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【リーガルざまぁ】現行法でタコ殴り!異世界テンプレに泣く、どん底令嬢を救います〜魔王お嬢様弁護士の事件簿〜  作者: lilylibrary
第7章 天才の姉からデザインを盗み『自分の才能』と偽って会見を開く無能な妹ですが、著作権侵害の仮処分という名の司法のギロチンで会見ごとブランドを爆破されました
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第34話 責任の積層構造と極上ミルフィーユかつサンド


「ふざけるな! たかがデザイナー一人の権利ごときで、我が一条グループの時価総額が数千億円吹き飛んだんだぞ! この責任をどう取ってくれるんだ!」

「……責任? おかしなことを仰る。その責任は、盗作を『天才の奇跡』と偽って市場を欺いた貴方がた経営陣にあるのではありませんか?」


帝都の一等地、『九条院法律事務所』の所長室。

スピーカーフォンから響き渡る一条グループ会長……蓮の父親の怒声に対し、私は眉一つ動かさず、デスクに置かれた特製の木箱を開けた。


中には、銀座の老舗洋食店がこのためだけに作り上げた、厚さ五センチを超える『極上ミルフィーユかつサンド』が鎮座している。

最高級の黒豚を極薄にスライスし、幾重にも、それこそ数十層にも重ねて揚げられたカツ。


それが、自家製の濃厚なデミグラスソースを纏い、軽くトーストされた特製パンに挟まれている。

私はその一切れを手に取り、大きく口を開けて、その緻密な肉の階層へと歯を立てた。


「……素晴らしい。この、肉の一層一層が織りなす圧倒的な弾力と、溢れ出す肉汁のハーモニー。噛み締めるたびに、重厚な真実の味が広がりますね」

「き、貴様! 会長が直々にお叱りになっているのに、何を咀嚼しているんだ! その咀嚼音を止めろ!」


電話の向こうで会長の秘書らしき男が叫ぶが、私は一切無視してカツサンドの二口目を堪能した。

サクッとした衣の食感の後に、何十層もの肉が解けていく快感。


「所長! 日本経済を揺るがす巨大企業のトップが電話口で発狂してるのに、なんで肉のミルフィーユに感動して、肉の断層を至福の表情で眺めてるんですか!」

「こっちは一条グループの株主から『どうして差し止めなんてさせたんだ!』っていう八つ当たりに近い抗議メールが、一秒間に百通届いてるんですよ!」


パラリーガルの木戸くんが、キーボードを叩く指を痙攣させながら、涙目で胃薬を三錠まとめて飲み込んでいる。

「失礼ですね、木戸くん。このミルフィーユかつの積層構造は、貴方がたが犯した『民事・刑事・社会的責任』の三重奏を解読するための、重要なインスピレーション源ですよ」


私はナプキンで口元を拭い、スピーカーフォンに向かって冷酷な声を届けた。

「一条会長。貴方は責任とおっしゃいましたが、法的には『積層』された三つの責任を取っていただく必要があります」


「三つだと……!? 何のことだ!」

「一つ目は、当然ながら著作権法違反、ならびに著作者人格権侵害に基づく損害賠償。……民事上の責任ですね」


私はカツサンドの三口目をパクリと食べ、デミグラスソースのコクを楽しみながら続けた。

「彩也様のデザインを使用できなくなったことによる損失、そして彼女のブランドイメージを毀損した慰謝料。概算で二十億円といったところでしょうか」


「に、二十億……!? ふざけるな、そんな額が認められるはずが……」

「認めさせますよ。……そして二つ目は、刑事上の責任。虚偽の著作者名を表示して公表した罪、著作権法第百二十一条です」


私が黒縁メガネを中指でクイッと押し上げると、隣で麗華様がバサァッ!と扇子を広げ、不敵な笑みを浮かべた。

「オホホホッ! 一条会長。貴方の息子さんと如月美夜さんは、まもなく検察庁から『ご招待』を受けることになりますわよ?」


「東陰院の娘まで……! 君たちの実家も無傷では済まさないぞ!」

「あら、おかしなことを。わたくしのネットワークでは、すでに一条グループの主要株主たちが『現経営陣の退陣』を求めて動き出しておりますわ」


麗華様は、スマートフォンの画面を私に見せ、楽しそうに目を細めた。

「見てくださいませ、結お姉様! SNSでは美夜さんの過去の『盗作疑惑』が次々と掘り起こされ、大炎上を通り越して大火災となっておりますわ!」


「ええ。これが三つ目……『社会的責任』の積層です。偽物のメッキが剥がれ、企業コンプライアンスが崩壊した結果、市場から見放されるという制裁ですね」

私はカツサンドの最後の一切れ……最も肉の層が厚い部分を口に運び、飲み込んだ。


「会長。貴方が取るべき責任は、私を怒鳴ることではなく、辞任届を書くことではありませんか? ……あ、それと、彩也様の独立資金として、さらに五億円ほど上乗せした示談案を送っておきましたよ」

「な、貴様……どこまで我々をコケにするつもりだ!」


「コケにしているのは、クリエイターの魂を金で買えると思い込んだ貴方がたのほうですよ。……では、失礼。次のカツサンドが冷める前に、電話を切らせていただきます」

ブツッ、と私は通話を切断した。


静寂が訪れた所長室で、木戸くんが真っ白な灰のように椅子に沈み込んでいる。

「……終わった。一条グループという巨像が、カツサンド一切れを食べている間に解体されてしまった……」


「木戸くん、縁起でもない。解体ではなく『清算』と言いなさい。……さて、彩也様。準備は整いましたよ」

ソファの隅で、驚愕のあまり固まっていた如月彩也様に、私は優しく微笑みかけた。


「一条家からの賠償金、そして投資家たちからの出資。これらすべてが、貴女の新しいブランドの『土台』となります」

「……はい。九条院先生。私……今まで、何層にも重なった嘘の中で生きてきた気がします」


彩也様は、自分の手をじっと見つめ、力強く握りしめた。

「でも、先生がその嘘を一枚ずつ剥いでくださったおかげで、ようやく自分の『核』が見えました。私は、もう誰の影にもなりません」


「その意気ですわ、彩也様! わたくしも、新ブランドの最初の顧客として、ドレスを十着ほど予約させていただきますわよ!」

麗華様が、まるでお祭りの準備を楽しむ子供のように燥いでいる。


「……ふふ。積層された責任の味は、少しばかり重厚すぎましたが。……嘘を剥ぎ取った後の、本物の才能の輝きは、どんなデザートよりも甘美ですね」

私は、空になった木箱を眺めながら、黒縁メガネを押し上げた。


如月美夜は、全てのスポンサーから契約を切られ、違約金の請求という名の「絶望の地層」に埋もれていくことになる。

一条蓮は、父親によって海外の僻地へと追放されることが決まった。

そして、本当の「天才」だけが、この瓦礫の中から立ち上がり、新たな伝説を創り出す。


「さて、木戸くん。一条会長からの『怒りの電話』の第二弾が来る前に、私たちは勝利のディナーへ向かいましょうか」

「えっ!? また食べるんですか!? 僕の胃袋は、もう責任の重さに耐えられませんよぉぉっ!」


賑やかな助手を引き連れ、私は事務所の扉を開けた。

偽物の虚飾を切り裂き、真実の価値を証明する。

魔王弁護士の六法全書という名の鈍器が、また一つ、不条理な権力を粉砕した夜だった。


……だが、平和な時間は長くは続かない。

「――所長! 事務所のポストに、血判状付きの依頼書が届いてます!」

「内容は……『毒親によって精神病棟に強制入院させられた、遺産相続人の令嬢』からのSOSです!」


「おや。次なる『異世界テンプレ』……いや、現代の闇ですね。面白そうです」

私は懐から、今度は最高級のミントタブレットを取り出し、一粒口に放った。

「麗華様、木戸くん。次なる『解体作業』の準備ですよ。……さあ、出陣です」


法の刃が、また新たな悲鳴に応えて研ぎ澄まされる。

悪が栄える世界において、九条院法律事務所の灯火が消えることは、当分なさそうである。

お読みいただきありがとうございます。

ミルフィーユカツを頬張りながら、時価総額数千億円の企業の責任を「清算」する結。

偽物のメッキが剥がれ落ち、SNSという現代の戦場で炎上していく妹たちの姿は、まさに因果応報です。


次回、いよいよ第7章完結。

ナポレオン・パイの崩壊と共に訪れる、真の天才の凱旋をお届けします。

そしてラストには、ついにあの「国外追放」テンプレの足音が……!

(※最終話は明日19時過ぎ更新です!)

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