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「事実を記述しただけよ。私は彼らの公開している技術要件とインフラの数理モデルを逆算し、そのトポロジーが最も美しいと判断した。私はただの機能として、彼らの無駄のないシステムの一部になりたいの。これ以上に純粋な動機がある?」
「あるわけないでしょ。普通の人間は、自分のことを関数なんて呼ばないの」
千紗は苦笑しながら、躊躇なくその行に赤ペンで太い横線を引き、余白に滑らかな手つきで文字を書き入れ始めた。
「こう書くの。『御社の徹底して論理的な社風と、最先端の技術環境に強く惹かれました。数理科学で培った論理的思考力を活かし、システム構築の最適化に貢献したいと考えております』――ほら、これなら人間の面接官にもちゃんと伝わるよ」
「……意味が曖昧に希釈されているわ。私の本来の意図が、平坦で退屈なテンプレートメッセージに上書きされてしまっている。他人に気に入られるために、自分の本来のログを偽造して提示するのは極めて不愉快よ。システムに対する不誠実だわ」
スプーンを皿に置き、私は不満を隠さずに眉をひそめた。
だが千紗は、出来上がった赤ペンだらけの用紙を私に返し、悪戯っぽく微笑んだ。
「これは偽造じゃないよ、英里菜。これはね、現実世界のインターフェースに適合させるための『バグ対策のコーディング』なの」
「コーディング?」
「そう。英里菜の頭の中のプログラムは、普通の人には高解像度すぎて、そのまま出力すると相手の受信ポートを破壊しちゃうんだよ。だから、私が間に入って、普通の人間でも読み込める一般的な形式に『翻訳』してあげてるの。相手の脳のスペックに合わせた、データ圧縮みたいなもの。そう思えば、少しは納得できるでしょ?」
バグ対策のコーディング。相手の受信ポートに合わせた、データの圧縮。
千紗の提示したそのファジーな比喩は、私の頑固な論理領域に、すとんと自然に滑り込んできた。
確かに、受け手の処理能力が低いのであれば、送信側のデータ形式を制限するのは、通信プロトコルにおける当然の配慮(仕様)だ。
「……千紗のその翻訳プログラムは、非論理的だけど、実用上の有用性だけは認めざるを得ないわね」
「でしょ? だから、就活の間は私にデバッグさせて。英里菜が、壊れた部品として社会から弾き出されないように」
千紗は優しく笑い、自分のレモンサワーのグラスを私の烏龍茶のジョッキに軽く当てた。
コツン、と響いたガラスの音は、周囲のどんな騒音よりも澄んでいて、私の耳栓を通り抜けて脳幹を心地よく冷却してくれた。
私は赤ペンで真っ赤に染まったエントリーシートを見つめ直した。
千紗が施してくれた、おびただしい数の「修正コード」。
それらは、私という不格好な関数を、この歪んだ社会に無理やりマウントするための、唯一のセーフティネットだった。
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