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【リーガルざまぁ】現行法でタコ殴り!異世界テンプレに泣く、どん底令嬢を救います〜魔王お嬢様弁護士の事件簿〜  作者: lilylibrary
第2章:自称・美の聖女に特許を奪われた地味研究員ですが、現行法でレセプション会場ごと物理的に差し押さえます〜
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第6話 偽聖女の誕生と宝石箱のフルーツタルト

第2章(新エピソード)のスタートです!

前章をお読みいただいた皆様、ありがとうございます。今章からでも全く問題なくお楽しみいただけます。


今回のテーマは、異世界でおなじみ「偽聖女の手柄横取り」の現代版です。

五年の血と汗と涙の結晶を奪われた理系令嬢を、魔王弁護士が現行法で救済(物理)します!


「……私の、私の五年間が、あの女の手柄になってるなんて……!」


大手化粧品メーカーのR&D部門。薄暗い研究室の片隅で、瓶底メガネに白衣姿の薬師寺雫は、スマートフォンの画面を握りしめてワナワナと震えていた。


画面に映し出されているのは、SNSで三百万人ものフォロワーを抱える超人気美容インフルエンサー、星野キララのアカウントだ。


『みんなにお知らせ! 私が長年かけて独自開発した奇跡の美容液(通称:聖水)、ついに完成しましたぁ! 来週のレセプションで初お披露目しちゃうよっ』


キラキラとしたエフェクトと共に投稿された写真には、雫が来る日も来る日も寝る間を惜しんで完成させた『細胞再生美容液』の試作品ボトルが誇らしげに掲げられている。


そして、その隣で「僕たちの結晶です」とドヤ顔でカメラ目線をキメているのは、雫の共同研究者であり、元恋人の橘健太だった。


「健太……あなた、私の研究データを丸ごと持ち出した上に、こんな嘘を……っ!」


雫は震える指で健太の番号をタップした。三回のコールの後、面倒くさそうな声が聞こえてくる。


『なんだよ雫。今、キララと一緒に新ブランドの立ち上げ準備で忙しいんだけど』


「健太! SNSの投稿を見た! あの美容液の成分は、私が五年間かけて見つけた独自の配合比率よ! どうして彼女が開発したことになってるの!?」


『はあ? お前、まだそんなこと言ってんのか。あのデータは二人の共同研究の成果だろ』


「共同研究って……あなたはデータの整理すらまともにしなかったじゃない! それに、あのデータが入ったUSBメモリ、どこにやったの!?」


電話の向こうで、健太が鼻で笑う音がした。


『データなら僕の手元にあるよ。それに、よく考えてみろ。お前みたいな地味で女としての魅力もゼロな研究員が「奇跡の美容液を開発しました」って言っても、誰が買うんだよ』


「なっ……!」


『キララみたいな圧倒的な美のカリスマが「私が作りました」って言うからこそ、商品に何十億円もの価値が生まれるんだ。お前の自己満足な研究に、僕たちが光を当ててやってるんだぞ?』


「ふざけないで! それは明らかなデータ窃盗だよ! 会社に報告して、特許の出願も止めてもらうわ!」


雫が叫んだ瞬間、電話の向こうから、キララの甘ったるい笑い声が聞こえてきた。


『あははっ、健太くんの元カノさん? 必死すぎてウケるー。ねえ、証拠あるの? あなたが作ったっていう証拠』


「えっ……?」


『健太くんが言ってたよ。あなたのパソコンに入ってた開発データ、全部綺麗に消去しといたって。だから、これは正真正銘「私と健太くんが作った」魔法のお水なの。わかったら、大人しく引き下がってね、負け犬のおばさん』


プツッ、と無機質な電子音が響き、通話が切断された。


雫は急いで自分のパソコンの共有フォルダを確認したが、五年分の研究データは、バックアップも含めて跡形もなく削除されていた。


「嘘……私の努力が、全部……」



◇  ◇  ◇



……という、腹立たしいまでの「手柄横取りテンプレ」の被害報告から数時間後。


「――というわけで、彼らは現在、他人の褌で相撲を取りながら、億万長者になる夢を見て浮かれているようですね」


帝都の一等地、『九条院法律事務所』の所長室。

私は色とりどりの果物が宝石箱のように敷き詰められた、銀座の老舗パティスリーの特製フルーツタルトを優雅に切り分けた。


サクサクのタルト生地に、濃厚なカスタードクリームと完熟マンゴーの甘味が絶妙に絡み合い、極上のハーモニーを奏でている。


「所長。依頼人の五年間の血と汗と涙の結晶が盗まれて絶望している前で、一個八千円もする宝石タルトをキラキラさせながら食べるのやめてください」


パラリーガルの木戸くんが、雫のプリントアウトしたSNSの画面を見ながら胃を押さえた。


「失礼ですね。このタルトの層構造は、特許権や著作権といった無体財産権の複雑な権利関係を解き明かすための重要なインスピレーション源ですよ」


私はイチゴを丸ごと口に放り込み、冷たいダージリンティーで喉を潤した。


「さて、雫様。お話はよく分かりました。ファンタジー小説でいうところの『偽聖女にポーションのレシピと手柄を奪われた不憫なヒロイン』ですね」


「……偽聖女? ポーション?」


瓶底メガネの奥で、雫が目を白黒させている。


「気にしないでください。所長のいつもの例え話です。要するに、元カレが会社の極秘データを盗み出し、インフルエンサーの女と結託して自分の特許として出願しようとしている、ということですね」


木戸くんが的確に状況を要約すると、雫はボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。


「はい……。あのデータは、私が寝る間も惜しんで、細胞の培養実験を何万回も繰り返して見つけた奇跡の配合なんです。それを『お前が地味だから売れない』と……」


「おぞましいですね。他人の努力を鼻で笑い、承認欲求と金銭欲を満たすためだけに盗みを働くバケモノども。ふふ、許しがたい害悪です」


私はタルトの最後の一口を飲み込み、指先を純白のナプキンで優雅に拭った。


「雫様。彼らの行為は、単なる手柄の横取りではありません。立派な犯罪行為のフルコースです」


「は、犯罪……?」


「ええ。まず第一に、会社の極秘データである美容液のレシピを不正に持ち出す行為は、『不正競争防止法違反(営業秘密の侵害)』に該当します。これは民事上の損害賠償だけでなく、刑事罰の対象にもなる重罪です」


私はデスクの引き出しから、分厚い六法全書を取り出して、『不正競争防止法』の第2条6項から第21条の順に、一発で開いて見せた。


「そして第二に、発明者ではない人間が勝手に特許を出願する行為。これは特許法第百二十三条に基づく『冒認出願ぼうにんしゅつがん』であり、絶対的な無効理由となります」


私はさらに六法全書の『特許法』の第49条第7号(冒認出願は拒絶理由)、同第123条第1項第6号(冒認出願は無効理由)、第123条第2項(冒認に基づく無効審判の請求人適格に関する規定)のページを次々開いていく。


「でも……私のパソコンのデータは消されてしまいました。彼らが『自分たちが開発した』と言い張ったら、私には証明する手段が……」


雫が絶望的な顔でうつむく。確かに、データという客観的証拠がなければ、裁判は「言った言わない」の水掛け論になり、インフルエンサーの発信力に押し潰される可能性が高い。


「ご安心ください、雫様。データというものは、そう簡単には『この世から完全に消滅』しないのですよ」


私は黒縁メガネを中指でクイッと押し上げ、口元に三日月のような深い笑みを浮かべた。


「彼らが盗み出したUSBメモリ、あるいは彼らの会社のパソコンのハードディスクの中に、貴女が作成したオリジナルのデータファイルが必ず残っているはずです」


「それは……そうですが。彼らが素直にパソコンを見せてくれるわけがありません。裁判になれば、確実にデータを完全に破壊して証拠隠滅するはずです」


「おっしゃる通りです。ですから、悠長に『訴状』などを送って、彼らに証拠隠滅の時間を与えたりはしません」


私は立ち上がり、壁のホワイトボードに赤ペンでデカデカと『証拠保全(ガサ入れ)』と書き殴った。


「相手に一切の通知を行わず、ある日突然、裁判所の権力を使って相手のパソコンやサーバーを強制的にコピーし、物理的に差し押さえる。これが現代の合法的な奇襲攻撃です」


「しょ、証拠保全……? そんな、警察の家宅捜索みたいなことができるんですか?」


雫が驚きに目を見開く。


「ええ。民事訴訟法第二百三十四条。相手が証拠を隠滅する恐れが高いと裁判官が認めた場合にのみ発動できる、極めて強力なチート魔法です」


私はデスクの上のタブレット端末を操作し、キララのSNSアカウントの最新投稿をモニターに映し出した。


「来週の金曜日。この自称・美の聖女は、都内の高級ホテルで『新ブランド発表記念・超豪華レセプションパーティー』を開催するようですね」


「はい……。美容業界のインフルエンサーやメディアを大勢呼んで、大々的に発表するそうです」


「素晴らしい。何十台ものカメラが回り、彼女の承認欲求が最高潮に達する最高の晴れ舞台。これ以上ない『公開処刑場』のセッティングですね。……ふふふ」


私は背筋をゾクッとさせるような、極上の魔王の笑みを浮かべた。


「木戸くん。今すぐ裁判所への『証拠保全申立書』を作成しますよ。彼らのSNSでの虚言癖と、データ消去の悪質性を徹底的に強調して、裁判官を説得します」


「了解しました。……相手のインフルエンサーさん、人生で一番調子に乗ってる瞬間に、お堅い裁判所の執行官に囲まれてパソコン没収されるんですね。絵面がえげつなさすぎます」


木戸くんが引きつった顔でパソコンを開くが、私のリーガル・タコ殴りへの欲望は止まらない。


悪党がドレスアップしてスポットライトを浴びている瞬間に、背後から六法全書で後頭部をフルスイングする。


それが一番カタルシスを感じるし、相手の精神に消えないトラウマを刻み込めるからだ。


「雫様。貴女の五年間を盗んだ泥棒たちに、現行法という名の重い現実を叩きつけて差し上げましょう」


令嬢の姿をした魔王が、嬉々として二度目の宣戦布告の法螺貝を吹く。


「痛快なリーガル・タコ殴り劇、第二幕の開廷です」

お読みいただきありがとうございます!

承認欲求のバケモノに全てを奪われた雫ですが、彼女がすがりついたのは「現行法という名の鈍器」を振り回す魔王・結でした。


次回、理系オタク特有の「執念のトラップ」が明らかになります。


おかげさまで本作、4/5付のランキングにて

【日間ヒューマンドラマ部門 12位(連載中)】

【日間ヒューマンドラマ部門 65位(総合)】

にランクインいたしました!ありがとうございます!


累計1,332PV、そして396人のユニーク読者様に、リーガルな愛を込めて感謝申し上げます。

現在、総合評価は4/5時点で【102pt】……。

大きく動く「100ptの大台」に到達しました!


「聖女の化けの皮を早く剥いで!」

「木戸くん、胃薬多めに飲んで頑張れ!」

と思っていただけましたら、ぜひページ下部から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆→★★★★★(評価)】で、背中を押し上げてください!


皆様の星の一つ一つが、結の次なるスイーツと、悪党への鉄槌に変わります!

(※本章も、金曜日の完結まで毎日19時過ぎに更新予定です!)

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