12
駅前の格安居酒屋は、私にとって感覚の過負荷を引き起こす致命的なパケットの洪水だった。
五月中旬の、金曜日の夜。
木製のチープな間仕切りを透過してくる、アルコールに浮かされた大学生たちの金切り声、ジョッキの触れ合う高周波の衝突音、そして換気扇が吸い込みきれずに滞留している安価な揚げ油の匂い。
私はあらかじめ両耳に防音用のフォーム素材の耳栓を深く挿入していたが、それでも木製のベンチシートを伝って、床からお腹の底へと響いてくる不規則な重低音の振動までは遮断しきれなかった。
視界の端、通路を挟んだ隣のテーブルに、一枚のメニュー表が立てかけられていた。
合成樹脂でコーティングされたメニュー表の表面には、過去の客が零したと思われる、乾いてこびりついた焼き鳥のタレの小さな斑点が、不規則なドットパターンを描いて飛び散っている。
その汚れた非対称の視覚ノイズが、私のプロセッサの描画領域を執拗に圧迫し、不快な熱をこめかみの奥に蓄積させていく。
「はい、お待たせ。烏龍茶と……英里菜の、これ」
千紗が私の目の前に、小さなガラスの器を置いた。バニラアイスクリームに、これでもかと黒蜜がかけられた極甘のデザート。私の糖分メーターがデッドラインを割るのを防ぐための、即効性の燃料だ。
千紗は耳栓をしている私に配慮して、唇の動きをはっきりと見せながら、少し大きな声で語りかけてくれる。
「冷たいうちに食べなよ。それで、見せて。英里菜が書いたエントリーシート」
私はスプーンを手に取り、脳内プロセッサを冷却するために黒蜜の塊を口に運びながら、クリアファイルから取り出したA4のプリントアウトを千紗へと差し出した。
そこには、私がSTR戦略研究所への接続を試みるために、自力で記述した自己PRと志望動機が印字されていた。
千紗は手にした赤ペンをくるくると回しながら、私の記述に視線を落とした。次の瞬間、彼女の動きが物理的にフリーズした。
「……ねえ、英里菜。これ、なんて読むの?」
「志望動機よ。論理的な整合性を重んじる茅野英里菜という関数が、STR戦略研究所というメインシステムに最も適合する理由を客観的に記述したわ。何か異常でもある?」
千紗はこめかみを押さえ、深いため息をついた。
「バグだらけだよ、英里菜。これじゃ面接官の脳がコンパイルエラーを起こして、一秒で不採用フォルダに放り込まれちゃう」
彼女はプリントの最初の行を、細い人差し指で指し示した。
「まずこれ。『志望動機:御社のサーバー配置における物理的・論理的な対称性の美しさに惹かれ、自身の処理能力を最適化するための関数としてマウントされることを希望します』……これ、人間が読む文章じゃないよ」
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