↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/25

3ー6 誰かの景色

頑張って書きました!


「……結構強いな」

 窓際に立つアルトは、休み無く打ち付ける雨を見て、鬱陶しそうに呟いた。

 窓ガラスが声に合わせたように何度か揺れる。

 アルトの予想通り、その日の夜は雨だった。

 それも、雨季を離れたというのに近年稀に見る大雨だ、数日は降り続くらしい。

 アルフィールでは、大雨によるシルム大河の氾濫が心配されたが、魔導士が堤防役として数人派遣されたというので、恐らく問題は無いだろう。

「うん」

 ハルカは手元の娯楽小説に目を落としながら、アルトの声に無意識で返した。

 小説を手にとったのは只其処にあったからだ。その証拠に、視線は羅列された文字を認識していない、一時間近く同じページを眺めているだけだった。

 静かだった。街に霞が掛かり、窓から見える商工街に何時もの賑わいは無い。

 石畳を打ち付ける雨の音、窓ガラスを揺らす風の音が部屋の空気を重くしているのを感じ、ハルカは小説を置いて席を立つ。

 暖かい紅茶でも淹れよう、そう思った。あまり人には言わないが、アルトは甘党だから砂糖を沢山入れて。

「ハルカ」

 席を立つとアルトが振り返って声を掛けた。

「何? アルトはミルクティーの方が良い?」

「いや……リアの、様子は?」

 アルトは少し目を伏せ、言いよどんだ。。

 気になっていた、しかし、言い出せなかった。

 あの後、ローブの男が姿を消したのを確認した。ハルカが治癒魔法を使い、怪我の類は勿論、呪術的なモノ、所謂呪いにも対処した。何の問題も無かった。

 だが、あの後事務所に帰って来ると、リアは気絶したかのように『眠った』そして未だに目を覚まさない。

 打てる手は打った、それでも、原因は不明だった。

「まだ……、だよ」

「そうか……」

 ハルカの返答は分かっていた。ただ、聞かずにはいられなかった。

「大丈夫、きっとすぐに目を覚ますよ」

「……ああ、そうだな」

 信じて待つ、今出来るのはそれだけだった。

 暫くすると、ハルカが二人分の紅茶を木製の盆に載せて運んで来た。アルトは白い湯気が立ち上っているのを見て、大分冷え込んでいるのに気付くと、呟いた。

「寒いな」

「うん、はい紅茶、砂糖は多めで良いよね?」

 ありがとう、アルトはそう礼を言って、カップに口を着ける。

 何度か紅茶を口に運ぶと、アルトはカップを机の上に置き、ソファーに掛けてある毛布を引っ張った。

 毛布のシンプルな白い布地は暖かみを感じる。

「リアに持っていくの?」

「寒いからな」

「そう、変な事しちゃ駄目だよ?」

「するか」

 悪戯っぽいハルカの声にアルトは気怠げに返し、扉を開いた。

 廊下に出ると、冷たい空気が肌を刺した。リアの部屋は廊下の突き当たり、つい最近まで物置に使われていた部屋だ。

「リア、入るぞ?」

 アルトは軽くノックをして、扉を開いた。

 柔らかい匂いと共に、淡い魔法灯の光で、部屋の様子が浮かび上がる。部屋は綺麗に整頓されていた。

 タンスに鏡台、小さめのテーブル、シンプルなカーテンと、部屋の中心に置かれたベッド。リアはそのベッドの上で柔らかい寝息を漏らしている。

 その顔は王女と少女、どちらのモノなのか。少なくとも自分には分からない気がした。

 早く戻ろう、そう思い、アルトは毛布をリアに掛ける。そして、ふと悲しそうに笑った。

「大事にしてるんだな」

 アルトの瞳に映っているのはリアの胸元で光る水晶だ。リアに渡した魔法結晶。

 ペンダントトップにはめ込まれ、細部にまで丁寧な装飾が施されている。恐らく、ハルカとアリスがやったのだろう。意外とアリスは器用だから。

 アルトは出来る限り明るく笑うと、ペンダントに触れた。

「もう一度、プレゼントだ」

 その言葉と同時に光が水晶に集まり、満たした。

「お休み、リア」

「……ん」

 部屋を出るアルト、何となくリアの声が聞こえた気がした。


○


「……ありがとう、ごめんね……」

 涙で声が上手く出せなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。