58.秘密を渡す
ザインとディディエを部屋に呼び戻し、改めて三人と向き合う。
カミルはさっき話しをしたけれど、他の二人は当然怪訝そう。
あたしの決意が鈍らない内に本題に入ろうと思い、腕組みをした三人を順に眺めた。
「まず……これから話すことは、あたしから聞いたって絶対に言わないで欲しいの。絶対によ」
念を押すとザインとディディエが顔を見合わせた。カミルも不思議そうな顔をしている。
「いい? これは絶対に守って欲しいのよ」
「待て待て。話が見えねぇよ。話の内容がわかんねぇのにそんなの約束できるわけねぇだろ」
ザインがあたしを制するように右手を持ち上げた。
話の腰を折られて、ちょっとムッとしてしまったけど――まぁ、相手の立場だったらあたしもそう言うわね。とは言え、情報元があたしだってバレると後で死ぬほど面倒くさくなるから守ってもらわないと困る。
ディディエが目を細め、少し不満そうな顔をした。つまらなさそうに口を開く。
「……だが、その約束をしないことには内容も明かせないという流れだろう?」
「察しが良いわね、その通りよ」
「気軽な賭けの代償にしては大仰すぎないか?」
「最初はそんなつもりなかったのよ。賭けの代償にした方が都合がいいだけ」
変に取り繕うのやめ、内心を正直に話す。
ディディエは何とも言えない顔をして眉間に皺を刻んだ。……まぁ、我ながら無茶苦茶なことを言ってるのは理解してるわ。
ザインとディディエは答えに窮しているようだったけど、カミルだけはあたしを見て微笑んだ。
「ロゼリアさん。僕はそのお約束、必ず守ります。
――これから聞く話の情報源があなただということは絶対に漏らしません」
カミルの答えに二人は驚いていた。そして、再度顔を見合わせている。
ザインがジト目でカミルを見つめた。
「……さっき何言われたんだよ」
「別に? ほら、麻雀の時に”勝った人の言うことを聞く”って提案したのは僕だからね」
「何言われるか気にならねぇの?」
「悪い話じゃなさそうって感じかな」
ザインとカミルのやり取りを、ディディエは眉間に皺を寄せたまま聞いている。
こいつ最後まで渋りそう、と思っていた矢先――ディディエが盛大に溜息をついた。
「わかった。カミルがそう言うなら、オレも約束しよう」
「はあ!? おめー正気かよ!!」
「今のオレがロゼリアの申し出を断るのはあまりに分が悪い」
……ああ。自分の暴言っていうか失言を気にしてるのね。正直もうあんまり気にしてないけど、こういう風に作用してくれるのは好都合だわ。
そして最後。
全員の視線がザインに集中した。
流石に弟二人が同意している以上、自分だけが約束をしないとも言えないらしく、諦めたように肩を落とす。
「わかった。約束するよ、しますぅ~」
「そんなに嫌がらなくてもいいでしょ。
……昨日、あんたと二人で話したことに関係することよ」
三人の約束が取り付けられたところでそう言うと、三人の目があからさまに変わった。
ザインがぎゅっと握り拳を作って小さく震わせる。
「まさか、姉貴のことか?」
「そうよ」
「どうして、お前がそんなことを、」
「……もう一つ条件を追加させて。
”どうしてあたしがそれを知っているのか”については聞かないで頂戴」
静かに言うと、三人が目を見開いた。
エアコンから出る風の向きが変わり、壁に貼られているポスターが微かに揺れる。
“それは聞けない”なんて言われたらもう適当に誤魔化すしかなくなるんだけど……ここまで来たら、何が何でもヴィオレッタの監禁場所のヒントを伝えて三人に動いてもらうわ……!
内心身構えながら反応を待つ。
――真っ先に口を開いたのは、さっきと同じくカミルだった。
「わかりました。ロゼリアさんには何も聞きません」
”良いよね”と言いたげに、カミルがザインとディディエを見る。二人とも少し戸惑っていたけど、カミルの意思が堅いことを察してか、揃って溜息をついていた。
「わかった」
「よくわからないが、今回はカミルの意思を尊重しよう」
「ありがとう、兄様」
カミルが満足げに笑みを深め、改めてあたしを見た。
そして、真剣な顔をする。
「ロゼリアさん、教えてください。姉様のことを。何でも良いです、何か知っているなら……」
ザインからもディディエからも真剣な眼差しを向けられている。
あたしは緊張を表に出さないようにしながら小さく頷いた。
「ザインから、ヴィオレッタさんが今どこで何をしているかわからないと聞いているわ。
ジョウジ様は誘拐の線で色々調べてるんでしょう?
でも、全く見つからないのよね。彼女が姿を消したのは、旅行中の出来事だったとか?」
だからジョウジ様は外しか見てない。誘拐犯は外にいると思っている。それは、ザインたちも同じ。
あたしは自分の中の情報の整理も兼ねて、前提となる情報を口にしていった。
三人からは焦れったそうな雰囲気が伝わってくるけど、こちらにも心の準備や段取りというものがあるのよ。
「そうだよ、だから親父は俺らに外に出るなって言ってんだから……」
「そうよね……。彼女はね、六堂家の敷地内のいるの。盲点なのよ」
「なっ……!?」
三人が息を飲んだ。
目を大きく見開き、”そんな馬鹿な”と言わんばかりの表情で、口を開けている。
頭に血が上ったのか、ザインがあたしの肩を強く掴んだ。その拍子に、数歩後ずさってしまった。
「どこだ!? どこにいんだよ、姉貴は!」
「ちょ、ちょっと!」
「ザイン、落ち着け。話はまだ終わってない」
ディディエに諌められ、ザインが我に返る。「わり」と言いながら手を離した。
あたしは小さく深呼吸をしてから、改めて三人を見る。
「話は最後まで聞いて頂戴。あと、今みたいに感情的な行動は絶対に控えて。
……ヴィオレッタさんが敷地内にいるってことは、犯人もいるのよ」
自分で言っておいてチクリと胸が痛んだ。でも、もう決めたことなのよ。
――犯人がいる、という言葉は思いのほか三人に緊張感を与えたのか、ピリッとした空気になった。
本当にくれぐれも感情的な行動は控えて欲しい。……バッドエンドだって存在するんだから。
「あんたたちが知ってるかわからないけど……ギャラリーには地下室があるの」
「地下室、ですか?」
カミルが首を傾げる。ザインもディディエも怪訝そうな顔をしていた。
……やっぱり黒幕じゃないと、その存在は知らないみたいね。
「そうよ。北東の三つ。でも、三つのうちのどれが当たりなのかは流石にわからない。
――騒ぎ立てず、三人で協力して地下室を特定して頂戴。
そこに彼女がいるから、助けてあげて。……これが、あたしがあんたたちに聞いて欲しいこと」
静かに話を終える。
――ゲームとは随分話が違っちゃってるけど、これで推し進めるしかない……。
でも、今のあたしじゃヴィオレッタが監禁されてる地下室を特定するなんて無理すぎるから、三人に託すしかない。
やがて、ザインがものすごく何か言いたそうな顔をしてあたしを凝視する。
……まぁ、”あたしに何も聞くな”というのは酷よね。聞きたいことだらけなのは、他の二人からも伝わってくる。
しかし――カミルがふっと息を吐いて、少し困惑したままで笑った。
「……わかりました。賭けの代償として聞いて欲しいこと、というには……僕らに都合が良すぎる話ですが、有り難く聞かせてもらいます」
「そう、良かったわ。……我儘ついでに良いかしら?」
「はい、どうぞ」
「……あたしが帰るまでに動いて欲しいわ。自分の情報が合ってたのか知りたいから」
あまり時間がない、という情報はそのまま伝えられない。だから、こうやって言うしかない。
……叶うなら、一目でいいからヴィオレッタの無事を確認したい。
とにかく、あとは三人に託すしかなかった。




