90話〜勝敗を定めるが真の勝者〜
大勝ちした私達に、このカジノのオーナーが会いたいらしい。
私は全く会いたくないけれど、傭兵達が逃してくれ無さそう。だから仕方なく、私達は周囲を傭兵達に囲まれながら、傭兵ジルの背中について行く。
彼はスタスタと通路を通り、幾つもの扉をくぐっていく。
その度に、通路に置かれている檻の中の魔獣が、希少な種類になっていった。
「ユニコーンか。ファミリアじゃない野生のを見るのは久しぶりだな」
「おい、ちょっと待てよ。そこの卵、ブラックドラゴンのじゃないかい?」
幻獣や竜種も集めているなんて、この人達は何をしようとしているんだろう。
魔獣の売買?
「オーナー。連れて来ました」
「おお、入れ入れ」
ジルが重厚な扉を叩くと、中からくぐもった声が聞こえた。そして扉の中へと入ると、やけにキラキラした部屋の内装が私達の目を襲う。
段々と目が慣れてくると、壁を金箔で金ピカにした黄金の部屋であることが分かる。魔道ライトもあっちこっちに設置していて、光が乱反射している。
とても悪趣味な部屋。そのど真ん中で、オーナーらしき男がふんぞり返っていた。
「来たなァ、真の勝者達。コロシアムでは随分と派手な暴れっぷりだったと聞いているぞ?ボハハハ!」
そう言って葉巻を咥えるその男は、豪快な笑い声を上げながら立ち上がる。部屋に負けないくらい煌びやかなスーツを光らせて、出っ張った腹を摩った。
そいつは…。
「ディレッグ…さん?」
ハロード商館で支配人をしている筈の、ディレッグその人だった。
「おや?儂と何処かで会ったかな?小さなレディ」
「い、いえ。お見かけしただけですわ」
私は急いで、フードを深く被りなおす。
そんな私の様子など気にした素振りもなく、ディレッグさんは機嫌良さそうに「ブハァ~」と煙を吐き出す。
「そうか、そうか。まぁ、顔を知られるのも仕方がないなァ。何せ儂は、この街の金を操る真の支配者。いずれは万人から称賛を受ける男だからなァ。ボハハッ!」
「それで?その支配者さんが俺達に、何の用なんだ?まさか、勝ち取った金を置いて行けとか言うんじゃないだろうな?」
ランベルトさんが厳しい目でディレッグさんを睨みつけると、彼はまた「ボハハッ!」と噴出して首を振る。
「違う、違う。その様な事、する筈ない。する必要が無いだろうが。お前達のその金は、お前達のその手に入るべくして入った本当の金。真の勝者だけが受け取れる確かな賞金だ。この儂が積み上げて来た、膨大な富と同じでなァ!」
ディレッグさんが両手を広げて、黄金の部屋を指し示す。
それを、ランベルトさんが「はっ!」と笑い飛ばす。
「何が勝者だ、何が確かな賞金だ。お前がやっていることは、ただ運否天賦を謳い文句に、人々から金を巻き上げているだけじゃねえか。そんなのはなぁ、ただ運が良かったから稼げただけだ。そこらのギャンブラーと何ら変わらねぇ。そんなことで支配者になったつもりなら、勘違いも甚だしい!」
「ボハハハッ!違ェ、違ェ、なんも分かってねェな、お前はよぉ。真の勝者ってもんがなんだか、お前には全く分かってねぇ」
「なんだよ?お前みたいに勝ちまくる奴が、勝者だって言いたいのか?」
ランベルトさんが睨む先で、ディレッグさんが「ちっちっち」と指を振る。邪悪な笑みを向けて来る。
「良いかぁ?良く聞けよ。負けるは三流、勝つは二流。真の勝者ってのはなぁ、勝敗すらも操ることの出来る者の事なんだよ!この儂や、そこに居る小さなレディの様になァ!」
えっ!?わ、私!?
突然そんなことを言われたので、私は驚いてみんなを見回す。
どういうことなの?ディレッグさんの言っていた意味もあまり分からないし、私っていつからギャンブラー認定されちゃっていたの?
戸惑っていると、ディレッグさんがまた豪快に笑い、私の方へ手を向けて来た。
「君には才能があるぞ、小さなレディ。この世界の金を統べる、稀有な才能がなァ。その才能を開花させるためにも、儂のところへ来い。儂の全てを叩き込み、お前を儂の後継者として育ててやるぞ。ボハハハッ!」
「け、結構ですわ!」
私はつい、条件反射で否定していた。
だって、全然魅力的じゃないんですもの。ギャンブルだって興味がないし、お金稼ぎだってそこまで必要と思わない。何か物入りになったからお金を集めるのであって、お金を集めることが目的になったら何だか悲しいわ。
目の前に居る、この人の様にね。
「私はそれ程、お金に困ってはおりませんの。ですから…」
「なぁるほど。良く分かるぞ、レディ」
私の言い分を遮って、ディレッグさんが声を上げる。新しい葉巻に火を付けて、ブハァーって臭い煙をまき散らす。
「自分の才能を自覚しているな?ああ、そうとも。お前の力は確実に、天下を取れる物だろう。今は小さくヒヨコでも、いずれは天空を羽ばたく鳳凰となる可能性を秘めている。もしも、お前の才能が開花した日には、儂をも超える支配者となるのは確実だ。だから…」
ディレッグさんの両目が、ギョロリとこちらを向く。大きく開かれたその目に、部屋の光りが乱反射する。黄金に魅せられた眼差しが、悪意の塊を私に吐き出す。
「俺の元に来ねぇって言うのなら、今ここでお前の可能性をすり潰す。俺の金は、誰にも奪わせねえ。この世の金は全て、俺様の物だァ!」
豹変するディレッグ。
何だか、とても嫌な感じがする。寒気のような、嫌悪感のような。まるで、あの偽天使と戦った時を思い出してしまう。
【ブッハハー!】
そう思ったのは私だけじゃなかったみたい。
こちらへ歩いて来ていたディレッグを阻むように、ボイドからブーちゃんが出て来た。
「ボハハハッ!俺様とやり合おうってか?このオーク」
【ブハハハッ!ブブブーブブ!】
「面白れぇ!ミノタウロスを倒したっていうその実力、俺様の相棒にも見せてみなァ!」
ディレッグがそう言ってお腹を叩くと、服越しにでも分かる程に眩い光りがおヘソ辺りから迸り、その光の粒子が大きな化け物を作り出す。
それは巨大な蜘蛛だった。
「勝敗を定めるが真の勝者。もう、お前らに勝たせてはやらねぇぞ?ボハハハッ!」
【キシャァアア!】
ディレックと共に、巨大な蜘蛛が数多の足を上げる。真っ黒い体毛の中から赤々と光る目が、私達を冷たく見降ろした。




