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第27話 ネックレス


「お嬢様ッ!」


 メイが弾かれたように振り返る。


 だが、遠い。


 グロガリの狙い通り、次々と送り込まれるアギトを相手にするうち、メイはロザリアから大きく引き離されていた。

 マクシミリアンは、対斬撃特殊防盾を構えたアギトたちに囲まれている。

 ゾランも複数の敵に足止めされ、すぐには動けない。


「ロザリア様!」


 後方の騎士たちが駆け出そうとする。

 しかし――間に合わない。


 一体目のアギトが巨大な顎を開き、ロザリアへ太い腕を伸ばした。


「捕まえたぞォッ!」


 その瞬間だった。


 カッ――!!


「……え?」


 ロザリアの胸元で、ネックレスが眩い光を放った。


 鮮やかなエメラルドの輝きが、一気に溢れ出す。

 無数の光の粒がロザリアの前へ流れ込み、激しく渦を巻きながら一か所へ集まっていく。


 脚。

 胴体。

 腕。

 そして、流れるような長い髪。


 エメラルドの光が、次第に一人の女性の輪郭を形作っていった。


「……なんだ?」


 ロザリアへ迫っていたアギトが、思わず足を止める。


 光が収まる。

 そこに立っていたのは――。


 大きい。


 アギトたちを束ねるグロガリと比べても、さらに一回り大きいほどの長身。

 だが、その姿には粗野さなど欠片もない。


 すらりと伸びた優美な体躯。

 光をまとって揺れる、艶やかな髪。

 気品に満ちた、整った顔立ち。


 全身が半透明のエメラルドの光で形作られていながら、その佇まいには圧倒的な神聖さすら漂っていた。


「……なんだ、てめえ」


 アギトが怪訝そうに眉をひそめる。


 一歩。

 光の女性へ近づいた。


「妙な真似しやがって……!」


 女性は答えない。


 ただ――にこりと、聖母のように微笑んだ。


「邪魔だ! どけ!」


 アギトが強引に腕を伸ばした、その瞬間。


 ガシッ!


「なっ――」


 女性の手が、アギトの首根っこを掴んだ。


 グイッ!!


 1トンはあろうかという巨体が、雑草を刈り取るように軽々と引き寄せられる。


 そして。


 パァンッ!!


「ぐぶッ!?」


 強烈な平手打ちが、アギトの頬へ炸裂した。


 パァンッ!!


 反対側。


「がッ――」


 パァンッ!

 パァンッ!

 パァンッ!

 パァンッ!


「ぐっ、がっ、がががががッ!?」


 右。

 左。

 右。

 左。


 息をつく暇すら与えない、超音速の往復ビンタ。


 パパパパパパパパパパパパァンッ!!


「まっ、待――」


 もはや女性の手すら見えない。

 一打ごとに衝撃波が爆ぜ、エメラルドの光の粒子が飛び散る。

 広場には、乾いた破裂音だけが恐ろしい速度で鳴り響いていた。


 アギトの巨大な首が、右へ。

 左へ。

 右へ。

 左へ。


 振り子のように激しく揺れ――。


 グルンッ!!


「…………え?」


 首が、一回転した。


 さらに。


 グルンッ!!


 ブチィッ!!


 雑巾のように絞られ、首がねじ切れた。


 巨大な頭部が宙を舞う。


 ドスンッ!!


 石床へ転がった。

 首を失った巨体も、数秒遅れてその場へ崩れ落ちる。


「…………」


 広場の空気が、凍りついた。


 敵も。

 味方も。

 誰一人として、すぐには声を出せない。


 誰もが言葉を失う惨状の中――。


 ロザリアだけが、ぱっと表情を輝かせた。


「まあ、お母様!」




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