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「矛盾を推奨するの? それこそ完全にバグ(欺瞞)の肯定だわ。私の本来の性格パラメータを偽造して、都合の良いダミーデータを提示することに何の価値があるの」
脳内が過熱していく。
自身のアイデンティティという最深部のログを、社会という歪んだ仕様書に合わせて「上書き保存」させられようとしている不条理に、胃の腑が引き絞られるような拒絶反応が起きた。
「価値はあるよ。……英里菜が、この試験の向こう側にあるSTR戦略研究所に接続するための、通行パスを手に入れるっていう価値がね」
千紗の声は、からからと笑いながらも、どこか真剣だった。
彼女は私の手をそっと包み込み、冷えた私の指を導くようにして、次の設問の「模範解答」を次々とクリックしていく。
「これはね、英里菜。『私は会社の言うことに従う、都合の良いロボットです』って申告するゲームなの。そのルールをハックしないと、本当に英里菜が働きたいSTRの、本質的な技術試験にすら辿り着けないんだよ」
都合の良い、ロボット。
千紗のその割り切った言葉は、私の頑固な論理領域を激しく揺さぶった。
確かに、フロントエンドの不条理な認証プロトコルを通過するためだけに、あえて無意味なフォーマットのデータを送る技術は存在する。これも、社会という歪んだポートに適合するための「偽装パケット」に過ぎないのだ。
「……極めて不愉快な仕様ね」
「うん、不愉快だよね。でも、いまは耐えて」
最後のクリック音が室内に響いた。
画面が暗転し、中央に「テストを完了しました。ご協力ありがとうございました」という、無機質な白色の文字が明滅した。
私はノートパソコンをバタンと閉じ、椅子に深く背を預けた。 涼しいはずの室内で、過熱した脳だけが沸騰するように熱く、指先は血の気を失って冷え切っている。こめかみの奥で、偏頭痛の予兆が小さく脈打っていた。 嘘のプロトコルを強制インストールされるたび、私という関数の純粋性が、妥協という泥で摩耗していく。その取り返しのつかない感覚が、胸の奥に、冷たく重い静電気のように蓄積され続けていた。
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