3ー6 誰かの景色
頑張って書きました!
「……結構強いな」
窓際に立つアルトは、休み無く打ち付ける雨を見て、鬱陶しそうに呟いた。
窓ガラスが声に合わせたように何度か揺れる。
アルトの予想通り、その日の夜は雨だった。
それも、雨季を離れたというのに近年稀に見る大雨だ、数日は降り続くらしい。
アルフィールでは、大雨によるシルム大河の氾濫が心配されたが、魔導士が堤防役として数人派遣されたというので、恐らく問題は無いだろう。
「うん」
ハルカは手元の娯楽小説に目を落としながら、アルトの声に無意識で返した。
小説を手にとったのは只其処にあったからだ。その証拠に、視線は羅列された文字を認識していない、一時間近く同じページを眺めているだけだった。
静かだった。街に霞が掛かり、窓から見える商工街に何時もの賑わいは無い。
石畳を打ち付ける雨の音、窓ガラスを揺らす風の音が部屋の空気を重くしているのを感じ、ハルカは小説を置いて席を立つ。
暖かい紅茶でも淹れよう、そう思った。あまり人には言わないが、アルトは甘党だから砂糖を沢山入れて。
「ハルカ」
席を立つとアルトが振り返って声を掛けた。
「何? アルトはミルクティーの方が良い?」
「いや……リアの、様子は?」
アルトは少し目を伏せ、言いよどんだ。。
気になっていた、しかし、言い出せなかった。
あの後、ローブの男が姿を消したのを確認した。ハルカが治癒魔法を使い、怪我の類は勿論、呪術的なモノ、所謂呪いにも対処した。何の問題も無かった。
だが、あの後事務所に帰って来ると、リアは気絶したかのように『眠った』そして未だに目を覚まさない。
打てる手は打った、それでも、原因は不明だった。
「まだ……、だよ」
「そうか……」
ハルカの返答は分かっていた。ただ、聞かずにはいられなかった。
「大丈夫、きっとすぐに目を覚ますよ」
「……ああ、そうだな」
信じて待つ、今出来るのはそれだけだった。
暫くすると、ハルカが二人分の紅茶を木製の盆に載せて運んで来た。アルトは白い湯気が立ち上っているのを見て、大分冷え込んでいるのに気付くと、呟いた。
「寒いな」
「うん、はい紅茶、砂糖は多めで良いよね?」
ありがとう、アルトはそう礼を言って、カップに口を着ける。
何度か紅茶を口に運ぶと、アルトはカップを机の上に置き、ソファーに掛けてある毛布を引っ張った。
毛布のシンプルな白い布地は暖かみを感じる。
「リアに持っていくの?」
「寒いからな」
「そう、変な事しちゃ駄目だよ?」
「するか」
悪戯っぽいハルカの声にアルトは気怠げに返し、扉を開いた。
廊下に出ると、冷たい空気が肌を刺した。リアの部屋は廊下の突き当たり、つい最近まで物置に使われていた部屋だ。
「リア、入るぞ?」
アルトは軽くノックをして、扉を開いた。
柔らかい匂いと共に、淡い魔法灯の光で、部屋の様子が浮かび上がる。部屋は綺麗に整頓されていた。
タンスに鏡台、小さめのテーブル、シンプルなカーテンと、部屋の中心に置かれたベッド。リアはそのベッドの上で柔らかい寝息を漏らしている。
その顔は王女と少女、どちらのモノなのか。少なくとも自分には分からない気がした。
早く戻ろう、そう思い、アルトは毛布をリアに掛ける。そして、ふと悲しそうに笑った。
「大事にしてるんだな」
アルトの瞳に映っているのはリアの胸元で光る水晶だ。リアに渡した魔法結晶。
ペンダントトップにはめ込まれ、細部にまで丁寧な装飾が施されている。恐らく、ハルカとアリスがやったのだろう。意外とアリスは器用だから。
アルトは出来る限り明るく笑うと、ペンダントに触れた。
「もう一度、プレゼントだ」
その言葉と同時に光が水晶に集まり、満たした。
「お休み、リア」
「……ん」
部屋を出るアルト、何となくリアの声が聞こえた気がした。
○
「……ありがとう、ごめんね……」
涙で声が上手く出せなかった。




