャロル。この人、追い出していい?」

 カインはまた、ヒヤッとした空気をまとっていた。マティスさんは、「おおうっ、なんだ。俺とやんのか!?」とケンカ腰で身構える。猫同士のケンカみたいだ。 

「ケンカするなら、おかわりなしだからね……」

 私は立ち上がって、お玉を握り締めながら睨む。三人とも急に行儀良くなり、「ごめんなさい!」と謝っていた。


「で、マティスよ。お前、なんでやってきたんだ?」

 食べ終わった頃に、おじさんが尋ねる。

「ただ、飯食いに来たんじゃないだろ? 頼んでいた解析の結果が出たんじゃないのか?」

「いやぁ……それなんだけど……」

 マティスさんは私の顔をチラッと見た。

 おじさんには黙っていると約束したからね。

「マティスさん。やっぱり、おじさんには話しておいた方がいいんじゃないかな? おじさんは信頼できる人でしょ?」

 私は紅茶を淹れてそう言った。

 マティスさんは迷っていたみたいだけど、溜息を吐いて顔を上げる。

「ここから、話す事はここにいる四人以外、絶対秘密だからな!」


 防音魔法をかけた上で、マティスさんは私にした話をおじさんとカインにも聞かせる。

「ニコラウス=モーガン……あいつが関わってんのか」

 おじさんは苦々しげな表情になっていた。

「ダーシーおじさん、その人の事を知ってるの?」

「ああ……王立魔法学園に通っていた時にな。といっても、俺は一般科の生徒だったから、貴族科のあいつとはほとんど関わりがなかったけどな。確かに、アナスタシアの熱烈な信奉者の一人だった」

「か……魔女様の信奉者? 魔女様は学園で人気があったの?」

「当然だ。あいつは入学当初から注目されていて、天才と言われてたんだ。神秘的な美貌で、憧れていた生徒は多かったさ。当時王太子だった陛下の婚約者だった。いずれは王妃になるって期待もされていた。アナスタシア親衛隊なんてものもあったくらいだ。それを作ったのもモーガンだ。あいつは異常なくらいにアナスタシアを崇めていた」

「魅了の魔法でも使ってたんじゃねーのか? あの魔女ならそれくらいできただろう」 

「お師……っ!!」

 カインが我慢できずに口を開く。その口に、私はすかさずクッキーを押し込んだ。カインが母様の弟子で、私が娘だということは、マティスさんは知らないんだよ! 私が目で合図を送ると、カインは不満そうな顔をして黙る。


「ダーシーおじさん、魔女とは学園時代から知り合いだったの?」

 慌てて話を逸らしたけど、母様とおじさんの関係については私も聞きたい。学園時代の母様の事も。

「俺もそれは知りてぇな。おっさんも魔女の信奉者だったのか?」

「俺は信奉者なんかじゃねーよ。だいたい、アナスタシアは貴族科だ。俺みたいな一般科の生徒が気軽に口をきけるような相手じゃなかった。一般科と貴族科じゃ校舎が違うしな。ほとんど、顔を合わせる事なんてなかった。たまに合同行事の時に見かけるくらいだ」

「それなのに、どうやって知り合いになったの?」

 私が尋ねると、カインもジッと聞いている。


「それは……俺は魔導具研究クラブに所属しててな。学園祭の時に開発した魔導具の展示や実演をやってたんだ。その時に、あいつがフラッと現れたんだ。魔導具に興味があったんだろうな……」

 母様は魔導具の不具合を指摘して、直すのを手伝ってくれたのだという。それから、時々魔導具研究クラブのクラブ室に顔を出しては、魔導具を一緒にいじったり、新しい魔導具作りに手を貸してくれたそうだ。

 

 学生時代から、母様は気まぐれで好奇心旺盛な人だったみたいだ。その頃の母様とおじさんの姿が目に浮かぶような気がする。きっと、今とそれほど変わらない関係だったのだろう。


「卒業して、俺がこの魔導具店を開くようになってからも、ちょくちょくやってきては仕事を依頼していったんだ。それだけの関係さ……」

「おじさんは、魔女様に憧れたりしなかったの?」

 私が目を輝かせて尋ねるものだから、おじさんは渋い表情を浮かべていた。

「そりゃ、まあな……けど、俺はただの一般科の生徒だ。あいつは王太子妃になるって言われてたんだぜ。学園には王太子も通ってたしな」

「…………でも、王太子とは結婚しなかった」

 ポツリと呟いたのはカインだ。


「ああ、そうだ。王太子……今の国王陛下はアナスタシアの事を嫌っていたからな。誰から見てもあからさまな避けようだったさ。アナスタシアは信奉者も多かったが、敵も多かった。半分はやっかみや嫉妬からだろうが……王太子派の連中は特に避けてたようだ。モーガンが親衛隊を作って、始終アナスタシアに張り付いていたのも、嫌がらせするヤツが多かったからだろう。アナスタシアは、モーガンたちを便利な助手程度にしか思っていなかったようだったがな」


「ニコラウス=モーガンが姿を消したのは、十二年前……陛下がご結婚なされた年だろ。魔女は結婚式に現れて、まだ生まれてもいない王子に呪いをかけた。モーガンが姿を消したのも、関係あんじゃねーのか?」

 マティスは腕を組んで考え込んでいる。私もカインも驚いてマティスさんの顔を見た。母様が王子に呪いをかけたと言われていたけれど、詳しい話なんて知らなかったからだ。教えてくれる人もいなかった。カインもそうだったのだろう。

 もっと話を聞きたくなったけれど、怪しまれそうだ。私たちはアナスタシア=オーウェンとは関わりないただの子供という事になっている。


「アナスタシアは、王家……いや、国王と王妃を恨んでいたんだろう? その手下のニコラウス=モーガンも同じじゃないのか? 魔女がモーガンを使って襲撃を企てた可能性もある。今も繋がりがあってもおかしくねぇ。魔女の事だから、呪いで縛って逆らえないようにしているのかもな」

「…………そんな事!」

 カインが勢いよく立ち上がり、怒りの浮かぶ瞳でマティスを睨む。

 紅茶のカップが凍って砕けていた。

「おい、なんで俺を睨むだよ?」

 マティスさんは攻撃に備えるように腰を浮かせる。

「待って!」

 私は居間を飛び出すカインを、急いで追い掛ける。

 おじさんもマティスさんも呆気に取られていた。

 

 カインはおじさんの家から飛び出し、細い路地を駆けていく。外は雪になっていた。私が追いついて腕をつかむと、ようやく足を止める。

 肩が悔しそうに震えていた。気持ちは分かるけど――。


「カイン……マティスさんは知らないんだから仕方ないよ」

「…………あいつ、嫌いだ……信用できない」

「でも、マティスさんの協力がないと、解決できないよ」

「キャロルは……お師匠様を悪く言われて平気なの?」

 振り返ったカインは、拳を強く握って涙目になっていた。

「母様が悪い魔女だと言われているのは前からだもの。平気じゃないけど……カインに呪いをかけたのは本当でしょう? 怖がられるのは仕方ない事だよ」

 王家にとって、母様は大事な王子を奪った敵だ。憎まれるのも当然だ。

 私はカインの冷えた手を握ったまま視線を下げる。足元が雪で白くなっていた。


「父上は本当はお師匠様の婚約者だったんだ……それを裏切ったのは父上と母上の方だ」

「カインだって、母様の呪いがなかったら……王宮でもっと大事にしてもらえたかもしれないんだよ」

 カインにも、母様を恨む資格はある。というよりも、大人たちの都合に振り回された一番の被害者だとも言える。

「…………だからって、僕をずっと無視して会いにも来なかったのはあの人達じゃないか!」

 カインは顔を背けて吐き捨てる。泣きたいのを必死に堪えているその顔を見て、私はカインに腕を伸ばす。ギュッと抱き締めると、びっくりしたような顔をしていた。

「ごめんね、カイン……」

 私には謝る事しかできない。カインの境遇をどうしてあげる事もできない。カインから奪ってしまった本来得られたはずの幸せを、少しだけでも埋め合わせる事しかできない。


「なんで……キャロルが謝るの……キャロルは一つも悪くないのに……」

 カインは私の服に顔を埋めて、震えるような声で言う。

「そうでもないよ。母様の娘だもの……魔女の娘である事が罪なんだよ」

 私は苦笑いして言った。

 カインは私の背中に腕を回し、苦しくなるほど強く抱き締めてくる。

 だから、カインに償う義務がある。


「そんな罪なんてあるもんか……僕は今のほうがずっと幸せなのに。父上や母上がしてくれた事なんて、一つもない。お師匠様とキャロルが与えてくれたものの方がずっと多いんだ……」

 それでも、母様が奪ってしまったものは、もっと多いはずだ。本来だったら、王太子として受けられていたはずの境遇も、両親から与えられていたはずの愛情も、全部――呪いのせいで取り上げられたんだもの。でも、カインは今のほうが幸せだと言ってくれる。それを喜んでいいのかどうか、私には分からない。


 私は声を押し殺して泣いているカインの頭をちょっと撫でる。その時、不意に風が舞った。ストンと下りてきたのは、驚いた事にグリュプス様だ。夜でもないのに、王都の街中に飛んで現れるなんて! 人に見付かったら大事だよ。マティスさんだっておじさんの家にいる。


「グリュプス様! どうしたの!?」

 カインから離れて訊くと、グリュプス様は背中の大きな翼をすぐにマントの中にしまっていた。その格好なら、人と姿は変わらない。狭い通りに人の姿がなくてよかったよ。

「王都は人間臭くてかなわねぇ……キャロルの匂いを探すのに手間どっちまった。見付かってよかった! 知らせておかなきゃいけない事ができたんだ」

「それなら、お店の上の私の部屋に行こう」

 

◇◇◇


 私が寝起きしている店の屋根裏の部屋に案内する。椅子は一つしかないから、私とカインはベッドに腰を掛けた。グリュプス様はブルブルと身震いして雪を払い落とす。森からずっと飛んできたのだろう。私はタオルを渡して、温かいお茶を淹れる。

「それで、知らせておかなきゃいけない事って? 森で何かあったの?」

「……お師匠様が戻ってきたんじゃ!」

「いいや、アナスタシアはまだ戻ってないぞ。というか、戻れなくなってんだと思う」

 グリュプス様はこめかみを指でグリグリ押しながら言う。

「どういう事?」

「お師匠様に何かあったの?」

「森の奥に迷宮があるのは知っているだろう? ちょっとばかり、魔物たちの様子がおかしいもんだから、様子を見に行ってきたんだ。そうしたら、迷宮の入り口が塞がれてた。人間が魔法を使ったんだ。その魔力が周囲に残ってたからな」

「でも、森の奥は魔力が濃くて人は簡単に近づけないでしょ? それに大型の魔物も出てくるのに……」

 カインが私の手をつかんで、「どういうこと?」と訊いてくる。

 そうだった。カインは迷宮の事も、母様がその迷宮を出入りしている事も知らないんだった。異界文字や異界の物の話はしたけどね。


「それが……母様はその迷宮に時々入っているの。たぶん、今回も迷宮に潜ってたんだと思う」

「それじゃ……お師匠様は出られなくなったの!?」

 カインがサッと顔色を変えた。

「母様なら大丈夫だよ。迷宮の中に母様に倒せないほどの魔物はいないもの」

「ああ、そうだ。あそこの最下層にはドラゴンがいるか、俺様の方が強いからな! 俺様と対等に渡り合うアナスタシアがやられるもんか!」

 グリュプス様は腕を組んで大きく頷く。グリュプス様って、ドラゴンくらい強いの!? 知らなかったよ。さすがに森の守護者と呼ばれるだけある。それに、母様と戦った事もあるんだ。きっとすごい戦いだっただろう。カインだったら、興奮して観戦していそうだ。


「食料とか……大丈夫なのかな? 何日も閉じ込められてるのに」

「それは……大丈夫だよ」

 たぶん、母様はあっちの世界に行っているだろうからね。でも、それはまだカインに話していいのかどうか分からない。

「ええっと、ほら。母様も魔法鞄を持っているからね。迷宮内に隠れているつもりだったなら、食料はたくさん持っていっていると思う。なくなっても、母様の事だから魔物をやっつけて食べているよ!」

「キャロル。僕ら森に戻った方がいいんじゃないかな……お師匠様を助けに行かなきゃ」

「そいつはダメだ。お前たちみたいなちびっ子じゃ、濃い魔力に当てられてぶっ倒れちまう。平気でいられる人間なんて、アナスタシアくらいなもんさ。あいつ以外の人間じゃ、森の奥までは入れない」

 グリュプス様が首を振る。それでも、カインは納得できないみたいだった。どうしても、母様を助けに行きたいのだろう。

「でも……迷宮の出入り口を破壊した人はいる。そこまで行った人間がいるって事だ」

「そいつらは入り口を破壊して自分たちも死んじまったみたいだぞ。周りに死体が落ちていたからな。魔物の餌食になっていて服と骨しか残ってなかった。魔力のせいで、きっとグールにでもなっちまうぞ」

 グリュプス様は迷惑そうに顔をしかめる。グールは森の中でも厄介な存在だ。徘徊して死肉を漁るだけだ。その上、何度倒しても蘇ってくる。教会が得意とする光の浄化魔法でなければ効果がない。


「……自滅覚悟で、出入り口を破壊しに行ったのか」 

「そうだと思う。母様が迷宮に隠れていることを知ってて、出られないように閉じ込めたんだよ」

「そんな……っ!」

 カインは下を向いてギュッと目を瞑った。


「カイン、母様の事は心配ないよ」

「どうして、そんな事言えるの?」

「カインだって、母様のしぶとさは知ってるでしょ? 母様は国一番の魔法使いなんだよ? それに……出入り口を壊されたのはむしろよかったのかも」

「どうして?」

「出入り口を塞がれたって事は、中に入れる人もいないって事でしょう? 迷宮の中にいる方が母様にとっては安全だよ。母様なら出てこようと思ったら出入り口なんて簡単に吹っ飛ばして出てくると思うの。そうしないのは、隠れていたいからじゃないかな?」

「それは……そうだ」

 カインは一応納得したみたいだけど、その表情はまだ心配そうに曇っていた。あまり、カインを心配させたくない。


「実はね……カインには話してなかったと思うんだけど、迷宮の地下には別の出入り口があるんだよ」

「別の出入り口?」

「そう。そこまで行ける人は母様くらいなの。母様はその出入り口を使って、別の場所に行っているんだよ。今回もそうだと思う。ずっと迷宮の中を彷徨っているわけじゃないの」

 そう説明すると、カインは目を見開いてようやくホッとした表情になる。

「なんだ、そうか……それなら大丈夫」 


「あの迷宮の地下には異界への扉があるからなぁ」 

 グリュプス様が大きく頷いた。カインが仰天して口を開く。

「異界……?」

「グリュプス様! それは、秘密でしょう?」

 私が慌てて言うと、グリュプス様は「ああ、そうだった。いけねぇ」と自分の額をペチンと叩いた。


「今のは忘れろ。もし、誰かにしゃべったら、食っちまうぞ」

 脅されたカインは、「言わない!」と大きく首を振っていた。

「それと、こいつは死体が持ってたもんだ。何かの手がかりになるだろう?」

 グリュプス様から渡されたのは衣の切れ端だ。その刺繍は見たことがある。教会の司祭様が着る衣の一部だ。私はカインと視線をかわす。

「そういうわけだから、大事な事は伝えたぞ」


「うん、ありがとう。グリュプス様。今すぐ、森に帰るの?」

「ああ、人間くさい場所にいつまでもいると、気分が悪くなっちまう」

「森に戻ったら、時々迷宮の入り口を確かめておいてほしいの」

「任せとけ。近付く人間は全部食ってやるよ。俺の子分どもも腹を空かせているんだ。ちょうどいい餌さ」

 クククッと笑うと、グリュプス様は窓から帰っていく。翼を広げて飛び立つとあっという間に見えなくなってしまった。あの速さなら、人の目にもつかないかも。もし見かける人がいても、目の錯覚か、寝ぼけていたと思うはず。騒ぎにならないといいな。

 私はパタンと窓を閉めた。


「キャロル。教えてほしい……お師匠様は異界に行っているの?」

 カインが真剣な目をして詰め寄ってきた。

「うん……あの迷宮の地下に異界の扉があるんだよ。そこから出入りしているの。だから、母様はあっちの世界に行っていると思う」

「だから、出入り口が塞がれている方が安全なのか……」

「そう。あちらの世界に行けるのは、今のところ母様だけだからね。カインが心配する事はないんだよ」

 迷宮を踏破できる人なんて、他にいない。


「キャロルは、異界に行ってみた事はある?」

「あるわけないよ。迷宮に近付く事もできないもの」

「……行ってみたいと思う?」

「もちろん。だって、たぶん……私の父様はあちらの世界の人だからね」

「えっ、そうなの!?」

「たぶんだよ。母様は教えてくれないもの。でも、そんな気がするの」

 色々、こちらの世界にはないプレゼントをくれる人だしね。母様が異界に足を運んでいるのも父様と会うためだ。写真に写っていた二人は仲睦まじそうで、私はちょっと安心している。母様を愛してくれる人がちゃんといるんだもの。


「……僕も異界に行ってみたい。いつか行けるかな……」

「カインは母様の弟子だからね。行けるよ。うんと魔法の勉強をしなくちゃいけないけどね。カインは魔法の才能もあるから」

「その時には、キャロルを連れていくよ。約束する……」

 カインは私の手をギュッと握って、真剣な顔をして言う。


 カインはこの国の王子様だ。異界になんて行ってしまったら困る人がたくさんいるだろう。それでも、カインなら母様みたいに色んなしがらみなんて取っ払って、自由気儘に行ってしまう気がする。きっとすごい魔法使いになれるもの。


 その時、私は一緒に行けるだろうか。

 行きたいな――。

 カインと一緒なら、怖い事も不安な事も乗り越えられる気がする。


「うん、絶対だよ……」

 私は微笑んで、カインの手を握り返した。


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