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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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65.これからの話

 親しげに見つめ合うあたしとヴィオレッタを「一体何?」と訝しげに見ている周囲。

 ついさっきまで別世界のもののように聞こえていた鳥の囀りは日常の音へと姿を変えている。


「まァ、とにかくワタシはキミたちに礼を言いに来たんだ。

 本当にありがとう」


 ヴィオレッタはテーブルに置いた手を組み、真っ直ぐにあたしを見つめて感謝の言葉を口にした。

 次にハルヒト。ジェイル、メロ、ユウリ、アリス、ユキヤの一人ひとりと目を合わせていた。

 あたしは何に対する感謝なのかわかっている。けれど、状況が全くわからないまま六堂家にいた六人は不思議そうな顔を――してなかった……。まるで”全てわかっている”と言いたげな表情でヴィオレッタの視線を受け止めている。

 ……ほんと一体何……?


「キミたちがどこまで聞いているのかわからないけれど、感謝の気持ちは受け取っておいて欲しい。

 あの時、キミたちがいなかったらワタシはこんな風にロゼリアと会うことはできなかっただろうからネ」


 ゆったりとしたアルトボイスだった。言葉一つ一つを噛み締めているよう。

 ……彼女がりょーこであるなら、当然この世界がゲームと同じ世界だとわかっている。ゲーム内で起きる自分の運命も。

 ゲーム通りの未来にならなかったことを感謝しているのだ。

 あたしに。

 そして、その場に居合わせた彼らに。


「俺からも礼は言っとく。……マジでサンキューな。

 家のことだから詳しくは話せねぇけど、とにかく感謝してる」


 そう言ってザインが静かに頭を下げる。合わせて、ディディエとカミルも頭を下げていた。

 珍しく真面目で殊勝な態度にあたしを含む全員が驚いて彼らを見つめている。……これまでの言動を見ていたら、こんな風に礼を言うなんて思わないわ。

 あたしが返事に悩んでいると、ハルヒトが先に口を開いた。


「オレも去年家のゴタゴタがあったからちょっとだけど気持ちはわかるよ。

 ……良かった、とは言えなさそうだけどね……」

「うん、良かったとは一概には言えないなァ。ただ、最悪の事態は避けることができたのは間違いないヨ」


 ヴィオレッタは微笑みを(たた)えたまま答える。ハルヒトは眉を下げて「そっか」と短く呟いていた。

 ……っていうか、ハルヒトはヴィオレッタに対して敬語じゃなくて大丈夫なの……?

 妙な心配でソワソワしたところで、不意にヴィオレッタが両手をパチンと叩いた。


「この話はここで終わり! あんまりしんみりしたくないんだよネ。

 あとは六狼会(ウチ)のことだから、キミたちが心配するようなことは何もないヨ。

 心から感謝してる。とにかくそれだけきちんと伝えたかったんだ」


 さっきのゆったりとした口調から一変して軽やかな口調に変えるヴィオレッタ。こういう切り替えの早さも会長の素質の一つだろうな。

 空気が緩んだのにホッとしながら、手つかずのままのお茶とお菓子を見て笑う。


「そうね、色々と気になることはあるけど……部外者が聞いちゃいけないわ。

 ――折角だからお茶とお菓子をどうぞ。うちの料理長が気合を入れて作ったのよ」


 勧めると、それまでお行儀よく座っていた面々が各々お茶やお菓子に手を伸ばす。

 ハルヒトも、ザイン、ディディエ、カミルもどこかホッとした様子だった。……まぁ、気を張る話題だったしね。


「ありがたくいただくヨ。車移動が長くて流石に疲れちゃってたんだ。

 ……ところでロゼリア、一つ聞きたいんだけど。いいカナ?」


 ヴィオレッタがエクレアに手を伸ばしながら軽い口調で聞いてくる。


「何かしら?」

「キミさぁ、婚約者はまだ決まってないよネ?」

「え?」


 和やかな雰囲気になった空気が再度凍りついた。

 お茶を飲みかけたハルヒトが咳き込んでしまい、ユキヤが慌ててハンカチを差し出していた。

 ヴィオレッタは意に介することなく、にこにこ笑顔のままエクレアを齧る。


「ザイン、ディディエ、カミル。相手として悪くないと思うんだけど、どう?」


 今度は名前を出されたザインたち三人がお茶を吹いたり、お菓子で噎せていた。

 ……あと、背後が騒がしい。ちらりと後ろを振り返れば、暴れそうなメロをユウリが羽交い締めにしている。ジェイル、ユキヤ、アリスの三人は何とも言えずに険しい表情をしていた。


「この子たちに足りないところがあれば言って。これから教育するから。

 家格的にも丁度いいし、もちろん婿養子に出すつもりだし――」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! ヴィオレッタ、急に何を言ってるの?!」

「何って……ロゼリアの婚約者の話。実はこっちが本題なんだよネ」


 語尾にハートマークがついているような口調だった。っていうか焦って”さん付け”忘れたんだけど!

 ガタッと乱暴に椅子を押して立ち上がったのはディディエだった。


「姉さん! そんな話は聞いてない!」

「言ってないからネ。ディディエにとっては上昇婚になるんだから歓迎するところでしょ?

 上手く婿養子に入れば、『次期会長の夫』だヨ。何不満なの」

「そういう問題じゃない!」

「じゃあ、どういう問題?」


 ディディエが言葉を詰まらせる。

 ……いや、ディディエはあたしが嫌いだから、そもそも大問題よね……?

 ザインだってカミルだって、あたしとの結婚なんて嫌でしょ。九龍会の『次期会長の夫』という称号があったとしても、あたしが本当に『次期会長』になるかは不明だもの。

 が、あたしの心情とは裏腹に、ディディエがあたしの顔を見て何か言いたげにしている。

 目が合うと、何故か焦ったように顔を背けてしまった。

 ……何。今の反応。

 このままだとそういう方向で話が進みそうだったので、あたしは慌てた。


「ヴィオレッタ。流石に気が早いわ。それに、ザインたちにも選ぶ権利があるでしょ」

「そうかな? ロゼリア、もう二十歳超えてるんだからそういう話があってもおかしくないヨ。

 っていうか早い内に動かないとガロ様が決めちゃうからネ。こっちからアピールしていかないと。

 ……それに、今のワタシは弟が嫌がることはしないヨ」


 そう言ってヴィオレッタはにこーっと笑った。何か含みのある笑みだわ。

 見れば、ザインは気まずそうにしているし、カミルはいつの間にか平然とお茶を飲んでいる。この二人は話に割り込む気はなさそうね。……とは言え、この二人もどこかおかしい。

 が、黙ってられない人物が一人。


「勝手にそんな話しないで欲しいんスけど?! お嬢の結婚なんてまだまだ先ッスよ!」

「キミが知らないだけで、ガロ様の周りではそういう話が絶対あるヨ。そりゃもうわんさか」

「でも、あんた――」

「わーーー!! メロ! それ以上は駄目だよ、静かにして! ――申し訳ございませんでした!」


 ユウリが慌ててメロの口を塞ぎ、ヴィオレッタに頭を下げる。

 ヴィオレッタは「ふーーー」と深い溜息をついて、あたしの周りにいる人間を値踏みするように眺めた。


「……こんな風に喧嘩を売るのは本意じゃないんだケド……。

 ハルヒト君は八雲会の会長に正式指名されたらそもそも他会の会長との婚姻なんて絶対無理だからネ。

 あと後ろの四人は家格が足りない。同性同士の婚姻は認められてない。

 ――現時点で一番丁度いいのは、間違いなくウチの弟たちだヨ」


 そう言ってヴィオレッタは腕組みをし、椅子の背もたれに凭れかかった。

 悠然とした態度。自分の言葉に間違いはないという自信。それらが溢れ出している。

 指摘を受けた面々はめちゃくちゃ不満そうだった。釈然としない顔をしたハルヒトが、疑念たっぷりの視線をヴィオレッタに向けた。


「……ヴィオレッタさん。どうしてそんなに弟さんとロゼリアの結婚に拘るの?」

「え? そりゃ拘るヨ。

 だって、弟のうちの誰かがロゼリアと結婚すれば、ワタシとロゼリアは姉妹になれるんだもん」


 ――姉妹。

 ”え、それだけのため?”という空気が流れる。

 けれど、ヴィオレッタ本人は真剣な表情をしていた。

 ”名案でしょ?”と言わんばかりに笑いかけられる。

 悪くない――そう思ってしまった自分がいた。

読んでくださってありがとうございます!

あと2話です!

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