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無愛想な旦那様は、私の『耳』を溺愛しているようです 〜機密情報を囁くだけで、甘いお菓子と安全なベッドが手に入りました〜  作者: 河合ゆうじ


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第257話 教祖の逃走

 配電盤のカバーを固定していた金属のネジが、コンクリートの床を転がる。

 レオニスは革手袋の指先を配電盤の奥へ差し込んだ。

 太いケーブルを掴み、手前に向かって引き抜く。

 接続部が外れる高い音と同時に、青白い火花が散る。

 部屋の隅に置かれた小型スピーカーから流れていた教祖の肉声が、短い破裂音とともに完全に途切れた。


 私は蓄音機の横に立つ。

 金属のレバーを押し込み、出力先の回路を切り替える。

 指先でアームを持ち上げ、レコード盤の溝の上に針を落とした。


 針の先端が盤面の細かい溝を擦る摩擦音が、小型スピーカーから流れ始める。

 続いて、盤面に記録されていた音声が再生される。

 『末端の信徒から集めた浄財の束だ。換金の手配を急げ』

 教祖の声が、ノイズ混じりの音質で出力される。

 『隣国の土地の購入契約が済んでいる。武器の搬入経路が確保でき次第、この街の資産は全て向こうへ移す。暴動が起きる前に私自身が抜け出すルートも確認しておけ』


 私はスピーカーから顔を離し、天井を仰ぐ。

 頭上の階層から伝わっていた群衆の足踏みと祈りの声が、完全に消失している。

 僅かな静寂。

 その後、木製の長椅子が床を滑る摩擦音と、それが倒れて床材に激突する重い音が連鎖して発生した。

 多数の靴底が床を蹴り、祭壇の方向へ向かって殺到する物理的な振動が、天井を越えて私たちの足元の床まで伝わってくる。


 「暴動の集団が正確な位置へ向かったわね」

 私は蓄音機の横から離れ、抱えていたファイルを鞄の中へ戻す。

 留め金を押し込む硬い音が鳴る。

 「祭壇の裏に逃走用の経路が設けられているわ。足音が階段を下りていく」


 レオニスは配電盤から手を離し、部屋の開け放たれた扉へ向かう。

 「地下の合流地点で押さえる」

 彼の靴底が廊下のコンクリートを叩く。

 私も鞄を肩に掛け、彼の背中を追って部屋を出た。


 通路の奥から、上層の暴動の音とは異なる、単独の足音が近づいてくる。

 硬い革靴が床を蹴る音。

 それに伴い、重みのある鞄の角が衣服や壁にぶつかる鈍い音が規則的に鳴っている。


 レオニスは通路が交差する角に立ち止まり、壁に背中を預けた。

 私は彼から距離を取り、通路の壁面に耳を向ける。

 足音が角の向こう側まで迫る。

 荒い呼吸音が壁を伝わって聞こえてきた。


 角から男が姿を現した。

 教祖の白い衣服の裾が乱れ、手には革張りの重厚な鞄が握られている。

 男は前方の通路を塞ぐように立つレオニスの姿を視界に捉え、靴底を床に擦り付けて急停止した。


 男が鞄を胸の前に持ち上げ、引き返すために肩を反転させようとする。

 レオニスが床を蹴る。

 彼の腕が伸び、男の顎の側面を拳で打ち据えた。

 骨がぶつかる鈍い衝突音が地下の通路に響く。


 男の体が横方向へ吹き飛び、壁面に背中を打ち付けた。

 肺から空気が漏れる音。

 男の手から鞄が離れ、コンクリートの床に落下する。

 金属の留め金が衝撃で弾け飛び、鞄の口が開いた。

 中から黄色の光沢を持つ金属の延べ棒と、束ねられた紙幣が床に散乱する。

 金属がコンクリートを叩く高い音が連続して鳴る。


 男は壁に寄りかかったまま床に崩れ落ち、動かなくなる。

 レオニスは拳を下ろし、散らばった金属の延べ棒を見下ろした。


 私はゆっくりと歩み寄り、男の足元に転がった鞄の前に立つ。

 コートのポケットに手を差し込み、手帳と鉛筆を取り出す。

 手帳の表紙を開く。


 「逃走資金の持ち出しを確認したわ」

 私は鉛筆の芯を紙のページに押し当てる。

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