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即席で書き上げたクローリング用のスクリプトを実行し、企業の「実態」を数値として取得する。
取得した生データ(RAWデータ)を、私が構築した「企業の不健全度(感情的ノイズ比率)」を算出する独自の評価モデルに流し込んだ。
画面上を、無数の企業のログが超高速で流れ落ちていく。
「笑顔の社員」の画像データや「社会貢献」という美文の裏で、多くの企業が深刻な「論理の欠損」を抱えていた。過剰な役員報酬の偏り、実態を伴わない無形資産の計上、不自然なまでに右肩下がりの研究開発費。
それらはすべて、人間という不確実なパーツが、自身の利権や忖度という「バグ」によってシステムを歪めた結果だった。
「やっぱり、どこもゴミデータばかり……」
ため息をつき、スクロールを止めようとしたその時。
私の構築したフィルターが、一つの極値(エラー値)を検出して稼働を停止した。
そこには、他の企業とは明らかに異なる、異様なほどに整った数理構造を持つ一社が存在していた。
「……何、これ」
指先が止まる。
その企業の財務推移、投資対効果(ROI)、リソースの分配バランスには、一切の無駄がなかった。まるで、人間というファジーな知的生命体が介在していないかのように、すべてのパラメータが最適化され、無機質な対称性を保っている。
企業のPR文にも、「やりがい」や「人の絆」といった曖昧な情緒を表す単語が、統計的に有意なレベルで完全に排除されていた。
そこにあるのは、純粋な論理と、徹底された効率性のみ。
企業の名称が、画面の青い光のなかに静かに浮かび上がった。
――「STR戦略研究所」。
それは、政府や超巨大インフラ企業のシステム設計を裏で牛耳る、数理シンクタンクだった。
「どうしたの、英里菜? 難しい顔して」
千紗が私の顔を覗き込んできた。
私は画面を見つめたまま、小さく呼吸を整えた。
耳元の、ノイズキャンセリングヘッドホンをそっと指先で触る。
張り巡らされた網の目のような社会のノイズのなかで、ここだけが、外界から隔絶された静音室のように美しく、冷たく澄んでいるように感じられた。
「見つけた」
私は呟いた。
「このシステムなら、私を機能としてマウントしてくれるかもしれない。茅野英里菜という関数を、最も効率的に処理するための、冷徹なソケットとして」
私の言葉に、千紗は画面を見つめ、何かを察したようにかすかな、そしてどこか物憂げな沈黙を返した。
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