2ー5 はた迷惑な依頼人
「疲れたー」
事務所の扉を開くなり、ハルカは間延びした声を上げ、来客用のソファーに座り込んだ。
しかも、上着のボタンを外し脱ぎ捨てるとそのまま横になり、幸せそうな顔をして口元を歪めた。
余程買い物が楽しかったのだろう。
……何となく腹立たしい。
アルトはそう思いながら出来る限りの皮肉を込めて言ってやる。
「ああ、本当に疲れたな……主に俺が」
アルトは全く聞く耳を持たないハルカにそう言いながら、昼食後の買い物で更に膨れ上がった荷物をテーブルの上に置いた。
その瞬間、
ミシッ……!奇妙な音を立ててテーブルが軋んだ。
「……」
本当に何キロあるんだ?
何度したか分からない問いを頭の片隅でしながら、アリスとリアを事務所の中に入れると。アルトは台所に行き、紅茶と、アレクが貰いものだと言って持ってきたクッキーを並べた。
「気が利くのね?」
「職業病かもしれないけどな」
アルトはリアの言葉に気怠げに答える。
今まで生活してきて、自分で良いと思えた試しがなかったからだ。
「良く気付く男性はモテるわよ」
「俺はモテた試しがない」
「そうなの?」
心底以外そうに言うリア。
アルトは着飾った貴族を見慣れているリアからしても端正な顔立ちをしていた、その為、異性との交流は盛んだろうと思っていたのだ。
「ああ、もしそうじゃなかったら、俺は今こんな所にはいないと思うが?」
「……そうかもね」
リアはアルトの言葉を聞くと一瞬黙り込んだが、すぐにそう言って微笑み、白いティーカップに口を付けた。
優しい紅茶の香りが広がった。
美味しい。それ程高い茶葉を使っている訳では無いのだろうが、純粋にそう感じた。
アルト自身あまり良く思っていない様だが、コレは立派な技術だと、リアは思う。
彼は生き方を変えれば、無限の世界を見れるのだろう。
その気怠げな瞳で。
いや、殆どの人がそうだ、人はありようによって見る世界を変える事ができる、万華鏡のように。
廻って、廻って、廻って。
違う何かを。 でも、私は、リークスフィア・フォン・アルナスは、例え自身が変わったとしても。
「……変えられない」
リアは小さく呟いた。
誰にも聞こえないように。
誰にも……気付かれぬように。
アリスがハルカと話す声が聞こえた。
アルトの溜め息混じりの声が聞こえた。
私の声は……聞こえない。
これで良い。
これで……良い。
夕暮れの光が紅茶をより紅く染めた。
彼女の蒼い瞳はそれを写す。
そして、その彼女を誰かが瞳に写していた。
話しの流れを補完しました。迷惑を掛けてすいません




