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大学のキャリア支援室は、私にとって、明度と彩度の設計思想が完全に崩壊した視覚的テロリズムの空間だった。
五月下旬の、張り付くような湿気を含んだ昼下がり。
ガラス扉を押し開けた瞬間、壁一面に隙間なく貼り巡らされたポスター群が、フィルターなしのRAWデータとなって私の網膜を直撃した。
「内定を勝ち取る自己分析!」「第一印象で差をつけろ!」「熱意を伝える面接対策セミナー!」
赤、黄、青。蛍光色に近い原色で強調された暴力的な文字列と、不自然に輝度の高い笑顔を浮かべたビジネスパーソンたちの写真。それらの視覚的パケットが、私のプロセッサの描画領域を一瞬で限界まで圧迫し、こめかみの奥にじわじわと不快な熱を蓄積させていく。
部屋の隅、パーテーションで区切られた個別相談ブースの脇に、一鉢のパキラの鉢植えが置かれていた。
その人工的な緑の葉の表面には、長年放置されているのだろう、うっすらと灰色の埃が積もっている。
壁に躍る「前向きな熱意」や「未来への躍進」といった美辞麗句のすぐそばで、生きているはずの植物が手入れもされず、ただ静かに、過剰な入力を求めることもなく、自身の生存プログラムを淡々と実行していた。その圧倒的な非対称性と二面性が、この空間そのものの欺瞞を体現しているようで、私の胃を不快に収縮させた。
「――茅野さん。エントリーシート、拝見しました」
パーテーションの向こう側。中年の女性相談員が、千紗に翻訳してもらった私の自己PRプリントを見つめながら、困ったように細いプラスチック製の老眼鏡を指先でいじった。
私の隣には、保護者のように千紗が座り、どこかハラハラした様子でこちらの様子を伺っている。
「……うん。文章はね、すごく論理的で綺麗にまとまっているわ。お友達が手伝ってくれたおかげかしらね?」
相談員は千紗に一瞬だけ目を向け、それから私へと視線を戻した。その笑顔は、表面上は穏やかだが、眼球の奥にある感情のログは完全に冷え切っている。
「でもね、茅野さん。志望動機や自己PRの文面以上に大切なのは、やっぱり本人の『印象』なの。面接官が最初に見るのは、あなたの表情や、そこから伝わってくる元気のよさ、誠実さ、そして協調性よ。このエントリーシートの文章、ちょっと冷たすぎる印象を受けるのね。もっとこう、自分を元気よく、前向きにアピールする練習をしないと」
元気。前向き。協調性。
また、定義の存在しない定性的パラメータの押し売りだった。
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