2ー6 はた迷惑な依頼人
すいません、なんか纏まりませんでした。感想とか待ってます。
『魔法は万能では無い』
これは、魔法を学ぶ者が一番始めに聞くことになる言葉だ。
魔法に夢を抱く者の多くは、この言葉を聞くと落胆する。
だが、魔導士に同じ事を聞くと、それは当たり前の事だと返ってくる。
認識の差だ。
魔導士に言わせるのなら、「どんなに魔法が発達し、優秀になったとしても、あくまでそれは技術としてであり、神が行使する奇跡とは根本的に違うものである」こう答えるだろう。
魔導士は魔法を技術として見る。
そうでない大多数の人間には奇跡に写る。
だから、魔法を扱う魔導士は何より現実主義者でなければならない。
それが奇跡であると、他人が信じぬように、自らも信じぬように。
たとえ非情だと、冷酷だと謗られようと。
〜〜〜
「……ふぅ」
リアは魔導士手帳を閉じると軽く息を吐いた。
美しい装丁が施された手帳を傷つけぬよう、注意深く机の上に置くと、壁掛けの時計に目をやる。
現在時刻は六時十三分。商工街での買い出しを終え、事務所に戻ってから約一時間が経過している。
リアはその間、自分が一週間過ごす部屋を整理していたのだ。
まあ、整理したと言っても、ハルカが暇を持て余し、定期的に掃除をしていた為、荷物を運びだしてから、軽い掃除をするだけで随分綺麗になった。その上、事務所の一角にあったこの部屋には、最初からベッドや鏡台といった物が置いてあった為、別段苦労する事はなかったのだ。
まあ、そんな調子で三十分も経つ頃には、すっかり手持ち無沙汰になっていたリアは、前から興味があった魔導士手帳をハルカから借り、今まで読んでいたのだ。
あまり面白いものでは無かったが。ただ……、
「現実主義者」
ハルカから最も縁遠いその言葉が、妙に印象に残った。
矛盾を感じたのだろうか?
リアはハルカの事を考えながら、机の上に置いた手帳をもう一度手に取り、部屋を出た。
ハルカ達に会いたい、何故か強くそう思った。
〜〜〜
「……」
魔法は万能では無い、アルトは右手に銀色の刃を握り締めながらそう思う、いや常々そう思っている。
確かに戦いの技術としては優秀だ、進化の余地も多分に残している。だが。
「夕飯を作れる訳ではない……だよな」
アルトは嘆息した。
事務所で夕飯を作る時には役割が決められている。
献立を決めるのはハルカ達、作るのはアルト。
因みに決めたのはハルカでは無く、アルト自身だ。
以前、ハルカが作った時、魔法研究の一環だとか、好奇心の表れだとか言って黒い何かが皿に盛られた瞬間、アルトはそう言っていた。
「けど、シチューだったのは幸いか」
切って、炒めて、煮込めば良いんだからな
アルトは人参を乱切りにすると、水に浸けた。
その時、
「アルト」
ハルカが台所の入り口からアルトを呼んだ。
魔導士制服の上着を脱ぎ、楽な格好をしている。
アルトはそれを見ると言った。
「どうした?残念だが人参は入れるぞ」
「違う!」
「じゃあ玉ねぎか?残念だがこれも譲れな……」
「だから違う!あ、でも人参は避けてほしい」
ハルカは少し顔を赤らめてそう言った。
「はいはい」
「って、だから違う!真面目な話なの」
「真面目な話?」
アルトは包丁をまな板の上に置くとハルカに向き直った。
ハルカがこう言った前振りをした時はアルト自身無自覚だが、真剣に聞くようにしていた。
「うん、リアの護衛の事なんだけどね、期間は今日を含めて一週間だったよね?」
「ああ」
確かジークはそう言っていた筈だ。思い出しながらアルトは頷く。
「それに、その期間の間、生活の一際を任せるとも言ってたよね」
「ああ、そうだな」
こちらは厳格そうなジークからは想像出来ない、不安げな様子だったのでアルトは良く覚えていた。
「で、何が言いたいんだ?」
「アルトは、私と最初に会った時の事、覚えてる?」
アルトの言葉を聞くと、ハルカは、どこか嬉しそうな、懐かしそうな表情をして言った。
その言葉には聞くと言うより、確認の意が多分に含まれていた。
「忘れる訳がないだろ」
「そっか」
アルトは答える。そう忘れる訳が無かった。
自分にとって、運命を変えた出会いと言っても過言ではなかったから。
だが、アルトは茶化すように肩を竦め。
「深夜に街中で倒れてた女を助けたら魔法使いを名乗ったんだ、忘れる筈がない」
「うん」
「……怒んないんだな」
予想外の反応だった。
「私達しか居ないからだよ、アリス達がいたら攻撃魔法をぶつけてるよ」
ハルカは微笑んだ。
「恐いな」
「なら、言わない事」
「肝に銘じとく」
アルトがそう言うと、少し間が開いてから、ハルカは口を開いた。
「その時の理由……」
「ん?」
「理由、覚えてる?」
「約束、だったよな」
アルトは窓の外に目をやると答えた。
ハルカも、アルトに倣って窓の外を見ると続ける。
「うん、自分の意志を通す事、世界を見詰める事、でも……」
「それをするには自分の世界は、白い世界は余りに小さかった」
繋げるようにアルトが言った。
「うん、だから、私は飛び出した、その時は自分自身、勝手だとも思った」
「後悔でもしてるのか?」
「ううん」
ハルカはそれを聞くと首を横に振った。
「選択をした時、人は選んだ以外の未来を失う、だから後悔する、けど私の未来は選択しなくちゃ変わらなかったから」
「……そうか」
また二人は黙り込んだ。
二人の間が、空気が動く事を拒むように。
だから、アルトはその空気を壊さないように微笑んで言った。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「リアに、見せてあげたいの、私達が見た世界を」
ハルカはもう一度微笑んでいた。
ハルカとアルトの過去の話に少しだけ触れました。後書きまで読んでくれて、本当にありがとう御座います。




