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【リーガルざまぁ】現行法でタコ殴り!異世界テンプレに泣く、どん底令嬢を救います〜魔王お嬢様弁護士の事件簿〜  作者: lilylibrary
第2章:自称・美の聖女に特許を奪われた地味研究員ですが、現行法でレセプション会場ごと物理的に差し押さえます〜
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第8話 裁判官への猛烈プレゼンと極厚リコッタパンケーキ


「あー、もう最高! 明日のレセプションパーティー、美容系の有名雑誌だけじゃなくて、テレビの密着取材も入るんだって!」


「当然だよキララ。僕たちの『奇跡の美容液』は、世界中のコスメ業界をひっくり返す大発明なんだからね。明日は二人で最高に目立とう」


スマートフォンの画面越しに、インフルエンサーの星野キララと橘健太が、高級ホテルのスイートルームでシャンパングラスを合わせている。


彼らは明日に迫った新ブランド発表のレセプションに向けて、承認欲求という名の麻薬を致死量までキメて完全な有頂天になっていた。


「あの地味な女、今頃アパートで泣いてるんだろうな。僕たちみたいな選ばれた人間に逆らうからそうなるんだよ」


「ほんとそれ! 私たちは美のカリスマとして、これからも世界中の女の子に夢を与えなくちゃいけない使命があるんだからっ」



◇  ◇  ◇


……という、聞いているだけで知能指数が急降下しそうな底抜けの馬鹿っぷりが披露されていた数時間後。



「――というわけで、彼らは現在、他人の五年間をパクリのドレスで着飾りながら、明日のテレビ取材に向けて入念なエステ通いに勤しんでいるようです」


東京地方裁判所へと向かう、黒塗りのハイヤーの後部座席。

私はテイクアウト専用の特注ボックスから、焼き立ての極厚リコッタパンケーキを優雅にフォークで切り分けた。


ぷるぷると震える分厚い生地に、特製の濃厚マカダミアナッツソースと粉砂糖が雪のように降り積もっている。

それを口に運べば、スフレのような圧倒的なふわふわ感と、上品なチーズの酸味がとろけ合い、脳内に至福のファンファーレが鳴り響いた。


「所長。これから裁判官を相手に『証拠保全』という超ハードな面接に挑む直前の車内で、なんでそんなに粉砂糖を撒き散らしながらパンケーキを揺らしてるんですか」


隣の席で分厚い資料の束を抱えたパラリーガルの木戸くんが、私のスーツに落ちた粉砂糖を慌てて払い落としながら胃を押さえている。


「失礼ですね。このパンケーキの危ういほどの揺れ具合は、承認欲求で膨れ上がった彼らの『薄っぺらな嘘』の脆弱性を象徴しているのですよ」


私は甘いマカダミアソースをたっぷりと絡めた二口目を頬張りながら、向かいの席でガチガチに緊張している薬師寺雫様に微笑みかけた。


「さあ、雫様。いよいよ敵の喉元に食らいつくための、最初の関門です。準備はよろしいですか?」


「は、はい……! でも、本当に裁判所が動いてくれるんでしょうか。相手に通知せずにいきなりパソコンを押収するなんて、すごく難しい手続きだとネットで……」


瓶底メガネの奥で、雫様が不安そうに白衣(なぜか私服の上に羽織っている)の裾を握りしめた。


「ええ、その通りです。民事訴訟法第二百三十四条に基づく証拠保全の『抜き打ちのガサ入れ』は、相手のプライバシーや営業秘密を侵害するリスクが高いため、裁判官は極めて慎重になります」


私はパンケーキの最後の一口を飲み込み、優雅にダージリンの入ったタンブラーを傾けた。


「通常なら『事前に相手を呼び出して話を聞きましょう』と言われます。それこそが彼らの狙いです」


「呼び出されたら、確実にデータを完全消去されてしまいますよね……。証拠を押さえるための行動が、かえって証拠を消させる引き金になるなんて……」


「ええ、まったく不合理です。だからこそ、私たちがこれから裁判官に叩きつけるべきは、『相手がいかに息を吐くように嘘をつき、証拠隠滅をスポーツ感覚で行うバケモノか』という証明です」


ハイヤーが東京地方裁判所の地下駐車場に滑り込む。

私は黒縁メガネを中指でクイッと押し上げ、戦闘モードの冷徹な笑みを浮かべた。


「さあ、木戸くん。雫様。理不尽な壁を、正面からブルドーザーで粉砕しに行きましょう」


東京地方裁判所、保全部の密室。

長机の向こう側に座る中年の裁判官は、私たちが提出した分厚い申立書と証拠資料の束を前に、難色を示して眉間を深く揉みほぐしていた。


「九条院先生。また貴女ですか。……おっしゃる事は分かります。特許の冒認出願の疑いがあり、元データを取り戻したいと」


裁判官は大きなため息をつき、手元のボールペンをカチカチと鳴らした。


「しかし、相手は既に会社を設立して事業を始めている。事前通告なしでの証拠保全は、相手の業務を著しく妨害することにもなります。まずは期日を指定して、双方から話を……」


「裁判官殿。本件において、事前通告などという悠長な手続きは、相手に『証拠をドリルで物理破壊してください』とお願いするようなものです」


私は裁判官の言葉をピシャリと遮り、一歩前に踏み出した。


「対象者である星野キララ氏と橘健太氏は、SNS上で『私が一人で開発した』という虚偽の発信を数百万人に拡散し、莫大な利益を得ようとしています」


私は木戸くんから受け取ったタブレット端末を、裁判官の目の前に滑らせた。


そこには、キララが過去に「気に入らない同業者のアカウント」を信者に攻撃させ、証拠の投稿を数分で消去して「私は何も知らない」と被害者ぶっていた悪質な動画の切り抜きが再生されていた。いわゆる「犬笛」というやつだ。


「対象者の承認欲求と自己保身の執念は、常人の理解を超えています。もし裁判所からの通知が届けば……」


私はテーブルに両手をつき、裁判官を真っ向から見据えた。


「彼女は『アンチから不当な裁判を起こされたぁ!』と涙ながらに動画を配信しつつ、裏では平然とハードディスクを初期化するか、海に投げ捨てるでしょう。彼らにとって、データ消去など日常の『映え』の代償にすぎません」


「そ、それは……インフルエンサーの生態としては有り得るかもしれないが、推測の域を出ないのでは……」


「推測ではありません。現に彼らは、雫様のパソコンのローカルデータを管理者権限で不法に消去しているのです!」


私の隣で、今まで怯えていた雫様が、突然バンッ!と机を叩いて身を乗り出した。


「裁判官様! あのデータは、私が五年間の青春をすべて注ぎ込んだものです! 細胞の培養液の温度管理のために、お盆も正月も実験室に泊まり込んだんです!」


瓶底メガネの奥から、理系オタク特有の早口と異常な熱量が迸る。


「彼らは実験器具のビーカーとフラスコの違いすら分かっていません! あんな奴らに、私の五年を、私のすべてを奪われたままなんて、絶対に嫌です!」


雫様の魂からの絶叫に、裁判官がビクッと肩を震わせた。


「お、落ち着きなさい、申立人。貴女の熱意は分かった。しかし、客観的に『そのデータが貴女のオリジナルである』という確証が……」


「確証ならあります。裁判官殿、こちらの資料の十五ページをご覧ください」


私はすかさず、雫様が昨夜徹夜でプリントアウトした、成分分析プログラムの『ソースコードの一部』の資料を開いて突きつけた。


「対象者たちが『自分たちで開発した』と主張しているプログラムコードの中に、雫様が仕込んだ『デジタル透かし』が存在します」


「デジタル透かし……? この、プログラミング言語の端に書かれている、謎の文字列のことかね?」


裁判官が老眼鏡をずり下げて、目を細める。


「はい。五千行目の末尾に記載されている『TAMA_W_5.2_to_5.5』という文字列。これは雫様の飼い猫である三毛猫のタマちゃんが、最近チュールを食べ過ぎて体重が五・二キロから五・五キロに太ってしまったという悲しみの記録です」


「……は?」


「さらに、一万二千行目に隠された配列データ。これは深夜アニメ『機動戦記ガンヴァルキリー』の主人公の決め台詞をアスキーコードで暗号化したものです!」


裁判官が完全に思考停止し、口をポカンと開けて固まった。

隣で木戸くんが「所長、真面目な裁判所でオタクの黒歴史を大声で読み上げないであげてください……」と耳打ちしてくるが、これは極めて重要な法的事実である。


「裁判官殿。美容液の開発プログラムに、三毛猫の体重と深夜アニメのセリフが混入している。これを『自分が書いた』と合理的に説明できるのは、この地球上で雫様ただ一人です!」


私は黒縁メガネを外し、裁判官にトドメの眼力を放った。


「対象者たちがこの『隠しコード』に気づき、データを改ざんする前に、直ちにオリジナルを保全しなければなりません。一分一秒の遅れが、真実を永久に葬り去るのです!」


「……っ!」


私の論理的かつ圧倒的な熱量(と、タマちゃんの体重という謎の真実味)に押し切られ、裁判官はついに大きく息を吐き出し、白旗を揚げるように頷いた。


「……分かった。対象者の証拠隠滅の危険性は極めて高く、事前の通告は不適当であると認めよう」


「ありがとうございます、裁判官殿。貴方の英断が、一つの真実を救いました」


裁判官が、決定書にペンを走らせる。


「ただし、保全手続きは厳格に行うこと。対象者の業務を必要以上に妨害しないよう、執行官の指示に絶対に従うように」


「もちろんです。私たちは極めて紳士的に、そして合法的に、彼らの喉元を掻き切るだけですから」


数十分後。裁判所の廊下を歩きながら、私は発行されたばかりの『証拠保全決定書』をヒラヒラと揺らして見せた。


「やりましたね、雫様。これで裁判所という国家権力が、彼らの嘘を暴くための『最強の令状』をくれましたよ」


「はい……! 九条院先生、本当にありがとうございます! 私、足の震えが止まりません……!」


雫様が決定書を見つめながら、ポロポロと安堵と歓喜の涙を流している。


「所長……マジでやり遂げましたね。猫の体重で裁判官を論破する弁護士なんて、後にも先にも所長だけですよ」


木戸くんが深いため息をつきながら、スマートフォンでスケジュールを確認し始めた。


「さて、裁判所の執行官と、データの抽出を行うIT専門家(フォレンジック調査員)の手配は完了しています」


木戸くんが画面をこちらに見せる。


「決行は明日。星野キララと橘健太が主催する、都内最高級ホテルの『新ブランド発表記念・超豪華レセプションパーティー』の会場です」


「完璧なセッティングです。テレビのカメラが回り、美容業界の重鎮たちが集まるその場所で……」


私はフフッと、心の底から楽しそうな魔王の笑みを漏らした。


「彼女たちが『私が開発した奇跡の美容液です!』と最高にドヤ顔でスピーチを決めた瞬間に、正面から堂々とガサ入れの奇襲をかけましょう」


「相手のインフルエンサー、絶対に卒倒しますよ……。承認欲求のバケモノにとって、それ以上の公開処刑はありませんからね」


「ええ。他人の努力を嘲笑った対価は、数千人の前で社会的信用を完全に失うことで支払っていただきましょう」


私はホテルの華やかなパーティー会場を想像しながら、明日の極上のエンターテインメントに胸を躍らせていた。


愚か者たちが築き上げた嘘の城は、明日、現行法という名の冷たい鉄槌によって無残に崩れ去る。


最高のリーガル・タコ殴り劇のクライマックスに向けて、私は足取りも軽くハイヤーへと乗り込んだのだった。

お読みいただきありがとうございます!

裁判官のドン引きをよそに、無事にチート魔法『証拠保全決定(ガサ入れの許可)』を召喚いたしました!


いよいよ明日、インフルエンサーが最も調子に乗っている華やかなレセプション会場のど真ん中に、裁判所の執行官を引き連れて正面突破の奇襲をかけます。

明日の「公開処刑」が楽しみな方は、ぜひ下部から【星評価】と【ブックマーク】で応援をお願いいたします!

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