4ー2 『少女』の一番長い日
最近スランプ気味で、更新が遅くなり申し訳ないです。
黒を基調とした魔導士制服、術式を刻んだその上に幾つかのベルトを巻き、ホルダーに魔導具を固定する。
体を縛り付けるように複雑に絡み合うそれは、それ自体が術式を構築、巨大な魔法を制御し、遮断する役割を果たす。魔導士にとって文字通りの鎧であり、武器だ。
制服に刻まれた術式は元々鎧を構成する意味合いが強く、普段は只の装飾と大差は無いのだが、それを知る者は殆ど居ない。
ハルカは鏡を見ながら術式を再度確認し、制服の上に外套を羽織る。
そう言えば、最後に鎧を構築したのは何時だったか、そんな事を一瞬頭の隅で考えた。
アルトが居なくなった時? アリスが誘拐された時?
混乱してるのか、あまり良く思い出せ無い。
まあ何にせよ、鎧を使うのは大切な物を取り戻す時。それだけ分かっていれば良い。
「……失ったりなんかさせない」
彼女にとって、鎧を纏うのは覚悟の表れなのだから。
扉を閉める音が妙に大きく聞こえた。
大気を揺らす雨音、時を刻む秒針の音、煩わしいそれらを破るように、扉が開かれた。
魔導士制服に上乗せされた術式、一般に鎧と呼ばれる装備を纏い現れたハルカは、アルトの視線に応えるように微笑むと、ゆっくりと手を上げた。
「お待たせ」
「待たされた」
アルトも苦笑混じりにそう返すと、ソファーから立ち上がり、気怠げに、だがしっかりとした足取りでハルカに歩み寄る。
準備は整えた。心構えもある。
アルトは鞘を握る手に、一瞬だけ力を込めた。
「……行くぞ」
「うん」
二人は頷き合った。
アルトが先頭に立ち、扉に手を掛ける。雨に身を晒そうと足を踏み出した、その時、
「……間に合ったか」
「アレク?」
魔導士協会事務員、アレク・カルハースが荒い息を吐きながら扉を押さえた。
余程慌てていたのか、外套も羽織っていない彼の全身は、雨に濡れたというより、川にでも落ちたという方がまだ信じられる様相だった。
「お前、何で此処に……」
「騎士団が騒いでるって言ったろ……、豪雨とは言え、夜間の警備体制が厳しすぎる。オマケに汽車も、乗り合い馬車も運休にならない」
アレクは息を整えながら、一つずつ理由を纏めると、アルトの顔を見て呟いた。
「一応、アリス・ルミリアにも伝えたが、つまり、そういう事だ」
「なる程……、で、アレクはわざわざ力を貸しに来たと? クビを覚悟で?」
「いや、偶然だ」
「そうなんですか?」
「貴女に力を貸しにきました!」
「人の厚意を無碍にするな!」
アルトはハルカの手を握るアレクを鞘で殴打する。鈍い音と共にアレクがうずくまった。
「アルト!」
「ハルカ、自分に正直に生きるってのは大事だと思うけどな、行き過ぎは良くないんだ」
遠い目をして、明後日の方向を向くアルト。
かなり容赦のない一撃だったのだが、アレクはそれなりに丈夫なので問題無いだろう。
まあ、こんな事をしている場合では無いとも思うのだが、幾分か緊張が和らぐのを感じると、うずくまるアレクを見下ろした。
「アレク、助かった」
「そうかい……、一応、乗り合い馬車は六時半、機関車の始発は七時だ」
「後四時間……だね」
「そんだけあれば十分だ」
アルトははっきりとそう告げると、事務所を飛び出し、商工街の地面を蹴った。
石畳を濡らしていた雨が弾ける。
「先に行くぞ、見つからなかったら二時間後に此処で落ち合おう」
「うん、けどその前にアルト! 忘れ物!」
ハルカはアルトに応じながら、魔法結晶を放り投げた。彼女の手から離れた魔法結晶は放物線を描き、アルトの手に握られた。
クロアの母親を探した時に使ったのと同種の魔法が込められたそれを、確かめるように懐に収めると、アルトは夜の街を駆け出した。




