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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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45.バック・グラウンド・ノイズ ~沈黙の侵入~

 ユウリとアリスの二人は図書室にいる。

 カミルを休ませるという名目でアリスが半ば強引にユウリを引き止めたのだ。

 しかし――。

 アリスがユウリを引き止めた理由はユウリの想像を超えていた。


「……アリス、それは本気で言ってる……?」


 ユウリは図書室の書棚の間で、声を潜めて問いかける。アリスは本を選ぶふりをしながらしっかりと頷いた。

 そして、さっきユウリに告げた言葉を今一度繰り返す。抑えた声でありながらも、はっきりとした意思を持って。


「わたしが奥の部屋の鍵を開けるので、ユウリくんは中に入ってロゼリア様に必要そうな情報を調べて来てください」


 これである。

 ユウリは額を押さえて俯いてしまった。


「見つかったら大事(おおごと)だよ……僕たちだけの問題じゃなくなる」

「わたしが外で見張ってるので大丈夫です。カミルさまはあの調子なので何とでもなります」


 そう言ってアリスが読書スペースを示した。

 カミルは読書スペースのソファで横になっている。元々低血圧だったのが、雪と寒さのせいで悪化しているらしい。

 アリスがカミルに休んでいるように言い、カミルはその提案を受け入れた。これまでの言動からユウリとアリスが面倒ごとを起こすタイプではないと信じてくれたようだ。これがメロだったらそうはいかなかっただろう。


「……大体、ロゼリア様の求める情報が何なのかもわからないのに」

「ユウリくんなら今ある情報でロゼリアさまに必要なものが何かを推理できるって信じてます」

「……無茶苦茶だよ……」


 頭痛を感じてしまい、こめかみをぐりぐりと押した。本当に無茶苦茶な話だ。

 しかし、アリスは真剣な顔をしている。

 その視線を正面から受けていられずに、思わず顔を背けてしまう。


「駄目だよ、全然わからないから」

「でも、ギャラリーのことを気にしてるのはわかるじゃないですか」

「……ギャラリーの何を気にしているのかまではさっぱりだよ。範囲が広すぎる」


 入っちゃいけない部屋の鍵をこじ開けて入ろうとし、あまつさえ『機密』と言われた情報に手を出そうとしている。

 小声で話しているものの、カミルに気付かれないかとヒヤヒヤしている。

 元々ユウリは気弱で思い切ったことができる(たち)ではない。危険を冒すことに対して強い拒否感があった。しかも自分だけならまだしも、何かあったらロゼリアに迷惑がかかるのだ。

 ロゼリアのためとは言え――流石にリスクが大きすぎる。

 悶々とするユウリをアリスが強い視線でじっと見つめていた。


(……でも、この調子だとアリスが一人でやるって言いかねない……。

 なら、二人の方がまだマシ……? 見張り役はアリスがやるって言ってるんだし……)


 ユウリが「やらない」と言ってしまえば、アリスが単独で強行してしまうだろう。

 どう考えても、アリス単独で行う方がリスクが高い。

 時間もない中、ユウリはリスクを最小に抑えるための決断をした。


「……アリス。わかっ――」

「おい」


 不意に背後から声をかけられ、互いに集中していたユウリとアリスはその気配に気付かなかった。

 ビクッと大きく肩を震わせ、慌てて振り返る。

 何故かメロがいた。


「メ」


 その名を呼ぼうとした瞬間、メロに口を塞がれていた。アリスは声を上げないように自分で口を押さえている。

 メロは読書スペースで休んでいるカミルに視線を向けてから、手をゆっくりと離した。


「大声出すなよ。怪しまれるだろ」

「……き、君こそなんでこっちに……?」

「何でもいいじゃん。……おまえらに伝えておきたいことがあるんだよ」


 バツが悪そうに言うメロ。ユウリとアリスは思わず顔を見合わせてしまった。


「……朝さ、お嬢とコーセイが一緒にいるの、ずっと見てた」


 メロはぽつりと零した。その言葉の意味するところを察し、その行動を叱りたくなる衝動をぐっと堪える。それはアリスも一緒で、何か言いたげに唇を震わせていたが、何も言わなかった。

 メロは続ける。


「何話してたのかは知らねー。ただ、お嬢はやけにギャラリーの周りをぐるぐる回ってた。

 おれにはお嬢が何を調べたがってたのかわかんねーけど、ユウリならわかったりするんじゃね? って思って伝えに来た」

「む、無茶苦茶言わないでよ……」


 メロもアリスも無茶苦茶だ。ユウリは苦虫を噛み潰したような顔をして肩を落とす。


「とりあえず、そんだけ。怪しまれるから戻る」

「ちょ、メロ……!」

「何か聞かれたらおまえに部屋の鍵預けっぱなしにしてたってことにしといて」


 メロは言いたいことだけ言うと、カミルに気付かれないように足早に出ていってしまった。

 カミルは眠っているようでメロの出入りに気付きもしない。

 ユウリとアリスはもう一度顔を見合わせた。すると、アリスがにこりと笑う。


「やるしかないですね、ユウリくん」

「……やるよ、やるけど……。……何もわからなくても責めないでよ」

「そうなったら……運がなかったということで諦めます」


 そう言ってアリスは真っ直ぐに奥の部屋に向かった。

 ユウリは気乗りしないまま彼女の後を追う。

 ――カミルの位置からは丁度死角になっているので、すぐに見つかることはないだろう。

 アリスはどこからともなく鍵開け道具を取り出し、ものの数十秒で鍵を開けてしまった。


「開きました」

「……君のその技術は、一体……?」

「乙女の嗜みです。時間がないので早く。――何かあったら大声を出します。そうしたらすぐに出てきてくださいね。扉の開閉も静かに」


 アリスが神妙な顔をして言う。

 まるでスパイ映画のようだ。まさか自分がその一員になるとは思わなかった――。

 ユウリは覚悟を決めて、静かに部屋の中に入る。


 室内は空気が淀んでいる。扉があまり開閉されておらず、出入りも少ないのだろう。

 薄暗い部屋の中には図書室同様に書棚が並んでいた。

 小さめの書斎くらいの大きさなので、収められている資料はそう多くなさそうだ。


(……ギャラリーについての資料……あ、ここだ)


 思いの外あっさりと目的のものが見つかる。

 しかし、この中から『必要だと思われる情報』を探し出すのは非常に困難だ。とは言え、やると決めた以上泣き言を言っている暇などない。

 ユウリはとりあえず一冊手にして、パラパラと中身を捲ってみる。


(……展示されている美術品は目録が公開されてるから、調べる手段はいくらでもある。だから、”何があるか”を調べているわけじゃない、と思う……。

 メロの情報……ぐるぐる回っていた? つまり、外観を気にしていた……ギャラリーの構造……?)


 手に取ったのはギャラリーに収められている美術品についてだった。鑑定書もある。

 けれど、これではないと判断して次の資料を手にする。


(構造については防犯面から公開されてないから、ギャラリーの構造を知りたがってる……? でもどうして……?)


 ふっと湧いた疑問について考え込みそうになり、慌てて首を振った。

 ギャラリーの構造やレイアウトがわかるような資料を求めて、次、また次へと資料を手に取り、中を確認していく。


(いや、理由なんて考えている場合じゃない。知りたい理由なんて、今はどうでも良い。

 ……外観から探れるもの……別の出入り口、とか?)


 ユウリはページを捲って内容にざっと目を通していく、ということを繰り返した。

 左上から右下に、ユウリの視線は淀みなく動いていく。

 ギャラリーのレイアウトをまとめた資料の真ん中あたりで手が止まった。


(……え。地下? ギャラリーに地下なんてあるの?)


 少し驚く。カミルに案内されたギャラリーを思い出してみると、あれは平屋のような作りだった。

 二階建てになっているギャラリーもあったが、ザインの話の中には地下室の話は出て来なかったのだ。

 地下室についての記述を見つけ、その部分を指先と視線で追っていく。


(古い年代のもののうち、過去三代に渡ってシェルター代わりの地下室を設計……。

 屋敷から地下通路で繋ぐ計画をしていたが、地盤の問題で頓挫……地下室があるギャラリーは北東にある三つ……。

 ……ギャラリーとは直接関係はないからザイン様が話をしなくても不思議ではない、か……)


 妙に引っかかる情報だった。

 ザインが語らなかった地下室。朝、ギャラリーの外観を気にしていたらしいロゼリア。

 他の資料に書かれていたのは美術品の取得価格やギャラリーの建設工程、これまでの修繕情報などだ。

 ――地下室の情報が一番正解に近い気がした。


「あれえ?! カミルさま、起き上がって大丈夫なんですかーーー?!」


 驚くほどに大きな声が届く。

 アリスだ。

 ユウリは慌てて資料を元の場所に戻し、逃げるように部屋を出る。扉を閉める際に音が出ないようにだけ注意して、何喰わぬ顔をして声のした方へと向かっていった。

 書棚の間でカミルに抱き着いているアリスがいる。

 ユウリは素で驚いてしまい、慌ててアリスの肩を掴んだ。


「う、うわ、アリス! 何してるの?!」

「わっ?! い、いや、……カミルさまがふらついていたので、つい……」

「……いや、流石にそこまで心配されるほどじゃないよ」


 カミルが困った顔をしてやんわりとアリスを引き剥がす。

 アリスが(大丈夫でした?)と言わんばかりの視線を送ってきたので、ユウリは無言で頷いた。

 二人はカミルを心配するふりをして、もう一度カミルを読書スペースに押し戻す。

 隙を見てアリスが席を外し、奥の部屋の鍵を掛け直して、何事もなかったような顔をするのだった――。

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