3ー1 誰かの景色
タイトルで悩みました、シリアスっぽいです。
朝は苦手だ。
アルトはベッドから体を起こすと、窓から差し込む光に目を細めた。
どうやら昨日はカーテンを閉め忘れたらしい。
元々、アルトは朝早く起きるのは得意では無い。その上に、昨日は夕食の後、夜遅くまでハルカ達に引き止められていた事もあり寝不足気味でもあった。
妙に体がだるい。もう一度眠ろうかとも思うのだが、アルトは昨日のハルカの言葉を思い出し、目を開いた。
「……ハルカが見た世界」
アルトはベッドから降りると、自室の隅に置かれた刀を手に取り、軽く埃を払う。
もう随分触っていなかった為か、その重みが体に馴染まなくなっているのを感じ、アルトは顔をしかめる。
黒檀の鞘から刀を抜いた。変わっていない。魔法は本当に便利だと改めて思う。
銀色の刃はあの時から時を進む事を忘れたように、美しい波紋を浮かべていた。
刀に水面が写り込むように。
アルトはそれを見て思い出す、刀を振るって生きてきた自分を、護る物は無く、何も考えずに、ただ戦ってた自分を。
そして……、そんな俺をハルカは変えた。
出会いこそ最悪だった気がするが、彼女の真っ直ぐな瞳に写る色彩は、アルトという人間の世界を鮮やかに塗り替えた。
多くの時間を共有した。
馬鹿が付くほどのお人好し、いや大馬鹿が付くほどお人好しは笑って話すが、苦労もした。
だが、それに後悔はしていない。
俺もハルカと同じだった、動かなければ未来は変わらなかったから。
だから俺は、今という時を得たことを感謝している。
ハルカに。
ハルカの世界に。
人が起こせる奇跡に。
○
アルトは刀を鞘に納めると、身支度を済ませ、すぐに着替えを始めた。
クローゼットを開け、中から適当な衣服を選び出し、自分の髪と同じ黒いコートを羽織る。
ふと鏡を見ると、最近切っていない長髪がだらしなく思えたので、紐で括っておく。
それから十分程で全ての準備を整えたアルトは最後に、先程置いた刀を腰に差した。
必要だと思ったから、それ以外の理由は無い。その筈だ。
アルトは自宅である下宿を出ると、丁度対面にある事務所の看板を声に出さずに読み上げた。
ウェイアーズ魔導士事務所。
そこが俺の居場所。
知らない内にアルトは口元を綻ばせていた。
『見せてあげたいの私達が見た世界を』
彼女の言葉を思い出しながら。




