第17話 脱出
不気味な異形となったデーブの足音が、薄暗い廊下の奥へと消えていった。
「…………」
「…………」
地下牢の中に、重い沈黙が落ちる。
ルクレインは鉄格子の向こうの暗闇をしばらく見つめていたが、やがて「はぁー」と大きく深いため息を吐き出した。
「……で」
隣で苦虫を噛み潰したような顔をしている兄を見る。
「どうすんだよ、これ」
「……それを今考えている」
リクターはガバッと立ち上がると、太く頑丈な鉄格子を両手で掴んだ。
全身の筋肉を浮き上がらせて、力任せに引っぱる。
――ギギ……ッ。
当然、ビクともしない。己の腕力が無意味であることを悟り、リクターは手を離した。
「……無理だな」
「見りゃ分かるわ」
「なら、お前のその規格外の魔力でどうにかしろ。格子ごとこの部屋を吹き飛ばせば済む話だ」
「無理無理。俺、今魔力ないもん」
「…………」
リクターが首だけでゆっくりと振り返った。
「……何?」
「だから、魔力がねえんだって」
「……お前の、あの国一つを崩壊させかねないほどの膨大な魔力はどうした?」
「知らん」
「知らん、だと?」
「気づいたらキレイさっぱり無くなってた」
「そんな馬鹿な話があるかッ!!」
「俺に怒鳴るなよ! 俺だって一番困ってんだから!」
リクターが険しい眼光でルクレインを見据える。
「……まさか……呪いか」
「は?」
「いや……デーブか、あるいは別の何者かに魔力を封じられた可能性が高い」
「ないない、そんな高尚な話じゃねえよ」
「あるいは――」
リクターの目が、推理小説の探偵のように鋭く光る。
「何らかの深遠な理由があって、自らあえて魔力を封印しているのか……?」
「はぁ〜?」
「膨大な魔力を失ったにもかかわらず、それを隠し続けていたのだ。そこには王国の存亡に関わる重大な事情があるはずだ」
「頼むから勝手に話を壮大にするのをやめてくれ」
ルクレインはボリボリと頭を掻いた。
「ないもんは無いんだよ。無一文の奴に金払えって言ってるようなもんだ」
「…………」
リクターはなおも腕を組み、「なるほど、そういうことか……」と何事かを激しく納得していた。
「絶対また変な深読みしてるだろ」
「していない」
「本当かよ」
ルクレインは深く溜息をつくと、冷たい石床へ視線を落とした。
そこには、粗末な短剣の姿に戻った聖剣アークが転がっている。
「おい、鉄くず」
『誰が鉄くずだ不敬者め!!』
「起きてたのかよ」
『最初から起きておるわ! 貴様らの不毛な会話をすべて聞いておったわ!』
アークの声には、なぜか普段以上の妙な刺々しさが籠もっていた。
「じゃあ話が早いな。これ一発で斬れねえの?」
『無理だ』
「即答かよ」
『見れば分かろう! わしは現在、絶賛「蓄電中」なのだ!』
「まだ充電してんのかよ!」
『誰のせいで空っぽになったと思っているのだ!? 貴様の無茶な一撃に付き合わされたからであろうが!』
「俺を助けたせいだな、すまん」
『分かっているなら、もう少し申し訳なさそうに謝れ!!』
「サンキュー鉄くず」
『心が! 1ミリも! 籠もっておらん!!』
二人の不毛なやり取りを聞いていたリクターが、ふとアークへ視線を向けた。
「……待て」
「ん?」
「アークは魔力を外部から蓄えて使用できる魔導具なのだな?」
『そうだ。わしは気高き聖剣ゆえ、他者の魔力を溜め込む容器にもなる』
「なら……私の魔力を注ぎ込むことはできないのか?」
ルクレインがリクターを見た。
続いて、床のアークを見た。
『……適合性の判定……うむ、王家の血を引く真っ当な王族の魔力であれば、問題なく吸い上げられるぞ』
ルクレインの顔がぱっと明るくなった。
「おおッ! 便利なポタ電がここにいた!」
「……ぽたでん?」
「気にすんな兄貴、最高だぞ」
「非常に不吉で気になる言い方をするな」
リクターは床からアークを拾い上げた。
「どうすればいい?」
『柄を固く握り締め、体内の魔力をゆっくりと流し込んでみよ』
「分かった」
リクターが静かに目を閉じる。
手のひらから淡く澄んだ青白い光が滲み出し、アークの柄へと勢いよく吸い込まれていった。
直後――。
『あ〜〜〜っ……』
「…………」
「…………」
『んあぁぁ……染みる……っ』
ルクレインが顔を思い切り引きつらせた。
「……何その声。キモいんだけど」
『あぁぁ……生き返る……身体の芯まで満たされてゆく……』
「おい」
『極楽、極楽……あはぁ〜……』
「完全に温泉入ってくつろいでんじゃねえか!!」
リクターも心底嫌そうな顔で、手にしたアークを見下ろした。
「……私は今、王国の誇る聖剣に神聖な魔力を与えているのだよな……?」
「たぶん。ただのおっさんにお湯注いでるようにしか見えんけど」
『そこだ……もう少し……もう少し奥まで強く注入してみよ……っ』
「変な言い方すんな!! 誤解を生むだろうが!!」
『何を勝手に憤っておる! 純粋な魔力充填の話だ!!』
「意味が分かってても語彙が気持ち悪いんだよ!」
しばらくすると、アークの刀身が白銀の光を帯び始めた。
『……ふぅ、よし』
先ほどまでの温泉おじさんじみた声が、一瞬で消え去る。
『満ちたぞ! 全快だ!!』
「急にキリッとした声になるな」
『当然だ!』
アークの声が、雷鳴のように一段と大きく響き渡った。
『そして、今の満たされたわしには……やらねばならぬ至高の使命がある!!』
「何だよ」
『あの丸顔だぁぁぁッ!!』
「…………」
『あの無礼極まりない、たらこ唇のクソ魔族めぇぇぇッ!!』
ルクレインは思わず吹き出した。
「まだデーブの暴言根に持ってんのかよ!」
『忘れられるかぁぁぁ!! わしの聖なる記憶に永久に刻まれたわ!!』
アークの刀身がプルプルと激しく震える。
『このわしを! 選び抜かれし聖剣たるわしを! よりにもよって「ちっぽけな短剣」などと嘲笑いおってぇぇぇ!!』
「まあ、今の見た目は完全にちっぽけな短剣だけどな」
『貴様まで同調するなぁぁぁ!!』
「事実だろ」
『わしは聖剣だぞ! 世界にたった三本しか存在せぬ伝説の聖剣だぞ!!』
「そのうちの『三本目』な」
『それも口に出すなと言っておろうがぁぁぁ!!』
怒号が狭い地下牢にワンワンと反響する。
リクターが頭痛をこらえるようにこめかみを押さえた。
「……お前たちは、いつもこんな不毛な会話をしているのか?」
「だいたいこんな感じ」
『だいたいではない! わしは至って厳格だ!!』
「うるせえな。で、これ斬れんのかよ」
『誰に物を言っているのだ』
アークの声が、地響きのように低く研ぎ澄まされる。
『見ておれ……あの無礼者め……!』
「本人もうここにはいねえけどな」
『黙れッ!!』
ルクレインがリクターからアークを受け取った。
その瞬間、白銀の光が部屋全体を呑み込まんばかりに膨れ上がる!
短剣だった刃が、滑らかに一メートル以上伸びる。
武骨な柄が豪奢で重厚な形へと変わり、黒金に彩られた巨大な鍔が美しく開いた。
瞬く間に、見る者を圧倒する真の『聖剣アーク』の姿へと変貌を遂げる。
「おお……!」
リクターが目を見開く。
「これが……真の聖剣の姿か……!」
『そうとも! 崇めるがよい!!』
ルクレインが両手でしっかりと柄を握り直す。
「じゃあ行くぞ、アーク」
『待て!』
「何だよ」
『もっと全身に殺意と怒りを込めろ!』
「なんで俺までデーブに怒らなきゃなんねえんだよ」
『あの男にバカにされたのだぞ! 悔しくはないのか!』
「別に」
『この薄情者がぁぁぁ!!』
「はいはい、分かったから斬りまーす」
ルクレインは適当な動作で、聖剣を横一文字に軽く振り抜いた。
――シュン。
手応えすら、ほとんどなかった。
次の瞬間――。
ガラガラガラガラガラッ!!
大人が十人がかりでも傷一つつけられない太い鉄格子が、一瞬で斜めに断ち切られ、大量の金属塊となって床へ崩れ落ちた。
「…………」
リクターが絶句する。
「……あの極太の強化鉄格子を……一撃で……!?」
『見たかぁぁぁッ!!』
アークの勝ち誇った叫びが、地下牢に響き渡る。
『何がちっぽけな短剣だ! 何が何もできぬ駄剣だ! わしを舐めるなよ丸顔ぉぉぉッ!!』
「いや、だから本人ここにいねえって」
『次に会ったら、奴の目の前でもう一度この鉄格子を斬って見せてやる!!』
「いや、鉄格子斬られてもデーブ困らんやろ」
『何でもよいわぁぁぁ!!』
「怒りで論理が無茶苦茶になってんな」
ルクレインは床に転がる鉄格子の残骸をひらりと跨いだ。
「よし。兄貴、俺の後ろについて来い」
「なぜお前が先頭なのだ。私が兄だぞ」
「一番威力の高い剣持ってるのが俺だから」
「……ぐっ、それはそうだが……」
こうして二人は牢を脱出した。
その先には、冷たく湿った石造りの通路がどこまでも続いていた。
壁には古びた松明が一定間隔で灯り、赤橙色の炎が揺れて、石壁へ不吉な影を伸ばしている。
「……暗ぇな」
ルクレインが巨大な聖剣を気怠そうに肩に担ぐ。
「とりあえず、ここが地上じゃねえのは確定だな」
「地下牢の時点でそんなことは分かるだろう」
「細かいな兄貴は」
二人は警戒しながら慎重に歩を進めた。
十数メートルほど進むと、すぐに道が二つに分かれていた。
「…………」
「…………」
「……どっち?」
「私に聞くな」
「兄貴、第一王子だろ」
「第一王子なら迷宮の構造に詳しいとでも思っているのか!」
「使えねえな」
「殴るぞ」
「さっき十分殴り合ったろ」
ルクレインは左右の暗闇を見比べる。
「……よし、右」
「根拠は?」
「勘」
「お前を先頭にした私が愚かだった」
「じゃあ兄貴が決めろよ」
「左だ」
「根拠は?」
「私の勘だ」
「まったく同じじゃねえか!」
二人は結局、右の通路へ進んだ。
だが少し進むと、今度は道が三つに枝分かれしている。
「またかよ」
中央の道を選んで進む。
角を曲がる。さらに二股。
「…………」
「…………」
不気味な下り階段。
降りた先にも、さらに二股。
どこを見渡しても同じような灰色の石壁。
同じようにゆらめく松明。
同じような曲がり角。
「これ、侵入者を絶対に迷わせるために作られてるだろ」
「見れば分かる」
「さっきからそればっかだな兄貴」
「お前の発言がいちいち見れば分かることばかりだからだ!」
さらに奥へ進む。
その時――。
「待てッ!」
リクターがルクレインの肩を強く掴んだ。
「何だよ」
「前だ!」
通路の先。揺れる松明の光の向こうを、三つの影が横切っていく。
漆黒の甲冑を纏った魔族兵たちだった。
「……うわ」
ルクレインが慌てて物陰に顔を引っ込める。
「普通に巡回してんじゃん」
「奴らに見つかる前に、元来た道へ戻るぞ」
「いや、こっちだ!」
ルクレインがすぐ脇にある、人一人がやっと通れるほどの細い脇道を指さした。
「なぜそっちへ進むのだ!?」
「だって、あっちは敵がいないから」
「そんな行き当たりばったりな理由で道を決めるな!」
「敵がいる正面に突っ込んでいく馬鹿がどこにいるんだよ!」
ルクレインは迷わず細道へすべり込む。
「あっ、待てルクレイン!」
リクターも仕方なく後を追った。
しばらく進むと、またしても分岐。
右手の奥から、カチャカチャと重い鎧の金属音が聞こえてきた。
「左!」
「おい!」
左へ曲がる。
その先で、正面から魔族兵の話し声。
「右!」
「またか!」
右へ逃げる。
さらに下り階段。
降りた先で、左側の通路に魔族兵が二体。
「こっちだ!」
「おい、そっちはさらに地下へ降りる階段だぞ!」
「敵と鉢合わせするより百倍マシだろ!」
二人はどんどん地下へ降りていく。
同じことが何度も、何度も繰り返された。
敵が右にいれば左へ。
左にいれば右へ。
正面にいれば横道へ。
足音が聞こえれば、その反対方向へ。
ルクレインはただひたすら『魔族兵がいない道』だけを選び、走り続けた。
「……おい、ルクレイン」
「何」
「さっきから……ずっと下へ、下へと降り続けていないか?」
「…………」
ルクレインがピタリと足を止めた。
ゆっくりと振り返る。
「……言われてみれば」
「脱出するなら、普通は上へ向かうべきではないのか?」
「…………」
「…………」
「……兄貴、それ今さら気づいた?」
「それは私の台詞だぁぁぁッ!!」
「でも、引き返せばいいだけの話だろ」
「では聞くが」
リクターが後ろの入り組んだ分岐を見返した。
「……私たちは、一体どの道から来たのだ?」
「…………」
ルクレインも振り返る。
右の道。
左の道。
奥の道。
すべて、寸分違わず同じ石壁に見えた。
「……兄貴、覚えてないの?」
「お前が先頭を走っていたのだろうがッ!!」
「いやぁ……あまりにも景色が全部同じだったからさ……」
「だから最初から深く考えながら進めと言ったのだ!!」
「言ってねえよ!」
「言った!」
「絶対言ってねえ!」
『二人とも静かにせんか!! 敵に見つかったら元も子もないぞ!!』
アークの怒号に、二人が同時に口を閉じる。
気まずい沈黙。
「……完全に迷ったな」
「迷ったな」
「どうする?」
「……前へ進むしかあるまい」
「だよな」
二人は再び歩き出した。
奥へ。
さらに深く、深く奥へ。
気づけば、通路の造りが少しずつ変化していた。
壁の石材はより巨大で重厚なものになり、松明の数も増えて、周囲が明かりで満たされていく。
「お」
ルクレインが顔を上げた。
「なんか急に明るくなってきたぞ!」
「だから何だ」
「これ、絶対出口が近いんじゃね?」
「なぜ地下深くへ降り続けておいて出口に近づくと思えるのだ。頭は大丈夫か?」
「だって明るいし!」
「お前は光に群がる虫かッ!」
「誰が虫だ!」
さらに奥へ進むと、通路の突き当たりに巨大な扉が見えてきた。
分厚い黒鉄で作られた重厚な扉だ。
その隙間から、眩しいほどの強い光が漏れ出している。
「ほら見ろ!」
ルクレインが声を潜めながら、誇らしげに指さす。
「絶対なんかの部屋があるぞ!」
「『出口』とは言わなくなったな」
「俺だって学習するんだよ」
しかし、その黒鉄の扉の前には、二体の大柄な魔族兵が仁王立ちしていた。
身の丈を超える大剣を携え、左右を鋭く警戒している。
二人は曲がり角の影へと身を潜めた。
「どうする」
リクターが息を殺して囁く。
「倒して突破するしかねえだろ」
「下手に大声を上げられれば、中の者に気づかれるぞ」
「おいアーク」
『何だ』
「あれ、一瞬で静かにやれるか?」
『誰に物を言っているのだ。わしは聖剣だぞ』
「三本目のな」
『今すぐ貴様を後ろから突き刺してやろうか!!』
「冗談だって。頼むぞ」
ルクレインが聖剣アークを低く構え直す。
『行け。まずは右の男からだ』
「了解」
ルクレインが物陰から影のように滑り出た。
魔族兵の一人が異変に気づく。
「誰――」
シュッ!
白銀の閃光が一閃。
声を上げる暇すら与えず、聖剣が男の首筋を通り抜ける。その身体が崩れ落ちた。
「なっ……!?」
もう一人が慌てて大剣へ手をかける。
だが、返す刀で旋風のような一撃が奔る!
シュン――!
二体目の魔族兵も、声一つ上げずにその場に崩れ落ちた。
「…………」
物陰からリクターがゆっくりと姿を現した。
「……見事な剣閃だ」
『当然だ!』
「褒められてんの、アークお前だけ?」
『当然だ! ほぼわしの誘導のおかげだからな!』
「俺もちゃんと自力で振ったんだけど!?」
『剣術の九割はわしの精密な魔力補助だ! 感謝するがよい!』
「相変わらず腹立つなこいつ」
ルクレインは倒れた二体の魔族兵を手早く壁際へ引きずって隠した。
そして、黒鉄の扉の前に立つ。
「さて、開けるぞ」
「待てッ!」
リクターがルクレインの肩を掴む。
「慎重に、音を立てずに開けるのだぞ」
「分かってるって」
ルクレインはドアノブを握り、勢いよく引いた。
ガチャァァンッ!!
「お前はッ!! 人の!! 話を!! 聞けぇぇぇッ!!」
「静かにしろよ兄貴! 声がデカいんだよ!」
「誰のせいだと思っているんだ!!」
扉が豪快に開き、中から眩い光があふれ出した。
そこは、豪華絢爛な調度品が並ぶ広い石造りの部屋だった。
中央には巨大な執務机。
壁には王国全土の精巧な地図や、禍々しい魔導具が整然と並んでいる。
そして――。
「…………」
ルクレインの動きがピタリと止まった。
部屋の奥に、二人の人物がいた。
一人は、すでに人間の皮を脱ぎ捨てた異形の魔族。
カメレオンのようなヌメヌメとした紫黒の皮膚。左右に離れた黄金の目。耳元まで裂けた口。
元第一従者デーブ。
そして、もう一人。
仕立ての良さが一目で分かる濃紺の上質なスーツを隙なく着こなし、足元には磨き上げられた真っ白な革靴。
灰色がかった髪をきっちりと後ろへ撫でつけ、鼻の下には丁寧に整えられた八の字髭を蓄えた、洒落者然とした細身の中年男性だった。
その顔を見た瞬間、リクターの目が極限まで見開かれた。
「……フェ、フェレリア公爵……!?」
「…………」
「…………」
部屋の中の二人もまた、完全に固まっていた。
カメレオの縦に割れた瞳が、ギョロリとルクレインたちへ向けられる。
「……な……なぜ……」
その声は、信じられないものを見た恐怖で微かに震えていた。
「なぜ……奴らが……ここにいるのです……!?」
隣のフェレリア公爵も、間の抜けた顔で口をぽかんと開け、目の前の光景を疑っていた。
「バ……バカな……! この広大な黒の迷宮の暗号術式を破り……この短時間で……本陣まで辿り着いたというのか……!?」
「…………」
沈黙の中、ルクレインが首だけをゆっくりとリクターへ向けた。
「……ねえ、兄貴」
「……何だ」
「俺たち、もしかして……」
「言うな」
「『出口』と百八十度逆方向の、敵の本陣に来ちゃってた?」
「言うなと言っているだろうがぁぁぁッ!!」




