1ー2 魔法使いの日常
事務所に外付けされた階段を下り、雑然とした商工街の通りに出る。
昼夜を問わず、人々が忙しなく行き交う往来を横目に視線を巡らせると、目的の人物は直ぐに見つかった。
魔導士制服というのはただでさえ目立つ上に、本人は自覚しているかは知らないが、ハルカ自身が人目を惹く容姿をしている為でもある。
「一体何を見つけたんだ?」
アルトは人の流れを避けながらハルカの背に近づき、彼女が見ていたものを覗き込むと、一瞬、怪訝そうな顔をして言った。
「迷子か?」
「うん、お母さんとはぐれちゃったんだって」
アルトの問いにハルカは振り返らずに答えた。見れば、ハルカの前で少年が俯いているのが分かる。
泣いていたのだろう。
ハルカが声を掛けたおかげか大分落ち着き、嗚咽は収まってきたようだが、まだ顔を上げられ無いようだった。
「そうか」
アルトは呟くように言った。
実は、このように親とはぐれる少年というのは別段珍しいものではない。
ハルカ達が暮らす王都アルフィールは、只でさえ人口が多く、街を訪れる商人や観光客も多い。
その上、市街区を分けるように枝分かれした複雑な街路や、均整の取れた街並みによって構成される王都は、大人ですら時に方向感覚を狂わせ、王都を知らない人間が目的も無く街に入れば、ほぼ確実に迷うとまで言われているからだ。
「この子ね、今日の夕方にはお母さんと一緒に王都を発つんだって」
ハルカは俯く少年を見つめながら、まるで自分の事の様に、憂いを含んだどこか優しい声で言うと、ゆっくりと手を伸ばし、
「うっ……っ……え?」
少年の頭を撫でた。
母親のように、愛しいものを護るように。
少年はハルカに撫でられると、驚いたように体を震わせたが、すぐに安心したように伏せていた顔をゆっくりと上げた。
受け入れられたのだろう。
子供というのは本能的に自らを庇護してくれる人間を選ぶ、つまり、ハルカは少年のそれに適ったという事だ。
「で、お前はこの子の母親を探してあげたいと?」
アルトはそれを見て苦笑したような表情を浮かべてハルカに問う。だが、あくまで問うだけだ、アルトはこの問いに意味があるとは微塵も思っていなかった、なぜなら、
「当然!人を幸せにするのが『魔法使い』の仕事だからね」
彼女は魔法使いだと誰よりも理解しているからだ。
ハルカは一瞬だけ振り返るとアルトに微笑み、少年の手を取る。
そして、太陽のように笑いながら言った。
「大丈夫、私が絶対にお母さんを見つけてあげるから!」
ハルカの言葉に少年は微笑みを浮かべて頷いた。




