魔法使い
猫の姿で離宮に忍び込んだ私は、木をつたってカインの部屋のテラスに飛び移る。部屋を覗いてみると、カインは部屋で本を読んでいた。テラスにいる事を知らせるために鳴いて、窓ガラスを叩いていると、カインが顔を上げる。室内には護衛の騎士が控えていた。
困ったな。すぐにも知らせたいんだけど――。
カインが本を置いてそばまで駆け寄ってくる。窓を開いて手を伸ばすカインの腕に跳び乗った。雪が降っていたから、毛が濡れてしまっている。護衛の騎士たちはあまりいい顔をしていないけれど、王子から猫を取り上げて追い出すほどの権限もない。カインはハンカチを取り出して濡れた背中や頭を拭いてくれた。
「部屋の外に出ていてくれない?」
カインが振り向いて言うと、護衛の騎士たちは困った顔をしていた。
「いえ、ですが……我々は殿下の護衛を命じられております」
「自分の部屋で誰に襲われるっていうの?」
カインの声も騎士たちに向ける視線も冷ややかだ。騎士たちはそれ以上言っても仕方ないと諦めたのか、「では、部屋の外におります故、何かありましたらお呼びください」と部屋を出ていく。
カインがホッとしたように息を吐くのが分かった。騎士達がいなくなると、扉に駆け寄って内側から鍵を掛けている。
私はカインの腕から飛び下りると、ようやく変身を解くことができた。
「キャロル! なかなか来てくれないから心配だった……」
「うん、色々してたからね。でも、いい知らせがあるよ。ダーシーおじさんがね、魔法使いを紹介してくれる事になったの」
「その人……口は硬いのかな?」
「うーん……どうかな? おじさんが紹介してくれる人だから、そんなにおかしな人じゃないとは思うんだけど。王立魔法院に所属している魔法使いだよ。だから、優秀な人だと思うよ?」
カインと一緒に椅子に移動して腰を下ろす。私は魔法鞄から、水筒とサンドイッチ、それにマフィンを取り出した。ダーシーおじさんの家の厨房を借りて作ったものだ。今日のサンドイッチには、たっぷり卵とマヨネーズが使ってある。卵と酢、塩や油を混ぜて作るソースだけど、こちらの世界では見かけた事がない。たぶん、あっちの世界にしかないものなのだろう。異界文字のレシピ本には載っているんだけどね。
「王立魔法院? でも、それだと……上の人に報告とかしないかな?」
カインが心配する気持ちは分かる。王立魔法院は王家の魔法研究機関だ。選りすぐられた優秀な魔法使いが所属しているけれど、その一方で王家に忠誠を誓わなければならない。その研究や行動には制約が伴うと聞いている。
つまり、王家のお抱え魔法使いということだ。そんな人が、母様の濡れ衣を晴らす事に協力してくれるかというと、難しい気もする。むしろ、私から母様の居場所を聞き出したり、騎士団に通報して私を捕らえようとするかも。この事にカインまで関わっていると知られたら余計にマズい。完全に信用はできないから、私が母様の娘だということは秘密にしておく方がいいだろう。
「うん、だからね。ハンカチについた血の魔力を解析してもらうだけにしようと思うの。それなら、目的をすぐに明かす必要はないし、こちらの素性も隠しておけるでしょう?」
あの血についている魔力が誰のものか。それを調べられるだけでいい。
「…………それなら、僕も同席する」
「えっ、カインも!? でも……それだと、王子だとばれちゃわない?」
王立魔法院所属の魔法使いだ。王子であるカインの顔をどこかで見かけた事があってもおかしくはない。心配したけれど、カインは「大丈夫」と首を振る。
「僕の顔を知ってる人なんて、離宮にいる使用人と護衛くらいだもの」
「式典とか行事で顔を見せたりしてないの?」
王太子の弟殿下はよく式典や行事に顔を出しているみたいだ。
「一度もないよ。だから、王立魔法院の魔法使いが知っているはずがないんだ」
むしろ、知っている方が怪しいとカインは言う。
「そっか……じゃあ、その人と会う時にはカインにもいてもらうよ。その方が、私も安心だし」
私はカインのお皿に、卵のサンドイッチを取り分ける。パンも硬いパンではなく、ふんわりした柔らかいパンだ。もちろん、二人一緒にお祈りする事も忘れない。カインはサンドイッチを手に取って口に運ぶ。私はその間に、カインのカップに紅茶を注いだ。
「…………キャロル、この卵のサンドイッチ……すごく……おいしいっ!」
カインが驚いたように言う。三口で食べてしまうと、指についた卵もペロッと舐めている。
「パンがふわふわで、卵もすごくおいしい…………!」
「マヨネーズをたっぷり入れたからね~~」
私はクフッと笑った。
「まよ……ねーず?」
「卵を使った特製ソースだよ! それを潰したゆで卵に混ぜるの」
「これ……また食べたい。作ってほしい!」
カインは目を輝かせて、二つ目の卵サンドに手を伸ばす。夢中で食べているから、よっぽど気に入ったのだろう。マヨネーズは母様が買ってきたものを使ったんだよね。異界文字のレシピ本にも書いてあるから作れなくはないんだけど。母様が買ってきたものの方が、コクがあるんだもの。でも、それはカインには内緒にしておこう。
「うん、じゃあまた作るよ。茹でたポテトにつけてもおいしんだよ」
ほくほくの芋にマヨネーズをたっぷりかけて食べるのは背徳の味だ。
「それは、すごく楽しみだ……」
今度、カインにも作ってあげよう。
私もサンドイッチを頬張っていると、カインが私の首元を見つめていた。
「それ……ネックレスについてたウサギだ」
「うん、そうだよ。カインからもらったネックレス、魔導細工師のお姉さんに直してもらったの。ネックレスじゃなくて、チョーカーにしてみたんだよ」
「すごくかわいい……」
「本当?」
「うん、キャロルによく似合ってる……直してもらえて、僕も嬉しい」
カインはそう言ってニッコリする。
サンドイッチとマフィンを食べて、お茶を飲んでいると、部屋の扉ノックされる。私もカインもギクッとして、慌てて片付けをした。こっそりお茶会をしているのを誰かに見られるのはまずい。皿や水筒はバスケットの中に入れて魔法鞄に押し込む。
「殿下、家庭教師の先生がいらっしゃいました」
そう、護衛騎士の声がする。
「忘れてた……!」
「ごめんね、忙しい時に来ちゃって」
「ううん、全然忙しくないんだ。退屈な歴史と語学の授業だもの。お腹が痛いって休んでもいいんだけど……先生は口うるさいんだ」
「ダメだよ! 勉強はちゃんとしないと。それじゃあ、また来るね」
私は魔法鞄を肩から提げ、ステッキを取り出す。魔法陣を描いてポンと猫に変身すると、カインが急いで窓ガラスを開けてくれた。テラスに出て、手すりに跳び乗る。
「うん、気をつけて。キャロル」
カインは私が庭に下りるのを見届けてから、窓ガラスを閉めていた。
◇◇◇
ダーシーおじさんが紹介してくれる魔法使いと会う日がやってきた。離宮からうまく抜け出してきたカインと一緒に、おじさんの店の奥の部屋で待つ。テーブルには、お茶とお菓子を用意した。大事なお客様だから、今日は特別にタルトを焼いた。チーズのタルトだ。
「カインは私の弟で、私はおじさんの親戚の子っていう事になっているからね」
私は紅茶を蒸らしながら、椅子に座っているカインに言い聞かせる。
「うん、分かってる」
時間になると、店の方で男の人とおじさんの声がした。
おじさんと一緒に部屋に入ってきたのは、若い男の人だった。くたびれたローブに両手を突っ込んでいるし、髪は派手な色で、十本の指全部に魔石の指輪をはめている。チェーンのネックレスをつけていて、耳にもイヤリングをつけていた。なんだか、魔法使いって言うより、下町のごろつきみたいな人だ。
おじさん、この人信用できるのかな?
カインなんて、見ただけで怪しそうな顔をしている。
「すまんな、待たせて。この二人が俺の……甥っ子と姪っ子だ。事情があってちょっと、俺が面倒を見てんだ」
おじさんはコホンと咳払いして、私とカインを紹介してくれる。私は立ち上がり、「初めまして、おじさんの姪で、こっちは私の弟です」と自己紹介する。名前までは名乗らなかった。だって、まだこの人が信用できるのかどうか分からないんだもの。見た目からして……あんまり期待できそうにない。
本当に、王立魔法院に所蔵している魔法使いなのかな?
「あー、よろしく。てか、ダーシーのおっさん、姪っ子や甥っ子がいたんすね」
いかにもダルそうな口調で言うと、ポケットに手を入れたまま私とカインをジロジロと眺める。私は愛想笑いを浮かべたけれど、カインは完全に無視だ。人見知りするようにそっぽを向いている。
「ああ、まあな……疎遠になってたからすっかり忘れてたんだ。二人とも、こっちは俺の知り合いの魔法使いの、マティス=バリエだ。うちの店の常連でな。こう見えて……まあ……口は硬いから心配すんな」
おじさんはコホンと咳払いして教えてくれる。
本当に口が硬いのか怪しいところだけど「初めまして、バリエさん」とお辞儀をしておいた。
「マティスでいい。で、血についた魔力を鑑定してほしいんだって?」
マティスさんは椅子に腰を下ろすと、本題に入る。今日来てもらった理由については、ダーシーおじさんから聞いていたみたいだ。
「はい、そうなんです。あっ、タルトを作ったので、よかったらどうぞ」
私はチーズタルトを切り分けて、みんなのお皿に配る。
「おおっ、うまそ……なにこれ」
「チーズタルトです。気に入ってくれると嬉しいです」
マティスさんはフォークを取ると、タルトを半分に切って口に運ぶ。おいしかったのか、あっという間に一切れ食べてしまった。
「すげーうまっ!! というか、もっと食っていい? 腹減ってんだよな。三日くらい何も食ってねーからさ」
三日も!? そういえば、目許が黒くなっていてひどく不健康そうな顔色になっている。ケーキだけじゃなくて、サンドイッチやスープも用意してあげればよかったかな。とはいえ、急には用意できない。マティスさんはチーズタルトのホールごと、自分の方に引き寄せようとする。
「おい、マティス。ちょっとは遠慮しろ!」
おじさんに頭をグイッと押さえつけられて、渋々手を引っ込めていた。
「いいんです。私達が無理に頼んで来てもらったんですから。まだあるので、食べてください」
私はチーズタルトを大きく切って、マティスさんのお皿に盛る。
「ダーシーのおっさんの姪っ子、マジでいい子だな! これ、すげーうまい!! なぁ、余ったら持ち帰りにしていい? というか、君、うちの子に……」
「ダメに決まってんだろ!!」
ダーシーおじさんが、ゴンッと拳で殴る。「って~~」と、マティスさんは頭を押さえていた。
カインの体から心なしかひんやりとした冷気が漏れている気がする。マティスさんに向ける目は、完全に不審者か犯罪者を見るようだ。
「…………この人、本当に王立魔法院の魔法使い?」
カインがボソッと呟くと、マティスさんは「まあ、一応な」と肩を竦める。
「面倒くせーから、早くやめちまいたいんだけど、逃げると捕まんだよね~~。それに、あそこにいれば好きな研究できるし? 研究費たっぷり出るし? だからまあ、取りあえず所属してんのよ。けど、だりぃから、そのうち逃亡する予定なんだけどね~~」
マティスさんはヘラヘラ笑って、チーズタルトを頬張る。まったくやる気のない不良魔法使いみたいだ。
「こんなやつだが、魔法使いとしての腕と知識は保証する。なにせ、魔法院の魔法研究局局長だからな」
「局長!」
まだ二十代に見えるのに。私が驚いていると、マティスさんがニヤーッと笑った。魔法院にはいくつかの部署が分かれていて、研究局は魔法の研究を行っている部署だ。おじさん、そんな人と知り合いだったんだね。驚きだよ。こんな派手な見た目で不真面目そうだけど、役職付きと言うことはやっぱり優秀な人に違いないんだろう。
「そう、局長。びっくりした? 尊敬する気になった?」
「全然……」
ボソッと言うカインの口を慌ててふさいで、「はい。びっくりしたし、尊敬します!」と私は愛想笑いを浮かべておく。この人の機嫌を損ねると、計画がダメになってしまう。
「で、君たちが調べてほしいって言うのは何?」
フォークを揺らしながら、マティスさんが尋ねる。見てもらうくらいなら大丈夫かな。私はポケットからハンカチを取り出して、「これです」とテーブルに置く。マティスさんはフォークでそのハンカチを広げると、付着している血を見て「ふーん」と目を細めた。
片手をハンカチに翳すと、指輪の魔石の一つが光り、魔法陣が現れる。まるで計測器みたいな形の魔法陣だ。その針がカチカチと動く。魔力測定?
これには、カインもびっくりして目を見開いていた。
「これだけじゃ、詳しく解析できないが……確かに魔力が含まれいるようだ。何かの術に使われた魔法陣か? けど、血を使って魔法陣を描くなんざ、イカれたバカのやることだ。黒魔術の一種だな。どこに描かれていたものだ?」
ジッと見られて、私は息を呑む。そこまで、もう分かっちゃうの? 私はこのマティスという人をちょっと見くびっていたのかもしれない。さすがに、王立魔法院の魔法使い。カインも警戒するように視線をマティスさんに固定している。
「キャロル……」
カインに呼ばれて、私はハッとした。カインはやめた方がいいと思っているのかもしれない。けれど、判断は私に委ねてくれている。決めるの私。この人を信用するのか、しないのか――。
「こいつは、この二人の田舎で見付かったもんだ」
ダーシーおじさんが腕を組で口を開いた。
「田舎?」
「ああ、ここだけの話にしておいてくれ……実はな。この二人の親は…………殺されちまったんだ」
おじさん! 急に深刻な表情で語り出したおじさんに、私もカインもポカンとする。そんな話をする予定は打ち合わせにはなかったよ。
「殺された? 誰にだ」
「それを調べるために、お前を呼んだんだ。こいつらの両親は田舎で……魔物に襲われた。その場所に血の魔法陣が描かれていてな。どうやら、何者かが魔物を呼び寄せたらしいという事までは分かったんだ。だが、どこのどいつの仕業かわからねえ。そこで、二人は……両親の復讐を誓い、王都まで俺を頼って出てきたというわけだ」
おじさんは沈痛な表情を作り、「うっ!」と眉間を指で摘まむ。私は両手で顔を覆い、「うわあああ―――んっ! お父さん、お母さ――――んっ!!」と大泣きしてみせた。もちろん、涙なんてちょっとも出ない。
カインは私とおじさんを交互に見てから下を向く。その肩が震えているのは泣いているからではなく、笑いそうになるのを必死に堪えているからだ。
こんな嘘くさい芝居で、本当にこの人は引っかかってくれるのかな。
私は指の隙間からチラッと見た。
「なんてことだ…………そんな悲惨な事が…………」
マティスさんはショックを受けたように呟き、涙目になっている。
信じたの!?
見た目よりずっと純粋な人なのかも。そんな人を騙すのは、ちょっと心が痛むけど、目的のためには手段を選んでいられない。それに復讐のためではなくても、母様を助けるためでもある。狙われたのが国王夫妻や弟殿下なら、王族の命を救う事にもなる。その時には、このマティスさんの手柄にしてあげよう。
「頼む、マティス。こいつらのためにも、こいつらの両親の無念を晴らすためにも、協力してくれねーか。もちろん、ただとは言わねえ。相応の報酬は……」
おじさんが言うと、マティスさんはバンッとテーブルに手をついて立ち上がった。血のついたハンカチを握り締めている。
「こんなチビどもが親の復讐なんて……報酬なんかいらねぇぜ、おっさん。クソ魔法使いの駆除は俺らの仕事だ。見つけ出して、火炙りにしてやんよ! お前らも両親の敵はとってやるから安心して任せろって!!」
ククククッと笑うマティスさんの方が、どちらかというと邪悪な魔法使いに見える。なんにせよ、やる気になってくれたみたいで安心した。
マティスさんは残りのチーズタルトを残さず平らげると、満足したように帰っていった。証拠のハンカチは預けてある。その魔力の解析には一週間ほどかかるようだ。
「あの人、あんまり頼りにならなそうだ……」
おじさんとマティスさんが出ていった後、カインが呟く。
「解析してくれるだけで十分だよ。それに、悪い人には思えなかったよ?」
「そうかな? 本当の目的を知らないから協力してくれるだけかも…………」
それはそう。母様の娘だと分かった時も、同じように心よく頼み事をきいてくれるとは限らない。だから、今回だけにしておくほうがよさそうだ。私もあまり王立魔法院なんてところの魔法使いと関わり合いたいとは思わない。母様の天敵だものね。
外で聞こえていた声が止み、おじさんが戻ってくる。
「すまねぇな。あいつはあれでも、天才って言われてんだ。その分、ちょっと……というより、かなり変わり者ではあるんだよ」
「天才?」
「ああ、十歳で王立魔法学園を卒業していてな。アナスタシアの再来とも言われていたくらいだ」
母様は今でこそ評判は悪いけれど、王立魔法学園を優秀な成績で卒業している。学園に在籍中も数々の魔法に関する研究論文を発表していた。その母様の再来と言われるんなら、やっぱりすごい魔法使いなのかな。
「お師匠様の方がすごい魔法使いだ」
カインがムッとしたように言い張る。カインは母様信者だからね。でも、その意見には私も賛成だ。母様が国一番の魔法使いである事は変わらない。その証拠に、魔法使いや騎士が束になっても、いまだに母様を捕まえられないんだもの。
「だが、まあ……魔力の解析はあいつに任せておけばいい」
「おじさんにもう一つお願いがあるの。魔導具の事なんだけど……」
「魔導具? 何か作ってほしいのか? それとも修理か? アナスタシアが作った魔導具なら、俺でもそう簡単にはいじれねぇぞ。あいつの作る魔導具は特殊だ」
「これと同じようなものを作ってほしいんだよ」
私はポケットから、防犯ブザーを取り出した。
「魔石が組み込まれてるから、魔導具には違いないが……変わった素材でできてるな。石かと思ったが、石よりも軽い。魔物の卵の殻……でもなさそうだ」
おじさんは防犯ブザーを手に取って確かめる。紐を引っ張った途端に大きな音が鳴り出したものだから、びっくりして床に落としそうになっていた。
「なんだ、こりゃ……どうなってんだ!? 音が止まらねーぞ!!」
「ここを押すと止まるんだよ」
私が小さなボタンを押すと、途端に音が止まる。
「何に使う代物なんだ? 鳥でも追っ払うのか?」
「危険を知らせるための導具なんだよ。音が鳴れば、大人たちが駆け付けてくるでしょう?」
「なるほど、子供に持たせるのか。しかし……よくできるな。紐を引っ張ると音が鳴る仕掛けか?」
「うん、それに、母様が場所の位置を知らせる魔法を組み込んだの」
防犯ブザーが鳴ると同時に、母様の持っている魔石が反応する仕組みだ。新年祭の時にはそのおかげで、母様がすぐに駆け付けてくれた。
「こいつは思った以上に難しそうだな。どうやって音を鳴すんだ??」
「これと同じものを作ることは難しいから……魔石で代用しようと思うの。無理かな?」
「音を発生させる魔導具か……となると、使うのは風の魔石か?」
おじさんはブツブツ言いながら考え込んでいる。
「僕……少しだけ考えてきた。音を鳴らす魔導具の構造……まだ、実験してみてないから、うまくいくのか分からないけど」
カインは自分の鞄の中から、ノートを取り出す。設計図と、魔石に組み込む魔法の魔法陣の図案が描かれている。かなり複雑な術式だけど、カインが考えたようだ。それを見せると、おじさんは驚いたようにマジマジと見ていた。
「なるほど……笛形になってて風の魔石で鳴らすのか。その音を増幅させる事で音の大きさを変えられる。位置の特定はアナスタシアの魔法陣を応用したんだな。さすがはあいつの弟子だぜ!」
おじさんがカインの頭をちょっと乱暴に撫で回す。そのせいで髪がボサボサになっていたけれど、母様の弟子だと褒められたカインは嬉しそうな顔になっている。
「多少は手直しと調整が必要だが……構造を見る限り、問題なさそうだ。くそっ、あいつを早々に帰すんじゃなかったぜ」
おじさんは頭を掻く。あいつとは、さっき帰っていったマティスさんの事だ。確かに、マティスさんがここにいたら、いい助言がもらえたかも。特に魔法の術式については魔法使いのマティスさんの方が詳しい。
「それはダメだよ。マティスさんに知られたら、王立魔法院の人たちにも知られちゃうでしょ?」
これは弟殿下に渡すものだ。弟殿下がもし王宮の魔法使いに見せびらかしたりすれば、出所がバレてしまう。カインからもらったものだと分かったら、マティスさんに素性を気付かれるかもしれない。それに、カインが王子だって事は、ダーシーおじさんも知らない事だ。
「そりゃそうだな。分かった。あいつには言わねーよ。取りあえず、試作品作りだな」
「僕も手伝いたい。魔石に魔法陣を組み込むのは得意だもの……」
カインが手を上げる。自分で作ってみたくてウズウズしているのだろう。
「よし、じゃあカインと俺は内部の装置を作る。ケースは金属で作るか? 木彫りでも良さそうだが……」
「それなら、ジゼルさんに頼んでみたらどうかな?」
金属の細工ならジゼルさんが得意だ。弟殿下への贈り物だから、少しはお金がかかっても素敵なものにしたい。
「そうだな。キャロルがジゼルに頼むほうがいいだろう」
「うん! じゃあ、仕事のお願いしてくる。デザインも相談しておくよ」
私は椅子を下りて、鞄を肩にかける。
カインとダーシーおじさんはノートを見ながらさっそく話し合っていた。




