第33話 聖なる光
轟音が、消えた。
「ハァ……ハァ……」
ルクレインは、聖剣アークを構えたまま、肩で激しく息を吐いていた。
目の前は、何も見えない。
《グレート・アーク・ライトニング》が巻き上げた大量の煙と粉塵が、黒の牢獄を分厚く覆い尽くしている。
「ハァ……ハァ……」
両腕が、鉛のように重い。
立ち続けているだけで、膝がガクガクと震える。
だが――確かな手応えはあった。
「あれなら……」
ルクレインが荒い息を整えながら、煙の奥を睨みつける。
「……やったか……?」
『…………』
アークから、返事はない。
「おい……アーク?」
その時。
ゆらり、と煙が揺れた。
「…………」
ルクレインの目が、鋭く細くなる。
粉塵の向こうに、二つの影が、ゆっくりと立ち上がった。
「…………嘘だろ」
立ち込めていた粉塵が、ゆっくりと床へ沈み、視界が開けていく。
そこに――ドラコとカメレオが立っていた。
「…………っ!」
無傷ではない。
ドラコの全身の分厚い鱗は砕け散り、焼け焦げた皮膚からは、黒い煙がブスブスと立ち上っている。
カメレオは、さらに酷かった。
右腕は肩口から完全に吹き飛び、服は焼け落ち、全身に深い斬痕が刻まれている。
膝は、激しく震えていた。
だが。
二人とも、倒れていない。
殺気と怨嗟を全開にしたまま、生きている。
「……やってくれたな」
ドラコが、地獄の底から響くような低い声で呟いた。
「さすがに今のは……少し肝が冷えたぞ」
「マジかよ……」
ルクレインが、アークへ視線を落とす。
「おい……死んでねえぞ、あいつら」
『……うむ』
アークの声は掠れ、驚くほど弱々しかった。
『……すまん。わしの……力及ばずじゃ……』
「ここで謝られると……余計絶望するんだけど……!」
ドラコが、巨大な拳を固く握り締め、一歩を踏み出した。
「どうした?」
ズシン。
ズシン。
「それで終わりか……第二王子?」
「……チッ!」
ルクレインが、必死にアークを構え直す。
だが、白銀の刀身からは、もう光の一片すら失われていた。
「なら――」
ドラコが、視界から消えた。
「終わりだ」
「っ!?」
直後。
巨大な拳が、ルクレインの胴体へまともにめり込んだ。
ドゴォォォッ!!
「がッ――!?」
視界が激しく歪み、身体が宙へ跳ね上がる。
そのまま凄まじい衝撃とともに、後方へ吹っ飛ばされた。
ドガァァァンッ!!
背中から黒い石壁へ激突し、床へ無様に崩れ落ちる。
「がはッ……!?」
口から、鮮血が飛び散った。
「ぐっ……ゲホッ……!」
息ができない。
胸の奥が、熱した鉄を押し当てられたように焼けつく。
「……これ……」
ルクレインが、震える手で口元の血を拭う。
「あばら……何本かいってねえか……!?」
『ルクレイン……!』
「おい……アーク……」
震える左腕で、アークの柄を支える。
「なんとか……元に戻せねえのか……!?」
『……何?』
「力だよッ!」
ルクレインが歯を食いしばり、血の混じった唾を吐き捨てる。
「せめて……さっきくらいまで戻れねえのかよ……! これじゃあいつの攻撃、一発も防げねえぞ……!」
『……すまん』
アークの声は、今にも霧のように消えてしまいそうだった。
『今は……この姿を保つだけで……精一杯じゃ……。気を抜けば……すぐに短剣へ戻ってしまう……』
「マジかよ……本当に役立たずだな……!」
『……面目ない』
「そこは『誰が役立たずじゃ!』って怒れよ……! 余計惨めになるだろ……!」
その頃――。
「ルクレイン!!」
リクターが、血相を変えて駆け出そうとしていた。
「待っていろ! 今助け――」
「おっと」
その前へ、すっと影が滑り込む。
「……っ!」
カメレオだった。
片腕を失い、全身血まみれでありながら、その瞳には冷酷な殺気が宿っている。
「あなたは、そこでじっとしていてください」
「退け……ッ!」
「それはできませんね」
カメレオが、薄く笑う。
「せっかく、ドラコ様が楽しんでいらっしゃるのですから」
「貴様ぁッ……!」
リクターが拳を固く握り締める。
だが、魔力がない。
限界を超えて絞り尽くした身体では、目の前のカメレオを突破することすら叶わない。
「ルクレイン……!」
絶望の視線の先。
ドラコが、ゆっくりとルクレインへ近づいていく。
「今まで……」
ドラコの顔に、見るに堪えない歪んだ笑みが浮かぶ。
「散々やってくれたな……ッ!」
「…………」
「俺の計画を狂わせ」
一歩。
「仲間を殺し」
一歩。
「最後には……この俺の身体に、傷までつけやがった……!」
巨大な拳を、みしみしと握り込む。
「簡単には殺さねえ」
「…………」
「一発で終わらせるなんて、もったいねえからな」
牙を剥き出しにして、嗤う。
「ゆっくり――骨を砕きながら殴り殺してやる」
「……趣味……悪ぃな……」
「まだ減らず口を叩けるか!」
ルクレインが壁に手をつき、泥臭く立ち上がろうとした。
その瞬間――ドラコの巨大な尻尾が、しなった。
「っ!?」
ブォンッ!!
ドゴォッ!!
「ぐあッ――!?」
重厚な尻尾が、ルクレインの右肩口を完璧に打ち抜いた。
ゴキッ!!
鈍い、嫌な破壊音が響く。
「……ッ、がッ……!?」
身体が横へ吹き飛び、床を激しく転がった。
右腕が、だらりと不自然な方向へ垂れ下がる。
「ぐ……っ!」
鎖骨が、完全に折れている。
「ルクレイン!!」
リクターの叫びが、黒の牢獄に響き渡る。
「来るな……!」
ルクレインが、口から血を垂らしながら叫び返した。
「兄貴は……そこにいろ……っ!」
「だが!」
「いいからッ!!」
立つ。
右腕は、ピクリとも動かない。
それでも、逃げる。
一歩。
二歩。
「どこへ行く?」
ドラコが嘲笑う。
「逃げられると思ってんのか?」
「うる……せえ……!」
ルクレインが、壁際へ向かって進む。
いや、走れてなどいない。
転び、血みどろの手をつき、這うようにして進んでいるだけだ。
「ハハハハハッ! 無様だな、第二王子!」
ドラコの尻尾が、再び凶悪に持ち上がった。
「逃げろ逃げろ! もっと惨めに這い回れ!」
ブォンッ!!
「っ――!?」
ドゴッ!!
ゴキィッ!!
「―――――っっっ!!!」
激痛。
右脚をまともに砕かれ、ルクレインの身体が床へ叩きつけられた。
「がはッ……! オゲッ……!」
血の塊を吐き出す。
右脚が、ありえない角度に折れ曲がっていた。
「ルクレイン!!」
リクターの、悲鳴のような叫び。
ルクレインは、もう返事をすることができなかった。
声すら出ない。
「どうした?」
ドラコが、悠然と歩み寄ってくる。
「痛えだろ?」
「…………」
「泣けよ」
「…………」
「泣いて許しを請えッ!」
ドラコが、サディスティックに高笑いする。
「助けてくれって、俺の足元で泣き叫んでみろッ!」
「……へっ」
ルクレインが、血まみれの顔を歪めて笑った。
「……なんで俺が……」
「あ?」
「お前みてえな……トカゲの前で……」
口元からポタポタと血を零しながら、眼光だけは死んでいない。
「泣き叫ばなきゃ……なんねえんだよ……」
「…………」
「バーカ……」
ドラコの笑みが、一瞬で消え去った。
「……その減らず口だけは、大したもんだ」
「……褒めても……何も出ねえぞ……」
ルクレインが、震える左手を伸ばした。
床に転がっていたアークの柄を、死力で掴み取る。
「ぐ……っ!」
白銀の刀身を、床へ深く突き立てる。
杖代わりにして、アークへ全体重を預けた。
『ルクレイン……無理じゃ……』
「うるせえ……」
『もう立つな……!』
「寝てたら……殺されんだろ……っ」
全身が、激しく震える。
それでも――立った。
折れた右脚を引きずり、一歩、また一歩。
背中が、冷たい石壁にぶつかった。
もう、後ろには何もない。
逃げ場など、最初から存在しない。
「ハァ……ハァ……っ」
ルクレインは、左手一本で重いアークを持ち上げた。
グラグラと震える切っ先を、真っ直ぐドラコへ向ける。
「…………」
ドラコが、冷ややかな目で鼻を鳴らした。
「そのボロボロの身体で、まだ抗うつもりか」
「……一応な」
「いいだろう」
ドラコが拳を固く握り締め、じりじりと距離を詰める。
「じゃあ――そろそろ本当に、とどめを刺してやる」
「…………」
ルクレインは、近づく死神を前にして、不思議と頭の中が冷え切っていた。
(……あー)
逃げられない。
右脚は骨折。
右腕も動かない。
肋骨も内臓も、ボロボロ。
【罵倒】スキルは、謎の仕様で任意発動しない。
アークには、もう魔力のかけらも残っていない。
(これ……)
ルクレインが、小さく、諦めたような息を吐く。
(マジで詰んだやつだな)
『……万事休す、か』
「お前が言うと……本気で洒落にならんから、やめろ……」
『すまん』
「謝んなって……」
ドラコの拳が、持ち上がる。
(また……死ぬのか、俺)
前世――黒田律だった頃の記憶が、走馬灯のように頭を駆け巡る。
あの胡散臭い女神と出会い、この世界へ転生した。
(もし……)
ルクレインが、ぼんやりと、現実逃避気味に思う。
(もう一回、転生のチャンスがもらえるなら……)
血に濡れた唇で、少しだけ笑った。
(今度はあの女神の前でも……もうちょい愛想良くしとくか……)
「ルクレイン……ッ!」
リクターの、悲痛な叫び。
見ると、あの完璧超人の兄が、ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「…………」
ルクレインが、目を丸くする。
(何……泣いてんだよ、兄貴……ガラじゃねえだろ……)
リクターは、動けない。
カメレオに阻まれ、血まみれで追い詰められた弟を、ただ見つめることしかできない。
『……ルクレイン』
「なんだよ……」
アークの声が、驚くほど静かだった。
『どうやら……ここまでのようじゃな』
「……そうみてえだな」
『お主が死ねば……』
アークが、ぽつりと呟く。
『わしも……再びただの鉄くずとなり、封印されることになるじゃろう』
「…………」
『そして……また、気の遠くなるような長い眠りにつく』
「……そっか」
『数百年か……』
アークの声に、初めて人間めいた切なさが混じる。
『あるいは……千年、暗闇の中で一人きりかもしれん』
「…………」
初めてだった。
出会ってからというもの、常にバカ騒ぎをし、くだらないことで言い争ってきた一人と一振りが。
静かに、死を前にして言葉を交わしている。
『だから……』
「ん?」
『最後に、一つだけ頼みがある』
「……なんだよ」
ほんの少しの、間があった。
『わしを――褒めてくれんか?』
「…………は?」
『長い長い眠りにつく前に……一度くらい』
アークが、力なく笑った気がした。
『お主から……まともに褒められてみたいんじゃ』
「…………」
『その言葉さえ覚えておれば……』
静かに、祈るように。
『暗く長い眠りにも……少しは耐えられる気がするんじゃ』
「…………」
ルクレインは、黙り込んだ。
鉄くず。
三本目。
中古家電。
老朽化バッテリー。
今まで、散々な呼び方ばかりしてきた。
まともに褒めたことなど、ただの一度もない。
「……しょうがねえな」
口元から血を流しながら、ルクレインがニヤリと笑った。
「まあ……最後くらい、サービスしてやるか」
『……うむ』
左手に握り締めたアークを、見つめる。
「お前……」
少しだけ、思いを巡らせる。
「……結構、役に立ったよ」
その瞬間。
ピコンッ!
視界の隅に、場違いなシステム表示がポップアップした。
【スキル|《褒める》が発動しました】
【♥ HIT】
だが、今のルクレインには、そんなものに構う余裕などなかった。
ただ、手の中の相棒だけを見つめていた。
アークの刀身が、微かにドクンと震えた。
(……ん? な、なんじゃ……今のは……?)
「口うるせえし……」
(……おい)
「すぐ偉そうにするし……」
(こやつ……本当に褒める気があるのか……?)
「燃費も最悪のポンコツだけどさ……」
ルクレインが、小さく笑う。
「でも――」
アークの刀身を、真っ直ぐ見つめた。
「お前……なかなか格好いい剣だったよ」
【♥♥♥♥♥ HIT】
ドクンッ!!
アークの刀身が、今度ははっきりと跳ね上がった。
(な……なんじゃ、これは……!?)
「聖剣ってドヤ顔で名乗ってんのも……まあ、認めてやるよ」
【♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥ HIT】
ドクンッ!!
白銀の光が、アークの刀身から漏れ出し始める。
(身体の奥から……力が、溢れてくる……!? なんじゃ、この異次元の力は……!?)
光が、急速に激しさを増していく。
「それとな……」
ルクレインが、最後に、眩しそうに目を細めて笑った。
「俺の相棒がお前で――悪くなかった」
【♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥ CRITICAL】
ドクンッッッ!!!
『おおおおおおおおおおおッッ!!!』
「うおッ!?」
アークが、爆発的な光の波動を放った。
「な……なんだ!?」
ドラコが、思わず足を止める。
「これは……!?」
カメレオも、目を見開いて振り返った。
『力が……!』
アークが、歓喜に狂ったように激しく震える。
『力がどくどくと流れ込んでくるぞえええええっ!!』
「どこから入ってきてんだよ!?」
『知らん!!』
「知らねえのかよ!」
『じゃが――』
アークの声が、雷鳴のように力強く響き渡る。
『止まらんのじゃあああああッ!!』
白銀の光。
その中へ、神々しいまでの黄金の輝きが混ざり合っていく。
「お、おい……!」
刀身の形が、目の前で再構築されていく。
これまでの聖剣アークとは、根本から違う。
刀身はより長く、極限まで研ぎ澄まされ、白銀と黄金の光が螺旋を描いて複雑に絡み合う。
鍔には、見たこともない太古の神聖紋様が刻み込まれていく。
『こ、これは……わしの真の……いや、真を超えた姿……!?』
「なんだよ、その神々しい姿は!?」
『わしにも分からん!』
「自分の身体だろ!」
『剣じゃと言っておろうが!!』
「そこじゃねえよ!」
そして――。
「……ん?」
ルクレインが、自分の身体へ目を落とした。
「おい……」
光っている。
アークだけではない。
ルクレイン自身の身体まで、眩い白銀と黄金の光に包み込まれていた。
「俺まで発光してんだけど!? 何これ!?」
『本当じゃ! お主まで光っておる!』
「何が起きて――っ!?」
次の瞬間。
折れていた右肩が、猛烈な熱を帯びた。
ゴキッ! バキバキッ!
「え?」
砕けていた鎖骨が、勝手に元通りに結合する。
「…………は?」
胸の痛みが、一瞬で吹き飛んだ。
折れていた肋骨が、みしみしと音を立てて修復されていく。
さらに、ありえない角度に曲がっていた右脚までが、光に包まれた。
バキバキバキッ!!
「ちょ、待て待て待て待て!」
曲がっていた脚の骨が強引にまっすぐ戻り、潰れていた皮膚と肉が爆速で再生していく。
血が止まる。
全身を埋め尽くしていた激痛が、嘘みたいに消え去っていく。
「治ってんぞ俺!? 全身の骨折が一瞬で治ってんだけど!?」
『おおーっ!』
「『おおーっ!』じゃねえよ! なんで!? どんな回復魔法だよ!?」
『知らん!』
「またそれかよッ!!」
「……何なんだ……」
ドラコの顔から、凶悪な笑みが完全に消え失せていた。
「何なんだ……そのふざけた力はぁぁぁッ!!」
カメレオも、戦慄に顔を歪め、一歩、また一歩と後ずさる。
「先ほどとは……圧が、違いすぎます……!」
ルクレインが、ゆっくりと地に足をつけ、立ち上がった。
もう、アークを杖にする必要など微塵もない。
「…………」
右腕を、ぐるぐると回す。
違和感ゼロ。
「……治ってる」
右脚で、強く床を踏み込む。
完璧。
「……マジで完治してる……」
『ルクレイン』
「なんだ?」
『……いけるぞ』
「何が?」
『もう一発じゃ』
「…………」
ルクレインが、手の中で進化を遂げたアークを見つめた。
「マジ?」
『マジじゃ』
アークの声が、不敵に笑った。
『今度こそ――あのトカゲどもを、塵一つ残さず消し飛ばしてやる!』
「……へっ」
ルクレインも、口元の血を拭って、不敵に笑い返した。
「よし……! だったら、やるか!」
『両手で握れ!』
「またあの激痛レベルに恥ずかしい呪文言うの!?」
『当然じゃ!』
「マジかよ!」
『形とハッタリが命と言ったじゃろうが!』
「こんな土壇場まで、そのこだわり捨てねえのかよ!」
『早うせいッ!』
「あーもうっ!!」
ルクレインが、新たな姿となった聖剣アークの柄を、両手で力強く握り締めた。
そして、恐怖に顔を引きつらせるドラコとカメレオへ、まっすぐに切っ先を突きつける。
直後――。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「…………!?」
黒の牢獄全体が、大地震のような激しい揺れに見舞われた。
「な……っ!?」
ドラコの顔色が変わる。
頑丈な石床に無数の亀裂が走り、天井から巨大な落石が降り注ぐ。
空気そのものが超高密度の魔力に圧迫され、鳴動している。
「ドラコ様……っ!」
カメレオの声が、生まれて初めて絶望に震えた。
「これは……まずいです……! 次元が違います……!」
「……分かっている……っ!」
ルクレインを中心に、底なしの光が集束していく。
先ほどの《グレート・アーク・ライトニング》とは、規模も何もかもが違いすぎる。
「――偉大なる聖剣よ!!」
ルクレインの咆哮が、崩壊しかける黒の牢獄に轟いた。
「悠久の時を越えし、その聖なる力――!!」
白銀と黄金の光が膨れ上がり、部屋全体の視界を白く塗り潰す。
もはや、恥ずかしさなど微塵もない。
ルクレインは、吹っ切れた表情で叫んだ。
「今こそ我が手に集いて――!!」
アークを、上段へ高く、高く掲げ上げる。
「すべてを断ち切る――!!」
白銀と黄金。
二つの光が、巨大な龍のようにうねりながら、アークへ収束する。
「裁きの閃光となれッッ!!!!」
『ブチかませええええ、ルクレインッッ!!』
「うおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」
ルクレインが、全身全霊を込めて聖剣を振り下ろした。
「《グレート・アーク・ライトニング》ッッッ!!!!」
瞬間――光が、暴走した。
ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!
「な――っ!?」
ドラコの目が、飛び出さんばかりに見開かれる。
先ほどのような斬撃ではない。
もはや巨大な光の超極太レーザーそのものが、黒の牢獄の空間すべてを呑み込んでいく。
「なんなんだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ドラコが叫ぶ。
「なんなんだ、この力はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ドラコ様――」
カメレオの声は、最後まで続かなかった。
光の奔流が、二人を根こそぎ呑み込む。
「ぐおおおおおおおおおッ!?」
ドラコの巨体が、光の中で分解されていく。
鱗が、肉が、骨が、魂ごと崩壊し、一瞬で塵へと変わる。
カメレオもまったく同じように、光の中で影も残さず消失した。
だが――光の進撃は止まらない。
ドガアァァァァァァァァンッ!!
黒の牢獄の分厚い巨大扉が、紙屑のように消し飛ぶ。
その向こうに広がる、何メートルもある要塞の石壁へ、光が着弾。
ズドオォォォォォォォォォォォォンッ!!!
分厚い石壁が、丸ごと穿たれた。
巨大なトンネルのような穴が、迷宮の奥へ向かって一直線に伸びていく。
そして――。
ズズズズズズズズズズズズズズズズ……!!
黒の迷宮全体が、悲鳴を上げて激しく揺れた。
要塞の構造そのものが崩壊しかねない大振動が、地下深くまで駆け抜けていく。
やがて――光が収束し、静寂が戻った。
「…………」
静かだった。
ルクレインが、アークを振り下ろした姿勢のまま、呆然と立ち尽くしている。
『…………』
アークも、一言も喋らない。
リクターも、腰を抜かしたように、開いた口が塞がらない。
「…………」
ルクレインが、ゆっくりと顔を上げた。
ドラコとカメレオが立っていた場所には、もう塵一つ残っていない。
それどころか。
その向こうにあった巨大な扉も、分厚い壁も消え去り――迷宮の深部へ向かって、どこまでも続く巨大な穴が、ぽっかりと開いていた。
「…………おい」
『……なんじゃ』
「…………やりすぎじゃね?」
『…………うむ』
「…………」
『…………』
しばしの沈黙。
そして、アークがぽつりと、心底満足そうに言った。
『じゃが――最高に気持ちよかったのう!!』
「そこかよッ!!」




