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第18話 看破

開け放たれた扉の向こうにいた二人も、完全に動きを止めて固まっていた。

 一人は、すでに人間の皮を脱ぎ捨てた異形のカメレオン魔族――元デーブ。

 そして、その隣に立つ男を見た瞬間、リクターの顔色が変わった。


「……フェレリオ公爵……!?」


 五十代ほどの、すらりとした細身の男だった。

 灰色がかった髪は一分の乱れもなくオールバックに撫でつけられ、鼻の下には丁寧に整えられた気取った八の字髭。

 地下迷宮の奥深くにいるというのに、塵ひとつ付いていない高級な濃紺の三つ揃いを完璧に着こなし、足元には場違いなほどピカピカに磨き上げられた真っ白な革靴。

 いかにも歴史ある名門貴族らしい気品と、洒落者気取りの雰囲気を全身から漂わせた男だった。


「…………」


 フェレリオ公爵は、突如現れたルクレインとリクターを検分するように見つめ、ほんの一瞬だけ意外そうに目を見開いた。

 そしてすぐさま、隣で恐縮しているカメレオへ冷酷な視線を向ける。


「カメレオ。……これは一体どういうことだ」


 氷のように低く、威圧的な声だった。

 カメレオの左右に離れた黄金の両目が、気まずそうに僅かに泳ぐ。


「……申し訳ございません、公爵閣下」


 カメレオが深々と頭を下げた。


「第二王子の潜在魔力を……少々侮っておりました」

「…………」

「まさかあの厳重な最奥の地下牢をこれほど容易く破り、そのままこの広大な迷宮の暗号術式を解き明かして、ここまで到達するとは……」

「…………」


 フェレリオ公爵は、少し感心したような目でルクレインへ視線を戻した。


「……なるほど」


 薄い唇に、残忍で冷ややかな笑みが浮かぶ。


「牢を破壊しただけでは飽き足らず、迷宮の構造を見抜いて、この本拠地まで自ら乗り込んでくるとはな」

「…………」

「この『黒の迷宮』の複雑極まる空間歪曲を、これほどの短時間で攻略するとは……」


 フェレリオ公爵は自慢の八の字髭を指先で優雅に撫でながら、心底感心したように頷いた。


「さすがは……かつて『王家随一の稀代の天才』とまで称された第二王子殿下だ」

「…………」

「入り組んだ迷宮を、最短ルートで一直線に突き進んでくるとは――たいしたものだ」

「…………」


 ルクレインは死んだ目で黙りこくった。


(いや……ただ『敵がいない道』を選んで歩いてたら、勝手にここに直行しただけなんだけど……)


 隣のリクターが、ちらりとルクレインを盗み見る。


「……お前、やはり最初から計算して敵の本陣を狙っていたのか……」

「んなわけあるか」

「何?」

「何でもねえよ」


 フェレリオ公爵はなおも続ける。


「これほどの迷宮を力ずくで破るのに、さぞかし膨大な魔力を消耗したであろうに……なおも我らを討たんとするその胆力、実に見事と言うべきか」


 ルクレインは再び死んだ目で黙りこくった。


(俺の魔力、今日一ミリも使ってねえけど……)


 むしろ魔力を吸い尽くされてカラカラになったのは、隣のリクターである。

 だが、いちいち訂正してやる義理もない。勝手に勘違いして怯んでくれるなら、儲けものだ。


 リクターは鋭い眼光を、フェレリオ公爵から一瞬たりとも逸らさなかった。


 アステリア王国には、王家を足元から支える『四大公爵家』が存在する。


 筆頭であり最大勢力を誇るガーナベル家。

 古くから第一王子リクターを強力に支持し、王国貴族の中でも圧倒的な権力を握る。


 それに次ぐ地位にあるのが、リンデール家。

 ルクレインの婚約者ロザリアの生家であり、第二王子派の強固な中核だ。


 ゴディヴァール家は長らく権力闘争から距離を置き、中立を貫いている。


 そして四家の中で最も規模が小さく、影が薄かったのが、このフェレリオ家であった。

 しかし近年、フェレリオ家は側妃ウェンディと、その幼い実子である第三王子トーマスへ急速に接近していた。

 第三王子を擁立する新たな派閥の中心として、着実に暗躍の幅を広げていたのだ。


 そこまで思考を巡らせた瞬間、リクターの表情が険しく強張る。


「……まさか……ッ!」


 フェレリオ公爵が嘲笑を浮かべて視線を向けた。


「何かな、第一王子殿下」

「……すべてはウェンディ殿の差し金かッ!?」

「…………」

「私とルクレインを同時にこの迷宮で抹殺し、第三王子トーマスを強引に王位に就かせるつもりだなッ!!」


 ――シーン。


 一瞬。

 フェレリオ公爵は、鳩が豆鉄砲を喰らったようなポカンとした顔になった。


 次の瞬間――。


「……くっ……ふふ……っ」


 公爵の肩が激しく震え出す。


「クッ……ククク……ハハハハ……ッ!」

「何がおかしいッ!」

「ハハハハハハハハハッ!!」


 フェレリオ公爵は腹を抱え、涙を流しながら大声で笑い始めた。

 地下の石室に、高笑いがワンワンと響き渡る。


「ウェンディィ!? あの愚かな女の差し金だと!? ハハハ、傑作だッ!」

「何が可笑しいと言っている!!」

「いや失礼、あまりにも的外れで滑稽な推測を述べるものだからな」


 目元の涙を白い手袋で優雅に拭いながら、フェレリオ公爵はぴたりと笑いを収めた。


「…………」


 リクターの眉間に、深い怒りの皺が刻まれる。


「……どういう意味だ」

「貴様ら死にゆく者が、知る必要のないことだ」


 声から完全に嘲笑が消えた。

 フェレリオ公爵は、まるでゴミ屑を見るような冷たい瞳で二人を見下ろす。


「まあいい。当初の予定よりほんの少し早まっただけのこと」

「なに……?」

「いずれ二人まとめて殺すつもりだったのだ。向こうからわざわざ死にに来てくれたのだから、手間が省けたと思えばよい」


 そして、隣に控えるカメレオへ顎をしゃくってみせた。


「カメレオ」

「ハッ」

「……やれ」


 カメレオの耳元まで裂けた口が、ニチャリと吊り上がった。


「御意に――」


 その瞬間!


『待ちかねたぞぉぉぉッ!!』

「うおっ!?」


 ルクレインの手の中で、聖剣アークが狂喜の叫びを上げた!


『貴様ぁぁぁッ! 先ほどはよくもこのわしを! 「ちっぽけな短剣」などと吐き捨てて笑ってくれたなぁぁぁッ!!』

「お前まだ根に持ってたのかよ!」

『当たり前だッ! 聖剣の矜持にかけて絶対に許さん!!』


 白銀の神聖な光が、アークの巨大な刀身を丸ごと包み込む!


『今こそ! その無礼極まりない口に代償を払わせてくれるわぁぁぁッ!!』


 カメレオの黄金の瞳が僅かに細くなった。


「……その輝く剣……まさか、先ほどの短剣か」

『「短剣」ではない! 聖剣だぁぁぁッ!!』

「そこそんなに重要なの!?」

『一番重要に決まっておろうがッ!!』


 ――シュンッ!


 カメレオの巨体が、一瞬で残像となって視界から消えた。


「来るぞ!」


 リクターが叫ぶ。


『右だッ!!』

「分かってる!!」


 ルクレインが反射的に聖剣アークを叩きつけるように振り抜いた!


 ガギィィィンッ!!


 白銀の刃と、カメレオの漆黒の硬質爪が真っ向から激突する!


「ぐっ……!?」


 ずしりと重い衝撃に、ルクレインの足が半歩後退した。

 だが――!


『ぬるいわぁぁぁッ!!』


 アークの刀身から、眩いばかりの魔導波が爆発的に弾けた!


「なっ――!?」


 聖剣の圧倒的な出力に押し負け、カメレオの鋭い爪が根元からバキリと弾き飛ばされる!


「うおおおっ!」


 ルクレインが勢いのまま、聖剣を横一文字に全力で振り抜いた!


「チィッ!」


 カメレオが体幹を尋常ではない角度で反らして回避する。

 だが、白銀の刃が胸元を深く掠め、紫黒の硬い皮膚がバッサリと裂けた!


「ぐあぁっ……!?」

『どうした! どうした丸顔ぉぉぉッ!!』

「もう人型の丸顔じゃねえだろ!」

『中身が丸顔なら、何に変身しようが永遠に丸顔だぁぁぁッ!!』

「概念としての丸顔!? 無茶苦茶言うな!」


 カメレオの口から、無数の棘が生えた長大な舌が、鞭のように高速で飛来した!


『左だッ!!』

「うおっ!?」


 ルクレインが咄嗟に身をかがめる。

 頭上を突風とともに舌が通り抜け、背後の分厚い石壁へ直撃した!


 ドォォォンッ!!


 爆音とともに、石壁がえぐれるように粉砕される。


「当たったら頭が木っ端微塵になるだろこれ!!」

『だから避けろと言っておろうが!』

「簡単に言ってくれるぜ本当!!」


 カメレオが爪を再生させながら、四肢で床を力強く蹴った。

 右! 左! 壁! 天井!

 カメレオン特有の吸盤状の四肢を駆使し、縦横無尽に石室全体を跳び回る!


「速ぇっ! どこ行った!?」

『正面の上だぁぁぁッ!!』

「どこが正面だよッ!?」


 頭上から、凶器と化した爪が振り下ろされる!

 ルクレインは反射的にアークを真上へ掲げた!


 ギィィィィンッ!!


「ぐぬっ……!」

『押し返せぇぇぇッ!!』

「言われなくてもやってるわッ!!」


 ルクレインが全身の踏ん張りを利かせ、渾身の力でアークを跳ね上げた!

 カメレオの巨体が空中で大きく弾かれ、着地と同時に姿勢を崩す。


 ルクレインが一気に間合いを詰めて踏み込んだ!


『勝機! 一気に行くぞ! 喉元へ突き込めぇぇぇッ!!』

「おらぁぁぁッ!!」


 白銀の閃光が一直線に走り抜ける!

 カメレオが両腕の爪を交差させ、死力を尽くして受け止める!


 ガギギギィィィンッ!!


「ぐうぅっ……!?」


 聖剣の圧倒的な重量と威光に押され、今度はカメレオの巨体がズルズルと後退した。

 一歩! 二歩! 三歩!

 ついに背中が分厚い壁へと叩きつけられる!


「……っ! しまった……!?」

「よっしゃあ! もらったぁ!」


 ルクレインがアークを大きく振り下ろす。


 だが。


 ――ガキィィィンッ!!


「…………は?」


 アークの刃が、ピタリと途中で止まった。

 カメレオの頭上、ほんの数センチの空間で。

 圧倒的な破壊力を秘めた白銀の刃を――横から無造作に伸びた『一本の手』が掴んでいたのだ。


「…………」


 ルクレインは冷や汗を流しながら、ゆっくりと横を見た。


 フェレリオ公爵だった。

 白い手袋を嵌めた右手で、聖剣アークの刃を平然と受け止めていたのだ。


「おいおい……嘘だろ……」

『……こやつ……ッ』


 アークの声が、かつてないほど低く警戒に満ちる。


「……お前、素手で掴まれてんぞ……?」

『分かっておるわ……ッ!』

「聖剣だぞ、お前……一応……」

『やかましいわ不敬者!!』


 フェレリオ公爵が、白手袋の指先に僅かに力を込めた。


 ――ギシッ……ギギギ……ッ!


 聖剣を通じて、ルクレインの両腕へ地響きのような凄まじい圧力が逆流してくる!


「うおっ!?」


 フェレリオ公爵が腕を一振りしただけで、ルクレインはアークごと真横へ振り払われた!


「ぐわぁぁぁッ!?」


 ルクレインの身体が砲弾のように数メートル吹き飛び、石床をゴロゴロと転がった。


「ルクレインッ!!」


 リクターが青ざめて駆け寄ろうとする。


「来るな兄貴ッ!!」


 ルクレインが慌てて手で制して叫んだ。


「兄貴は素手だろ! 武器もないのに来るな!」

「だが……ッ!」

「巻き込まれたら一瞬で肉塊になるぞ!」


 転移の混乱の際、リクターは己の剣を失っていた。今ここでまともに渡り合えるのは、聖剣を持つルクレインだけなのだ。


 壁際で体勢を立て直したカメレオが起き上がる。

 その横へ、フェレリオ公爵が静かに並び立った。


「…………」


 ルクレインは床から身を起こし、二人を見比べる。


「……おいおい、二対一か?」

『そうなるな。非常に分が悪い』

「卑怯すぎねえか?」

『敵に向かって卑怯と叫んでどうする』

「いや……言うだけ言っとこうかと思ってさ……」


 フェレリオ公爵は、白手袋についた微かな埃をパッパッと優雅に払った。


「どうした、第二王子」

「…………」

「王家の天才と謳われた男の力は、たったこれっぽっちか?」

「……うっぜぇなぁ……」


 ルクレインは不機嫌そうに立ち上がると、フェレリオ公爵を頭から足先までねっとりと睨めつけた。


 一分の乱れもないオールバック。

 気取った八の字髭。

 キメキメの高級三つ揃い。

 地下迷宮には似合わない、眩しいほど磨かれた真っ白な革靴。


「……つーかさぁ」

「何だ?」

「さっきからずーっと気になってたんだけど」


 フェレリオ公爵が、片眉を不快そうに跳ね上げる。


「その格好……ぶっちゃけクソダサいぞ」

「…………」


【悪口スキル発動】

【☠ HIT】


 フェレリオ公爵の八の字髭の端が、ぴくりと痙攣した。


「……何と言った……?」

「何なんだよその八の字ヒゲ。英国紳士気取ってんのか知らんけど、全然似合ってねえよ」


【☠ HIT】


「こんなジメジメした汚ねえ地下迷宮で、真っ白な靴ピッカピカに磨いてさ。一人で何のおしゃれ発表会開催してんだよ」


【☠ CRITICAL】


「…………」


「……あ、始まった……」

「何がだカメレオッ!?」

「お気をつけください公爵閣下! あいつ……あいつの言葉は危険です!」

「何をバカな――」


 フェレリオ公爵の頬の筋肉が、引きつるように痙攣し始める。

 ルクレインのマシンガンディスは止まらない。


「スーツも無駄にキメキメだしさ。自分では洗練された大貴族のつもりかもしれんけど、端から見たら胡散臭い結婚詐欺師にしか見えねえんだよ」


【☠ CRITICAL】


「貴様……口を慎め……!」

「そのヒゲも本当に似合ってねえって。むしろ顔のパーツのダサさを強調しちゃってんの、気づいてないのか?」


【☠ CRITICAL】


「……黙れ……ッ!」

「あとその靴、イタすぎんだよ。白って、年考えろよ。誰も履かないレベルでセンスねえよ」


【☠ HIT】


「黙れと言っているだろうがぁぁぁッ!!」


 フェレリオ公爵の怒声が石室に轟いた。

 あまりの異様な雰囲気に、隣のカメレオが僅かに後ずさる。


「周りがみんな憐れんでるのに、自分だけ気づかずドヤ顔。いや〜、寂しい大人にはなりたくないねぇ」


【☠ CRITICAL】


 ――ビキッ!!


「…………え?」


 フェレリオ公爵の頬に、乾いた陶器が割れるような亀裂が走った。


「……な……何……!?」


 リクターが目を見開く。

 ルクレインも一瞬、言葉を失った。

 亀裂の奥からチラリと覗いたのは、人間の肌などでは断じてなかった。

 黒く荒々しい、禍々しいトカゲの鱗だったのだ。


「……な、何だこれは……っ!?」


 フェレリオ公爵自身が、狼狽しながら自らの頬へ手を当てる。


「おい」


 ルクレインが哀れむような目で指さした。


「顔、割れてんぞ」

「…………」

「やっぱ見た目のセンスだけじゃなくて、中身までヤバいバケモノじゃねえか」


【☠ CRITICAL】


 ――ビキビキビキビキッ!!


「ぐあぁぁぁっ……!?」


 今度は首筋! 額! 手の甲!

 人間の皮膚が、次々と音を立てて裂けていく!


「何をした貴様ぁぁぁッ!! どんな呪法を使ったッ!?」

「俺も知らねえよ!! 勝手に割れてんだろ!」

「何だその無責任な答えはぁぁぁッ!?」

「本当に知らねえものは知らねえんだよッ!」


 カメレオが頭を抱えて叫ぶ。


「そうなのです閣下! そうなのです!」

「何がだッ!?」

「あいつは変です! 理屈は分かりませんが、言葉が直接精神に響いてくるのです。擬態が維持できなくなるのです!」

「何だとぉぉぉぉ!」


 フェレリオ公爵の限界を超えた怒号が響き渡った。

 次の瞬間――!


 ――バキィィィィンッ!!


 高級スーツの背中が、内側からの凄まじい圧力によって破裂した!

 身体が一気に二倍、三倍へと肥大化していく!


「なっ……!?」


 リクターが息を呑んで後退する。

 細身だった公爵の体が、みるみるうちに巨大な怪物へと膨れ上がっていく。

 濃紺の三つ揃いは引き裂かれ、仕立ての良い白いシャツは布切れとなって弾け飛んだ。

 ピカピカに磨き上げられていた真っ白な革靴も、内側から肥大化した巨大な爪足によって無惨に粉砕された。


「うわぁ……あの靴、絶対高かったのにもったいねぇ……」

『今気にするのはそこかぁぁぁッ!?』

「いや、すごく高そうだったから……」

『どうでもよいわそんなことぉぉぉッ!!』


 人間の顔が、グニャリと前方へ伸びていく。

 顎が凶悪に巨大化し、口が耳元まで大きく裂けた。

 鋸状の牙が何百本もギザギザと並び、黒く荒れた頑丈な鱗が全身を隙なく覆っていく。

 その姿は――巨大な毒トカゲ。いや、怪獣のように獰猛な『巨大コモドドラゴン』そのものだった。

 さらに額から頭頂部にかけて、王冠のような鋭い骨質の棘が隆起していく。


 もはやそこには、大貴族だった人間の面影など微塵も残されていなかった。


「…………」


 圧倒的な威圧感を放つ巨大な魔族が、石室の中央に仁王立ちしていた。

 息をするだけで周囲の空気が重く沈み込み、床の石畳がミシリと悲鳴を上げる。


 リクターが青ざめた顔で、呆然と見上げた。


「……ま……魔族……!?」

「…………」

「フェレリオ公爵が……魔族だったというのか……!?」


 ルクレインも口を半開きにした。


「いやいやいや……」


 巨大なコモドドラゴン魔族と、隣のカメレオを交互に見比べる。


「お前もトカゲ系の魔族かよ!! キャラ被ってんだよ!!」


 巨大魔族が、地響きのような低い声で唸った。


「貴様ぁ……よくも私の完璧な擬態を……破ってくれたな……ッ!」

「俺のせいにすんなよ! 俺がちょっと服とヒゲのセンスの無さを指摘したら、勝手に脱皮したんだろ!」

「何なんだ貴様はぁぁぁッ!!」

「知るかよ! それよりお前、人間の時と比べて縮尺がおかしすぎるだろ! どこにそんな肉体隠してたんだよ!」


【☠ HIT】


「まだ悪口が効くのかぁぁぁッ!?」


 魔族の咆哮とともに、石室全体が激しく揺れ動いた。


「…………」


 リクターは血の気の引いた顔のまま、目の前で蠢く巨大な魔族を鋭く見据えた。


「……では……」


 掠れた、重い声がリクターの唇から漏れる。


「……本物のフェレリオ公爵は……どこへ行ったのだ……」

「…………」


 巨大魔族の動きが、ピタリと止まった。


「答えろッ!」


 リクターが一歩、死を恐れずに前へ踏み出す。


「貴様がフェレリオ公爵本人でないのなら……本物の公爵はどこにいるッ!?」

「…………」


 巨大なトカゲの口が、ニチャリと歪んだ。


「本物の……フェレリオ公爵……?」


 粘ついた低い笑い声が、黒い喉の奥から漏れ出す。


「ククク……ハハハ……」


 ギザギザとした牙の隙間から、紫色の長い舌がぬらりと覗いた。


「そんな男なら――」


 リクターの顔から、完全に血の気が失せる。


 巨大魔族は、心底愉快そうに目を細めて言い放った。


「――この俺、ドラコ様が! 何年も前に骨まで美味しく喰ってやったわッ!!」


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