2ー2 はた迷惑な依頼人
男はジークと名乗ると、今回の依頼について一通りの事を話した。
大まかな内容はこうだ。
事の始まりは三日前。
王宮の、それもリークスフィアの私室の前に置かれた一通の手紙。
差出人の欄にルファール・エル・シエルと書かれたそれには、リークスフィアを十日後に誘拐すると、そう記されていた。
王宮に誰にも気付かれずに侵入し、手紙を残し、去る。
本来不可能な筈のそれが起きた結果、当然王宮は混乱した。
結果、内部に犯人が居る可能性や、十分な指揮を取る事が出来るかを懸念し。
外の魔導士にリークスフィアの保護を依頼するという結論に至る。
幾つかの魔導士事務所を候補に吟味をしていた所、偶然にもウェイアーズ魔導士事務所が営業停止となった事を知り。裏を掻くという判断から依頼を任せようと赴いた。
「……という訳だ」
「なる程」
話を全て聞き終わると、椅子に腰掛けたまま、アルトは言った。
「君達には生活の面も含めて、今から一週間の間、姫様を保護して貰いたい」
ジークは今まで変化する事の無かった表情を少しだけ歪めた。
不安、そんな色が見て取れる。
身分が証明されているとは言え、自らの主を見知らぬ人間に託すのだ、不安にならない筈が無いだろう。
「分かりました、姫様は私達が責任を持ってお守りします」
ハルカはそれを気取り、明るく、不安をかき消すように言った。
「感謝する」
「感謝されます」
茶化すような声、それにジークは少し安堵のしたように、ハルカに背を向けるとリークスフィアに向き直った。
「姫様」
「ジーク、まだ暗い顔をしてる」
「そう、でしょうか……」
「ええ」
姫様の前で、不甲斐ない。
リークスフィアの言葉に、ジークは表情を曇らせた。
「でも大丈夫、心配は無用だわ」
「ですが……!」
「私が言うのだから」
リークスフィアは軽くウィンクをして笑う。
彼女はこういう人だ。
ジークはそれに一瞬目を奪われ、俯くと、微笑んだ。
「そうですね、姫様がそう仰るなら、きっと」
「勿論よ」
ジークはその後リークスフィアと二言三言話すと、事務所の扉の前で振り返り。
「姫様を頼む」
そう言って、商工街の人混みに消えていった。
ハルカはジークが視界から消えるまで見送ると、リークスフィアを覗き込む。
「それじゃあ、リークスフィア様、中に入りましょうか?決める事もありますし」
「リア・フィーレル」
「え?」
「私を呼ぶ時はそう呼んで、その代わり、私もハルカと呼ぶから」
リークスフィア、いや、リアは悪戯っぽくハルカに笑いかけた。
「うん、リア!」
「宜しい」
二人は笑いあうと事務所の中へと入った。




