4ー2.5 『少女』の一番長い日
誰かが動いているシーンは難しいです。
夜の闇、灰色の雨、昏い街に落ちる深い影は、闇を払う魔法灯の明かりを、食い潰そうとしている様にも見える。
儚くも必死に抗うそれは、彼女のように思えた。
「リア」
アルトは呟くと、握り締めた魔法結晶に目をやり王都を駆ける。
もう二時間近く経っただろうか? 何時の間にか時間の感覚が曖昧になっていたが、懐から取り出した時計だと、後二十分はあった。
「やはり、見つからないか……」
広大と言って差し支えない王都アルフィール。一人の人間が、一人の人間をこの街から探し出すには、それこそ奇跡が味方をしない限り不可能なのかも知れない。
数学者がこの不可能を計算したら、はじき出される確率は一体どの程度なのだろう。
いや、考えるのは無意味だ。
アルトは頭に浮かんだ確率論を早々に破棄した。必要無い、いや考えるまでも無い。
陳腐な台詞かも知れないが、奇跡は起こすもんだ。ハルカなら間違いなくそう言うだろう。
もう整理は着いてる。
アルトは外套を被り直し、事務所に向かって駆け出した。
この闇を越え、声と想いが彼女に届く時を祈りながら。
○
街を覆う闇は深さを増していた。
白石造りの建物の影は、日を受けて輝く事無く街を覆う。
石畳を濡らす雨は、既に浸ると言った方が適切な程だった。
「私は……」
窓越しに見えるのは変わらない景色だ。でも私は変わろうとしている。
私の見る景色は変わろうとしている。明るくはないし、後悔が深い何かを落としそうだとも思う。
「そんな事、考えても無かったな……」
だから少女は願った。彼女達がこの場所に光をもたらし、道を照らしてくれる事を。
窓ガラスに触れると、自分の背後に誰かが居る事に気付いた。振り返る。
厚手のローブ、目元まで隠れてしまうそれを被った男がリアの背後に立っていた。魔法灯の明かりが深い影を生み出し、どこか不気味な印象を受けた。
自分もこの中では似たように映るのかも知れないが。
「失礼します姫、それとも、リアの方が宜しいですか?」
「どちらでも構わないわ、もう直ぐ呼び方も限られるのだから」
男の言葉に応じると、リアはブロンドの髪を返し、窓の外をもう一度だけ見た。
「お……いて」
それだけ言って、リアは男の後に着いて行く。
悲しげな表情を浮かべた彼女の手には、光の欠片が握られていた。
○
何時だったか。こんな気持ちになったのは。
地面を蹴り上げる度、踵から弾けた水が宙を舞った。
肌に触れる黒い雨粒が体温を奪っていくのが分かった。
視界は殆ど無い、只空虚な闇が広がっている。
私は走っていた。リアを探して。
ハルカは一度屋根の下に入ると、懐中時計を見た。アルトと約束した時間までもう十分も残されていない。
つまり、後二時間でリミットだ。
ハルカは懐中時計を懐にしまい込み、息を吐く。まだ時間はある。
諦めるには、絶望するにはまだ早い。
だって、アレクさんやアリスも、リアの為に動いてくれた。
それは彼女が自分達にとって大切で、もう諦められなくて。大好きだから。
「誰かの泣き顔なんて見たくないよ、リア」
ハルカは事務所に向かって走り出した。
リアの声が聞こえた気がした。
あとがきまで読んでくれる人に感謝です!感想とかくれたら嬉しいです。




