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第37章 王城浄化作戦②

 数刻後。


 国王アルヴァリオン。

 第一王子リクター。

 リンデール公爵。

 無理やりつれてこられた第二王子ルクレイン。


 そして、騎士団と魔法師団の最高幹部たちが、テーブルの中央の一枚の紙を重々しく囲んでいた。


『お前はうんこ』


「…………」


 誰も口を開かない。


 この国の運命と歴史を背負う最高権力者たちが。

 この世の真理を解き明かそうとするかのような、真剣で鋭い眼光で、汚い字で書かれた情けない紙切れを穴が開くほど見つめている。

あまりにも不条理で異様な光景であった。


 最初に重苦しい沈黙を破ったのは、アルヴァリオンだった。


「……ルクレイン」


「何だよ」


「これは……何だ」


「見りゃ分かるだろ字くらい読めよ」


「そういうことを聞いているのではない!!」


「嫌がらせ」


「…………」


「デゴイの髪型とツラが激しくウザかったから、背中に貼った」


「…………」


「鼻くそで」


「余計な真実まで生々しく言わんでいい!!」


「親父が聞いたんだろ!!」


 リクターは、その紙を穴が開くほど見つめながら思考を巡らせていた。


「ルクレイン。これを貼った直後、例の『神なる権能』が発動したのだな?」


「まあ……そう」


「そして、デゴイ伯爵の魔族たる擬態が強制解除された」


「……そうだけど」


「ならば――」


 リクターがバッと顔を上げた。その瞳には狂信的なまでの光が宿っている。


「この『聖なる浄化の札』を使えば、城内に潜伏している全魔族を漏れなく炙り出せる!!」


「は?」


 ルクレインが心底嫌そうな顔をした。


「『聖なる浄化の札』!?……狂ったか兄貴!?」


「試す価値は十二分にある!」


「これを!?」


「そうだ!」


「『お前はうんこ』を!?」


「そうだ!!」


「正気かよ兄貴!!? これを貼っていくの!!?」


「国家の存亡がかかっているのだ!!」


「国家の存亡をうんこに託すなよ全責任が重すぎるだろ!!」


     *


 その日の午後。


 王城正門前の大広場には、王国の歴史上もっとも狂気じみた地獄絵図が広がっていた。


 近衛騎士。文官。使用人。商人。大貴族。その従者。

現在王城内にいる者、および出入りする全人間が、身分や階級を一切問わず、見渡す限りの長蛇の列を作らされていた。


 そして。

その長蛇の列の最先端には――。


「次ーーー」


 長椅子へ骨がないかのようにだらしなく腰掛けたルクレインがいた。


 その手には。


『お前はうんこ』


 国家の命運と尊厳をその身に背負わされた、たった一枚の紙切れ。


「…………」


 集められた名門貴族たちは、露骨に不快感と疑惑に満ちた顔を浮かべていた。


「何なのだ、あの馬鹿げた催しは……」

「魔族を絶対に見破る秘術の検査らしいぞ」

「あれが!? ただの汚い紙切れではないか!」

「第一、何だあの破廉恥極まる不敬な文言は!」

「我々大貴族を愚弄して楽しんでいるのではないか!?」


 不満と怒りの怒号があちこちから漏れている。


「次」


 一人目の大貴族が、極めて不機嫌そうにルクレインの前へ進み出た。


「額出せ」


「は……? 何を言って――」


「いいから出せって」


 ルクレインが、札の裏を無造作に見る。


「あー……鼻くそ乾いてくっつかねえわ」


 ルクレインが、己の鼻へ指を伸ばしかけ――ピタッと止めた。


「……いや待て。こんだけの人数分ほじってたら、俺の鼻の穴がガバガバになって物理的に崩壊するわ」


「…………」


「唾でいいや」


 ぺろっ。


「なっ!???」


 ルクレインが、堂々と札の裏を舌で舐め回した!!


 ペタッ!!


 貴族の額の真ん中に、強烈に叩きつける!


『お前はうんこ』


「…………」


 数秒。何も起きない。


「はい、人間。次ーーー」


「ちょ、ちょっと待ちなさいーーーッ!?」


 貴族が悲鳴をあげて慌てて札を剥がす!


 ベリッ!!


「うわぁぁぁぁッ!?」


 剥がされた額には、ルクレインの唾液がべっとりと光を反射して残っていた!


「き、汚汚汚汚汚いッ!! 何なのですかこれはぁぁぁッ!?」


「唾」


「分かっておりますッッ!!」


 高級ハンカチで額を死に物狂いで拭いながら、貴族が号泣して退いていく。


「次ーーー」


 ぺろっ。


 ペタッ!!


「はい、人間」


「くっっっっさ!!????」


「失礼だな、お前!!」


「臭いものは臭いでしょうがぁぁぁッ!! なぜ王子の唾を額に塗りたくられねばならんのですか!!」


「朝ちゃんと歯ぁ磨いたわ!! 口臭じゃねえよ! 精神的ダメージの臭いだろ!!」


「そういう問題ではございません!!」


「じゃあ嗅ぐなよ!!」


「額についているから鼻に入ってくるんです!!」


「知らねえよ! 次!!」


 ぺろっ。


 ペタッ!!


「人間」


 怒涛の勢いで検査が進行していく。

しかし、一向に何も起こらない。


「……本当に、このような狂気じみた作業に意味があるのか?」


 列の中から、爆発寸前の不信の声が上がった。


「そうだ! 私も騙されているとしか思えん!」

「ただ第二王子殿下に、公然と唾をつけられているだけではないか!」

「デゴイ伯爵の件も、単なる偶然か自作自演だったのでは!?」

「我々を辱めてストレス発散をしているのではないか!?」


「俺だって意味分からずやってんだよ!!」


 ルクレインがキレて怒鳴り散らす。


「好きで人の額に唾つけまくるバイトやってんじゃねえぞバカ野郎!!」


 その時であった。


 一人の男が、大威張りで列の先頭へ躍り出た。

四十代半ばほどの大貴族。鼻を高く突き上げ、ルクレインをあからさまに見下した蔑みの笑みを浮かべている。


「ルクレイン殿下」


「あ?」


「本当に、このような惨めな愚行に何の意味があるとお考えなのですかな?」


「俺に聞くな」


「魔族を見破るために『お前はうんこ』ですか」


 男が、あざ笑うように鼻を鳴らした。


「実に……無能で高慢な殿下らしい『お戯れ』ですな」


「はいはい。能書きはいいから額出せ」


「まったく。こんな馬鹿げた子供騙しの紙切れで――」


 ぺろっ。


 ペタッ!!


【☠ 悪口スキル発動】


「…………」


 ルクレインの目が点になった。


「え?」


「ぐ……っ!???」


 男が、突如として自分の顔面を両手で覆った!


「な……何だ……!? 顔が……熱……!?」


 ぐにゃり!!


人間の顔面が、まるで溶け落ちる粘土のように歪んだ!


「ひっ……!?」


皮膚が波打ち、ドロドロと崩れ落ちる!

その崩れ去った仮面の下から、漆黒の角と異形の悪魔顔が飛び出した!


「ギィィィィィッ!!」


「魔族だーーーーッ!!」


「本当に出たぁぁぁぁぁッ!!」


ガシャンッッ!!


周囲を固めていた近衛騎士たちが、一斉に剣を抜いた!


「捕らえろーーーーッ!!」


ドドドドドドッ!!


数人の重装騎士が弾丸のごとく飛びかかり、暴れる魔族を床へ叩き伏せて魔法封じの鎖を叩き込んだ!


「…………」


大広場全体が、一瞬で静まり返った。


先ほどまで「馬鹿馬鹿しい」「意味がない」「辱めだ」と嘲笑していた大貴族たちが、全員揃って言葉を失い、顔面を蒼白にさせて固まっている。


全員の視線が。

恐ろしいものを見るかのように、ゆっくりとルクレインの手元へ集まった。


『お前はうんこ』


「…………」


「いや」


ルクレインが、一番「うわぁ……」という顔で札を見つめる。


「俺だって何で効いてるのか意味分かんねえからな!?」


「検査を続行せよーーーッ!!」


警備責任者が青ざめた顔で一刀を突き上げた!


「一人たりとも逃がすな! 全員強制検査だ!!」


そこから。

広場の空気は完全かつ劇的に変貌した。


「次!!」


「は、はいっっ!!」


ぺろっ。


ペタッ!!


「人間!」


「次!!」


ぺろっ。


ペタッ!!


「人間!」


もう、誰一人として文句を言わない。唾をつけられても深々と頭を下げて去っていく。

自分の前後の人間が、いつ怪物に変貌するか分からないのだ。極限の緊張感が広場を支配していた。


そして、数人ほど検査が進んだところで――。


「……うっ……ぐ……」


列の中ほどにいた一人の貴族が、不自然すぎるほどオーバーに腹を押さえた。


「どうされました?」


「いや……急に激しい腹の具合が……っ!」


「腹ですか?」


「少々……いや猛烈に冷えたのかもしれん……申し訳ない! 厠へ行ってくる!!」


そそくさ。

あからさまな早足で列から離れようとする。


一歩。


二歩。


「お待ちください」


「…………っ!?」


脇に立っていた兵士が、ガシッとその肩を掴んだ。


「どちらへ?」


「厠だ! 腹が破裂しそうなのだ!」


「検査が終わってからお願いいたします」


「無理だ! 漏れる! 漏れたら国家の不祥事だぞ!」


「では、先に検査をお受けください」


「いやぁぁぁぁッ!」


男の顔色が土気色に変わった。


「本当に限界なのだ! 離せ無礼者!!」


「おい」


遠くからルクレインがだるそうに呼ぶ。


「そいつ怪しすぎるから先に連れてこいよ」


「承知しました!」


「待て! やめろ離せ!!」


両脇から頑丈な兵士に腕を担ぎ上げられる。


「離せ! 無礼だぞ! 私は子爵だぞ!」


「はいはい」


「腹が痛いと言っているだろうがぁぁッ!」


「すぐ終わるから」


「待てやめろーーーッ!」


ぺろっ。


「やめろぉぉぉぉぉッ!」


ペタッ!!


『お前はうんこ』


【☠ 悪口スキル発動】


「…………」


全員が黙った。


ルクレインが、冷ややかな目で男を見下ろす。


「お前」


「…………」


「腹、全然関係ねえじゃん」


「ギ……」


ぐにゃり。


「ギィィィィィッ!!」


「魔族だァァァァァ!!」


「捕らえろ!!」


ドドドドドドッ!!


「やっぱ逃げようとしてたんじゃねえか!!」


騎士たちが一斉に飛びかかり、秒で鎮圧する。


その恐ろしい光景を見た瞬間。

列に並んでいた者たちは。


誰一人として。

厠へ行きたいとも。

体調が悪いとも。

一言も口にせなくなった。


「次ーーー」


「はいっっ!!」


「お前ら急にめちゃくちゃ協力的になったな」


検査はさらに加速する。


今度進み出たのは、全身を立派な鋼鉄の重装甲冑で固めた騎士だった。


「はい、額出せ」


「お、お待ちください殿下!」


「あ?」


「顔は……少々……その……」


「何が?」


「その……唾液をつけられるのは……精神的に……」


「みんなやってんだから我慢しろよ」


「しかし……ッ!」


「面倒くせえな」


ルクレインが、騎士の全身をだるそうに眺めた。


「じゃあ、お前これでいいや」


「え?」


ぺろっ。


ペタッ!!


磨き抜かれた胸当ての真ん中に貼り付ける。


『お前はうんこ』


「…………」


何も起きない。


「はい、人間。次ーーー」


「あ、ありがとうございました……!」


「次」


「……あ、あの、殿下」


「まだ何かあんの?」


騎士が、震える指で自分の胸当てを指差した。


「この甲冑は……亡き父より受け継いだ、かけがえのない形見でして……」


「へえ」


「へえ、ではなく!」


騎士が慌てて紙を剥がす。


ベリッ!!


「…………!?」


磨き上げられた純白の甲冑の胸元に。

ルクレインの唾液が。

べっとりと白く跡を残していた。


「ああああああっっ!!?? 父上の形見がぁぁぁぁぁッ!!」


「うるせえな!」


「拭けよ!!」


「父上の聖なる魂まで汚された気がするぅぅぅっ!!」


「大げさなんだよ!! 次!!」


次に進み出たのは、兜を深々とかぶった衛兵だった。


「お前も顔嫌なの? じゃあ兜でいいや」


ぺろっ。


ペタッ!!


【☠ 悪口スキル発動】


「ギャアアアアッ!!」


兜の隙間から、異形の悪魔顔が飛び出した!


「また魔族だ!」


「捕らえろ!!」


さらに一人。また一人。

王城内部に完璧に潜伏していた魔族たちが、次々と無慈悲に炙り出されていく。


「…………」


リクターは、その様子を恐ろしいほど真剣な顔で手帳にメモしていた。


「……なるほど」


「ん?」


「生体皮膚へ直接密着させる必要はないようだ」


「兄貴?」


「先ほどの魔族は、兜越しだった。それでも『敵』として判定された」


「…………」


「とすれば、札と対象者との空間的距離が一定以内であれば成立する可能性が――」


「真面目に分析すんな」


「極めて重要な検証だ」


「書いてあるの『うんこ』だぞ!? 威厳ゼロだぞ!?」


「だからこそ、発動の絶対法則を解明する必要があるのだ」


「何が『だからこそ』だよ理由になってねえよ!!」


検査はさらに続いた。


ぺろっ。ペタッ。

ぺろっ。ペタッ。

ぺろっ。ペタッ。


「…………」


何十人と繰り返した頃。

ルクレインの目から完全に光が消えていた。


「もう……舌カッサカサなんだけど……死ぬ……」


「ならば、鼻を使えばよいのではないか」


リクターが、真顔で提案した。


「やだよ! 鼻の穴ガバガバになるだろうが!」


「……そうなのか?」


「そうなんだよ! 何十人分もほじったら物理的に形が変わるわ!」


「なるほど」


リクターが深く思索するように頷いた。


「しかし、鼻くそではなく唾液でも効果が出ているということは――」


「何が?」


「媒介は鼻汁である必要はなく、ルクレイン自身の体液そのものが――」


「そういう気持ち悪い分析すんな!!」


「ルクレイン様」


「何だよ……」


「お水を」


マクシミリアンが、水の入った小瓶をスッと差し出した。


「あるんだ」


「はい」


「なんで?」


「ルクレイン様が必要とされる可能性を完璧に考慮し、常時携帯しております」


「マック、お前ほんと何でも持ってるな……」


ごくごく。


「ぷはぁ……」


「足りませんでしたら、あと二本ございます」


「まだあるの!?」


「はい」


「何本持ってんだよ……」


「三本ほど」


「遠足かよ」


「?」


「何でもねえよ」


ルクレインは小瓶を返す。


「よし……次……」


ぺろっ。


ペタッ!!


【☠ 悪口スキル発動】


「ギャアアアアッ!!」


「また魔族だ!」


「捕らえろ!!」


そして――。

数時間後。長い長い地獄の検査は、ようやく終わりを迎えた。


王城内部に深く潜伏していた十二名の魔族たちが、完全に摘発され、捕縛されたのである。


どんな高度な魔力鑑定でも見破れなかった。

完璧に人間に紛れ込み、王国の中枢へ食い込んでいた恐ろしい魔族たち。


その完璧な偽装を。

たった一枚の紙が見破った。


ただし。

その紙には。


『お前はうんこ』


と書かれていた。


しかも。

最初は鼻くそ。その後は大量の唾液。

何百人もの額や甲冑へ貼られ、剥がされ、また舐められ、また貼られ――。


「…………」


一人の近衛兵が、その紙を指先でつまみ上げた。


「殿下……」


「あ?」


「札が……その……」


「ん?」


ルクレインが見る。


「…………」


絶句した。


紙は――あまりにも凄惨な有様であった。


四隅はボロボロに破れ、全体が湿気でふやけて波打ち、文字はドロドロに黒く滲み。

鼻くそと唾液、さらに何百人もの額の皮脂と汗を吸い込みまくった結果――。


『おま……は……ん……』


「…………」


「きったねえええええええっ!!???」


「殿下ご自身がお作りになられたものですが」


「捨てろ! 今すぐ捨てろ! 燃やせ!」


「待て」


アルヴァリオンが厳粛に制止した。


「新しい札を作れ」


「は?」


「まったく同じ文言の札を、新たに作るのだ」


「また『お前はうんこ』って書けっての!?」


「そうだ」


「嫌だよ!」


「国家の安全がかかっている」


「国家の安全を二度とうんこに背負わせんなよ!!」


魔法師団の者たちも、目を輝かせて一斉に集まってきた!


「殿下! ぜひ、別の文言もお試しいただきたい!」


「はあ!?」


「言葉の種類によって、効果の出方が異なる可能性があります!」


「より強烈な侮辱であれば、さらに巨大な爆発的効果が発生するかもしれません!」


「なんでお前らそんな楽しそうなんだよ!」


「殿下、まずは軽度の侮辱から段階的に比較検証を!」


「軽度の侮辱って何だよ!」


「例えば、『バカ』など!」


「研究テーマみたいにノリノリで言うな!」


「ルクレイン」


アルヴァリオンが、真顔で命じた。


「やれ」


「…………」


「国家のためだ」


「……ちっ。しゃあねえな」


ルクレインが、新しい紙とペンを受け取った。


「で、誰に貼んの? もう検査全員終わったぞ」


「捕縛した魔族でお願いします!」


魔法師が即答した。


「最初の札は、正体を現した後の魔族に貼り直しても発動いたしました! ならば、新しい札も同じく反応するはずです!」


「よく見てんな、お前ら……」


さらさら。


『お前はバカ』


「ほらよ。これでいいだろ」


捕縛された魔族の額へ。


ペタッ。


「…………」


何も起きない。


「次を!」


「楽しそうだな、お前ら……」


さらさら。


『クソ野郎』


ペタッ。


「…………」


無反応。


『ハゲ』


ペタッ。


「…………」


無反応。


『ブサイク』


ペタッ。


「…………」


何も起きない。


「もっと強烈なものを!」


「うるせえな!」


魔法師が真剣な顔で身を乗り出した。


「では、最初とまったく同じ文言を!」


「結局うんこじゃねえか!!」


「比較検証の基本です!」


「そこだけ急に学者ぶるな!」


ルクレインは、最初とまったく同じ言葉を書いた。


『お前はうんこ』


「これなら文句ねえだろ!」


ぺろっ。


ペタッ!!


「…………」


アルヴァリオン。リクター。リンデール公爵。魔法師たち。

全員が、息をのんで見守る。


「…………」


何も起きない。


「…………」


さらに待つ。


「…………」


「なんでだよ!!?」


ルクレインが絶叫した。


「さっきまで出てただろ!!」


もう一枚!


『お前はうんこ』


ペタッ!!


「…………」


無反応。


「おい!!」


さらに一枚!


『お前はうんこ』


ペタッ!!


「…………」


何も起こらない。


「どうなってんだよ、この気まぐれクソスキル!!」


もちろん。

返事などあるはずもない。


なぜ、最初の一枚だけが、魔族の完璧な偽装を暴く絶対の力を持ったのか。

なぜ、鼻くそでも唾でも、同じ「その一枚」である限り効果が続いたのか。

そしてなぜ、まったく同じ言葉を書き直した途端、ただの紙切れへ戻ったのか。


誰にも分からない。


魔法師たちは頭を抱え。

リクターは腕を組み、深い思考の深淵へ沈み。

アルヴァリオンは――。


ベトベトで、ボロボロになった、最初の一枚を。

恭しくじっと見つめていた。


『おま……は……ん……』


「…………」


「……親父」


「何だ」


「それ、今すぐ捨てろよ」


「ならん」


「なんでだよ!?」


「現時点で、魔族の偽装を確実に暴いた唯一の絶対の道具だ」


「汚ねえだろ、どう見ても!!」


「厳重に保管せよ」


「やめろって!」


「専用の特注保管箱を用意せよ。三重の封印陣を施すのだ」


「国宝みたいに扱うなよ!!」


「可能な限り密閉せよ」


「そこだけは衛生的に大正解だわ!!」


     *


その後。


王城内部に潜伏していた魔族たちを、次々と完璧に炙り出したこの前代未聞の一件は。


王国の公式記録に、誇らしくこう記されることになる。


――『王城浄化作戦』。


ただし。

その具体的な検査方法と、使用された伝説の札の真の姿については――。


王家の威厳と、国家の尊厳を永遠に守るため。


長く。

深く。

国家最重要機密として秘匿されることとなったのであった。


これまでの異世界小説と、ちょっと違うノリで書いています、

「面白かったら下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、作者にもっと意味わからずおもしろくしろ!と特大バフをかけてください!」

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