2ー4 はた迷惑な依頼人
悩みました。感想とかをくれると嬉しいです。
アルトが露天商から魔法結晶を値切った後、四人は目に付く場所を適当に周っていった。
女性陣は騒がしく、無計画に、そして気が赴くままに商工街を周り、気付けば、後で買えば良い筈の食材や、生活必需品をも大量に買い込み。昼食を取ろうと、以前アルトが友人に教えられた食堂に入った頃には、彼の両手は大量の買い物袋で占有されていた。
一体何キロあるんだ?
アルトは騒がしい店内の隙間を縫うように移動すると、空いている席に着くなり、異常に重い買い物袋を床に下ろし、溜め息をついた。
「さすがに……買いすぎじゃないか?」
溜め息の回数を気にしながら、アルトは自分以外の三人をぼんやりと見回す。
左手にアリス、対面にハルカ、右手にリア、彼女達は特に気にした風も無くメニューに目を落とし、何を注文するかを笑いながら話していた。
それを見ると、何故か自分が馬鹿馬鹿しく思えて、もう一度溜め息をつく。
本当に何回目だ?
ハルカはそれに気付くと、顔を上げ、
「アルト、幸せが逃げるよ?」
「誰のせいだよ」
「誰のせいだろうね?ほーら、早く注文して?私達はもう決めたよ」
半眼で返すアルトに、ハルカは嬉しそうに言った。
アルトはそんなハルカを見て不意に、そう言えば二人一緒に買い物に出たのはいつ以来だろうか?そんな事を思う。
三ヶ月……いや、半年位か?
だが、過去を振り返るにしても、今手元にあるのはアルバムではなく、食堂のメニューだ。
アルトは手早く決めるために、特に考えずにメニューの一番上に書かれたオススメを頼む事にした。
「……おばちゃんの気まぐれ日替わり定食」
なんて優柔不断なメニューだ。
「はい!定食入りま〜す!」
アルトがぼんやりとそんな事を思うと、彼の声を近くに居た男性店員の一人が拾い上げた。
活発そうな店員は笑顔でこちらに寄ってくると、ハルカ達の注文を手際良く聞いて厨房へと駆けていく。
アルトはその後ろ姿を見送った。
五分程経っただろうか?
アルトは相も変わらぬ女性陣の談笑を眺めていた。
暫くの間は会話の内容を把握していたのだが、流石に自分にはついて行けない話題となると、頭で認識する事も面倒になり、今ではぼんやりと眺めるだけだ。
アルトは早く昼食が来てくれる事を祈りながら、不意に、細かな銀細工が施された懐中時計を取り出した。
一目見ただけで分かる程の値打ち物。
装飾を手で弄び、時間を確認しようと何気なく目を落とす、するといつの間にかこちらを向いていたリアと目があった。
「何だ?」
「その時計どうしたのかしら?と思って」
「直球だな」
「周りくどいよりは良いんじゃないかしら?」
「まあな……」
答えに一番困る聞き方でもあるが。
彼は知的好奇心に満ちたリアの瞳から目を逸らすと、逡巡するように当てもなく視線を巡らせ、事も無げに、
「……貰った」
そう言った。
「誰に?」
リアは素っ気ない答えを聞くと、更に好奇心を掻き立てられたのか瞳を輝かせる。
「ハルカにだ」
「ふーん」
「何だ……その目は」
「別に〜何でもないわ」
ニヤニヤと笑うリア、それにアルトは憮然とした顔で、
「言っておくが、別にお前が考えているような物じゃない、これは、ハルカと事務所を立ち上げた時に記念で作ったんだ」
「それじゃあ、ハルカも同じ物を?」
「うん、持ってるよ」
ハルカは鎖を引き、銀色の懐中時計を取り出すとリアに手渡す。
「綺麗……」
テーブル越しに覗き込んだアリスが息を漏らす。
「本当に、それにこれ、リクフィルア製ね」
リアも感心したように銀細工に触れる、見ると、時計の淵に小さく刻印が刻まれているのが分かった。
リクフィルア、伝説の時計職人の名を継ぐ者。
年に数個しか作られない事もあるそれは、時計としての価値だけでなく、宝石、芸術品としての価値も持ち、博物館に飾られていてもおかしくないような物だ。
最近だと、一千万テール以上の値がついた物もあった。
「これなら、冗談抜きにしても百万テール位するかも」
「そんなに高い物なの?」
「ええ、確か百五十万テール位だったと思う」
リアは思い出すように言った。
確か、以前どこかの貴族が、リクフィルアの懐中時計を自慢していた。
「でも、それって幾ら記念でも行き過ぎているんじゃ?」
アリスはそれに怪訝そうに聞いた。
それはそうだ、伝説の時計職人、彼に時計作りを依頼する人間はそれこそ、貴族や富豪といった類だ、こう言ってはなんだが、小規模事務所を相手にするとは到底思えなかった。
「まあ、普通はな」
「うん、普通はね」
「?」
声を揃える二人にアリスは首を傾げた。
「つまり、普通じゃなかったって事でしょ?」
リアは悟ったように笑顔を浮かべた。
「まあな」
「そっか」
アルトの同意を聞くとリアは満足げに頷く。
リクフィルア、彼は気が乗らない時は誰に対しても時計を作る事は無いらしい。
だが、もし彼が本当に認めて作った時計には。
(特別な紋が刻まれている)
リアは時計の感触を思い出す、今まで見た時計には無かった、一文、
『ありがとう』
丁寧に刻まれたその一語を。
「お待たせしました」
丁度その時、昼食が運ばれてきた。
「さ、冷めないうちに食べましょ」
リアはそう言うと手を合わせ自分が頼んだサンドイッチに手を伸ばした。
ウェイアーズ魔導士事務所。
それを営む二人の過去に、少しだけ触れた気がした




