92話~お手上げです~
何処からか金貨を生み出して、人々を魅了しようとするシルクハットの男。
その人を見て、ランベルトさんが叫ぶ。
「やめろ!嬢ちゃん!そいつは遺物だ。手を出すんじゃねぇ!」
えっ?異物?それって、邪魔な人ってこと?
詳しく聞きたかったけど、
「おっと。貴方の相手は私ですよ?」
ランベルトさんは再び、戦闘に引き戻されてしまった。
「邪魔だ、てめぇ!退きやがれ!」
「そう望むのであれば、本気を見せなさい。見せかけだけではない、本物の貴方を」
「ちっ!」
良く分からないけど、ランベルトさん達はこちらを手伝う余裕がなさそうだ。
なら、やっぱり私達で相手するしかないわ。
「行きましょう、ブーちゃん。ハロード様。私達であのゴーストを止めるの」
【ブフー!】「はい!バーガンディ様」
3人でアトラクの足元まで行くと、シルクハットのゴーストとディレックが私達を見下ろす。
「さて、もう一度問おう。本当に儂の元に来て、俺様と共にこの世界を操らないか?俺様はこの世の富を統べる力を持っている。お前達がしたい事、全部させてやるぞ?」
「答えは、こうですわ!」
私はファイアボールを放つ。すると、すぐにブーちゃんが反応して、拳で火の玉を殴りつけた。殴られた玉は弾丸になってアトラクの前足を1本飛ばした。
途端に、アトラクとゴーストが悲鳴を上げる。
【ギィィイイ!】
【ギャァア!痛い!ああ、俺様の腕が、媒体が】
ゴーストは腕を大きく振って、糸を操る。すると、部屋に置かれていた檻が開けられて、中から幻獣達が姿を表した。
ゴーストが高らかに声を上げる。
【虐げられし我が同胞よ。今こそ声を上げ、偽りの支配者共を蹴散らせ】
【ヒヒヒィン!】
【ブルァアア!】
【ワォオオン!】
大変!魔獣達がこっちに向かってくる。ただでさえ、傭兵達に苦戦しているランベルトさん達では、防ぎきれないわ。
向こうにブーちゃんを向かわせる?でも、元凶のディレックとゴーストを止めないと…。
「行け!マイラ!」
【ガルルゥア!】
私が迷っていると、ドナさんがキマイラを召喚した。途端に、崩れそうだった戦況が何とか持ち堪えた。
加えて、
「くそっ!こうなりゃ、お前に頼るしかねぇ!」
なんと、ランベルトさんまでファミリアを召喚した。しかも、彼から放たれる魔力は物凄く大きい。その大きくて真っ白な魔力からは、同じくらい大きくて真っ白な従魔が召喚された。
それは、巨大なウルフ。あのシルバーウルフよりも大きくて、獰猛そうな表情でみんなを見下ろした。
その巨大ウルフを見た途端、傭兵も幻獣達も動きを止めた。
「こ、これは…」
「間違いねぇ、フェンリルだ」
「バカな!なんで冒険者風情が、Sランクの従魔なんかを…」
えっ?Sランク?
驚いて、私達も固まる。
そんな中、ゴーストだけが動いた。手を振り、金貨を振りまいて、仲間達を鼓舞する。
【これは大チャンスだぞ!みんな!Sランクは希少、お金になる。狩った者には莫大な褒賞を約束しよう!】
何を言ってるの?ファミリアは素材を落とさないのよ?
私は不思議に思ったけれど、周りは違った。傭兵も、魔獣達ですら、ゴーストの声に踊らされて、Sランクのフェンリル目掛けて突っ込んでいった。
「俺だ!俺が狩るぞ!」
「俺のものだ、寄越せェ!」
「塵も残さず、奪ってやる!」
【ヒヒヒィインッ!】
みんなに群がられたフェンリルは、とてもやり難そうにしながら戦っている。
何度倒れても立ち上がる人達は、まるであのコロシアムにいたギャンブラーを思い起こさせる。
きっと、あのゴーストが原因ね。
「ブーちゃん!」
【ブフー!】
私が炎の盾を渡すと、ブーちゃんは心得たとばかりに駆け出す。アトラクに向かって飛び上がった。
やっちゃえ!
【おっと、これでも攻撃出来るか?】
でも、攻撃出来なかった。
ゴーストが手を振ると、奴らの前に誰かが割り込んだ。
それは、ユニオン・ローズのちびっ子達だった。
【ブッ!】
後ちょっとで拳を振り下ろしそうになったブーちゃんは、慌てて拳を引き戻し、地面に激突した。
「ブーちゃん!?」
【ブッハハー!】
ブーちゃんはすぐに立ち上がるも、悔しそうに上を見る。
そこでは、ちびっ子を蜘蛛の巣でぐるぐる巻きにしたゴーストが大笑いしていた。
【ボハハハ!攻撃出来ねぇだろ?仲間だもんなぁ。お前ら人間は、仲間を大切にするもんなぁ。一銭にもならねぇ友情なんてもんを持ってるから、こうやって損をするんだよ!】
「なんですって!」
「バーガンディ様!」
つい、怒りのままに杖を振り上げた私を、ハロード様が諌める。
そして、小さな声で提案してきた。
ある、作戦を。
「どうですか?バーガンディ様」
「ええ、それなら行けますわ。素晴らしいです!」
【ブッハハー!】
私もブーちゃんも大絶賛した。
そして、動き出す。ハロード様の描いたシナリオ通りに。
〈◆〉
蜘蛛の巣の下では、人間共が右往左往している。俺が金をばら撒いただけで、傭兵共は欲にしたがって同族を攻撃していた。
人間とは、なんと愚かな生物だろうか。ただこの薄い金属を振りかざすだけで、平気で命を捨てようとする。死地に喜んで飛び込んでいく。
本当になんで、こんな生物に魔王様が負けたのか、理解に苦しむ。
【いいや。きっと偶然だ。不運が重なっただけのな】
俺は白銀のフェンリルを睨む。傭兵や魔獣の波状攻撃を受けて、動けないでいた。
あの従魔と術者だけが、この場で俺を脅かす危険分子。恐らく勇者に与する者なのだろうが、それも俺の力の前では無力と化している。
俺が持つ力が、勇者一行すら凌駕しているのだ。
【見つけましたよ、魔王様。貴方の悲願もいずれ…】
【ス豚ピング!】
突然、目の前にオークが現れた。俺はすぐに肉の壁を奴の前へと設置して、奴の攻撃を防ぐ。
だが、
「スカフォード!」
男のガキが呪文を唱えると、土がせり上がり豚の足場となってしまう。豚はそれで更に高く飛び上がり、肉の壁を超えた。
振り上げた拳を、俺の化身へと振り下ろした。
ぐっ。
【キィイ!】
アトラクのダメージが俺にも伝わり、苦しくて息が詰まる。でも、動きを止める程じゃない。
俺はすぐに、アトラクに糸を吐かせて落下を防ぐ。宙でぶら下がりながら、豚に糸を吐いて奴を拘束した。
でも、
「ブーちゃんさん!今、焼き切ります」
男のガキが魔法で、豚の糸を焼いてしまった。
くそっ。勇者並に厄介な奴らだ。Sランクを無力化している今、次に狙うはあいつらだ。
俺は反撃に出ようとする。でも、その前に豚が構えを変えた。
なんだ?
【マグナム!】
【うおっ!】
なんと、豚まで魔法攻撃を繰り出して来やがった。使ったのは初歩的なマジックミサイルだが、威力がとんでもない。巣の一部が破壊されてしまった。
こいつは、下手に動けんぞ?
俺は急いで、肉の壁を設置する。そして、その裏で蜘蛛の巣を増築する。この部屋を覆ってしまい、奴らを丸ごと拘束するのだ。そうすれば、あとは煮るなり焼くなり好きに出来る。
そうやってほくそ笑んでいると、男のガキが無造作に前へ出てきた。そして、杖を捨ててこう言った。
「お手上げです。人質を取られていたら手が出せない。話し合いましょう」
【ほぉ?やっとその気になったか】
俺は興味ある声を出しながらも、警戒する。まだ異常な豚が控えているからな。
それが分かったのか、豚はボイドを開いて撤退する。男のガキだけがその場に残る。
「貴方は強い。是非、その秘訣を教えて頂きたい」
【それをお前ら人間が言うか。ボハハ!笑える】
俺とアトラクは、少年の真上まで蜘蛛の巣を伸ばし、糸を伝って少年の近くまで垂れ下がる。
【良いだろう、少年。お前が俺の提案を聞けば、人質は解放してやろう。この騒動もここで終わりだ】
「提案?それはなんです?」
【俺の力を、お前のファミリアに分け与える。そうすれば、お前もこのデブと同じ…いや、遥かに超える力を手に入れられるのだ】
元々、こいつには才能がある。俺の力を使いこなす才能が。
だから、これが俺にとってもチャンスだと思った。より強力な個体に乗り移れば、より近付ける。
お前らが持つ、強さの秘訣に。
【どうする?ハロード・チェスター】
「そうですねぇ。答えは…これです」
少年はそう言って、紙切れを1枚差し出してきた。
その紙切れに、魔力が流れる。途端に、眩い光が辺りを照らす。
途端に、
【がっ!】
【ギィィイイイイイ!!】
光が爆発した様に見え、次の瞬間には何も見えなくなってしまった。
なんだ?何が起きた?痛い。目が痛い!焼けるように痛いぞ!?
【あぁああ!目が、目がぁあ〜〜!!】
何も見えない。何も分からない。一体何が、俺は、俺達はどうしたと言うのだ?
訳も分からず、そうして地面をのたうち回っていると、
「ブーちゃん!」
声が聞こえた。
今まで聞こえなかった、女のガキの声だ。
その声に呼応する様に、闇の魔力が生まれる。重い足音が、すぐ目の前に鳴り響く。
【ブハハッ!散々集めた金貨で目を焼かれるとは、何とも情けない終わりだな、強欲の悪魔よ】
【ぐっ、金貨だと?お前は何を言っている?お前らは俺様に、何をしたんだ?】
【そのままの意味だ】
強力な魔力が、目の前に生まれる。
それが、俺の頭へと振り下ろされる。
【お前はただ、金に目が眩んじまったんだよ】
ブシュリ。
そんな音と共に、俺の意識は途絶えた。




