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彼女の「腹ドン」がエッチすぎるので、俺たちの高校生活はカオスになります。  作者: 阿井川シャワイエ
1章 霧島優羽

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番外編2-1 ヒヤヤッコとストレッチ(前編)

「じゃあ先に帰りますね」


「本当にごめんなさい! 失礼します!」


 軽く手を上げ颯爽と教室を出ていく優羽さんと、勢いよく頭を下げたあともチラチラとこちらを気にしながら優羽さんのあとを追う九条さん。


 ヒヤヤッコはそんな2人が消えていった教室の扉をボンヤリと見ていたが、さすがに足音すら聞こえなくなると諦めがついたらしい。

 ゆっくりとこちらを向き寂しそうにため息をついていた。


「……はあー、帰っちゃった……。用事があるんじゃ、仕方ないけど……。今日の趣味研は中止、だよね?」


「いやまあ、2人でやってもらっても、別にいいんだけどな」


 気まずそうに頭をかきながら答えるマコト。

 そうは言うものの……。


「会長までいないんじゃ、さすがにちょっとね」


 帰り支度が終わり、今にも出ていきそうなマコトを見ながら、つぶやく。

 こういう状況は連鎖するものなのか、彼にも用事ができてしまったそうだ。

 5人のメンバーのうち、3人が出席できないのだから中止になるのも仕方が無いだろう。


 ただ正直に言えば肩透かしを食ったような気分ではある。

 今回の趣味研は、俺に「恋人」ができてから初回の開催となるので、同好会のメンバーに優羽さんとの関係を報告しようと意気込んでいたのだ。


 もちろん皆にしてみれば、そんな報告を聞かされても迷惑なだけだとは思うが、俺には下心があった。


 恋人になったといっても、俺と優羽さんの関係はかなり特殊なものだ。

 当然、特殊なままにしておくつもりも無いのだが、彼女の作りだすカオスはなかなかに強力なので、油断すると今の関係がいつまでも続きそうな――なんならむしろ悪化しそうな、そんな予感がある。


 だからこそいざというときのために、同好会の皆の力を借りられるようにしておきたい。

 優羽さんがカオスなことを言い出しても、ヒヤヤッコあたりが「それはおかしくない……?」と疑問を口にしてくれれば、その場のカオスもかなり和らぐはずだ。

 そのためにもある程度の事情は皆にも伝えておこう、そして俺の味方になってくれるよう裏で根回ししておこう――俺としてはそんなことを考えていたのだ。


「そっかあ、中止かあ……」


 今日の趣味研が中止になって落胆しているのは俺だけではないらしく、さっきからヒヤヤッコのため息が止まらない。


「なんだよ、ヒヤヤッコ。妙に残念そうだな。そんなに趣味研が楽しみだったのか?」


「んー、というか、次はストレッチをしようねって優羽ちゃんと話してたから……」


「ああ、そんなことも言ってたな」


「ストレッチかー……」


 俺としてはできれば避けたかったが、結局は女性陣の熱意に負け、押し切られてしまった、アレだ。

 確かにヒヤヤッコはストレッチ推進派だったので、急に中止になって残念がる気持ちも分からなくはない。


「普段は1人でやってるからさ。みんなでやるのも楽しそうだなあって」


 ヒヤヤッコはそう言いながら自分の通学用のバッグを眺めていた。


 こういうとき彼女は露骨に感情が表情に出る。

 残念そうな、しょんぼり顔だ。


「道具とか持ってきてたんだ?」


「んー?」


 バッグを見る彼女の様子から、あるいはと思い聞いてみたのだが、彼女は理解できなかったようだ。

 しょんぼり顔のまま可愛く首を傾げ――時間を掛けてようやく俺の言いたいことが飲み込めたようで、笑顔を浮かべていた。


「ふふっ、別に道具は持ってきてないよ。ストレッチだしね。一応ハーフパンツとシャツを用意したぐらいで……あ、どうせ次回やるだろうし、別にそんなにアレじゃないよ」


 慌てて手をブンブンと振っていたが、「やりたい」が本音なのはさすがに俺にも分かる。


「……ストレッチくらいなら、俺たちだけでやる? 趣味研を2人でやってもいいんでしょ、マコト?」


「まあ、別に構わん……と言いたいが。趣味研としてストレッチをするのは次回にしようぜ。今回はお前ら2人で個人的にやっといてくれよ」


「個人的に?」


 よく分からず聞き返すと、マコトは目を閉じ深々と頷いていた。


「ストレッチはミーティングのときに霧島さんが強烈に推してたからな。初回は本人がいるときがいいだろ」


「あー、なるほど。そうだね」


 確かに提案者である優羽さんにしてみれば、自分が居ないときにやられるのは釈然としないだろう。

 もちろん優羽さんなので根に持つことも無いだろうが、それでも揉め事の種になりそうなことは排除したいというのが、趣味研の会長としてのマコトの判断なわけだ。

 それは理解できる。


 ただ――同好会の活動としてではなく個人的にやるとなると、俺としては抵抗感があった。


 なんといっても俺には彼女がいるのだ。

 いくらヒヤヤッコが昔からの友達とはいえ、女性と2人だけで個人的にストレッチをやるというのはさすがに……。


 なんかちょっと浮気っぽい、というのは俺の考え過ぎか?

 だがこういうのは過剰なくらいに警戒して丁度いいと思う。

 付き合いたてのこの時期は、特に慎重に行動しないと……。


「あれ? 優羽ちゃん?」


「ん?」


 そうやって自分を戒めていると、意外そうなヒヤヤッコの声が聞こえた。

 彼女の視線を追い、教室の入口に目を向ける。


 そこには、長い黒髪に制服姿の大人っぽい美少女が立っていた。

 確かに優羽さんだ。

 軽く息を切らしているところを見ると、慌てて戻ってきたようだが……。


「どうしたの優羽ちゃん? 忘れ物?」


「ええ、まあ、ある意味そうです。帰り際の玲香さんの寂しそうな顔が妙に頭に残りまして。靴を履き替えてるときに思い出しました。今日はストレッチをやるという話をしていたんでしたね」


「う、うん。えっと……?」


「あ、ごめんなさい。参加するために戻ってきたわけではないんです。さきほども言ったとおり、ふがふがの手伝いがあるので」


「だ、だよね……」


 ヒヤヤッコは期待のこもった眼差しを向けていたが、優羽さんに一刀両断され再びガックリとしていた。

 とはいえ優羽さんも、そんなことをするためにわざわざ戻ってきたわけではないだろう。


 様子を見ているとやはりというべきか、優羽さんはヒヤヤッコに優しく微笑みかけていた。


「ただ玲香さん、ストレッチ用に着替えを用意してますよね? それをそのまま持って帰るのはさすがにおもしろくないでしょうし、1つ提案があるんです」


「提案?」


「はい。ナオ君の家でストレッチをしたらどうかなと。今日用事が無いのは玲香さんとナオ君だけですし、丁度いいと思うんです」


「俺の家? なんで?」


 2人の会話に加わるつもりは無かったが、さすがにこれには声が出た。


 下駄箱からわざわざ戻ってきてまでするような提案だろうか?

 なにかイヤな予感がする。


 ――俺と優羽さんの特殊な関係。

 俺がお付き合いしている相手は、正確にいうと優羽さんではなくワルミちゃんということになる。


 これは俺自身が言い出したことではあったのだが、早くも俺の認識はふわふわとし始めていて、内心では「優羽さんと恋人になれた」という浮かれた気持ちがあるのも正直否定できない。


 ただ俺と違い優羽さんは、しっかりと線引きしていた。

 意地になっていると言ってもいいかもしれない。


 俺と付き合っているのはワルミちゃんであり、優羽さん自身は無関係――彼女はそう考えているようだし、ことあるごとに言葉でもそう主張してくるのだ。


 しかも俺とワルミちゃんの関係はあくまで「浮気」で、俺の正式な「恋人枠」は空いているというスタンスを崩していない。

 もちろんそれに関しても俺が苦肉の策として提案し、優羽さんに受け入れてもらった抜け道なので、優羽さんが悪いというわけでも無いのだが……。


 覚悟はしていたつもりだったが、この抜け道を使った代償はやはり大きく、優羽さんには俺の正式な恋人を探そうとする素振りが見受けられる。


 ……これもその一環か?

 つまり、ヒヤヤッコを俺の恋人にしようと画策している……?


 ――とはいえこれはさすがに考えすぎだったようだ。

 俺の動揺を気にした様子も無く、優羽さんは事も無げに答えてくれた。


「なんでって、ナオ君の家ならミライさんがいるじゃないですか」


 その言葉でヒヤヤッコはハッとしている。


「ああ、そっか! ミライさん、そういうの詳しいもんね」


「ああぁーそっかあぁぁ……。ミライさん、そういうの詳しいもんなあぁぁ……」


 苦々しく、うめく。

 ヒヤヤッコと発言内容が被ったが、テンションは真逆になってしまった。


「ど、どうした、ナオ。頭を抱えて」


「いや、なんでもないよ……」


 マコトが心配そうに見てきたのでとりあえずそう返事をしたが、実際はなんでも()()


 子どもの頃から身体が硬かった俺は、ミライさんの指導を受け柔軟体操に取り組んでいた時期があったのだが……。


 あれはいろんな意味で地獄だったなあ……。

 当時は特訓の成果かそれなりに身体が柔らかくなったが、何年も柔軟をサボっているので、また元通りのガッチガチの身体になっているだろう。


「本当はミライさんがナオ君と一緒にこちらに戻ってきたときから、いろいろ教わりたいとは思っていたんです。ただしばらく会ってなかったですし、いきなりそんなお願いをするのも厚かましいかなと遠慮していて。ただ今回はいい機会ですから……」


「うん! 私、ミライさんにお願いしてくるよ! それで優羽ちゃんとヒメルちゃんも一緒にいろいろと教わりに行こう! ううん、趣味研の特別講師として、学校に来てもらってもいいかも!」


「いやいやさすがに特別講師はムリでしょ!」


 一気にテンションが上がっていくヒヤヤッコを遮る。

 この流れは非常にまずい。

 義理とはいえ親が学校に来るのは、遠慮したいところだ。


「いくら生徒の親とはいえ、結局は外部の人間だからね。学校に呼ぶのは難しいと思うよ。それにほら、俺も正直ミライさんが学校に来るのはちょっとさ。授業参観みたいで気まずいし……」


「あ……うん、そうだよね。ごめんナオ君、ちょっと興奮しちゃった。確かに学校に来てもらうのは難しいよね」


 とりあえず最悪の事態は免れたようだ。

 軽く説得しただけで、ヒヤヤッコも落ち着いてくれた。

 とはいえ……。


「――じゃあナオ君の家で、ミライさんの特別授業を受けられないか聞いてくるから!」


 笑顔で優羽さんに頷いているヒヤヤッコ。


 まあ、そういう話になるわけだ……。

 ミライさんが学校に来るよりはマシだけど、皆が家に来るのもちょっとなあ……。


「はい、よろしくお願いしますね。じゃあ、今度こそ帰りますので」 


 そう言って、またも颯爽と帰っていく優羽さん。


 拒否できるタイミング自体はあったはずなのに、あまりの展開の速さに完全に飲み込まれ、いつのまにやらヒヤヤッコがウチに来ることは決まっていた。

 こうなってしまうと、今さら来ないで下さいとも言いづらい……。


「じゃあ、俺もそろそろ帰るかね。姉ちゃんを待たせるとあとが怖いからな」


「う、うん……」


 マコトもそう言って教室を出て行く。

 残されたのは、俺とヒヤヤッコだけ。


 そしてヒヤヤッコは足元に置いていた通学バッグを嬉しそうに胸元に抱えると、笑顔で俺を見てきた。


「じゃあ、私たちも行こっか、ナオ君」


「……うん、そうだね」


 まあミライさんがいるから2人っきりというわけでもないし、そもそも優羽さんの許可があるのだから浮気にはならないか……。


 ……ならないよね?



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