1ー3 魔法使いの日常
王都アルフィールは広い。
それは、今更確認するまでも無い事実だ。
中央大陸の中西部に位置するアルナス王国の首都である、アルフィールの総人口は約二十万人。
王城を中心に幾つもの街路や、均整の取れた街並みによって円を描くように広がる王都は、計算されて創られたモニュメントのようにも見える事と、長きに渡り諸外国に平和を訴え続けてきた初代アルナス国王、カイウェル・フォン・アルナスに敬意を表し、大陸平和の記念碑とも呼ばれ。
商人や観光客と言った活気を求める者達が集まり、常に総人口の二倍近い人間が滞在している。
それ故に、この街で一人の人間を探すというのは非常に困難、いや、何の力も持たない人間には、それこそ神の奇跡が味方をしない限り不可能な事だと言えた。
「さて、どう探すかだな」
ハルカの「ひとまず落ち着いて話しの出来る場所に」という発案から、少年−クロアと名乗った−を連れて事務所に戻って来るなりアルトが言った。
ハルカ達の目的は広大な王都からクロアの母親を日暮れまでに探し出し、二人を再開させる事だが。
時計を見ると、日が落ちるまで後三時間程度しか時間は残されていなかった。
「そうね……」
ハルカはアルトの言葉に少し考えるような仕草をすると、頭の中から自分が使える魔法の一つを選び出し、躊躇無く空中に手を踊らせた。
空間刻印形式と呼ばれる魔法構築法だ、理を成す魔力を軌跡として幾重にも重ね、術式を完成させる、三大詠唱法の一つ。
ハルカは二秒と経たずに魔法を組み上げると、クロアに声を掛けた。
「クロア、どんな事でも良いからお母さんの事を教えて?」
「えっ?どんな事でも?」
クロアは首を傾げて不思議そうに言った。
「そう、どんな事でも、髪の毛の色や瞳の色、背が高いのか?低いのか?何でも」
「……うん、分かった」
クロアは戸惑ったようだが、ハルカに言われた通りに一つずつ、母親の事を話し始めた。
夕日みたいに赤い髪をしている事。
夜空みたいに綺麗な黒い瞳をしている事。
自分より頭2個分も背が高い事。
クロアは楽しそうに話した、次第に母親の自慢になっていくそれを、ハルカは嬉しそうに聞きながら、術式を書き加えていく、そして。
「うん、コレでいいかな」
宙に浮く光の術式を見ながらハルカは満足気に頷いた。
「これは……探査魔法か」
「うん、クロアのお母さんの情報を出来うる限り入力したから、恐らく誤作動は起きない筈だよ、まあ、詰め込みすぎて範囲がちょっと小さくなっちゃったけど……」
覗き込むアルトに、ハルカは照れたように返した。
ハルカの正面で輝く、光で構成された術式。
探査魔法と呼ばれるそれは、術式に入力された情報を元に、探査領域内に入った物質を判別する魔法だ。
本来は鉱脈や水脈と言った資源を確認する為に作られたものだが、何かを探し出すといった点では、正しい使い方をしていると言えるだろう。
「で、範囲が狭まったって言ったがどの位だ?」
アルトがそう聞くと。
「えっ!?……その……」
ハルカは目に見えて狼狽し、決まりが悪そうに口を動かすと、本当に小さく言った。
「半径……十五メートル位……?」
「構成し直せ」
一刀両断。
円周上に回るだけで五時間以上もかかる街を半径十五メートルの範囲で探す。
はっきり言って無謀だ。
「だ……だってこれ以上精度を下げたら誤作動で探すどころじゃないの!ほら、時間ないんだからいくよ!クロアも!」
「あ、はい!」
ハルカは誤魔化すようにまくし立てると、魔法結晶に術式を封じ込めてポケットに放り込み、クロアの手を引いて部屋を飛び出した。
窓の外では日が西の空に傾き始めていた。




