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【リーガルざまぁ】現行法でタコ殴り!異世界テンプレに泣く、どん底令嬢を救います〜魔王お嬢様弁護士の事件簿〜  作者: lilylibrary
第6章 お茶会でアレルギー成分を盛られ事故に見せかけられた令嬢ですが、名探偵弁護士が殺人未遂の刑事告訴でライバルを監獄へ叩き込みます
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第28話 科捜研レベルの執念と暴かれたトリック



「所長! 出ました、民間の分析機関から特急料金を三倍積んで回した、例の鑑定結果です!」


帝都の一等地、『九条院法律事務所』の所長室。

パラリーガルの木戸くんが、印刷したての鑑定報告書をバサバサと振り回しながら、血走った目で私のデスクに飛び込んできた。


「見てください、この数値! これ、もはや『うっかり混入』なんてレベルじゃないですよ!」


その背後では、新助手の東陰院麗華様が、優雅に扇子で仰ぎながら「あら、随分と早かったのですわね」と涼しい顔をしている。


「……素晴らしい。このサクサクと何層にも重なるパイ生地と、濃厚なカスタード。そして、中央に鎮座する甘酸っぱい苺の三位一体」


私は、都内の超一流パティスリーから取り寄せた、崩すのが惜しいほど美しい『トリプルベリーのミルフィーユ』に、銀のフォークを垂直に入れた。


香ばしく焼き上げられた極薄のパイが、微かな音を立てて崩れ、中から溢れ出すクリームがベリーの果汁と完璧に混ざり合う。


それを口に運べば、幾重にも重なる食感の地層が、私の舌の上で洗練された真実の物語を紡ぎ始めた。


「所長! 僕が徹夜で分析機関の担当者に『一分一秒でも早く出せ、さもなくばお前の会社のコンプライアンス違反を徹底的に洗うぞ』って脅し……じゃなかった、交渉してきたのに! なんで地層の解説をしながら、苺の甘みに陶酔してるんですか! 鑑定結果を見てくださいよ!」


木戸くんが涙目で、鑑定書の数値を私の目の前に突きつけた。


「失礼ですね。このミルフィーユの地層構造は、隠蔽された事実を一枚ずつ丁寧に剥がしていくための、重要なインスピレーション源ですよ」


私はダージリンティーで口の中をリセットし、木戸くんが持ってきた数値を冷徹な目で見つめた。


「……なるほど。宝生翡翠様のカップの破片と、残された茶葉から検出されたピーナッツオイル。その濃度は、通常の製菓工程で誤って混入するレベルの『五百倍』を超えていますね」


「ご、五百倍……!? それって、もはや事故じゃなくて、確信犯的な『毒盛り』じゃないですか!」

木戸くんの声が戦慄で震える。


「ええ。単なるピーナッツのかけらが紛れ込んだのではありません。意図的に精製された『高濃度ピーナッツオイルの抽出液』が、翡翠様のカップにだけ、ピンポイントで一滴、あるいは数滴滴下されたということです」


「五百倍……オホホホッ! 流石は綾小路の女狐、やることも陰湿ですわね!」


麗華様が扇子をパチンと閉じ、瞳の奥に鋭い光を宿した。


「ですが結お姉様。いくら成分が出たところで、あの女は『ケータリング業者の保管が悪くて、成分が濃縮されたのではないか』とでも言い逃れしますわ。あの方は、面の皮だけは千枚通しのパイ生地より厚いですのよ」


「その通りです。だからこそ、私たちは『誰が、いつ、どのようにして』その毒を盛ったのかという、物理的なプロセスを証明しなければなりません」


私はミルフィーユの二口目を優雅に掬い上げ、黒縁メガネの奥で目を細めた。


「木戸くん。綾小路家のガーデンパーティの会場配置図と、麗華様の記憶、そして業者の証言を突き合わせた結果はどうなりましたか?」


「はい。そこが一番の謎なんです」


木戸くんがホワイトボードに、お茶会のテーブル配置を書き込んでいく。


「業者の証言によれば、紅茶はすべて厨房でポットに注がれ、複数の給仕係によって運ばれました。翡翠さんのカップに誰かが近寄る隙は、理論上、配膳の瞬間しかありません」


「なるほど」


「しかし、給仕係は全員、綾小路家が長年雇っている信頼できるベテラン。買収された形跡もありませんでした」


「……おや。木戸くん、貴方はまだ『ホスト自身の手』を疑っていないのですか?」


私が指摘すると、麗華様がハッとしたように身を乗り出した。


「そうですわ! あの日、お茶のお代わりを勧める際、綾小路麗子は翡翠様のすぐ側に立っていましたわ!」


「でも、麗華様。防犯カメラの映像は『メンテナンス中』で消されているんでしょう? 彼女が何かを入れた証拠なんて……」


「木戸くん。三流の悪役が口にする『カメラはメンテナンス中』という言葉ほど、雄弁に真実を語るものはありませんよ」


私はミルフィーユの最後の一片を口に放り込み、極上のカタルシスに向けて不敵に微笑んだ。


「彼女は、綾小路家の録画サーバーのスイッチを切ったつもりでしょう。ですが、現代のセキュリティシステムは、それほど単純ではありません」


「……えっ? どういうことですか?」


「綾小路家が契約しているのは、帝都でもトップクラスの警備保障会社です。彼らのシステムは、現地のサーバーが停止した場合、即座にクラウドへ異常検知ログと『停止直前までの映像』をバックアップする仕組みになっています」


私はデスクの引き出しから、すでに書き上げてある、裁判所に提出する『証拠保全申立書』の束を取り出した。


「メンテナンス中、つまり『意図的なシャットダウン』が行われた場合、その操作ログと、停止した瞬間の静止画が警備会社のセンターに残っているはずです」


「な、なるほど……! 家の中のカメラは消せても、外の警備会社の記録までは消せなかったってことですか!」


木戸くんの顔に、希望の光が差し込む。


「ええ。そして麗華様、貴女の『お茶会マナー』の知識が、ここでも決定的な証拠を補強します。お代わりの際、ホストが客のカップを一度手元に引く、あの独特の所作……」


「『貴女にふさわしい最高の一杯を』と微笑みながら、カップを僅かに視界から外す優雅な動きですわね」


麗華様が、実演するように扇子を動かしてみせた。


「その『視界から外れた一瞬』こそが、袖口に隠したピペットからオイルを滴下するための、計算し尽くされたデッドスペースです」


私は立ち上がり、トレンチコートの襟を正した。


「木戸くん、裁判官を叩き起こしてでも、警備保障会社に対する『証拠保全』の決定を勝ち取ります。データの削除を指示される前に、物理的に押さえに行くのです」


「出たーっ! 法律という名のカチコミ命令! 今夜も徹夜確定ですね!」


木戸くんが胃薬を握りしめて叫ぶが、その足取りは軽い。


「綾小路麗子。アレルギーという見えない凶器を使い、名門の礼節を隠れ蓑にしたサイコパス」


私は黒縁メガネを押し上げ、魔王としての冷酷な笑みを浮かべた。


「彼女が今まさに、病室で翡翠様に『お見舞い』という名のトドメを刺しに行こうとしているようです。……私たちも参りましょう。真実の地層を剥ぎ取った先に、彼女の絶望する顔を拝みに行くのです」


「オホホホッ! 名探偵お姉様の推理、完璧ですわ! わたくしも、扇子を磨いて待機しておりますわよ!」


「麗華様、その扇子で本当に誰かを叩くのはやめてくださいよ! 傷害罪の弁護をするハメになるんですから!」


賑やかな助手を従え、私は事務所を後にした。


科学のメスと、現行法の暴力。

そして何より、隠蔽しようとした者ほど陥りやすい『記録』の罠。


毒を盛ったその瞬間の『神の目』を手に入れた時、悪役令嬢の優雅な微笑みが、監獄行きの絶叫へと変わるのだ。


次なる舞台は、翡翠様が眠る病院。いよいよ、リーガル・タコ殴り劇のクライマックス、開演である。

お読みいただきありがとうございます!

アレルゲン濃度500倍……もはや「うっかり」で済まされる数値ではありません。

結の「証拠保全手続き(リーガル・カチコミ)」が、警備会社のサーバー室に向けて発動します。


次回、いよいよ病室での直接対決。

勝利を確信して見舞いに訪れた麗子の前に、魔王と武闘派助手、そしてボロボロのパラリーガルが立ち塞がります!

明日の「ざまぁ」が待ちきれない方は、ぜひ下部から【星評価】で応援をお願いいたします!

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