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【リーガルざまぁ】現行法でタコ殴り!異世界テンプレに泣く、どん底令嬢を救います〜魔王お嬢様弁護士の事件簿〜  作者: lilylibrary
第2章:自称・美の聖女に特許を奪われた地味研究員ですが、現行法でレセプション会場ごと物理的に差し押さえます〜
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第9話 証拠保全のガサ入れと最高級ベルーガ・キャビア


「皆様、本日は私の新ブランド発表記念レセプションにお越しいただき、本当にありがとうございますっ!」


都内の五つ星ホテル、メインバンケットルーム。数千万円をかけたであろう豪華絢爛なステージの中央で、星野キララがマイクを握りしめていた。


純白のドレスに身を包み、スポットライトを一身に浴びる彼女の周りには、美容業界の重鎮や有名インフルエンサー、そしてテレビ局のカメラマンがひしめき合っている。


「私が五年の歳月をかけ、血のにじむような努力で独自開発した『奇跡の美容液』。細胞レベルで肌を若返らせる、まさに魔法のしずくです!」


キララがわざとらしく涙ぐみながら語ると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

その隣では、共同代表の橘健太が、さも自分が偉大な発明家であるかのようなドヤ顔で頷いている。


「今日は特別に、開発の基盤となったプログラムが入ったこのパソコンで、最新の成分シミュレーションをご覧に入れます!」


橘がステージ上の演台に置かれた最新型のノートパソコンを開き、巨大なスクリーンにグラフを投影しようとした、まさにその瞬間だった。


バンッ!!!


会場の重厚な観音開きの扉が、映画のワンシーンのように勢いよく押し開かれた。


「なっ……なんだ!?」


橘が間の抜けた声を上げ、会場中の数百人の視線とテレビカメラが、一斉にエントランスへと向けられる。


そこに立っていたのは、地味なスーツ姿の初老の男性二人と、謎の機材を抱えたオタク風の青年たち。

そしてその後ろで、白衣姿の薬師寺雫様を引き連れ、私はビュッフェテーブルから拝借したばかりの小皿を手に、優雅に微笑んでいた。


「……んんっ、素晴らしい。この最高級ベルーガ・キャビアを乗せたブリニ、芳醇な海の香りと塩気がシャンパンに絶妙に合いますね」


私は黒縁メガネをキラリと光らせながら、一口サイズのパンケーキをサクッと頬張り、至福の吐息を漏らした。


「所長! ガサ入れの乱入直後に、会場のウェルカムフードを勝手につまみ食いするのやめてください! テレビのカメラ回ってますよ!」


パラリーガルの木戸くんが、私の背後で胃を押さえながら小声で突っ込んでくる。


「失礼ですね。これは敵の資金源(不当利得)を物理的に削るための、立派な経済制裁の一環ですよ」


私は指先を純白のナプキンで拭い、初老の男性――東京地方裁判所の執行官に目配せをした。


「し、失礼いたします! 東京地方裁判所の執行官です!」


執行官がマイクを通さない地声で、しかし会場中に響き渡るよく通る声で宣言した。


「星野キララ氏、ならびに橘健太氏! 裁判所の証拠保全決定に基づき、貴方たちの所持するパソコン、スマートフォン、および関連記録媒体のデータ差し押さえを実施します!」


「……は? さ、裁判所? 差し押さえ?」


ステージ上のキララが、キョトンとした顔で首を傾げる。承認欲求のバケモノは、自分が法的なギロチンにかけられている事実にまだ気づいていない。


「おい、何の冗談だ! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ! 警備員をつまみ出せ!」


橘が顔を真っ赤にして怒鳴り散らすが、執行官の背後に立つ屈強な立会人たちが、一歩も退かずに立ちはだかる。


「初めまして、自称・美の聖女様、そして泥棒の橘様。私は薬師寺雫様の代理人弁護士、九条院結です」


私はキャビアの余韻を楽しみながら、コツコツとピンヒールを鳴らしてステージの最前列へと進み出た。


「本日付で、裁判所より『不正競争防止法違反および特許冒認出願に関する証拠隠滅の恐れ』が認められ、強制的な抜き打ち調査の許可が下りました」


私は手元の『証拠保全決定書』を、テレビカメラのフラッシュが激しく焚かれる中で、ビシッと突きつけた。


「現在この会場にある、貴方たちのパソコンとスマートフォンは、ただ今をもってすべて裁判所の管理下に置かれます」


「ふ、ふざけるな! 僕たちのパソコンだぞ! 企業の極秘データが詰まってるんだ!」


橘が慌てて演台のノートパソコンを閉じ、自分の胸に抱え込もうとする。


「極秘データ? 雫様から盗み出した五年分の研究データの間違いでしょう。抵抗すれば、公務執行妨害で警察を呼ぶことになりますよ」


私の冷酷な宣告に、橘の顔面からサーッと血の気が引いていく。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 私、インフルエンサーだよ!? スマホ取られたらSNSの更新ができなくなっちゃうじゃん!」


キララがヒステリックに金切り声を上げ、自分の最新型スマートフォンを背中に隠した。


「ご安心ください。私たちが持ち帰るのは『コピーしたデータ』だけです。物理的な端末は、数時間後にはお返ししますよ」


私がニッコリと微笑むと、待機していたフォレンジック調査員(データ復元と抽出のプロフェッショナル)たちが、無言でステージに上がった。


「や、やめろ! 触るな! これは僕のものだぁぁっ!」


橘の惨めな抵抗も虚しく、執行官の立ち会いのもと、ノートパソコンとキララのスマートフォンはあっさりと調査員の手に渡った。


「よし、USBケーブル接続。クローン作成用の専用ツールを起動します。データの抽出および、削除された領域の復元解析を開始」


オタク風の調査員が、持ち込んだ特殊な機材に橘のパソコンを繋ぎ、カタカタと恐ろしいスピードでキーボードを叩き始める。


会場に集まったメディアの記者たちは、新ブランド発表会が前代未聞の『公開ガサ入れ現場』に変わったことで、完全に色めき立っていた。


「おい、カメラ回し続けろ! 特許泥棒疑惑の決定的瞬間だ!」


「星野キララ、嘘泣きじゃなくてマジで顔面蒼白になってるぞ!」


フラッシュの嵐と容赦ないシャッター音が、ステージ上の愚か者たちを冷酷に撃ち抜いていく。


「あ……あ……っ」


キララはへたり込み、完璧にセットされた髪を振り乱しながら、震える手で顔を覆った。


「さあ、雫様。貴女の五年間を取り戻す時間です。彼らがどれだけファイル名を偽装していようと、真実はコードの中に刻まれていますから」


私は隣に立つ雫様の背中を、優しくポンと押した。

白衣姿の雫様は、震える足でステージの階段を上り、橘とキララの前に立った。


「健太……あなた、私のパソコンからデータを消去した時、自分は完全犯罪を成し遂げたとでも思ったんでしょうね」


「し、雫……お前、こんなことしてタダで済むと……!」


「タダで済まないのはあなたよ! 私の培養液のデータを、一文字も理解していないくせに!」


雫様が調査員の持つモニターを覗き込み、一つのファイルを見つけ出して指差した。


「調査員さん! その『kirara_special_serum.exe』というファイル、Ghidraにかけて逆コンパイルの結果を見せてください!」


調査員がエンターキーを叩くと、会場の巨大スクリーンに、キララの美しい宣材写真に代わって、黒い背景に緑色の無数の文字列ソースコードがズラリと映し出された。


「皆様、ご覧ください。これが彼らが『五年かけて独自開発した』と主張するプログラムの中身です」


私はマイクを握り、数千人の前で冷徹な実況を開始した。


「雫様。彼らが剽窃した決定的な証拠である『デジタル透かし』の解説をお願いします」


「はいっ! 五千三十八行目を拡大してください!」


スクリーンの一部がズームアップされ、意味不明な英数字の羅列の中に、ポツンと不自然なコメント行が浮かび上がった。


『// Memo: TAMA_W_5.2_to_5.5_diet_need』


「……たま、だいえっと、にーど?」


最前列の記者が、首を傾げてその文字列を読み上げる。


「そうです! それは私が三ヶ月前に書き込んだメモです! うちで飼っている三毛猫のタマちゃんが、チュールを食べ過ぎて体重が五・二キロから五・五キロに太ってしまい、ダイエットが必要だという私の悲しみの記録です!」


雫様がマイクを通さずに、会場中に響き渡る大声で力説した。

数百人のインフルエンサーとメディア関係者が、一瞬の静寂の後、ポカンと口を開けた。


「所長、真面目な証拠保全の現場で、大画面に猫のダイエット記録が映し出される絵面、シュールすぎて頭がおかしくなりそうです……」


木戸くんが顔を覆ってプルプルと震えているが、私は一切の動揺を見せず、橘に向かって鋭く問い詰めた。


「さあ、橘社長。貴方が独自開発したというプログラムに、なぜ『タマの体重変動』が記録されているのですか? まさか美容液の成分に猫の脂肪が含まれているわけではないでしょうね?」


「あ……う、あ……っ」


橘は白目を剥き、金魚のように口をパクパクさせるだけで、何も答えることができない。


「さらに一万二千五百行目! 変数配列『GV_serifu_01』を展開してください!」


雫様の指示で、調査員が別のコードを開く。


『// "Ore_ga_kono_sora_wo_kirihiraku!"』


「これは、私が愛してやまない深夜アニメ『機動戦記ガンヴァルキリー』の最終話で、主人公が放つ熱い決め台詞をローマ字表記で忍ばせたものです!」


雫様がドヤ顔で言い放つと、会場のあちこちから「ぷっ」「ガンヴァルキリーってあのロボットアニメの……」「マジで丸パクリじゃん……」という失笑とどよめきが沸き起こった。


「橘社長。貴方、ガンヴァルキリーの視聴歴は? 主人公の搭乗機体の正式名称をフルで言えますか?」


私の容赦ない追撃に、橘はついに膝から崩れ落ち、ステージの床に両手をついた。


「嘘よ……こんなの、何かの間違いよ! 私は美の聖女なのよ! みんなの憧れなのよぉぉぉっ!」


キララがヒステリックに絶叫し、ハイヒールを脱ぎ捨てて暴れようとするが、執行官たちに冷静に制止される。


「星野キララ氏。貴女が承認欲求を満たすためにまとっていたドレスは、他人の血と汗と涙で織られたパクリの安物です」


私はキャビアの乗った小皿を木戸くんに渡し、冷酷な魔王の瞳で彼女を見下ろした。


「データは完璧に抽出されました。隠しコードの存在により、貴方たちの冒認出願および不正競争防止法違反は、この数千人の前で完全に立証されました」


テレビカメラの赤いランプが、絶望に染まる二人の顔を全国に向けて生放送で垂れ流している。


「特許は当然、真の発明者である雫様の元へ帰属します。そして貴方たちには、会社データの窃取による莫大な損害賠償と、メディアやスポンサーからの天文学的な違約金が待っていますよ」


「い、いやだ……! 私のフォロワーが……私のアカウントがぁぁっ!」


キララが自分のスマホに向かって手を伸ばすが、無機質なUSBケーブルに繋がれた端末は、彼女の虚栄心をすべて吸い出されるように明滅を繰り返していた。


「……見事なまでの公開処刑ですね。証拠隠滅の隙を一切与えない、完全なるチェックメイトです」


木戸くんが、フラッシュの嵐の中で完全に社会的息の根を止められた二人を見ながら、胃薬の瓶を振った。


「ええ。他人の努力を奪った愚か者には、これ以上ない最高の舞台を用意してあげたのです。感謝してほしいくらいですね」


私は満足げに微笑み、ステージの真ん中で涙を流しながら笑っている雫様を見つめた。


彼女の五年間は、決して無駄ではなかった。そして、偽物の聖女の化けの皮は、現行法という名の冷たい刃によって、一瞬にして剥がれ落ちたのだ。


極上のカタルシスとキャビアの余韻を味わいながら、私は次なる事後処理(徹底的な財産の剥奪)へと向けて、小さく舌なめずりをしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

テレビカメラの前で大画面に映し出された、三毛猫のダイエット記録。承認欲求のバケモノから全てを奪い返す、完全なるリーガル・チェックメイトです!


次回、いよいよ第2章の最終話! 偽聖女の末路と、見事な羽化を遂げた本物の研究者の姿をお届けします。

(※第2章・最終話は明日19時過ぎ更新です!)

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