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第3話:『君に会いに行く理由』

いつも作品を読んでくださり、本当にありがとうございます!


『色なき風の吹く頃に』第3話をお届けします。


LINEの交換をきっかけに、少しずつ解きほぐされていく二人の距離感。

華やかな夜の顔の奥にある、杏奈の無邪気で等身大の素顔と、それに引き寄せられていく薫の決意を描きました。


画面越しに重なる熱が、いよいよ現実の二人の関係を動かし始めます。


楽しんでいただけたら、ぜひブックマークや評価、感想などをいただけますと執筆の大きな励みになります!


 あの日、LINEを交換してからというもの、二人の距離は画面越しに静かに、けれど確実に熱を帯びて縮まっていた。



 届くのは、夜の街特有の媚びを含んだ営業文句ではない。



『1番最初に席に着かせて頂いた杏奈です。覚えてくれてるかな?』



 最初はそんな少し緊張した初々しい挨拶から始まったやり取りだった。

 けれど、薫の包み込むような返信に安心したのか、彼女は少しずつ、ありのままの素顔を見せるようになっていった。



『今日ね、とうもろこしご飯作ったの!』


『暑すぎて海にダイブしたいよ。労働なんてする気温じゃないよね』


『家でモヒート作ってみたよ。お店には敵わないな、修行しないと』



 そんな可愛らしいメッセージと一緒に送られてくる、プライベート感溢れる自作料理やモヒートの写真。


 写真の中に映る杏奈は、店での完璧なドレス姿とはどこか違う、やわらかな雰囲気を纏っていた。


 綺麗に揃えられた前髪と、ふわりと肩を包むハイトーンのロングヘア。吸い込まれそうなほど澄んだ大きな瞳を輝かせ、キュッと上がった口元から白く綺麗な歯を覗かせて笑うその表情。

華奢な鎖骨や胸元のワンポイントも相まって、店での完璧なドレス姿とは違う、息をのむほど可憐な一人の女の子としての無邪気さに満ちている。



 さらに、薫が趣味で書いた詩や自作の曲を共有すると、杏奈は目を輝かせて喜びを爆発させた。



『薫さん作詞作曲までできるの?? カッコいいな』


『お昼休憩にゆっくり聴いてみますっ』


『私、片思い系の重めの歌詞すき(笑) モテる男に惚れると苦しいので気をつけます!』



「モテないから大丈夫だよ」と笑って返す薫に、『そんな訳ないでしょ。騙されちゃうな』と返す杏奈。


「薫さんいつもいい匂いがする」と甘える杏奈に、「街ですれ違う時にあの香水の匂いがしたら思い出して」と薫るが返すと、

「あの匂いがしなくても日常でふと薫さんを思うことはよくあるよ」と杏奈が本音を漏らす。



 画面越しであっても、指先から伝わってくる熱と、薫という男へ注がれる真っ直ぐな尊敬と憧れの視線。


 有象無象の男たちに辟易していた杏奈と同じように、薫にとってもまた、彼女は「夜のキャスト」という記号を超えた一人の愛おしい女性として、深く心に侵食していたのだ。



——杏奈という女性に、ただ会いに行きたい。


誰かの引き立て役でも、偶然のヘルプでもなく、杏奈一人だけを指名して、あの弾けるような笑顔に直接触れたい——。



 画面越しのやり取りを重ねるうちに募ったその確固たる衝動に突き動かされ、薫はついに、たった一人で『ETERNAL』の重い扉を叩くことになるのだった。


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